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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

好きな場所で乗降できて、裏道もOKのロボタクシー「AutoX」。杭州市で試験営業を開始

百度のロボタクシーはすでに北京市などで営業運行を始めているが、それに続くのがAutoXだ。AutoXでは、どこでも乗降できて、裏道にも入ることができ、タクシーと同様のドアツードアサービスを提供することを目指していると量子位が報じた。

 

AutoXが杭州市でロボタクシーの試験運行を開始

北京市長沙市などで営業運行に入った百度バイドゥ)のロボタクシー。地域、ルートは限定され、乗降は指定されたステーション(タクシー駅)に限られるが、無人で運転をするロボタクシーが営業運転に入っている。

一方、もうひとつロボタクシーに挑戦をしているのが「安途」(AutoX)だ。AutoXは深圳、上海、広州、北京、シリコンバレーで試験営業を始めているが、昨年2023年9月に杭州市でも100台分の営業免許を取得し、杭州市で試験運行を始めた。


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▲中新網による試乗取材。乗客が好きな場所で乗降ができる本格的なタクシーサービスを目指している。

 

どこでも乗降ができる無限停車が可能に

AutoXの無人ロボタクシーが百度よりも優れている点は2つある。

ひとつは道路を選ばないことだ。運行範囲は、杭州市の上城区、余杭区、浜江区などの中心地と整備をされた新開発地域に限られているものの、整備されたルートだけでなく、いわゆる裏道にも対応をしている。

また、もうひとつは百度とは異なり、どこでも乗降ができる仕組みになっている。無限停車と呼ばれるもので、これで一般のタクシーと同じように利用することができるようになる。

百度のロボタクシーは乗降ポイントが定められており、乗降ポイント間の移動しかできない。新たに開発されたビジネス地域などでは実用的だが、普通のタクシーのように家からドアツードアでというわけにはいかない。しかし、AutoXでは、家から目的地までタクシーに乗ることができる。

▲AutoXのロボタクシー。裏道にも対応、好きな場所で乗降できるようにし、タクシーと変わらないサービスを提供することを目指している。

 

完全無人エリアをどれだけ広げられるかの挑戦

ただし、無人ロボタクシーで無限停車が可能になるのは、試験運行を経た後のことになる。現在は、運転監視員が乗車をし、裏道や停車などでロボタクシーから介入を求められたら手動で運転、停車を行う。

現在AutoXの試験営業エリアはグローバル全体で2000平方キロになっているが、そのうち完全無人運転は350平方キロに限定されている。試験営業を経て、この無人運転エリアをいかに広げられるかがAutoXの挑戦となる。

▲現在は、安全監視員が運転席に乗務しているが、原則としてハンドルやペダルには触れない無人運転になっている。

 

杭州アジア大会ではシャトルサービスを提供

2023年9月に杭州市で開催された杭州アジア大会では、AutoXは蕭山空港から市内中心部までと、高鉄駅から市内中心部までの、シャトル型のロボタクシーサービスを提供した。

空港シャトルは、全長46kmで、高速道路走行、料金所通過、ラウンドアバウト通過、可変車線認識などを問題なく対応をした。

杭州アジア大会では、市の中心部と空港、高鉄駅をロボタクシーで結ぶシャトルサービスを提供した。

 

空港までのシャトルサービスも試験営業

今年2024年1月からは、市中心の市民センターから蕭山空港までの試験営業を再開した。市内は時速45km、高速は80kmという低速で走行をする。また、運転は完全無人運転だが、運転席には安全監視員が乗車をし、接客と万が一の時の緊急対応をする。

2023年は、百度やAutoXの無人ロボタクシーの話題が大きく報道され、SNSでも情報が広く拡散したが、2024年になって沈静化をしている。それは話題として価値がなくなったということではなく、さまざまな都市で試験営業、試験営業が行われるようになり、無人ロボタクシーに乗車した経験がある人も増え、そろそろ「日常」になろうとしているからだ。

 

WeChatで表示される「相手が入力中」。この小さくて大きなSNSの機能

WeChatでメッセージを送り、相手がすぐに返信を書こうとすると、「相手が入力中」の表示が出る。小さな機能だが、これがSNSのユーザー体験を大きく向上させていると大風観察が報じた。

