中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

デジタル人民元の仕組みとその狙い

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 046が発行になります。

中国では、アリペイとWeChatペイのスマホ決済が広く普及をしていることはみなさんよくご存じだと思います。都市部では、現金を使っているのは、よほどの地方から出てきた人か、外国人というのが相場です。すでに、現金の受取りを拒む商店もあるほどです。法律によって、現金決済を拒むことはできないのですが、「お釣りがない」と言うのです。もはや現金は、どちらかというと扱うのが煩わしい決済ツールになり始めています。

それどころか、今年2020年10月12日から、深セン市で、デジタル人民元の利用実験が行われました。深セン市に居住する人の中の希望者5万人に、200元ずつのデジタル人民元を配布し、協力をした3389の商店などで利用できるというものです。深セン市民の2.6%の人がこの実験に参加したことになります。

 

デジタル人民元を使うには、スマートフォンに専用のウォレットアプリをダウンロードします。

このウォレットがなかなかよくできています。開くと残高が表示され、上にスワイプで支払い、下にスワイプスすると受け取りです。NFCにも対応をしているので、コンタクトレス決済(タッチ決済)が可能ですが、今回の実験では商店の多くのPOSレジがNFCに対応をしていないため、QRコードが多く使われました。レジで上にスワイプしてQRコードを表示し、それをスキャンしてもらうと支払い完了です。スマホ決済と基本的には同じ使い方なので、戸惑う人はほとんどいなかったそうです。

この実験で配布された200元は、銀行口座に入れることはできず、他人に送金することもできず、さらに1週間の実験期間が終了すると、残高は回収されてしまうということもあって、ほとんどが消費されたようです。

結果としては、4万7573人が200元を受け取り、876.4万元が消費されました。計算上配布された金額は951.46万元となるので、消費率は92.11%になります。また、追加でチャージされた金額も90.1万元に上りました。

利用されたのは「飲食」「地下鉄」「ガソリンスタンド」「スーパー・百貨店」が主なものだったそうです。

 

ところで、こんな素朴な疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。中国ではすでにアリペイとWeChatペイというスマホ決済が普及をしているのに、わざわざデジタル人民元を始める必要はないのではないか。決済手段を増やしても混乱をするか、あるいはすでにスマホ決済に慣れている人が使わず、普及しないのではにないかという疑問です。

同じ疑問は、中国でも多くの人が感じているようで、ネットでは同じような質問、疑問がたくさんあがっています。

しかし、デジタル人民元スマホ決済ではありません。お金そのものです。一方、アリペイ、WeChatペイはお金ではなく財布にすぎません。なので、当面は、デジタル人民元専用のウォレットアプリを使ってデジタル人民元を使い、併用してスマホ決済を使うことになりますが、そう遠くない段階で、デジタル人民元から直接スマホ決済にチャージできるようになるでしょう。そして将来的には、スマホ決済が直接デジタル人民元を扱えるようになっていきます。

デジタル人民元は、ただのデータであるので、財布がないと持つことも使うこともできません。そのため、今回の運用実験では簡単な「ウォレットアプリ」も公開されました。運用実験に参加した人は、この財布アプリをインストールし、その中にデジタル人民元を入れて使いました。そのため、一見、スマホ決済とまったく同じように見えてしまったわけです。しかし、デジタル人民元はあくまでも中身の「お金」であることが本質です。

f:id:tamakino:20201113135012p:plain



▲現金、デジタル人民元スマホ決済の比較。今後は、お財布であるスマホ決済とお金であるデジタル人民元をどう連携させていくかが鍵になる。

 

デジタル人民元のウォレットは、アプリだけではありません。ハードウェアウォレットもすでに登場しています。人民銀行では5種類のハードウェアウォレットを想定しています。

ひとつはブルートゥースICカードと通常のICカードのカード形態です。ブルートゥースICカードは、スマホと通信ができ、スマホアプリから残高を表示したり、決済操作をすることができます。また、通常のICカードは商店のカードリーダーや支払い機に挿入またはタッチをして、決済をします。

さらに、スマホ向けにeSE、SDカード、SIMカードのハードウェアウォレットが考えられています。eSEというのは内蔵型セキュアエレメントの略で、スマホチップの中に専用のデジタル人民元用のチップが搭載されるというものです。ファーウェイのmate 40が、すでにデジタル人民元のeSEを搭載しています。

 

ハードウェアウォレットの利点は安全性です。スマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」はソフトウェアウォレットなので、どこからでもアクセスできてしまう危険性があります。そのため、アクセスするにはパスワードや二要素認証などさまざまな手続きが必要になります。

