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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

オーバーツーリズムにはAIで対抗。麗江と百度が共同して挑む21世紀の観光地のあり方

世界中の旅行者を惹きつけている麗江。しかし、オーバーツーリズムの被害が年々大きくなっている。違法駐車、揉め事、ポイ捨て、騒音。週末になると、麗江麗江ではなくなる。この問題に、麗江市政府は、百度と共同して、AI画像解析の力を借りて取り組む「スマート麗江」プロジェクトを始めたと機器之心が報じた。

 

世界中の旅行者を惹きつける麗江

中国で最も世界の旅行者を惹きつけている街、雲南省麗江。古い街並みが保存された旧市街の麗江古城を中心に、周辺には大自然があり、ナシ族の少数民族文化や茶馬古道、トンパ文字など独特の景観や文化を楽しむことができる。「世界文化遺産」「世界記憶遺産」「世界自然遺産」の3つに指定されている市は、中国でここだけだ。

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麗江の旧市街。古い街並みが保存されている。その美しさと歴史に世界中の旅行者が惹きつけられている。

 

オーバーツーリズムの見本市となっている雲南省麗江

しかし、問題も起きている。わずか人口120万人程度の人口の街に、毎年2000万人の観光客が訪れる。旧市街は古い街並みが保存されているが、その周りの新市街は以前はごく普通の建築物だった。しかし、観光を目当てに、旧市街風の建物が急速に増えている。といっても、コンクリートなどでそれ風に見せているだけのもので、飲食店や土産物店が入り、俗物的な観光地になってしまっている。

また、旧市街も古い建物を利用して、バーやカフェ、クラブを運営するのが流行し、夜になると大音量の音楽による騒音問題も起きている。さらに、観光客が多いため、違法駐車、ポイ捨て、揉め事など、オーバーツーリズムの弊害の見本市にもなっている。

静かで癒される麗江独特の街並みと、観光をどうやって両立させていくか。それが麗江の最大の課題になっている。

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▲夜ともなるとこのありさま。静かで癒される街並みを眺めながら食事やお酒を楽しみたいという人が殺到をするため、週末ともなると人混みしか見ることができなくなる。

 

AI画像解析により車両を認識する「スマート麗江

そこで、麗江市は2020年秋から「スマート麗江」のプロジェクトを始めた。百度バイドゥ)と共同して、古城区西安街道などの主要な4つの通りに600個以上の監視カメラを設置し、人工知能により車両を認識させた。これにより、観光地に流入、流出する車両、推定人数がリアルタイムで把握ができるようになった。

また、車両は定められたルートを通らなければならないが、それを外れて土産物屋近くに違法駐車をする観光バスなども発見できるようになった。

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百度の車両認識技術は、国際的なAIコンテンストでたびたび入賞している。その技術と麗江が共同して、AIでオーバーツーリズムの課題解決に挑戦する。

 

法律違反、マナー違反をAIが感知する「街の目」

この成果を元に、麗江市と百度は「城視」(City Scope)を構築することで合意をした。

これは監視カメラ、ドローン映像、車載映像などを統合し、現在の麗江の様子をリアルタイムで把握するシステムだ。映像は整理をされ、顔認識、人体認識、車両認識などの画像解析の他、赤外線などによるリモートセンシング分析も行われる。

このような分析を機械学習することで、何が起きているかを把握する。例えば、駐車違反、侵入違反などの交通違反、ゴミのポイ捨て、車道を占有する違法な営業、暴力事件などが想定され、このような問題が発生するとシステムがアラートを出すことにより、担当者が短時間で現場に急行することができるようになる。

また、交通状況もリアルタイムで把握をすることができるようになり、現場の交通整理委員に渋滞を緩和させる誘導の指示も出せるようになる。

さらに将来的には、衛星によるデータと統合することで都市計画の参考資料を作成することや、人の体温を認識して感染症予防に役立てる、犯罪、事件の発生した場所に自動でドローンが急行し現状を把握するなどの機能も計画されている。

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麗江市は、百度と共同して、静かな麗江の街を取り戻す「スマート麗江」プロジェクトを始めた。

 

観光客が増えると観光地の魅力が失われる矛盾

中国では、海外旅行が制限されている分、国内旅行が盛況となり、新型コロナ以前の賑わいが戻ってきている。歴史的な観光地が多いが、そこに大量の観光客が訪れ、週末には満員電車のような密集状態となる。その人流を目当てに、観光地とは縁もゆかりもない飲食店や土産物屋が大量出店し、どこの観光地も同じ顔になってしまい、魅力を失っている。麗江人工知能を利用し、麗江本来の魅力を失わずに観光産業を成長させることができれば、他の観光地にとっても優れたお手本となる。