 

WeChatがSNSを制した理由

中国でほぼ全員が使っているSNS微信」(ウェイシン、WeChat)。黎明期には多くのライバルがあり、WeChat以外の選択肢も多々あった。最大のライバルは、同じテンセントが運営をしている「QQ」で、テンセントは自社のプロダクトとカニバリズムが起こることを承知でWeChatをリリースした。その決断は正解で、テンセントのあらゆる事業がWeChatを軸に展開するようになっている。

では、なぜ数あるライバルの中でWeChatが選ばれていったのだろうか。その理由のひとつが「相手が入力中」の表示が出ることだという。

▲WeChatでは、こちらがメッセージを送って、相手がすぐに返信を書き始めているとき、「相手が入力中」と上部に表示される。これがSNSのユーザー体験を大きく向上させている。

 

相手が返信を書いている時に表示される「相手が入力中」

WeChatでメッセージを送り、相手がすぐにキーボードを操作すると、こちら側に「相手が入力中」という表示がでるようになっている。つまり、相手がすぐに返信をしようとしていることがわかるのだ。

厳密には、相手がメッセージを読んで10秒以内にキーボード操作を行うと、この表示が出る。そして、10秒間操作が途絶えると消えるという仕様になっている。

 

メッセージの交換周期は短くなる傾向がある

メッセージ交換系のSNSで問題となるのは、対話の周波数(頻度)をどの程度に想定するかということだ。つまり、「どのくらいの時間で返信をするのが適切か」という問題で、この周波数が双方でずれていると、ストレスを感じることになり、そのSNSは使いづらいと判断される。「相手からなかなか返信がこない」「すぐに返信をしなければならず疲れる」と感じられるようになってしまう。

この周波数を仕様などで誘導することは非常に難しい。ここがSNSの大きな課題になっている。どのくらいの時間で返信すべきなのかは、利用者が属するコミュニティーが決めることになる。

そして、この周波数は放置をしておくと短くなる傾向がある。電子メールは郵便のアナロジーであったため、すぐに読んですぐに返信をするというプレッシャーは強くなく、当日のうち、または翌日に返信をすればいいという社会的合意が形成された。しかし、SNSは元にするアナロジーがなく、メッセージを送った方からすれば早く返信が欲しいために、返信時間が短くなっていく傾向がある。

特に上下関係のあるコミュニティーや先鋭的であることを自認するコミュニティーでこの傾向が強くなる。そのため、コミュニティーのメンバーは、常に着信がないかどうかを気にし、着信があった場合は、何をしていても返信をしなければならないプレッシャーを感じることになり、全体の業務効率は低下をし、ストレスを感じることになる。それが「SNS疲れ」を生むひとつの要因になっている。

 

メッセージ周期を自然に制御できる「相手が入力中」

WeChatの「相手が入力中」の表示は、利用者が返信のタイミングをうまく制御できるようにしてくれる。通常は、メッセージを送っても相手がいつ読むのかわからないので放置をし、返信のプッシュ通知があったら見ればいい。返信がくるまで一定の時間がかかっているのだから、こちらも隙間時間ができたら返事をすればいい。

しかし、メッセージを送って「相手が入力中」と表示された場合は、相手はメッセージをやり取りするのに適した状態で、すぐに返信を書こうとしていることがわかる。この場合は、こちらも待機をして、すぐに返信をすることで、チャットのような状況に入っていくことができる。

返信はゆっくりでいいという場合と、返信をすぐに書いた方がいい場合を自然に使い分けることができる。

▲WeChatでは「既読」の表示はつかない。しかし、企業版WeChatでは「既読」表示がつく。プライベートでは既読マークはストレスになるが、業務では既読情報が必要という判断だ。

 

既読マークはつかないWeChat

一方、WeChatには相手が読んだことを示す「既読」表示は実装されていない。メッセージに既読がつくと、「返信をしなければ」というプレッシャーがかかり、SNSでのユーザー体験を悪くしてしまうという判断だ。

