中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国で始まっているメイカーの時代。中国ITの強さの秘密はアジャイル感覚

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今回は、中国のメイカーを2人、ご紹介します。

 

イカー(Maker)というのは発明者、開発者という意味です。モノをつくる人のことです。例えば日曜大工をする人もメイカーですし、大手テック企業で働くエンジニアもメイカーですが、このメイカーという言葉には1人または少人数で開発を行い、趣味として楽しむだけでなく、ビジネスに着地させるというイメージがあります。スティーブ・ジョブズスティーブ・ウォズニアック、その仲間たちが集まって、スティーブ・ジョブズの家のガレージでワンボードマイコンApple I」をつくっていた様子がメイカーそのものです。

いろいろな時代区分の考え方がありますが、私たちは今、第2次産業革命の世界に生きているとみなす考え方があります。第1次産業革命は教科書に書いてあるように蒸気機関の発明です。これによりパワフルな動力を使えるようになり、大規模な製造機械が出現し、職人から工員へ、工房から工場へという変化が起こりました。

しかし、これはメイカーの視点では、仕事を大資本に奪われてしまったことになります。それまでの職人というメイカーは、小さな工房で少人数で食器や日用品をつくっていました。大量生産の工場が登場すると、製造量、製造コストとも太刀打ちができなくなります。

 

しかし、第2次産業革命が起こり、再びメイカーが活躍できるようになります。第2次産業革命半導体の発明です。基盤に半導体を並べるだけで、コンピューターやゲーム機が作れるようになり、スティーブ・ジョブズたちのようなガレージのメイカーが出現してきます。

ところがこれもあっという間に産業化されていきます。もはやデバイスのハードウェアとソフトウェアを1人で開発するなどということは不可能になっています。再びメイカーの居場所がなくなってしまいました。

今、第3次産業革命が起きています。第3次産業革命3Dプリンターの発明です。これにより、機械部品は自宅で製造ができるようになりました。再び、1人でプロダクトを開発できるメイカーの時代がやってきています。もちろん、量産をして販売をするにはさまざまな問題がありますが、それは量産段階で考えればいいことで、1人でも新しい製品を発明したり、開発したりすることができる時代になっています。

 

しかし、本当に1人では起業をすることはできません。プロダクトができても、それだけではビジネスにはならないからです。一般に、起業をするには、技術、資金、営業の3つの機能が必要になります。初期のアップルもウォズニアックが技術、マイク・マークラが資金、ジョブズが営業という役割分担がありました。

ところが、これも3人もいらないのではないかと思わせることが中国で起こり始めています。今回ご紹介する2人のメイカーは、原則1人で開発をしています。2人とも技術に関しては非常に高いスキルを持っています。

では、資金と営業はどうしたらいいのでしょうか。この鍵となっているのが動画共有サービス「ビリビリ」です。2人はビリビリの配信主であり、自身の開発プロセスをビリビリの動画として公開をして大きな人気を獲得しています。これによる収益化が可能です。投げ銭、広告、タイアップ動画の制作などです。簡単なことではないとは思いますが、このような動画の収益で開発費と生活費をまかなうプロメイカーが登場できる環境が整っています。

また、量産に関しても可能性が生まれています。例えば、今回紹介するメイカーの作品にAirDeskという置くだけでデバイスのワイヤレス充電ができるデスクがありますが、この動画が人気になると、事務機器メーカーの「楽歌」(Loctek)の株価が急上昇するという現象が起きました。動画の中で、楽歌のデスクがベースとして使われていたために、楽歌から商品化されるのではないかという期待が起きたからです。多くの視聴者が、これをきっかけに楽歌から商品化されることを望んでいます。そのうちに、メイカーがつくった作品を製造会社が商品化、量産化するということも起きてくると思います。

つまり、企業に必要な「技術」「資金」「営業」のうち、資金と営業についてはネットから調達できる環境が整い始めているのです。

 

3Dプリンターの普及が第3次産業革命だというのは大袈裟ではないか?と感じられる方もいると思います。しかし、今回ご紹介するメイカーの動画を見ていただくとわかりますが、開発という手法に革命が起きていることがわかります。「モノのアジャイル開発」が可能になっているのです。

アジャイル開発とは、一般的にはソフトウェアの開発手法で、現在のウェブサービス、モバイルアプリなどのほとんどがアジャイル開発でつくられています。具体的なアジャイル開発の手法についてはさまざまなものがありますが、共通しているのは、短い開発期間(イテレーションと呼ばれる)を繰り返していく開発手法であるということです。

例えば、例として、自転車を開発することを考えてみましょう。まず最初にやるべきことは、自転車として成立する最低限の機能の定義です。ペダルを漕いだら前進をする、ハンドルを切ると方向転換をするなどになります。まずはこの最低限の機能を実現する開発を行い、そこでユーザーに公開して使ってもらいます。すると、いろいろなクレームや要望があがってきます。「ブレーキがないので怖い」「夜走るのにライトがほしい」「坂道が多いので、変速機がほしい」などです。開発者はこのような要望を聞き、優先度を決めていき、次のイテレーションでの開発目標とします。

このユーザーの要望を聞き、イテレーション(通常は1週間ぐらいが多い)で、実現をし、開発を進めながらプロダクトの方向性も定めていくというのがアジャイル開発です。

 

このアジャイル開発は、ウェブサービスの開発手法として成功をし、多くのテック企業が採用するようになっています。アジャイル開発の利点はさまざまあります。

1)最小時間でリリースできる

アジャイル開発の第1歩は、最低限の機能を開発してリリースしてしまうことです。試験運用の形であっても、ユーザーを獲得できるようになるため、ビジネス上、非常に有利になります。

