中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国に残された個人消費フロンティア「下沈市場」とは何か?

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。
明日、vol. 027が発行になります。

 

中国のマーケティング業界で、ここ数年重要なキーワードになっているのが「下沈市場」です。下沈市場とは、地方都市と農村の消費者のことです。さまざまなビジネスが都市部では飽和状態になってきているため、下沈市場が注目されるようになってきています。
しかし、都市がだめだから地方をねらうという消極的な考え方ではありません。中国の経済発展は、常に大きな市場を発見することで進んできました。


中国の人口ピラミッドを見てみましょう。瓢箪のような形をし、40歳代後半と30歳代前半にピークがあります。しかも、その前後の差が大きく、不連続な印象を持ちます。
現在の50歳代後半が生まれた60年代は、大躍進政策の時代です。近代化を急ぐ中国は、ソビエト連邦からさまざまな技術導入をし、その見返りとして農産物を支払っていました。当時の社会主義状況では、各地が競い合うように豊作であるという水増し報告が上がり、そのでたらめの数字に基づいて、農産物の供出量が決められソ連に送られたため、自分たちの食べるものがなくなるという愚かな悪循環に陥ったのです。1500万人から4000万人という数字の開きはありますが、大量の人が餓死しました。

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▲中国の人口ピラミッドを見ると、2つのピークがある。この人口ボーナスにより、中国は経済成長をしてきた。

 

大躍進政策を推進した毛沢東が失脚をし、愚かな政策が改められると、にわかにベビーブームが起こりました。これが40歳代後半のピークです。この世代は、経済重視の政策に舵が切られる改革開放が始まるときに10歳前後で、90年代からの個人消費の成長に大きく貢献しました。家電製品、新しい食品、服飾、家具など中国の経済成長を支えたのです。このような人口ボーナスが中国の経済発展の礎となりました。


しかし、急激な人口増加が問題となり、80年前後から有名なひとりっ子政策が始まります。ひとりっ子政策は中央政府が指針を示しますが、具体的な実行は地方政府に任されていました。そのため、厳格に実行する地域(農村が多い)もあれば、実際には形骸化している地域(都市が多い)もあるため、厳密に何年から始まったというのは難しいのですが、80年ごろから本格化をしていったと言われています。
それが人口ピラミッドにも現れています。30代後半と40代前半はものすごく人口が少なくなっています。

 

日本でも、似たような人口ボーナス世代に団塊の世代(47年から49年生まれ)があり、その団塊の世代が親になると、団塊ジュニア(71年から74年生まれ)の世代も人口が多くなります。
これと同じように中国でも、先ほどのベビーブーム世代が子ども産むジュニア世代の人口が多くなっています。これが30歳代前半(80年代生まれ)の世代です。俗に80后(バーリンホウ)と呼ばれる世代で、貧しい中国の記憶のない世代です。この世代も、経済に大きく貢献しました。成人をする頃に、アリババやテンセントといったIT企業が登場してきます。EC、SNSなどのITサービスの主力となった世代です。

 

つまり、中国の経済成長、IT革命の背後には、人口ボーナス世代がいたわけです。しかし、そこから下は再び急激に世代人口が少なくなります。ジュニア世代が親になって、現在の10歳以下の人口が多くなってもよさそうですが、そうはなっていません。
80后は、結婚をしない世代なのです。生まれた時から豊かな中国しかしらず、自分の人生を楽しもうと考え、恋人を作り同棲はしても、子どもを産んで家庭を築こうとはなかなかしません。豊かになれば少子化になる。他国でも共通した現象です。
しかし、経済面から見ると、これは大きな問題です。人口ボーナスがなくなるわけですから、あらゆる業種が停滞をすることになります。その傾向はすでに始まっています。20歳代が好むファストファッション業界は、どのブランドも苦しむようになっています。今後、比較的若い世代が消費の中心になっている自動車、マンションなども成長が止まることは避けられません。

 

