ネットカフェがコロナ禍により苦しんでいる。PUBGなどのヒットゲームが登場し、eスポーツが楽しめる施設して盛況だったが、スマホ版の登場、ヒットゲームの不作、コロナ禍により、営業再開ができずにいるネットカフェが急増していると燃経済が報じた。
コロナ禍で苦しむネットカフェ
コロナ禍の影響で、ネットカフェが苦しんでいる。調査会社「天眼査」の調査によると、2020年のネットカフェの増加は2796店だったが、閉鎖(倒産)が1万2888店に及んだ。2020年末に営業をしているネットカフェは12万4818店となる。
台湾出身で、中華圏のポップス界で圧倒的な人気を誇る周杰倫(ジョウ・ジエルン、ジェイ・チョウ)も2017年に、eスポーツの人気を先取りして、深圳市南山区に2000万元(約3.3億円)をかけて、ネットカフェ「魔杰咖」をオープンし、北京、上海と店舗を広げていたが、2020年に休業したままになっている。
▲人気アーティスト、ジェイ・チョウが経営するネットカフェ「魔杰咖」。高級感のある空間になっていて、人気も高かったが、コロナ禍により営業を停止したままになっている。
地方のネットカフェは、春節に一時的な賑わいが戻るも
春節休みの間、地方のネットカフェには久しぶりの賑わいが戻ってきた。今年の春節は、感染拡大防止のため、故郷に帰らず現地で年越しをすることが奨励されたが、帰郷をする人がいないわけではない。しかし、実家に帰ってもやることがないので、学生時代を思い出してネットカフェに行きゲームを楽しむ人が多かった。同じように同級生が自然に集まり、同窓会のようになり、ネットカフェに賑わいが戻ったという。
しかし、春節休みが終わると、帰郷者は都会に戻っていき、再びネットカフェは閑散としてしまった。
▲2017年頃のネットカフェ。PUGBの登場により、eスポーツが遊べる娯楽施設として多くの人で賑わった。
PUBG人気でネットカフェが盛り上がった2017年
ネットカフェが最も盛り上がったのは2017年だ。韓国のPUBGが開発したバトルロイヤルゲーム「PlayerUnknown’s BattleGrounds」(PUBG)が大ヒットをしたからだ。現在では、テンセントがスマホ版を開発して運営しているが、当時は高性能のゲーミングPCでないとプレイできないため、多くの人がネットカフェに行き、PUBGを楽しんだ。さらに、フォートナイトというヒットゲームも続き、ネットカフェはどこも行列をしないと入ることができないほど盛況だった。
しかし、2020年のコロナ禍により営業自粛を余儀なくされる。3月になり、感染状況が落ち着き、ネットカフェは再開を目指していたが、多くの都市で感染を拡大する拠点となりかねないと見られ、営業再開が認められなかった。結局、ネットカフェが再開できたのは6月になってからで、経営的には大きな打撃を受けた。
さらに、PUBGやフォートナイトのブームも落ち着き、その後に続くヒットゲームが登場しない。再開したネットカフェは閑散としたままになっている。
▲PUBG(PC版)の利用者数の推移。2018年がピークとなっており、その後は低下をしている。スマホ版がリリースされたことが大きく影響している。ネットカフェにとっては、PUBGに続くヒットゲームが出てこないことが大きなマイナス要因になっている。SteamChartsのデータ。
闇ネットカフェから始まった中国のネットカフェの歴史
中国のネットカフェの歴史は90年代の「闇ネットカフェ」に始まる。小学校や中学校の近くの人目につきづらいスペースに、PCを並べて、子どもたちからわずかなお金をとって遊ばせる。家庭用ゲーム機では遊べない刺激的なゲームが遊べる。きちんと営業許可を取っているわけではないので、闇ネットカフェと呼ばれた。
1996年になると上海や北京などの都市に、きちんと店舗として営業するネットカフェが生まれ始めた。しかし、料金が高かっため、利用客の多くはネット環境を求めている外国人や国内のビジネスマンだった。ネット環境がまだ貧弱だった当時の中国で、ネット検索をしたり、電子メールを使ったり、IP通話をするために使われた。
▲地方では闇ネットカフェが今でも営業している。人目につかないスペースにPCを並べて、遊ばせるというものだ。主な顧客は地元の小学生や中学生だ。
ネットカフェの転機となった藍極速の火災事故
大都市でネットカフェが増えていくと、「50万元の投資が半年で回収でき、後は儲かるだけ」というおいしい投資案件としてネットカフェが注目されるようになり、急速に地方にも広がっていった。
2002年6月、北京市海淀区のネットカフェ「藍極速」で、火災事故が発生する。ネットカフェのスタッフともめた4人の高校生が報復のために放火をしたものだった。避難経路の確保や訓練をしていなかった店長は、来店客を避難させることができず、店内にとどまるように指示をしてしまったため、25人が焼死をするという悲惨な結果になった。
しかし、この事件がきっかけとなり、「インターネットアクセスサービス営業場所管理条例」が定められ、ネットカフェの営業は免許制となり、闇ネットカフェの多くが消え、正式営業をするネットカフェは成長期に入る。
それにともない米国の「World Warcarft」(WoW)、韓国の「The Legend of Mir 2」という2つのオンラインゲームが中国でも流行し、ネットカフェの人気は2005年にピークを迎える。
▲ネットカフェ「藍極速」の火災事故の状況。ドアに近い場所に放火をされたため、来店客は逃げ場を失ってしまった。奥の窓から6人が救出、1人が自力脱出をしたが取り残された25人が焼死するという大きな事件になった。
▲北京市海淀区の公共安全館に焼け残った備品が展示されている。
浮き沈みを繰り返すネットカフェビジネス
しかし、この頃から高性能のPCの価格が下がってきて、自分でPCを購入し、自宅でオンラインゲームを楽しむ人が多くなり、次第にネットカフェの営業は苦しくなっていった。2011年には、ネットカフェは倒産ラッシュとなり、それは「もはやネットカフェというビジネスは死んだ」とまで言われるほど深刻なものだった。
しかし、そこに、米「League of Legends」(LoL)、米「Dota」などのeスポーツとしても楽しめるゲームが登場し、ネットカフェはeスポーツイベントなどを開催することで息を吹き返した。
特に、快適な空間が重要視されるようになり、高級感のあるインテリア、ゲーミングチェアなどが用意され、ネットカフェは「ゲームオタクの穴蔵」から「大人が楽しめるゲームバー」に変貌した。
2017年になると「PUBG」「フォートナイト」が登場し、ネットカフェはeスポーツの大会が行われる場所にとなった。ジェイ・チョウがネットカフェビジネスに進出するように、ネットカフェはもはやナイトクラブと並んで、都会の最先端の遊びが楽しめる場所になっていった。
それが、PUBGに続く人気ゲームが登場しない空白時代に、コロナ禍が襲うという不運によって、ネットカフェは立ち直りのきっかけをつかめないままでいる。