一方、企業版WeChatでは「既読」表示がつく仕様になっている。業務での連絡はある程度プレッシャーがかかっても、返信までの時間が短いことが要求されるからだ。

この「相手が入力中」の仕組みは、SlackやDiscordでも採用されている。小さな機能だが、SNSのユーザー体験にとって大きな機能になっている。

 

 

中国最大の飲食チェーン、中国の町中華「沙県小喫」に異変。閉店が相次ぐ理由とは

世界で最大の飲食チェーンは、10万店舗を展開する「沙県小喫」であると言われる。安くて美味しい、中国の町中華にあたるチェーンだ。しかし、コロナ禍以降、閉店が続いている。新興の中華ファストフードに客を取られていると基建不倒翁が報じた。

 

中国の町中華「沙県小喫」に異変

中国に行けばどんな小さな街に行ってもある小さな飲食店「沙県小喫」(シャーシエンシャオチー)に異変が起きている。2023年になって閉店が相次ぎ、その数は3000店舗を超えるという。

沙県小喫は、鴨のベーコンやバンバン麺、ワンタンスープなど、小腹が空いた時にちょうどいい中華料理を出してくれる店。以前は「2元で美味しく、5元でお腹いっぱい」と言われるほど安く、間食でも10元未満、食事でも15元前後で食べられる庶民の味方とも言える店だった。その庶民の味方が、コロナ禍をきっかけに人が行かなくなり、閉店をする店が相次いでいる。

▲典型的な沙県小喫。看板のロゴがトレードマーク。中国に10万店舗を展開する、世界最大の飲食チェーンだ。

 

ハードルの低いチェーン「沙県小喫」は10万店舗

沙県小喫の店舗数は10万店というもので、KFCやマクドナルドの10倍になり、世界最大の飲食チェーンとも呼ばれる。しかし、沙県小喫をフランチャイズチェーンと呼ぶには少し無理がある。

沙県小喫の看板を掲げたい人は、福建省三明市沙県にある本部に申請をし、一人2500元(約5万円)のトレーニング費用を支払って、12日間の講習を受ける。それだけで「沙県小喫」のお店を開くことができる。食材を本部から買う必要もない、ロイヤルティーを支払う必要もない、品質管理を受ける必要もない。多くの場合は一見間口の小さな店なので、改装費なども含めて1万元(20万円)ほどで店を始められる。世界で最もハードルの低いチェーンなのだ。

▲沙県小喫の人気メニューは、バンバン麺とワンタンスープ。朝食や昼食に向いたメニューが多い。

 

チェーンなのに味はばらばら

沙県小喫の多くの店は、夫婦で経営をしているか、家族で経営をしている。作り置きをしているお惣菜系のメニューも多いために、注文をしたらすぐに惣菜が出てくる。麺なども調理に時間がかからないため、惣菜をつまんでる間にできあがってくる。価格が安い上に、すぐに出てくるため、忙しい時の昼食や間食にぴったりであるため、沙県小喫の店舗は拡大をし続けた。

しかし、問題は、緩いチェーンであるために、メニューは店によって異なり、味の点でもばらばらだということだ。近所にある沙県小喫が気に入れば、その店にしばしばいくことになるが、知らない街で沙県小喫の店に入るには勇気がいる。

▲沙県小喫のメニューは、優しい味のものが多く、昼食や間食に向いていることから人気となっていた。

 

個店の集まりにすぎなかった沙県小喫

本部は品質管理、衛生管理にはタッチをしないため、品質と衛生の管理は店任せになる。多くの店舗はきちんと運営をしているが、10万店もお店があると中にはいい加減なことをする店も出てくる。数年前に話題になった地溝油(排水から再生した食用油)なども沙県小喫の店舗によるものだった。

つまり、近所のなじみのある沙県小喫には行くものの、知らない沙県小喫には入らないという人が増えていった。そこに麺などを中心に中華ファストフードが台頭をしてきた。このような新しいファストフードチェーンは、同じ食材を使い、店舗運営も厳しく管理をされる。どの店に入っても、同じ味で衛生レベルも保証されている。このようなことから沙県小喫にいく人が減り、特にコロナ禍には避ける傾向が強まり、コロナ禍以降もそれが習慣として定着をしてしまった。