そこで注目が集まっているのが、下沈市場です。この下沈市場をうまく捉え、大成功したのがソーシャルECの「ピンドードー」です。ピンドードーは、すでに利用者数や流通総額で、京東を抜き、アリババに迫る第2位のECになっています。現在でも成長を続け、利用者数で2020年中に1位のアリババを抜く可能性もあるほどの勢いがあります。
こういう、下沈市場を活用した成功例も登場することで、ますます下沈市場が注目されるようになっています。


下沈市場とはどんな特徴を持っているのでしょうか。そして、ピンドードーはそれをどのように活用して成功したのでしょうか。
今回は、下沈市場とそのビジネスについてご紹介します。


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お手軽起業として人気が高まっている「越境テンバイヤー」

地方の若者の間で、越境ECビジネスで起業する人が増えている。盧阿哥視頻は、その越境ビジネスのやり方を指南する動画チャンネルだが、その内容は、決して違法性はないものの、良心的とはとても言えない。中国国内で8元で仕入れたものが、米国では100元と10倍以上で売れると紹介している。

 

中国ECで仕入れ、米国アマゾンで高値転売

10倍以上の価格で売るやり方とは転売だ。まず、米国のアマゾンで人気の商品を見つける。そして、アリババ1688.comで同様の商品を見つける。1688.comは卸専門のBtoB型ECで、購入数が500個以上になっているものが多い(商品によって最低個数は異なる)。また、購入数が大きくなればなるほど、単価も安くなるように設定されている。

この1688.comで同じ商品を見つけ、仕入れて、米国アマゾンで販売をするというものだ。

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▲1688.comで大量仕入れをし、適正価格で中国国内のECで転売するという真っ当な方法は、地方や農村部での手軽な起業として人気が高くなっている。

 

人気商品とそっくりの商品を安く仕入れる

これが、同じ商品を中国で仕入れ、米国アマゾンで販売をしているだけであれば、真っ当な商売で何も問題がない。しかし、それは大手の輸出業者、米国の輸入業者が大掛かりに行っているため、輸送費などを考えると、価格で太刀打ちすることはできない。

そこで、盧阿哥視頻が勧めているのが、目的の商品と似ている商品を1688.comで見つけることだ。

盧阿哥視頻が実例として挙げているのは、米国アマゾンで販売されているiPhone用の手帳型カバー。人気商品になっていて、Amazon’s Choiceに選ばれている。これは13.99ドル(約1500円)で販売されている。

これとよく似ているが、同じではない商品を1688.comで見つけると、300個以上購入すると1つ8元(約120円)で購入できる。これを米国アマゾンで販売をすると、正規品より多少価格を割り引いたとしても10倍以上の価格で売れる。

商品の型番などが異なっていたり、写真をよく見れば、別の商品であることはわかるが、そこをよく確かめずに騙されてしまう人もいる。消費者が勘違いをすることをねらった転売だ。

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▲米国アマゾンで販売されているiPhoneケース。Amazon’s Choiceにも選ばれているもので、13.99ドルで販売されている。

 

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▲盧阿哥視頻が紹介している実例。米国アマゾンで13.99ドルで販売されているiPhoneケースとよく似たものが、1688.comでは300個以上の購入で8元で購入できる。これを米国アマゾンに出品すると、間違って買う人がいて、大儲けできるという。

 

よく確かめずに買う人が一定数いる

盧阿哥視頻が勧めている方法は、違法とは言えない。米国アマゾンに出品するときに、虚偽の情報を記載することはできず、よく見れば別の商品であることがわかるからだ。

しかし、よく確かめずに購入してしまう人は一定数いるし、とにかく安い方がいいと考える人もいる。価格が大きく異なるということは、当然、素材や品質が大きく劣ることになるが、店頭で2つの商品を並べて比べればわかるものの、ECでは購入した商品しか手に取ることはできない。品質に問題を感じても、「こんなものか」と納得してしまうのだ。

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アリババの1688.com。業者用のBtoB型ECサイト。価格はものすごく安いが、発注個数が数百個からになっているものがほとんど。

 

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▲ビリビリの盧阿哥視頻チャンネル。転売の方法をビデオで詳しく解説している。いずれも違法とは言えないものの、良心的ではない転売方法を解説している。手軽に稼げる方法として、転売をする若者が増えている。