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百度が実用化している無人運転バス。すでに公園、施設内では利用が始まっている。麗江でも旧市街の移動に使用することが考えられている。

 

フードデリバリー「美団」が深圳市でドローン配送の試験運用を開始。焦点となる受け取りの方式

フードデリバリー「美団」(メイトワン)と、深圳の高層オフィスビル「SIC超級総部中心」は、フードデリバリーのドローン配送の試験運用を行うことで合意した。しかし、ドローン配送は利用者体験の点で課題が多く、今回の試験運用ではその点の検証も行われると深圳商報が報じた。

 

「人・ドローン・人」形式のドローン配送

SIC超級総部中心は、地上79階、地下4階の高層オフィスビル。大量のデリバリー注文が生まれるため、近隣の商業施設からのドローンによる配達を行う。

ドローン配送といっても、部屋まで届けてくれるわけではない。約1.3km離れたショッピングモールとSIC超級総部中心の双方にドローン発着基地を設置し、基地間をドローンで配送し、その前後は人が担当する。

SIC超級総部中心の顧客がアプリからフードデリバリーを注文すると、ショッピングモール内に待機をしている美団のスタッフが店舗に商品を受け取りに行き、それをモール屋上に設置されているドローン発着場に行き、そこでドローン用ボックスに移し替える。そして、ドローンをテイクオフさせる。

SIC超級総部中心のドローン発着場にも美団のスタッフが待機をしていて、商品を受け取り、顧客のもとに配達するというものだ。

ドローンの飛行時間は4分弱で、合計で注文から10分程度で配達をすることができるという。

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▲深圳市のSIC超級総部中心。商業施設とオフィスが入居する。ドローン発着場が設計段階で取り入れられ、1.3km離れたショッピングモールから飲食物がドローン配送される。

 

ドローンの積載能力が大きな課題

しかし、課題は多い。ひとつは積載量の問題だ。電動バイクで配達をするデリバリー騎手は常に最低でも3から4の注文を同時並行でこなしている。この場合、荷物の重量はだいたい5kg程度になる。

しかし、現在の小型ドローンの積載能力は1kgから2kg程度が基本で、そのままでは1つのドローンが最高でも2つ程度の注文しかこなすことができない。ドローンを大型化することもできるが、その場合は、騒音、墜落のリスクなどから飛行ルートが大きく制限されることになる。

また、ドローンのバッテリー容量による航続距離も問題になる。現在、多くのドローンが30分程度の航続能力を持っている。ということは、ドローン配送を行なった場合、2、3回の配送をこなした後、バッテリー交換をする必要がある。

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▲美団が開発をしたドローン。積載量は2kg程度と考えられ、需要に対応できるかという課題がある。ドローンを大型化した場合は、地上の安全を確保するために、飛行ルートが大きく制限されることになる。

 

難しい、顧客宅のベランダへの直接配送

最大の問題は、ドローンで直接利用者の元に届けることはできないということだ。イメージ映像としては、マンションの個別の住居のベランダに届ける様子がよく描かれるが、実際のマンションのベランダに着陸させるのは高度な技術が必要になる上、近隣住民から騒音に対する苦情が出る可能性もある。

また、利用者がベランダでドローンを待ち受けた場合、人体への衝突へのリスクもあり、そこの配慮も必要になる。

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▲ショッピングセンターに設けられたドローン発着場。飲食店からは人がこの発着場に商品を運び、ドローンに載せ替える。

 

美団が構想する「自分で受け取り」方式は不評

美団の構想では、商店が集中する地域と、住宅地、オフィスビル、マンションにドローン発着場を作り、発着場間をドローンで結び、商店から発着場まではスタッフが配送し、受取側は利用者が自分で発着場まで取りに行くという仕組みを想定しているようだ。

しかし、この仕組みは好意的には受け止められていない。なぜなら、人が運ぶのであれば、自分の家まで届けてくれる。オフィスビルなどでは、親切なデリバリー騎手になるとデスクまで届けてくれる。その利便性があるからデリバリーを使っている。

これが近隣の発着場や、高層ビルの中で1階やテラスに設置された発着場に自分で取りに行くのであれば、何もデリバリーを注文をしなくても、コンビニなどで買ってしまえばいいことになる。結局、最後の配送も人が行うスタイルになるのではないかと見ている人が多い。