▲沙県小喫の多くは、夫婦や家族で経営されている。12日間の講習を受けるだけで、誰でも開店ができる。

 

文化的な価値もある沙県小喫

沙県小喫は、福建省客家と呼ばれる人たちが移住をし、中原の麺の習慣と福建省米食の習慣をミックスして、独特の食文化を生み出した。ある意味、中華料理の原点でもあり、中華料理の「生きた化石」と呼ばれることもある。

そのため、沙県小喫の低迷は、産業としてではなく文化の継承という点で嘆く人も多い。沙県政府あるいは民間の中から、新しい形の沙県小喫のチェーンを構築しようという動きも起きている。世界最大の飲食チェーン「沙県小喫」は生き残れるのか、難しい局面を迎えている。

▲沙県小喫の伝統を守るために「アップグレード版沙県小喫」を名乗る店舗も登場してきている。

 

 

学生たちはなぜQQが好きなのか。若者に好まれるSNSの要素とは?

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明日、vol. 220が発行になります。

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今回は、テンセントのSNS「QQ」についてご紹介します。

 

騰訊(タンシュン、Tencent)が運営するQQ(キューキュー)については、このメルマガでも本格的には取り上げてきませんでしたし、中国でのマーケティングやプロモーションを語るときも、重要とされるのは「微信」(ウェイシン、WeChat)、「抖音」(ドウイン)、「小紅書」(シャオオンシュー、RED)が中心で、この他に「微博」(ウェイボー)や「ビリビリ」が登場するくらいだと思います。QQがあまり取り上げられないのは、時代の役割を終えたSNSだからです。

QQは、2000年11月にリリース(四半世紀前です)され、ピーク時のアカウント数は10億件を突破するという大成功を収めました。テンセントの今日の主要なビジネスは、すべてこのQQに源流があります。

しかし、スマートフォン時代になると、2011年1月にテンセントはSNS「WeChat」をリリースします。QQがあるのに、まったく新しいSNSをリリースするという大胆な策でした。このあたりの経緯は、「vol.146:WeChat以前の中国SNSの興亡史。WeChatはなぜここまで強いのか?」でご紹介しています。

その後、WeChatの利用者数は増えていき、2023年上半期の平均月間アクティブユーザー数(MAU)は13.27億人になっています(海外利用者を含む)。中国人であれば全員が使っている国民インフラとなりました。

そのため、昔のSNSであるQQは利用者数が次第に減少して、いつかは消えるものだと思われていました。ところがコロナ禍が明けてみると、増えてこそいないものの、下げ止まりをしています。テンセントは、年度報告書でQQやWeChatのMAUを公開していますが、そのデータで最も遡れる2012年H1のQQのMAUは8.254億人でした。現在は6億人を切るところまで減っています。ところが、ここで下げ止まっているのです。しかも、少なくなったとはいえ、6億人近い利用者がいるSNSです。プロモーションメディアとして無視することはできません。

 

しかも、後ほど詳しくご紹介しますが、若い世代が使っている傾向にあるのです。社会人になると、仕事の関係もあり、QQを卒業してWeChatを使うようになります。普通は、若い世代も最初からWeChatを使う傾向が進み、QQは次第に忘れられていくというパターンなのですが、高校生、大学生がQQを好むため、若い世代の流入がけっこうあるのです。これで、卒業する流出量と新たに入る流入量がバランスをして、利用者数が下げ止まるようになっています。

そのため、QQに広告を出しているのは、若い人向けのブランドが中心になっています。日本でも知られているブランドでは、化粧品の「MAC」「ラ・メール」、スマホの「vivo」、シュガーレスガムの「5 Gum」、スニーカーの「VANS」などです。中国の若者にリーチするプロモーションを行うのであれば、QQも選択肢のひとつに入れる必要があるかもしれません。

 

今回は、QQになぜ若者が流入し、利用者数が下げ止まっているのか、その理由をご紹介します。答えを先に言うと、若者に好まれる設計を積極的に取り入れているからです。QQの運営チームは、若者が好むポイントをよくわかっていて、意識的に好まれるものは残し、新たな機能追加を行っています。QQのどのような点が若者に好まれているのかがわかると、「若者に好まれるSNSとはどのようなものか」がわかってきます。