2)優れたユーザー体験を提供できる

最初にリリースされるのは最低限の機能なので、強い競争力はありません。しかし、短いイテレーションを繰り返すことで、サービスはどんどん機能が豊富になり、快適になっていきます。これはユーザーにとってもいいユーザー体験になります。最初は平凡なサービスだったのに、どんどん改善されていくということを実感することで、現状で多少不満があっても、遠くない将来改善されると期待をしてくれるようになります。

3)変化に柔軟に対応ができる

開発者は、最初におぼろげなゴールはイメージしていますが、イテレーションごとに次のイテレーションで何を開発目標にするかを議論するため、状況の変化に対して素早く対応することができます。

4)開発者のモチベーションを維持しやすい

数年がかりのプロジェクトであっても、1週間程度のイテレーションに分割をされ、イテレーションごとの具体的な目標を実現するために開発を進めます。数年後のぼんやりしたゴールに向かうのではなく、1週間後の具体的なゴールに向かうことを繰り返していきます。このため、ゴールが明確になり、短期間であることもあり、モチベーションを維持しやすくなります。

 

ネットなどのアジャイル開発の解説記事を読むと、アジャイル開発の利点として「開発期間が短縮できる」ということがよく言われています。これは間違いではありませんが、少しずれているのではないかと思います。最終的なゴールが同じであり、開発手法がじゅうぶんに効率化されていれば、開発期間はどの手法でも同じになるはずです。普通なら3年かかるプロジェクトが、アジャイル開発なら1年で終わるということはありません。

むしろ、アジャイル開発で最も怖いのは、最終ゴールを見失ってしまい、プロジェクトが漂流をし始めてしまうことです。エンジニアは短期目標に向かって努力をしているのに、プロジェクト全体がどこに向かっているのかがわからなくなってしまう。こうなると、プロジェクトは永遠に終わりません(多くの場合、途中で放棄されることになります)。

「開発期間が短縮」という誤解が生まれるのは、最初のプロトタイプリリースまでの期間が短いことと混同してしまっているのかもしれません。最初のリリースはあくまでも最低限の機能であり、これがスタート地点になります。この段階でユーザーに試験公開であるか正式公開であるかは別として、公開をして使ってもらい、ビジネス上の優位性を確保します。しかし、開発はここで終了ではなく、ここからが本格的なアジャイル開発のスタートなのです。

 

アジャイル開発の最大の利点は変化に強いことです。従来のソフトウェア開発手法というのはウォーターフォール(滝)と呼ばれ、最初に精密な仕様書(設計図)をつくり、作業を分割し、開発者全員に割り振っていくというトップダウンのやり方です。

一見合理的なやり方に見えますが、変化に弱いのが難点です。途中で仕様を変更したい、変更すべきだということがあっても、変更をするには、最初の仕様書作成のステップまで戻ってやり直しをする必要があります。変化に弱いというよりも、変化を受けつけられない開発手法です。最新システムだという触れ込みで開発が始まったのに、完成してみたら時代遅れになっていたということが起こります。

それでも、基幹システムや銀行の勘定システムのようなものではウォーターフォール手法が有効です。基幹システムが要求する基本機能は、在庫管理、勘定管理など、時代が変わっても大きくは変化するのものではなく、システムも巨大であるため膨大な開発者が関わることになります。このような開発では、最初に計画を立てて、その通りに進めていくというウォーターフォール手法は有効です。

また、開発というのは、実際に開発をしてみて、初めて課題が見えてきて、それを乗り越えるために仕様などを変更しなければならないということが起こります。アジャイル開発では、次のイテレーションに入る前にその課題を提起し、解決策を次の目標をして定めればいいだけです。しかし、ウォーターフォールでは大きな問題となります。多くの場合、仕様変更をしないで済む小手先の対処法でなんとかしようとしがちです。これにより、最終的なプロダクトの品質が下がり、なおかつ開発期間が想定外に伸びてしまい、最後は全員が徹夜をするデスマーチで納期に間に合わすということになりがちです。

 

このようなウォーターフォール手法は、自動車や家電製品といったモノの開発で使われていた手法を、ほぼそのままソフトウェアに適用したものです。ソフトウェアは改善をしたらバージョンアップをすることができますが、モノは販売をしてユーザーの手にわたってからバージョンアップをするということができません。ウォーターフォール手法で開発をするしかなく、そのために高度な品質管理技術、品質検査技術が発達しました。

しかし、ソフトウェアはバラエティに富んでいます。ECサイトプログラムの品質管理とゲームソフトウェアの品質管理はまったく違います。さまざまなジャンルのソフトウェアを開発するため、品質管理のノウハウを蓄積させることが簡単ではありません。そこで、「問題があったら後からでも直すことができる」ソフトウェアの特性を利用して、アジャイル開発が主流になってきました。

3Dプリンターの登場により、モノの開発でもアジャイル開発が可能になりました。ここが画期的なのです。3Dプリンターで部品をつくり、課題が発見されたら修正をして再び3Dプリンターで出力する。モノのバージョンアップが可能になりました。ちょうど、Wordなどのワープロソフトで書類をつくり、印刷をしてみて誤字やおかしな表現があったら、Word上で修正をし、再び印刷をする。このような感覚で開発をしていくことができるようになりました。

アイディアとやる気さえあれば、1人でも開発ができる。これがメイカーです。今回は、中国のメイカーをご紹介します。

 

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