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▲美団が構想するドローン配送網。オフィスビルでは、ドローン発着場からロボットが各利用者まで配達をする。しかし、マンションや住宅地では宅配ボックスやドローン発着場に利用者自身が受け取りに行く方式だ。

 

5年以内に大規模ドローン配送網を計画する美団

今回の試験運用は、このような消費者体験の検証が主体になると見られている。美団は2017年からドローン配送による検証、試験運用を行なっていて、すでに22万回の飛行を行い、飛行時間の累計は60万分を超えている。ただし、実際の配送は2500件しかまだこなしていない。

美団は、商店から周辺3km以内の大規模ドローン配送網を5年以内に実現したいと発表している。

 

 

運転室には誰もいない。完全な無人自動運転が始まった北京地下鉄

北京の地下鉄が無人運転時代に突入している。2017年以降、新設される路線はすべて無人運転設備を備えてきたが、安全監視員が乗務する形での自動運転が行われてきた。それが安全性が確認されたとして、安全監視員も常務しない完全な無人運転が始まったと1039調査団が報じた。

 

北京地下鉄が完全無人運転時代に突入

2017年12月30日に開通した北京地下鉄「燕房線」は、無人運転地下鉄として建設されたが、安全のため、運転席には安全監視員が乗車をし、万が一の場合は安全停止をするという運行を続けていた。3年間にわたりデータを収集し、運行上の安全に問題はないと判断し、安全監視員の常務を停止し、完全な無人運転となった。

また、2019年9月26日に開通した北京地下鉄「大興機場線」も、無人運転地下鉄として設置されたが、現在、安全監視員が乗務している。こちらも問題がないとして、安全監視員の乗務を停止し、完全な無人運転に切り替える時期の検討に入っている。

北京地下鉄では、今後新設される路線はすべて無人運転を基本にし、既存路線も可能な路線は無人運転地下鉄に切り替えていく計画だ。

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▲運転士、安全監視員もいなくなった運転席。前方の視界が開けることから、先頭車両にあえて乗り、スマホで撮影する人も増えている。

 

運転よりも付随業務の無人化が課題

無人運転そのものの技術開発はそう難しいものではないが、問題は付随をする業務の自動化だ。車庫から出発する際の列車の点検や、駅で乗降客の動向を確認した上でのドアの開閉、緊急時の対応などが問題になる。北京地下鉄では、このような業務も自動化をし、地下鉄運行のすべてを自動化している。

 

出庫前点検も完全自動化

燕房線の車両基地、閻村車両基地では、司令室から車両に出発命令を下すと、警笛が鳴らされ、車両の室内灯がすべて自動点灯される。そして、車両の点検プロセスが自動で始まる。その結果は、司令室のモニターに表示され、すべて問題がなければ、本線に向けて進み始める。

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▲北京地下鉄燕房線の車両基地。出庫する列車は、セルフ点検モードに入り、その結果を確認した司令室の命令を待つ。

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▲セルフ点検の結果は、司令室のモニターに表示される。すべてグリーンであることを人が確認をして、入線指令を出す。

 

PC1台だけの「司令室」

この運行管理をしているのは、司令室のエンジニアだ。司令室といっても、普通の事務室にPCを設置したもので、言われなければ、そこが地下鉄運行の司令室だと気付かないかもしれない。エンジニアのPCには、運行状況が一眼で確認できる一覧図と、作業中の列車にフォーカスした状況画面が表示され、この他、業務に合わせて自動的に切り替えられる監視カメラの映像が表示される。

司令室エンジニアの銭偉民氏は、1039調査団の取材に応えた。「これは車両内の監視カメラの映像です。リアルタイムで車内の映像を見ることができます。PCでは、ドアが空いていると黄色で表示され、乗客が乗り降りをして自動でドアが閉まると緑色に変わります。すべての問題がないことを司令室で確認し、出発指令を出します」。

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▲北京地下鉄燕房線の司令室。と言っても、事務所の端にPCを置いただけのもの。自動化が進んでいるため、これだけの設備で地下鉄の運行管理が可能な時代になった。

運転席から運転士がいなくなった

燕房線の運転席には、今まで安全監視員が乗務をしていた。安全監視員は、原則、操作はしないものの、乗客から見れば運転士がいるように見える。しかし、現在では安全監視員もいない。乗客の中には驚いている人もいる。また、別の乗客は前方の視界が開けるため、わざわざ先頭車両に乗って、スマホで撮影する人もいる。

 