今回は、QQのプロモーションメディアの価値を再認識していただくことと、若者に好まれるSNSの条件を発見することが目的になります。若者に好まれるQQについてご紹介をします。

 

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今月、発行したのは、以下のメルマガです。

vol.218:東南アジアで広まりライブコマース。TikTok Shoppingの東南アジアでの現在

vol.219:潜在能力は高いのに、成長ができない中国経済。その原因と処方箋。清華大学の論文を読む

 

 

現金決済が復活?現金決済を広める杭州市の工商銀行。ターゲットは外国人観光客

中国でもインバウンド旅行客が復活をし始め、スマホ決済が大きな課題になっている。外国人には使いづらいのだ。そこで、杭州市の工商銀行では、インバウンド旅行客が訪れる地域を中心に現金決済の普及活動を行なっていると潮新聞が報じた。

 

もはや現金が使いづらくなっている中国社会

中国のインバウンド旅行客も徐々にだが復活をし始めている。しかし、中国を旅行する外国人旅行者の頭痛の種が決済だ。地方都市にまでWeChatペイ、アリペイのスマートフォン決済が普及をし、特に大都市では現金での支払いがほぼできない状況になっている。法律上は商店は現金決済を拒むことができないが、お釣りの用意ができないために断られることが増えているのだ。

代金ぴったりで出せば受け取ってもらえるが、お釣りが必要な場合は、現金をくずそうにも近隣の店舗も釣り銭が不足をしているため断られる。さらに、スマホ決済が主流になり、従来は商品の販売価格が10元とか9.8元という現金のお釣りを出しやすい価格に設定されていいたが、スマホ決済時代になり釣り銭のことを考慮する必要がなくなり、価格競争により7.68元や8.12元など半端な価格設定が増えている。用意すべき釣り銭が以前よりも増えている。

 

外国人には使いづらいスマホ決済

すでにWeChatペイ、アリペイは国際クレジットカードに対応していて、クレジットカードを登録すればポストペイ決済ができるのだが、そのことが外国人にはまだじゅうぶんに周知をされていない。さらに、決済アプリの中からタクシー配車やシェアリング自転車、高鉄のチケット購入などをするときは、身分証の登録が必要で、これも対応国であればパスポート登録で利用できるようになっているが、どのサービスで身分証明が必要なのか、どの国のパスポートが利用できるのかがわかりづらく、困惑をしてしまう外国人が多い。

つまり、インバウンド観光客のことを考慮せずにキャッシュレス決済を推進してしまったために、外国人にとっては決済が非常に難しい国になってしまった。

シンガポールからの観光客も現金決済復活を歓迎している。外国人もスマホ決済を利用できるようにはなっているが、準備や設定が煩わしく、現金かクレジットカードを使うのが便利だからだ。

 

現金決済を復活させた杭州

この状況に問題を感じたのが、浙江省杭州市の工商銀行杭州支店のスタッフたちだった。2023年9月23日から16日間、杭州市ではアジア大会が開催された。その時は、選手関係者だけでなく、観客も海外からやってくる。これはコロナ後のインバウンド観光を復活させる大きなきっかけになる。

そこで思いついたのが、商店の現金決済復活だ。工商銀行では専用の釣り銭入れをつくり、これを商店に配布をした。商店に配布する時は、「現金の受け取り拒否は違法である」ことを説明し、「現金受け取りを拒否しません」という誓約書に署名をしてもらうことが条件になる。

さらに工商銀行では、1日1回巡回をして、現金の両替を行い釣り銭を補充するサービスまで行った。銀行のスタッフが間に合わない場合でも、近隣の商店の多くがこの釣り銭入れを持っているため、商店同士で小銭を融通し合うことも進んだ。

▲工商銀行では、釣り銭入れをつくり、商店に配布をした。巡回をして、釣り銭を補充するサービスも行っている。

 