 

日本も標的となる可能性がある「似たもの転売」

盧阿哥視頻がターゲットにしているのは、米国アマゾンで、日本アマゾンへの出品については触れられていない。しかし、それは言葉の問題にすぎない。基本的な英語は、学校で学ぶのである程度わかるし、翻訳アプリなどを活用することでどうにかなる。一方、日本語に関しては、専門の学校に通うか、独学をしないとなかなか身につけることができない。

しかし、もし、日本語ができる人が近くにいれば、このような人たちが日本アマゾンに出品をしても不思議ではない。マーケットプレイスで購入をするときは、安いからといって飛びつかず、商品情報をよく確かめておくことが必要だ。

中国でもコロナ禍により、仕事を失っている人が多い。そのような人たちが、場所を選ばず、在宅テレワークで簡単に始められる起業として、越境転売を始めることはじゅうぶんに考えられる。

 

福建省と福州市が生鮮ECの購入比較テストを実施。配送の温度管理に課題

コロナ禍により、大幅に需要が増えた新小売スーパー、生鮮EC。福州市の消費者員会は、6つの業者に対して、購入テストを実施した。過去、メディアなどが購入テストを行っているが、公的機関が行うことのは初めて。その結果、配送の温度管理に課題があることが指摘されたと彩虹科技が報じた。

 

需要が急増して品質クレームも増大

新型コロナの感染拡大期に大きく伸びたのが、新小売スーパー、生鮮ECだ。スマートフォンで注文をすると、自宅まで30分程度で宅配をしてくれる。買い物に行くだけでも感染を心配しなけれならない状況で、野菜や肉、魚といった生鮮食料品を配達してくれる新小売スーパー、生鮮ECの需要が、3倍から5倍に増加した。

同時に、消費者からのクレームも比例をして増えている。そのため、福建省消費者委員会と福州市消費者委員会は、協働して、福州市で利用できる生鮮ECの比較試験を行った。

試験対象となったのは、生鮮ECの永輝生活、朴朴超市、京東到家、及び新小売に対応したスーパーの盒馬鮮生(フーマフレッシュ)、ウォルマート、大潤発の6つ。

消費者委員会に協力してくれるボランティアが、消費者の身分で通常通り注文をして、配達にかかる時間や価格、重量、品質などをチェックする。

注文したものは、豚バラ肉、鴨肉、レタス、トマト、卵、びわの6品目。

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▲購入した商品は、レジ袋に入れて、電話通知の後、ドア前に置き配される。

 

6つの業者に対して、4人が購入テスト

消費者委員会に協力したボランティアは4名で、それぞれ福州市の鼓楼区、台江区、倉山区、晋安区に住み、全員が同じ時間に注文、消費者委員がボランティア宅にお邪魔し、一緒に品質などの検査をする。品質については、主観によるところも大きいため、他の委員にも確認し、2/3以上の委員が異常と認めたものだけを記録に残した。

このテストは、6つの生鮮ECに対して、22回、126商品の買い物を行った。4人のボランティアが6つの生鮮ECすべてに注文を入れるのが原則だが、そのボランティアの居住区が配送地域になっていないケース、また注文を試みたが売切れ、欠品になっているケースなどもあった。具体的には、永輝生活鼓楼店、京東到家鼓楼、フーマフレッシュ鼓楼店ではトマトが欠品になっており、京東到家鼓楼、京東到家台江、ウォルマート台江ではびわが欠品になっていた。

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▲テストは、購入を担当したボランティア宅に消費者委員会委員が出向き、2人で行う。主観が入りやすい品質に関しては、委員全員で判断をした。

 

配送料は実質無料が多い

注文は、平日の午前9時に行われた。配送時間は、各ECとも30分から120分と異なっている。ただし、永輝生活とフーマフレッシュは「最短30分」と表示され、最大何分なのかは明示されない。永輝生活はいずれも30分以内に配送されたが、フーマフレッシュ鼓楼店では59分かかった。