人が介在しないことで安全性は向上する

北京地下鉄を運営する「北京軌道運営」の高奥氏は、無人運転の方が安全性は高まると断言する。「伝統的な地下鉄は、人が運転、管理を行うため、万が一のことが起きた場合、司令室は現場の運転士や車掌に状況を伝えてもらう以外、状況を把握する方法がありませんでした。しかし、現在は、車内の監視カメラ、車外の監視カメラから迅速に状況を把握することができます。それだけ早く、適切な対応策を決めることができます。また、乗客からの緊急通報も、運転士か車掌が受けて、現場で判断をするか、司令室との相談になります。しかし、現在の乗客からの緊急通報は直接司令室につながり、話をすることもできます。監視カメラにより、現場の状況も把握できます」。

北京交通大学軌道交通制御安全国家重点研究室の唐涛主任は、無人運転の安全上の利点は、人為的ミスを排除することができることだと指摘する。「熟練した乗務員と新人の乗務員の熟練度、経験は大きく異なります。自動化を進めて、人の操作を減らすことで、運行の質がそろうことにより、全体の運行効率が大きくあがります」。

 

乗客の乗降はセンサーと司令室で確認

例えば、駅でのドアの開閉は、伝統的な地下鉄では、車掌または車掌業務を兼任する運転士の肉眼に頼っている。司令室エンジニアの銭偉民氏は、この業務もすべて自動化されているという。「車両が駅に停止をすると、定められた側のドアがすべて開きます。乗客の乗り降りはドア付近のセンサーで行い、ドアが閉められない状態のドアの監視カメラ映像が自動的に表示されます。この映像を司令室エンジニアが目視確認をして、ドアを閉める指令を出します。すると、車両は次の駅に向けて発車するシーケンスを開始します」。

すべてのプロセスは自動化をされ、最終確認を人間がデータ表示と監視カメラで行い、次のプロセスに進める。

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▲車内は普通の地下鉄と何も変わらない。むしろ、人よりもスムースな運転ができるため、乗り心地も向上している。

 

悪天候の徐行運転も列車が自動判断

無人運転が目前に迫っている大興機場線は、空港線であるため途中駅が少なく、21kmという長い区間がある。そこでは最高時速は時速160kmに達する。この区間で、天候上の問題、車内火災などが起きた場合どうするのだろうか。北京軌道運営の李鵬経理は説明する。「21km区間は約13分で走行します。この区間を5つの区域に分割をしています。仮想の駅が4つあると考え、安全確認が行われてから次の区間に進入をするようになっています。万が一、問題が発生した場合は、この仮想駅で安全停止を行い、スタッフがその地点に駆け付けられる体制を整えています」。

また、大雨や降雪などで高架や地上での運行が妨げられる場合も、司令室ではなく車両の自動判断を優先する。なぜなら、局地的に危険な状態が発生している可能性があるからだ。車両には常に車輪の摩擦力をモニターするセンサーが備えられていて、摩擦力が一定以下になると自動で安全停止をするようになっている。この場合は、司令室の判断により、手動で徐行運転をさせて近くの駅に移動させるか、現場に救援部隊を派遣するかが決まる。

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▲郊外へと広がる北京地下鉄。総延長は723kmとなり、総延長、利用客数とも世界一。しかし、2023年までに1000kmになるなど、いまだに延伸計画が進んでいる。

 

無人運転の目的は人件費抑制ではなく、安全性向上と24時間運行

無人運転の目的は、多くの人が考える人件費の抑制よりも、安全性向上が主目的になっている。また、24時間運行が可能になるのも無人運転の大きなメリットだ。人為的な操作がなくなることにより、運行が標準化され、故障率も減少し、定期点検も機能的に行えるようになるため、不慮の事故が起きる確率も大きく減少する。

今年2021年末には、19号線、17号線の一部区間が開通をする。当然ながら、2路線とも無人運転可能な全自動化路線となっている。北京地下鉄は無人運転時代に入った。

 

 

今どきの子どもたちのネット事情。ゲーム規制、教育改革をしたたかかに生きる子どもたち

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 090が発行になります。

 

今回は、ゲーム規制、教育改革に揺れる子どもたちのネット事情をご紹介します。日本でも報道されているように、未成年はオンライゲームを平日は禁止、週末は1日1時間だけという非常に厳しい規制がスタートしました。同時に、民間の補習系のオンライン教育サービスや学習塾にも厳しい規制がかけられ、各社は倒産するか業態転換をするかというところに追い込まれています。

いったい中国では何が起きているのでしょうか。そして、肝心の子どもたちはどうしているのでしょうか。

 