外国人はやはりクレジットカードと現金

杭州市の商店で現金が使えるということが認知されると、外国人観光客の買い物が如実に増えたという。潮新聞は、シンガポールからきたという親子の観光客に取材をした。「アリペイやWeChatペイが便利なことはわかっていますが、登録が面倒なのであまり使いたくありません。杭州市ではクレジットカードが使えるところもあり、現金でも支払えるところがあるので、どちらかを使っています」。

▲現金決済に対応した商店では、外国人インバウンド旅行客の利用が明らかに増加をした。

 

中国の高齢者にも思わぬ効果が

また、杭州東駅の駅施設と接続しているショッピングモール「万象彙」でも、現金による効果が見られるようになった。人気のスイーツ店「汪保来」では、現金で支払う年配の客が増えたという。高鉄に乗って、杭州市に観光にきた高齢者が、帰る時にお土産にスイーツを買っていってくれるようになったのだ。スマホ決済に慣れていない高齢者もまだ多く、今までは買い物を躊躇してしまっていた人たちが、慣れている現金で支払えるならとお土産を買っていくようになった。

キャッシュレス決済が進む中国だが、インバウンド客の増加とともに、決済のあり方をもう一度考える空気が広がっている。

▲ショッピングモールのスイーツ店が現金決済に対応したところ、高齢者の購入が増えた。帰郷をする高齢者が帰り際にお土産を買ってくれるようになった。

 

 

30年値上げをしていない1元ライター。それでも利益が出る理由

1元で販売される使い捨てライターの価格は30年間値上げされていない。それでも利益が出ている。世界の使い捨てライターの7割は、湖南省韶東市で生産され、地域産業がひとつの企業であるかのように支え合っているからだと上観新聞が報じた。

 

物価の優等生、1元ライター

世界的な喫煙者の減少により、見かけなくなっているのが百円ライターだ。中国では1元(約20円)の価格で販売されていて、発売から30年、値上がりはせず、今でも1元で販売されている。

この使い捨てライターは湖南省韶東市で生産されており、世界の使い捨てライターの70%がここで生産されている。その中での大手企業になる湖南東億電気では、半年先まで納入先が決まっておりフル生産を続けている。しかも、納入価格は20年変わっていない。人件費も上昇する中で、どうやって使い捨てライターは価格を維持しているのだろうか。

▲世界の百円ライターの7割は、湖南省韶東市で生産されている。地場産業だから強い。

 

見様見真似で始まったライター生産

このような日用品を生産する軽工業は、放浪産業とも呼ばれる。高い技術力も必要なく、生産設備も簡易であることから、人件費の安いところであればどこにでも移っていくからだ。

1992年、東億電気の創業者となる夫婦が、友人と話をしている時に起業のヒントを得た。それは「ライターを買おうと思ったけど、行列に並ぶことになった」というものだった。そんなに人気のある商品なのかと気づいたことがきっかけだった。

当時、使い捨てライターは広東省で生産されていた。夫婦は数十個のライターを手に入れて、分解をし、組み立てる方法を学んだ。そして、すぐに韶東市で最初のライター工場「順発工業」を設立した。製品は順調に売れ、工場はすぐに成長を始めた。

それから30年、韶東市のライター関連企業は114社となり、年間生産額150億元となり、120の国に輸出され、世界のライター生産の70%を占めるようになっている。

▲使い捨てライターは30年間1元で販売されている。それでもちゃんと利益が出ている。生産の合理化が進んでいるからだ。

 

ライターの生産地、湖南省韶東市

ライターは、製品は小さいがサプライチェーンは大きい。20以上の部品からできているからだ。そのため、114社のうち、製造は30社だけであり、そのうちの12社は輸出専門だ。84社はさまざまなパーツや原材料を生産している。

このすべての企業が韶東市の中にあり、コンパクトなチェーンを形成している。これにより、物流コストが大幅に下がり、生産コストが抑えられている。また、2022年にはライター産業協会が設立された。この業界団体は、民間会社を設立し、輸送車両の購入、製品試験、税関申告手続きなどを業務とした。つまり、コストのかかる設備、業務などを韶東市の企業が共有をすることで、さらにコストを下げようという試みだった。