配送料はフーマフレッシュが0元で、その他では3元から6元が必要になる。ただし、一定額以上購入すると配送料が無料になる。その額は最高でも39元であり、食材を買うのであれば、配送料はどこも実質無料になる。

京東到家は、地区によって配送業者が異なり、配送料も各業者が設定するという仕組みなので、地区によって配送料が異なる。今回、4地区平均で4.8元の配送料が必要だった。またウォールマートでは、梱包料0.5元が必要だった。

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▲配送料と配送時間。多くが実質配送料無料で、30分程度で配達してくれる。

 

配送は電話通知の後、置き配が基本

いずれの生鮮ECも、配送時に電話で通知をしてくれた。コロナ禍以降、玄関で受け渡しをするのではなく、玄関前に商品を置いて、電話で通知するのが基本のスタイルになっている。

商品には注文票が貼り付けてあり、商品一覧の他、購入者の名前、電話番号、住所などが記載されている。朴朴超市は、このような個人情報すべてを隠す処理がしてあった。永輝生活、フーマ、大潤発、京東到家は電話番号のみを隠す処理がしてあった。ウォルマートはすべての情報について隠す処理がされていなかった。

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▲配送された商品につけられているレシート。ドアの前への置き配であるのに、個人情報をマスクしていない生鮮ECもあった。

 

温度管理による傷みが課題

びわでは、19の注文中、4つで問題が生じた。接触痕があったのが、フーマ、ウォルマート。大潤発では裂け目がついていたもの、割れていたものが入っていた。

レタスでは、22の注文中、4つで問題が生じた。大潤発では3店のものが茶色く変色をしている箇所があった。京東到家では、葉全体に変色が広がり、剥いてから使わなければならないものがあった。

卵では、22の注文中、4つで問題が生じた。2つは重量不足だ。京東到家では、500gと表示されているのに497.4gしかないもの、「10個600g」と表示されているのに583.6gしかないものがあった。また、朴朴超市では1つが殻が汚れているもの、1つは割れているものがあった。

鴨肉では22の注文中、5つで問題が生じた。京東到家は2つで重量不足があった。大潤発ではドリップが出ていた。永輝生活では軽い異臭があった。永輝生活のもうひとつでは重量不足の上、異臭があった。

トマトでは、19の注文中、6つで問題が生じた。永輝生活、大潤発×2、京東到家、朴朴超市の5つで接触痕があった。ウォルマートでは「450g-500g」と表示されているのに324.4gしかなかった。トマトは冷蔵庫で冷温保存した後、取り出して、長時間常温に置いておくと、表面が黒く変色しやすく、簡単に接触痕がつくようになってしまう。各社とも、保存から配送の温度管理にまだ課題があると考えられる。

豚バラ肉では22の注文中、8つで問題が生じた。朴朴超市、フーマ×2、永輝生活×2で、重量不足があった。また、京東到家では豚バラ肉の皮膚面に毛が残っていた。ウォルマート、京東到家では、軽い異臭が感じられた。

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びわでは、われ、裂け目が入っているものがあった。

 

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▲レタスでは表面が変色しているものがあった。

 

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▲卵では割れているものがあった。

 

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▲鴨肉ではドリップが出ているものがあった。

 

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▲トマトでは接触痕があるものがあった。

 

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▲豚バラ肉では毛が残っているものがあった。

 

梱包と温度管理に課題があると指摘

自分が足を運ぶスーパーであれば、自分の目で商品を確かめて購入することができる。しかし、生鮮ECでは配達された食材を使うしかない。どの生鮮ECも、三無返金制度を導入している。三無返金とは「理由なし」「レシートなし」「現物なし」でも返金に応じるというものだ。そのため、品質に問題があると感じたら、スマートフォンで写真を撮り、クレームを送信すれば返金をされる。

しかし、だからと言って、品質の悪い商品を販売していいことにはならなない。消費者委員会は、配送の方法にさらに改善が必要だと提言をしている。例えば、トマトでは直線型の接触痕がついていたものがあった。これは包装をするときに、はみ出ていたたため、容器の縁に接触をしたたま、圧力が加えられたため生じたと推測できる。