「vol.084:テンセント帝国の終わりの始まり。ゲーム業界に起きている大きな地殻変動」で、ゲーム規制についてご紹介しました。国営メディア筋の経済参考報が、「精神アヘンが数千億元の市場に成長」と題した記事を掲載し、その日のうちにテンセントが未成年のゲーム時間の規制強化を発表したところ、問題の記事が「ネットゲームが数千億元の市場に成長」と改題され、本文中の「精神アヘン」「電子薬物」という刺激的な表現が削除されたというものです。民間メディアではなく、国営メディアの論評であったため、この記事は政府からのメッセージだったと見る人もいます。というより、多くの中国人はそう受け止めました。だから、テンセントも当日のうちに規制強化策(平日1時間、週末2時間)を発表したのです。

そして、記事が穏やかな内容に差し替えられたということは、政府はテンセントの発表に一定の満足をしたというメッセージだと受け止めらました。

しかし、中国政府はさらに厳しい規制に乗り出したのです。コンテンツの規制を行う国家新聞出版署は、各ゲーム企業に通達を出し、未成年は、平日はゲーム禁止、週末の金土日および祝日の午後8時から午後9時の間の1時間しかオンラインゲームができないようにする仕組みを導入することを求めました。

 

この規制に、日本人の多くの人が厳しすぎるという感覚を持つのではないでしょうか。あるいは、ゲーム時間を制限するのは親が家庭ごとの教育方針に基づいて行うことであり、政府が規制するべきものではないという意見が普通の民主的な国の感覚だと思います。

しかし、意外にも中国の親たちの大半はこの規制に肯定的です。私たちの感覚からは想像がつかないほど「学生の本分は勉学」という意識が強いのです。朝起きて学校に行き、授業が終わると少年宮という未成年用のカルチャーセンターのような場所に行き課外活動をし、それが終わると夕食を食べて、山のように出ている宿題をこなす。あとは寝るだけという生活で、日本の受験生の生活が大学を卒業するまで続く感覚です。

その中で、スマホゲームは唯一といってもいい楽しみでした。それが制限されることに、子どもたちは悲痛な声をあげているようです。SNSには、オンラインゲームにアクセスできずに泣き喚く子どもたちの動画が続々とあげられています。

この制限は新学年が始まる9月1日から実施をされました。子どもたちにとってみれば、9月1日と2日はゲームができず、ようやく3日金曜日の午後8時になって1時間だけゲームができるようになります。ところが、テンセントの人気ゲーム「王者栄耀」は、あまりにアクセスが殺到したため、サーバーが落ちてしまいました。回復をした頃には、終了時間の午後9時になっていました。再び、子どもたちは悲痛な声をあげることになりました。テンセントはさすがに申し訳ないと思ったのか、公式に謝罪をし、有料アイテムを全員に配布しました。

 

といってもしたたかな子どもたちもいます。制限を受けているのはオンラインゲームであって、ローカルに保存されるスタンドアロン型のゲームは対象外です。そちらの方にシフトをした子どもも多いようです。

また、制限を潜り抜ける方法がすでにいくつもネットに出回っています。テンセントの場合、ネットゲームのアカウントをつくるのに、身分証の登録と顔認証が要求されるようになっています。これにより、未成年を見分けるわけです。頭のいい子どもは同居の祖父などにアカウントをつくってもらい、ゲームをするときは祖父のところに行き、顔認証をしてもらうという方法を使っているようです。父親と母親はさすがにそういう協力はしてくれないので、祖父か祖母に甘えるのだと思います。

また、パブリックVPN(Virtual Private Network)を使って、海外からのアクセスだと偽装をすれば、海外ユーザーには年齢による制限はないので、好きなだけ遊べるようになります。

テンセントはこのような回避法も把握をしていて、今後、アカウントの凍結などをしていく予定ですが、しばらくの間はいたちごっこが続きそうです。

 

この制限により、ゲーム市場は大きな影響を受けざるを得ません。「2021スマホゲームユーザー洞察報告」(QuestMobile)によると、スマホゲームのユーザーのうち未成年(18歳以下)は15.7%で、課金ユーザーのうちの未成年も13.2%います。週末しかできないというのであれば、ゲーム以外の楽しみを見つける未成年もいるでしょうし、ましてや課金をする未成年はほとんどいなくなる可能性があります。未成年の課金は額が小さめであることを考慮しても、ゲームの収益の1割前後は落ち込むことになります。未成年といっても、ゲーム市場にとっては重要な顧客だったのです。