ハードウェアウォレットは、現物を目の前にしないとアクセスできません。きちんと保管をしておけば、知らない間に残高だけ抜き取られるという危険性はあり得ません。もちろん、紛失する、盗まれるという危険性はありますが、セキュリティ対策の考え方が、パスワードとか暗号化という普通の人に馴染みのないものではなく、財布を肌身離さず持っておくという現金感覚に近いものになります。

また、スマートフォンを機種変更した時、ソフトウェアウォレットの移行はやっかいです。パスワードがわからなくなっていたりすると、うっかりすると、残高を永遠に移すことができなくなってしまいます。ハードウェアウォレットの場合は、古い財布から新しい財布に送金をすれば作業が終わります。ここも、新しい財布を買った時に、財布の中身を入れ替える感覚です。ハードウェアウォレットは、現金感覚に近く、理解しやすいという利点があります。

最終的には、多くの人がスマホ用のハードウェアウォレットを使うことになっていくでしょう。

 

では、スマホ決済は必要なくなるのでしょうか。そんなことはありません。機能の豊富な財布として使われ続けます。

例えば、アリペイでは、自動的に投資ができる余額宝(ユアバオ)や、クレジットカードのリボ払い的な機能を実現する花唄(ホワベイ)、決済履歴から信用度を算出する信用スコア「芝麻信用」(ジーマクレジット)などの機能があります。さらに、アリペイの中からタクシーを呼んだり、ECで買い物をしたり、フードデリバリーを注文することもできます。財布としてさまざまなことができるようになっています。

一方で、デジタル人民元は中身のお金なので、利便性はお財布しだいです。

 

デジタル人民元には、ブロックチェーン関連技術が多数使われています。そのため、次のような4つの特徴があります。

1:銀行口座とのゆるい結びつき:デジタル人民元自体は銀行口座がなくても、なんらかのお財布があれば利用できます。銀行口座もお財布のひとつになっていきます。そのため、中国の銀行口座を持てない人や持ちづらい外国人旅行者も簡単にデジタル人民元を使えるようになります。

2:制御可能な匿名性:ブロックチェーン関連技術を使うので、原則匿名性になります。ただし、人民銀行は誰がどのお金を持っているかわかるようにするそうで、完全分散型管理ではなく、中央集中管理と分散管理を接木するような管理体制となり、テロ資金、マネーロンダリング、脱税などの不法行為が捕捉できるようにします。

3:財布の最大額の制限:お財布に入れられるデジタル人民元の額には何らかの制限を設けるようです。マネーロンダリング防止のためで、身分証、銀行カードなどの個人情報を財布に紐付けると制限額が上がっていく仕組みです。また、銀行へ出向いて送金、引き出しをする場合は、対面で身分確認をした上で、金額が無制限になります。

4:オフライン決済:送金側、受取側ともにネット接続がない場合でもピアツーピア接続で決済ができます。スマホ決済では、片方がオフラインでも決済ができますが、両方がオフラインの場合は決済ができません。これにより、地下や山中など通信環境が悪い場所でも決済ができるようになります。

 

デジタル人民元ブロックチェーン関連技術が使われていといっても、この4つの特徴を見ると、馴染みのあるビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)とは趣が違っています。特に「制御可能な匿名性」とか「分散ではない、一部中央集中管理」というあたりに違和感を感じられる人も多いかと思います。

デジタル人民元ブロックチェーン関連技術が使われていると言われる所以は、通貨の管理にUTXO(Unspent Trasaction Output、未使用トランザクション出力)と呼ばれる仕組みを利用しているからです。これはビットコインなどの管理方法と同じです。

まず、このUTXOがどんな仕組みのものであるかご紹介します。すると、従来の銀行口座やスマホ決済とはかなり違ったものであることがはっきりとわかるようになると思います。

なお、デジタル人民元のことはDC/EP(Digital Currency Electronic Payment=デジタル通貨/電子決済)という略称で呼ばれることもあります。また、アリペイやWeChatペイなどのスマホ決済は、デジタル人民元と対比して語るときは「第三方支払ウォレット」と呼ばれることがあります。第三方とは人民銀行(中央銀行)、民間銀行に次ぐサードパーティーである民間企業が運営するという意味で、また、スマホ決済は通貨ではなく、財布にすぎないことを明確にするために、わざわざウォレット(財布)という言葉をつけます。

今回は、デジタル人民元についてご紹介します。

 

続きはメルマガでお読みいただけます。

 

毎週月曜日発行で、月額は税込み550円となりますが、最初の月は無料です。月の途中で購読登録をしても、その月のメルマガすべてが届きます。無料期間だけでもお試しください。

 

今月発行したのは、以下のメルマガです。

vol.044:貧困を撲滅するタオバオ村の成功例と失敗例

vol.045:SARS禍で生まれたEC。SARSで成長したアリババと京東

 

登録はこちらから。

https://www.mag2.com/m/0001690218.html