また、温度管理にも改善が必要だと提言する。多くの生鮮ECでは、温度管理された店頭陳列、倉庫などから商品をピックアップし、梱包をした後、電動バイクのクーラーボックスに入れて配達をする。この際、常温の状態におかれる時間が長いか、クーラーボックスの温度がじゅうぶんに下がっていないのではないかと推測される。低温から常温に置くことで、トマトやレタスは変色をし、接触痕がつきやすくなる。また、肉類、魚類ではドリップが出やすくなる。

消費者委員会は、このテスト結果を各メディアを通じて公開している。ただし、あくまでも、1回のテストの結果のみで、すべてを判断しないでほしいとも言い添えている。たまたま、悪い結果が出ることもあるからで、消費者委員会では、今後も必要に応じて、テストを継続していきたいという。

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▲左下のトマトに直線状の接触痕が残っている。これは包装パックの縁に接触した状態で、ラップ包装されたものだと考えられる。

 

 

賃金が低下傾向でも外売騎手急増の背後に、ものづくり中国の危機

コロナ禍により、外売騎手が60万人も増えるという急増ぶりを見せている。しかし、需要と供給の関係で決まる騎手の賃金は低下傾向にある。賃金が下がっているのに増え続ける理由は、スキルを必要としない気楽な仕事だからだ。若者が製造業のような修練、習熟を避ける傾向が出てきているのではないかと科学一本道道が報じた。

 

外売騎手が60万人の急増

コロナ禍により、多くの商店が休業をした後、2月10日から営業再開、職場復帰が始まった。しかし、営業を再開できない商店も多く、2月10日から4月10日までの2ヶ月間で、外売騎手(フードデリバリー配達スタッフ)が美団(メイトワン)では、33.5万人、ウーラマでは24.4万人増加をした。両方合わせて、60万人が増加したことになる。

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▲コロナ禍で仕事を失った人が続々と外売騎手に流れ込んでいる。特別なスキルも必要なく、すぐに働くことができ、勤務時間も自分で決めることができるからだ。

 

飲食、旅行、工場の若者が外売騎手に

新しく騎手になった人の前職は、30%が飲食と旅行関係で、40%が工場工員、20%が個人商店の経営者、10%が学生や求職中の人となっている。

年齢は、55%が90后(90年代生まれ、20代)、10%が00后(00年代生まれ、10代)となっている。

つまり、コロナ禍で職を失った若者が、外売騎手に流れ込んでいる。外売騎手は、特殊なスキルを必要とせず、登録したその日から働けることが大きな要因だ。

 

雇用のアブソーバーとして機能するギグワーク

外売騎手は、正式な就職ではなく、ギグワークと呼ばれる。スマートフォンから登録をし、簡単な身分確認を経ると、すぐに働くことができる。働く時間は本人の自由。仕事をしたい時に、スマホからインすると配達の指示がくる。仕事を終えたくなったらアウトすればいい。

コロナ禍という特殊な状況下の中では、失業者をすぐに吸収できるアブソーバーとしても役立っている。

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▲バイクで飲食品を配達する仕事なので、女性の騎手も多い。

 

人数が増えたため、賃金が低下傾向に

しかし、外売騎手が増えたことで、大きな問題が生じてきた。以前の外売騎手は、農村の青年が都市に出るための手がかりとなっていた。体力は必要だが、真面目に働けば平均的な都市労働者と同じくらいの収入を得ることができる。農村から出てきて、外売騎手をして、恋愛をし、結婚をし、家庭を作る。このような農村出身者たちは「新青年」と呼ばれるようになっていた。

しかし、外売騎手が増えたことで、賃金が大きく下落している。ギグワークの賃金は、需要と供給の関係で変動をする。基本賃金は低めに設定されているが、騎手が不足するときや昼、夜のピーク時には、報奨金が支給される。この報奨金を得ることで、平均的な都市労働者並みの収入が得られていた。

ところが、現在は、外売騎手の人数が増え、人手余りの状態になっている。このような報奨金が支給されず、外売騎手全体の収入が下落しているのだ。

 