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スマホゲームユーザーの年齢構成。幅広い年齢層に広がっているものの未成年は15.7%もいる。課金ユーザーに占める割合も13.2%で、このほとんどが消えてなくなると見られている。「2021スマホゲームユーザー洞察報告」(QuestMobile)より作成。

 

実際、中国では小学生ぐらいでもスマホを持っている子どもは珍しくありません。下校時間になると、学校の帰りに子どもたちが街角に集まって、王者栄耀に興じている光景はよく見かけます。

「2020年全国未成年インターネット使用状況研究報告」(中国インターネット情報センターCNNIC)によると、未成年人口(6歳から18歳)は1.83億人で、インターネット普及率は94.9%に達しています。小学1年生から高校3年生までの95%がネットにアクセスできる状況にあるのです。しかも、自分専用のアクセスデバイスを持っている未成年の割合は82.9%もあります。

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▲中国の未成年のインターネット普及状況。小学生でも92.1%がインターネットにアクセスできる環境を持っている。学校にもアクセスできる環境が整っているため、100%の子どもがネットを使える環境にある。「2020年全国未成年インターネット使用状況研究報告」(CNNIC)より作成。

 

実際、中国の今の子どもたちは物心つく前にスマホに触れています。親がスマホを買い替えて不要になったスマホをおもちゃ代わりに与えるからです。SIMカードは抜いてしまうため、Wi-Fi経由でしか利用できませんが、ゲームをしたり、動画を見たりするにはじゅうぶんです。そして、小学生の間に、SIMカードの契約をしてスマホとして利用するようになります。スマホはゲームだけでなく、学習ツールとしても使われるため、小学生のうちから使うのが一般的になっています。

では、小学生にスマホをもたせて、どのように使われているのでしょうか。今回は、今どきの子どもたちのインターネットの世界をご紹介します。

 

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中国卓球のナショナルチームがAI卓球ロボットを導入。コーチの業務負担を大きく軽減

中国が卓球王国であることはよく知られているが、その強さの陰にはポンボットの貢献があるかもしれない。クアルコムのロボティクスプラットフォーム「RB5」を使ったポンボットは中国の卓球を変えるかもしれないと媒体が報じた。

 

中国の強さの秘密は徹底した基礎練習

中国の卓球が強い理由のひとつが、徹底した基礎練習にあるという。多球練習と呼ばれる、野球のノックにあたるトレーニングを徹底してやる。練習時間の1/3は多球練習であるという。コーチがボールを打ち、それを打ち返すというシンプルな練習だ。

しかし、見た目は単純でも内容は複雑だ。卓球のボールの5要素は、速度、強さ、回転、軌跡、着地点だが、コーチは選手の特性や課題に応じて、この5要素を組み合わせたボールを配球する。どのようなボールを配球するかが、コーチの腕の見せ所で、それが選手を育てることになる。

 

トップクラスの選手には使えない卓球ロボット

このコーチの仕事は、高度な卓球センスが必要であり、誰にでもできる仕事ではないが、体力的にも大きな負担になる。選手と同程度の体力を消耗し、しかも、コーチは複数人の選手を育成しなければならない。

そこで、過去、いくつも卓球ロボットが開発されたが、野球のピッチングマシンのようなもので、配球はできるが、打ち返すことはできない。機械の動きでボールの回転などが読めてしまうなど数々の課題があり、初心者向けであればともかく、代表選手レベルではまったく使えない。ナショナルチームでは、人間のコーチが配球をするというのが常識だった。


www.youtube.com

クアルコムがRB5の活用事例として作成したポンボットのイメージビデオ。中国でも卓球は子どもたちから人気のないスポーツとして描かれている。

 

クアルコムが発表したAIロボットプラットフォーム

しかし、2020年6月、クアルコムがロボティクスプラットフォーム「RB5」を発表して状況が大きく変わった。クアルコムのチップQRB5165を使い、クアルコム第5世代のAIエンジンが搭載され、毎秒15万回のAI計算が可能になる。また、Wi-FiBluetoothだけでなく、5G通信にも対応し、外部のAI計算を利用することも可能になった。

カメラは二眼であるため立体視が可能で、画像解析の速度は従来のAIの3倍から5倍に達するという。

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クアルコムのAIロボティクスプラットフォーム「RB5」。クアルコムが開発した第5世代のAIエンジンが搭載されている。

 

ナショナルチームに導入されたAI卓球ロボット「ポンボット」

このRB5をベースに中国ロボットのリーディングカンパニー「新松」(Siasun)がラケットを持った卓球ロボット「ポンボット」を開発した。アームは2本あり、1本でボールを放り上げ、もう片方のラケットでサーブを打つ。選手が打ち返したボールを認識し、打ち返すことができる。もちろん、回転、強さなどをAIが考え、選手の育成に適した配球が行われる。

