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住宅も3Dプリンターで「印刷」。仮設事務所建設などに利用

中国建築第二公定局が、世界で初めて、3Dプリンターを使って、二階建ての建物を「印刷」して建築することに成功した。構造が単純な事務所などであれば、わずか30時間で建築ができると辛東方が報じた。

 

世界初の3Dプリンターによる二階建て住宅の「印刷」

3Dプリンターで建築された建物は、広さ230平米、2階建ての高さ7.2m。建設したのは、中国建築第二公定局。現在は民間企業だが、前身は人民解放軍華東野戦軍歩兵部隊だ。その広東建設基地に、世界で初めてとなる、3Dプリンターによる二階建ての建物が建設された。

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▲建築された建物。枠組みがプリンターにあたる。わずか30時間で建築が終わる。人手がほとんどかからないので、建築作業の安全性に大きく寄与する。

 

すべての建築工程が自動化。施工30時間+養生3日+内装工事で完成

3Dプリンターで建築するメリットは、コスト圧縮だという。建築材料は60%程度で済み、建築機器に必要なエネルギーも小さくなる。さらに、すべての工程が自動化されているため、必要な作業員が半分になる。建築に必要な時間も、施工30時間+養生3日+内装工事と短くなる。

最も重要なのは、作業員の負担が大きく減り、建築現場の安全性が格段に上がることだという。

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▲鉄筋を入れ、二重の壁を3Dプリンターで印刷をしていく。インクにあたるのは、特殊な薬剤を添加したコンクリートだ。

鉄筋をコンクリ特殊インクで挟んでいく工法

中国建築技術センター材料工程研究所の霍亮所長補佐が、3Dプリンターによる建築の仕組みを解説してくれた。「基本的な原理は、紙にインクで印刷するプリンターと変わりません。必要なのはプリンター、ノズル、インク、紙です」。

まず、建設する建築物を取り囲むように金属の枠組みを作る。これがプリンターにあたり、可動式のノズルをつける。

インクにあたるのは、コンクリートだが、特殊な薬剤が配合されている。

重要なのは、紙に当たるもので、これは地面に鉄筋を立てる。この鉄筋を内と外から挟むように、コンクリートを、幅5cm、暑さ2.5cmで吹き付け、積み重ねていくことで建築をしていく。

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▲印刷中の3Dプリンター。厚さ2.5cmのコンクリートを何層にも積み重ねていくことで建築をする。


3Dプリンター建築ならではの工夫が必要

しかし、リアルな建築物は、ミニチュア模型を作るように単純ではない。実際に人が中に入ることができるリアルサイズの建築物となると、さまざまな課題に直面する。

ひとつは、コンクリートそのままだと、乾かないうちに上の層が載せられることになり、下層の強度が足りなくなってしまう。そのため、速乾性を生む薬剤を添加している。

2つ目は作業工程がまったく違ってくるということだ。3Dプリンターで建築できる建物は、構造が単純な事務所が向いている。従来このような建築物は、工場内でパーツを生産し、現場では組み立て作業が主体になる。しかし、3Dプリンター建築では、現場で3Dプリンター関連作業(コンクリートの補充、水分量の調整など)が主体になる。作業員の養成、人員配置、確認作業などもまったく違ってくる。作業フローが大きく変わる。

3つ目は、形として建築物が作ればいいというものではなく、中に住む人のことを考える必要がある。そのため、壁は内外の二重壁になっている。隙間を開けることで、断熱材を後から入れたり、水道や電気、通信などの配管、配線ができるように工夫をしている。

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▲ノズルからコンクリートを絞り出すことで壁を作っていく。

 

3Dプリンター建築は、従来工法を補うもの

霍亮所長補佐は、3Dプリンター建築は、従来の工法を置き換えるものではなく、互いに補うものだということを強調した。3Dプリンター建築は、複雑な構造の建築物を作るのには向いていないため、個人住宅やデザイン性の高い建築物は、この先も従来工法で建築されていく。

しかし、複雑さを要求しない事務所、寮、店舗といったものは、低コストで済む3Dプリンター建築が使われていくことになる。3Dプリンターは、さまざまある建築工法のひとつなのだということを重ねて強調した。