騎手急増により、全員の賃金が平均以下に

都市部での外売騎手は、以前は1件の配達で7元程度の賃金が得られていた。それが現在は平均で4元程度まで下落している。

昼のピーク時には大体30件の配達をし、120元の賃金を得る。夜は昼ほどの配達はないため、1日10時間程度働いて、大体300元前後が平均的な賃金になっている。20日間働いて、月6000元。平均的な都市労働者は1万500元程度なので、平均給与に遠く及ばなくなっている。以前は、多くの外売騎手が1万元を超える収入を得ていた。

ギグワークは、人が増えれば増えるほど、賃金が下がっていくという、システム的には合理的であっても、社会的には問題のある矛盾を抱えている。

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▲賃金は低下気味だが、若者は気楽にできる仕事として、外売機種を選ぶ傾向にある。修練、習熟が必要な製造業が避けられる傾向にある。

 

一方で、技能職は人手不足の危機に

一方で、職場復帰が始まっている大多数の工場では、人手不足が深刻になっている。人が集まらないため、賃金は上がり続けているが、それでもなかなか人が集まらない。ガラス製造の福耀ガラス(フーヤオ)の創業者、曹徳旺氏は、製造業の抱える問題を指摘する。「若者たちが、警備員や外売騎手を選び、製造業を選ばなくなっているというのが、今、製造業が抱えている大きな問題です。しかも、外売騎手の方がお金が稼げるというのであればまだしも、そうでなく、安逸な方向に流されているのです」。

現在、製造業の工場勤務といっても、昔のように誰でもできる仕事というのはなくなっている。そのような単純作業はほぼ自動化されつくし、人間が携わるのは職人芸を要求されるレベルの高い仕事だ。そのため、工場に行っても即戦力になることはあり得ない。研修を受け、学び、経験を経ることで、難易度の高い仕事ができるようになり賃金も上がっていく。

若者はこの地道なプロセスを嫌っているのではないかと曹徳旺氏は言う。外売騎手はこれといったスキルは必要なく、すぐに働くことできる。働く時間も自分で決めることができる。その気楽さが、賃金が下がっても、人が増え続ける現状を生んでいる。

 

ものづくり中国が抱える「将来への不安」

しかし、外売騎手を何年勤めても、何かが自分に身につくわけではない。せいぜい、道に詳しくなるぐらいだ。そして、若者も歳とともに体力は低下をしていく。若い間の一時期、あるいは副業としてやるのであればいいが、一生の仕事にはならない。

同時に、ものづくり中国としては、若い人材が育たないことになる。この問題は、10年後の中国の将来に大きな暗い影を落としていくことになる。

 

アリババの神と呼ばれるエンジニアたち

アリババという企業が成功をした理由は、創業者のジャック・マーの未来を見通す力、その未来を自分で創ってしまう力が何より大きい。しかし、もうひとつの理由として、アリババには優秀なエンジニアが集まっているという要因もある。創業時に入社し、神と呼ばれる蔡景現(ツァイ・ジンシエン)が有名だが、それ以外にも並び表されるエンジニアが各部門にいるとが報じた。

 

アリババ三剣客の一人「蔡景現」

アリババという企業が成功できた最大の要因は、創業者のジャック・マーの未来を見通し、実現する力によるところが大きいが、もうひとつの要因として、優れたエンジニアが集まったということがある。

その中心になっているのが、蔡景現(ツァイ・ジンシエン)、通称「多隆」(デュラン)だ。蔡景現は、ほぼ一人でECサイト「淘宝」(タオバオ)を短期間で書き上げ、アリババのエンジニアから「神」と呼ばれている。

それだけではない。アリババの主要メンバーは、創業に参加した18人=アリババ十八羅漢と呼ばれる人たちだが、アリババが上場する前に株式を分け与えられた三剣客と呼ばれる3人がいる。蔡景現はこの三剣客の一人なのだ。

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▲アリババ三剣客の一人、蔡景現。タオバオのシステムをほぼ一人で書き上げた伝説の人。

 