このポンボットは、2020年7月に中国卓球学院と湖北省黄石にあるナショナルチーム訓練基地に導入された。トップクラスの選手からも利用され、選手たちからは「ポンコーチ」と呼ばれているという。

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▲展示会でデモが行われたポンボット。指定された戦略に基づき、強さ、回転などを変化さえた球を打ち返す。

 

1人のコーチが多数の選手を育成できるようになる

ポンボットはまだ手探りの中での活用だが、将来は、選手の打球のデータを取り、それをクラウド上で分析をし、人間のコーチが配球戦略を考えポンボットに指示をすると、ポンボットがその戦略に合わせた配球をするということになる。

特に大きいのが、優秀なコーチがたくさんの選手の育成を行えるようになることだ。強い選手を生み出すには、選手自身の素質、努力がいちばん大きいものの、コーチの指導も大きな要素になっている。育成戦略が可視化されることで、コーチ同士の切磋琢磨も行われるようになる。

ただでさえ、世界最強の卓球王国である中国が、さらにその先に進もうとしている。

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▲実際に使われているポンボット。選手からはポンコーチと呼ばれている。重労働だったコーチの負担を軽減することで、優秀なコーチがより多くの選手を育成できるようになる。

 

 

災害時に活躍するテック企業たち。ドローンで携帯回線や照明を提供

2001年7月、河南省は中心に1000年に一度の豪雨に見舞われ、鄭州市を中心に洪水被害に見舞われた。死者は300人を越し、3000万人が被災をした。鄭州地下鉄5号線は冠水し、500人が閉じ込められ、14人が死亡した。この災害では、テック企業が率先して救援、支援を行い、被災者の支援を行なったと無線泉州が報じた。

 

中国移動が提供したドローンの携帯電話基地局

広域で冠水をした場合、ほとんどのインフラが停止をする。食料と水の確保は急務だが、現在ではネット回線の確保も重要になっている。家族知人の安否確認、情報取得、さらには支援物資を搬入する際の連絡などができなくなる。

7月21日、中国移動は、ネット回線が完全に停止してしまった米河鎮に向けて、災害ドローン「翼龍-2H」を出動させた。このドローンは、被災地の上空を旋回することで、50平方キロの地域のネット回線を提供し、1.5万平方キロに通話回線を提供することができる。バッテリーの限界から、5時間しか回線を提供することはできなかったが、多くの市民がこの時間の間にスマートフォンを使って必要な連絡を取ることができた。また、翼龍-2Hには上空から災害状況の探査を行う機能も備えている。

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▲冠水した鄭州市。水位は下がったが、ほとんどのインフラが途絶えているため、見た目以上に厳しい状況になっている。

 

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▲中国移動が出動させた災害用ドローン「翼龍-2H」。携帯電話回線が失われた地域の上空を旋回し、通信回線を5時間提供することができる。

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▲通信回線が途絶えて情報孤立をした米河鎮に送られた中国移動のショートメッセージ。5時間だけ通信回線が復活することが告げられ、多くの人が家族と連絡を取ることができた。

 

夜間作業を支援する照明用ドローン

また、卓翼智能は、照明用ドローン「天枢-A8」を出動させた。24時間飛行できるドローンで、地上からケーブルで電源をとる必要はあるものの、上空50mから300mに停止をして、2000平米から3000平米に照明を提供することができる。地上設置型の照明に比べて、設置までの時間が早く、1台で広い面積を照らすことができる。また、真上からの照明になるので影ができづらい。さらに、場所を移動することも瞬時に行える。人命がかかった夜間の救出作業や、夜間の救援物資搬入などに活用された。

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▲照明用ドローン「天枢-A8」。夜間の救出活動や物資搬入作業などに照明を提供する。設置型の照明に比べて数々の利点がある。

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▲「天枢-A8」は、電源を地上から取る必要があるが、広い範囲を影をつくらず照らすことができ、移動も地上からの指令で簡単にできる。

 

自力移動可能な浮橋で孤立地域を解消

中国安能は、動力舟橋を提供した。橋が流されて孤立をした地域に対して、自力移動可能な浮橋を連結して、仮設の橋をかけるというものだ。1つの浮き橋は長さ40m、幅8mで通路の幅は5m取ることができる。65トンまでの重量に耐えることができ、13トン以下の車両が通行ができる。