▲ライブコマースも行われている。喫煙者は減っているものの、キャンプ需要が増えている。

 

地域産業であることが低価格の理由

これが中国の軽工業が低コストで標準品質の製品をつくれる理由のひとつになっている。地域産業となっているために、コストのかかることは全員で共有をし、投資額を抑えることができ、なおかつ、効率的に行えるのだ。

また、地域産業内では悪質な競争が起きない。同業者は戦うべき敵ではなく、一緒に戦うべき同志だからだ。新しい技術が登場しても、それはすぐに産業協会を通じて全員に共有される。一方、他地域とは厳しい競争をしなければならない。

つまり、韶東市の114社は、外から見れば1つの大きな企業になる。そのため、ひとつひとつの企業の規模は小さいものの、全体の規模は決して小さくなく、思い切った研究投資も行える。

同様の形態は、ライター以外でも、中国の全国の地方都市に地場産業があり、世界の生産量の半分以上を生産しているという地域がいくつもある。地域の家内制手工業のような状況を、賢く組織化している。これが中国の軽工業を支えている。

 

 

私用での離席は監視カメラが時間を計測、罰金を課す。厳しすぎる管理にネットで大論争

杭州市のある企業の社内の監視カメラ映像がネットに流出をして議論を呼んでいる。従業員がデスクにいるかどうかを監視し、15分以上の離席をすると自動的に罰金が課せられるというものだと兎小白が報じた。

 

私用で離席をする女性社員

浙江省杭州市のある女性従業員が、仕事中に私用で離席をする必要が出てきて、デスクから立ち上がった。隣の同僚は、私用で離席することを理解して、「社員証を置いていった方がいいよ」とアドバイスした。社員証は位置情報に対応をしているため、社内のどこにいるか、社外に出たかなどが会社の管理部門にわかってしまうからだ。

▲問題となった企業では、監視カメラ映像をリアルタイムで人認識し、勝手な離席をするとタイマーが作動し、時間が測定される。

 

監視カメラが時間の測定を始め、罰金を課す

この女性が離席をすると、監視カメラの映像のフレームは赤色に変わり、離席時間の測定が開始された。

この女性が席に戻ってみると、「離席15分以上、罰金20元」という表示が、デスクトップに表示されていた。女性は「離席時間も測定されるんだ」と驚きながら席に戻った。

▲離席をした従業員が戻ってくると、PCの画面に「離席15分以上、罰金20元」と表示された。

 

ネットで批判される厳しすぎる従業員の管理

この映像がどのようにしてネットに流出をしたのかは不明だが、ネット民の大きな議論を呼び起こした。多くの人は、ここまで監視をする必要があるのかという不快感を表明した。

また、AI開発を行う「科大訊飛」では、従業員にスマートバッジを配布し、このバッジは、従業員のすべの会話を録音し、サーバー上でテキスト化をしているという投稿も寄せられた。この話の真偽はわからないものの、これもやりすぎだと批判をされることになった。

また、深圳市のある企業の写真も流出し、ここでは従業員1人あたりに1台の監視カメラが用意され、これもやりすぎだと批判の対象となっている。

▲ある企業では1人に1台監視カメラが設置され、作業中のPC画面がすべて監視される。ただし、この企業は国家機密を扱う開発をしているため、情報漏洩を防ぐための工夫で、従業員の同意を得て導入しているという。

 

企業側を支持する声も

しかし、企業側を支持する声もある。まず、深圳市の企業の写真は、国家防衛機密に関する開発を行っている企業のもので、従業員も同意の上で導入されたものだという。

また、科大訊飛の話も、打ち合わせの内容が自動的にテキスト化され、AIが議事録やアイディアリストを自動要約するシステムのもので、従業員のプライバシーを侵害するものではないという。プライベートな話をする時は、スイッチを切ればいいだけの話だ。

冒頭の「15分の離席で罰金」は、運用の仕方が悪すぎるという話であって、着席時間と業務上の成果物の量や質を分析していけば、柔軟性の高い勤務体制を実現する基礎ともなる。

企業側の考え方がホワイトなものであっても、ブラックなものであっても、このような従業員の行動を監視するシステムが広がり始めている。