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新規顧客を獲得しやすいWeChatミニプログラム。鍵は定着率の向上

新顧客を獲得しやすいということから、小売業が続々とWeChatミニプログラムを利用し始めている。しかし、ミニプログラムは定着させるのが難しい。そこで、クーポンや周期的な優待などを行って、定着率を高める工夫が始まっていると人人都是産品経理が報じた。

 

新規顧客を獲得しやすいWeChatミニプログラム

WeChatのミニプログラムが小売業を変えている。WeChatミニプログラムとは、SNS「WeChat」の中から利用できるアプリ内アプリ。WeChatはすでに中国人のほぼ全員が使っていて、その中から、検索、履歴、コード読取などの方法でアプリ内アプリを起動することができる。クラウドから起動されるSaaS的な構造になっているため、ネイティブアプリのように事前にインストールする手間が必要なくなる。

例えば、カフェチェーンのミニプログラムを起動すると、位置情報に基づいて、現在地からいちばん近い店舗のページが表示される。そこで、メニューから飲料を注文することができる。多くの場合、店舗受取、自宅配送の何かが選べるようになっている。

飲料を注文しておき、それから店舗に向かえば、到着する頃には飲料ができあがっている。

ミニプログラムは、WeChatのアカウントに基づいてログインされるため、各チェーンごとにアカウント登録をする必要はない。また、決済方式は自動的にWeChatペイが設定されているので、クレジットカードなどを登録する手間もない。

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▲WeChatミニプログラム「Luckin’ Coffee」。開くと、近隣の店舗ページが表示され、注文をするだけ。店舗についた頃には商品ができあがっている。ログイン操作は不要、決済方式は自動的にWeChatペイが使われる。

 

多用される「付近のミニプログラム検索」

ミニプログラムには、初めてのチェーン、店舗でもすぐに利用してみることができる便利さがある。特に便利なのが、「付近のミニプログラム検索」機能だ。街を歩いていて、この検索を行うと、付近に店舗があるチェーンのミニプログラムの一覧が表示される。

街を歩いていて、お腹がすいた、喉が乾いたという場合に、この付近の検索を使い、まだ行ったことがない飲食店を見つけたら、すぐに利用してみることができる。

小売、飲食にしてみれば、新たな流量を大量に獲得できることから、ミニプログラムへ対応する企業が急増をし、店舗と宅配を組み合わせた新小売への転換が急速に進んでいる。

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▲付近のミニプログラムを選ぶと、現在地近くに店舗があるミニプログラムが表示される。選ぶと、近い店舗のページが表示され、すぐに注文ができる。

 

プッシュ通知、差別化が難しいミニプログラム

しかし、ミニプログラムは、新規顧客を獲得するには強力なツールだが、獲得した新規顧客をリピートさせ、定着させることは簡単ではない。気軽に未知の店舗を利用できることから、多くの人が次々に新しい店舗を利用してしまうからだ。

一方で、顧客を定着させる機能については、ネイティブアプリに比べて、ミニプログラムは弱い。

まず、プッシュ通知が事実上ほとんどできない。これはWeChatの運営元のテンセントの方針で、ミニプログラムからのプッシュ通知を許してしまうと、ユーザーの元には大量のプッシュ通知が届くことになってしまう。そのため、プッシュ通知機能に関しては大きく制限をしている。

また、ミニプログラムはアプリと似たような機能がプログラムできるが、ネイティブアプリと比べるとできることは少ない。そのため、どのミニプログラムも似たようなものになりがちで、差別化をしづらく、顧客の印象に残りづらい。

現在、平均してリピート率は20%前後、そのうち、7回以上利用する定着率は3%程度だと言われている。ミニプログラムを利用するチェーンとしては、このリピート率と定着率を上げることが課題になっている。

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▲WeChatミニプログラム「ユニクロ」。開くと、クーポンやセール情報がオーバラップ表示されることがある。定期的にこの手法を使うことで、消費者にミニプログラムを開く習慣をつけさせる。

 

クーポン、周期的優待による習慣化で定着率を上げる

リピート率を上げるために行われているのがクーポンだ。1回でも利用すると、次回利用をするときに割引になるクーポンを自動配布する。最初に利用するときに使えるのではなく、2回目に利用するときに割引になるというのがポイントだ。

こうすることで、利用者の記憶に残り、しかも、ミニプログラム使用履歴の上位に表示されるようになる。多くの人が、使用履歴を開いて、そこからミニプログラムを起動する使い方をしているので、使用履歴の上位に表示させる(つまりリピートさせる)ことは検索SEOを行うと同じくらい重要になっている。

さらに、7回以上利用して、定着をさせるための工夫も各企業がさまざまな工夫をしている。

その基本は、「周期」を意識した優待施策を行うことだ。例えば、食品スーパーであれば「月業日は果物、火曜日や野菜、水曜日は肉…」と、曜日ごとに優待する商品ジャンルを変えていく。こうすることで、「今日は火曜日で野菜が安いから」という理由で、ミニプログラムを起動してもらえる。例えば、そこで購買に結びつかなくても、使用履歴の上位に表示されることが重要。さらに、「毎週水曜日はこのミニプログラムを使う」という習慣化まで持っていくことも可能になってくる。

さらに、時間を限った優待施策も定着率を上げるために用いられている。例えば、「今月5回以上の購入で優待」「今月666元以上の購入で優待」などだ。

人人都是産品経理は、リピート率20%はリアルの店舗と比べればかなり高い値になるという。リアルな店舗では、リピート率は数%というのが一般的。そのため、これ以上リピート率を上げるのは難しく、これ以上高めようとすれば、新規顧客向け優待策を手厚くしていくことになり、コストがかかることになっていく。

それよりは、リピート客のわずか3%しか定着をしていない部分に注目をし、ここを高めていく努力に注力すべきだという。それが顧客のライフタイムバリュー(生涯購入額)を高めていくことにつながり、経営を安定させることに直結をしていくからだ。

それには、「周期」「時限」の優待施策を手厚くし、効果的な施策を模索していく必要があるとしている。