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▲動力舟橋。複数の自力航行可能な浮橋を連結して、孤立した地域に仮説の橋をかける。自動車の通行も可能な設計になっている。

 

災害に対して、それぞれができることをやるテック企業

この他、ドローンメーカーDJIも多数のドローンを提供し、被災地の状況把握に活用された。テンセント、アリババなどの著名テック企業も災害情報の提供、物資の輸送などを行なっている。自社の技術が直接災害救援に活用できない場合は、義捐金を供出するなど、大規模災害が起きた場合、テック企業が支援をするという流れができあがりつつある。

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▲ドローンのリードカンパニー「大疆」(DJI)は、災害が起きるとすぐに緊急チームを結成し、災害地の状況把握をするためのドローンを被災地に提供した。

 

宿題は人工知能にやらせる今どきの小学生。中国政府は宿題をAIにやらせることを禁止

中国共産党中央弁公庁と国務院は、「義務教育段階の生徒の家庭学習と校外課程の負担のいっそうの軽減についての意見」を公開した。内容は、「拍照捜題」を禁止するものだ。これを受けて、多くの学習アプリが拍題捜答機能を停止させていると青少年教育新聞が報じた。

 

宿題は人工知能にお任せの今どきの小学生たち

拍照捜題とは、学習アプリの人気機能で、宿題をするときに便利な機能。プリントなどの問題を、アプリ経由でスマホで撮影すると、その内容をAIが解析し、解法と答えを表示してくれるというもの。同じ問題が見つからない場合は、類似の問題の解法と答えを表示してくれる。

本来は、自分で解けない問題を調べるためのものだが、学習アプリの競争が激しくなる中で、解答を直接表示するようになり、多くの学生が、学習アプリが表示する解法と答えを丸写しして提出することが増え、教師や父兄の間で問題になっていた。

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▲学習アプリ「作業帮」の拍照捜題機能。宿題のプリントなどを撮影すると、問題別に分割し、同じ問題を検索し、その解法と答えを表示してくれる。まったく同じ問題が見つからない場合は、類題を検索してくれる。

 

学習アプリの競争の焦点となった拍照捜題機能

学習アプリは2013年の「学覇君」が最初のものだと言われている。大量の問題を検索できるようになっており、宿題をするときは、目の前の問題と類似した問題を検索し、その解法と答えを参考に自分の宿題をこなすというものだった。

しかし、2016年に学習アプリへの参入が増え、競争が激しくなると、学覇君は、目の前の問題をスマホで撮影し、アップロードをすると、オンラインで講師が1対1でその問題の解説をしてくれるという有料サービスを始めた。このサービスが人気となり、学覇君は学習アプリとして成功をした。

しかし、2020年3月に、学習アプリ「作業帮」が画期的な機能「海辺捜題」を公開した。スマホで撮影し、AIが解析をし、解法と答えを表示する拍照捜題機能だ。これに「夸克学習チャンネル」が続き、人気だった学覇君は2021年1月には経営不振からの破産に追い込まれてしまった。

さらに、バイトダンスは「閃電捜題」、百度は学習専用タブレット「小度スマート学習タブレット」に拍照捜題機能を搭載していた。

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▲多くの宿題では、市販のドリルやプリントを利用するため、解答がズバリと表示されてしまうものが多い。子どもたちは、このようなツールを使って、短時間で宿題を終わらせている。

 

子どもたちからは宿題神器と呼ばれ絶賛

この拍照捜題の本来の想定された使い方は、子どもではなく親が使うというものだった。小学生ぐらいまでは、宿題でわからないところがあると親に聞くということが多い。しかし、親にもわからない問題がたくさんある。そこで、スマホで撮影して、表示された解法を元に、子どもに教えるというものだった。

しかし、子どもはデジタルリテラシーに関しては親を上回っている。親が使っている学習アプリを自分のスマホに入れて、勝手に使い始めてしまった。子どもの間では「宿題神器」と呼ばれている。

学習アプリの運営側もそのことは認識をしていたが、アプリのダウンロード数が増え、この拍照捜題をきっかけに有料のオンライン家庭教師などのサービスを使ってもらえる。ビジネスを成功させる鍵となり、対応している問題数を増やしていった。

 

これからは宿題は自分でやるしかなくなる

中央弁公庁と国務院の意見では、このようなアプリを使うことが、子どもたちの思考能力を育てることの妨げになり、教育規律に反した不良な学習方法であると指摘している。また、関連部門には、教育関係のアプリなどの審査を厳しくすることを求めている。これにより、子どもたちには大好評だった拍照捜題機能は、アプリから消えることになる。