小覇王がきっかけでプログラミングの世界に

蔡景現は、1976年、浙江省蒼南県魂渓蔡村の農家に生まれた。性格は内向的で、口数は少なく、教師と話をするときに顔を赤くするような恥ずかしがり屋だった。

1991年、15歳で、蒼南高校に進学をした。数学と理科が得意で、国語と英語が苦手。成績はごく一般的なものだった。しかし、歩歩高の前身である小覇王が発売したファミコン互換機に夢中になった。蔡景現が使っていたのは、小覇王のまがいものだったが、Basicプログラミングに夢中になった。

1994年に杭州大学に進学。当時すでにコンピューター科学が人気だったが、蔡景現は生物学を専攻した。それでもコンピューターに夢中で、図書館やコンピューター室、指導教官の部屋でコンピューターばかり触っていた。

2000年に、杭州大学の生物学で修士号を取得、まだ小さな企業だったアリババに入社をした。そして、タオバオのサイトをほぼ1人で書き上げ、ほぼ1人でメンテナンスを行った。

しかし、アリババのスーパーエンジニアは、蔡景現だけではない。ジャック・マーという人の魅力に惹かれて、優秀なエンジニアが続々と集まってきた。これがアリババを成功に導いた要因のひとつになっている。

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タオバオを開発している頃のアリババ。前列中央がジャック・マー、前列右が蔡景現。ジャック・マーは竹刀をいつも持ち歩き、エンジニアや社員に檄を飛ばしていたという。

 

アリクラウド、セキュリティ主席研究員、呉翰清(ウー・ハンチン)

呉翰清は医師と教師の家庭に生まれ、小さい頃から成績は優れていた。15歳で、西安交通大学の少年班に合格するほどだった。西安交通大学に正式に入学すると、コンピューター室が自由に使えることから夢中になり、呉翰清は西安では有名なハッカーとなった。

若さゆえ、法に触れる行為もしている。テンセントのQQのシスステムに侵入し、数日間、システムの中をたっぷりと散歩をした。飽きてしまうと、テンセントに電話をして、セキュリティホールが存在すると詳しく説明をした。テンセントのエンジニアが調べてみると、まさにその通りで、しかも侵入されて自由にシステム内部を歩き回られている。テンセントは当時、通報をして、警察の捜査が行われたが、誰が侵入したのかまったくわからなかった。

2005年、20歳になった呉翰清は、アリババの入社面接を受けた。しかし、年齢が若く、まだ大学も卒業をしていない、業務経験もないということから、アリババ人事部の回答は「大学を卒業したらまたいらっしゃい」というものだった。

不満に感じた呉翰清は、PCからアリババのルーターに侵入し、停止をさせてしまった。わずか3分間で、アリババ全体がパニックとなった。それでも、面接官は、面接にきた学生とアリババのトラブルを結びつけて考えることができずにいたという。

ジャック・マーがこの騒ぎを聞きつけてやってきて、呉翰清を年棒500万元で採用すると言い出した。これで呉翰清のアリババ入社が決まった。

入社した呉翰清は、セキュリティエンジニアとなり、B2Bタオバオ、アリペイなどのセキュリティシステムを設計開発した。23歳で、アリババの最年少のシニア研究員となり、その当時、史上最大と言われたアリババに対するDDoS攻撃を防御する先頭に立ち、アリババの業務にまったく影響を与えなかった。

30歳の時はセキュリティチームを率い、毎日、中国のネットに対する攻撃の37%、1日16億回の攻撃を呉翰清のチームが防御していた。

呉翰清は、MITテクノロジーレビュー誌が選ぶイノベーター35(35歳未満のイノベーター)にも選出され、中国三大ハッカーの1人とも言われている。ジャック・マーの言葉によると「僕を安眠させてくれる人。アリババの数千億元の収入を守ってくれている」という。

現在は、アリババの人工知能「シティブレイン」の開発に携わっている。

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▲セキュリティエンジニアの呉翰清。ご多分に漏れず、アリババ入社前はハッカーだった。アリババのシステムにも侵入したことがあり、ジャック・マーはそれを見て採用をした。

 

アリババ、通信主席サイエンティスト、謝崇進(シエ・チョンジン)

謝崇進は1999年に、北京郵電大学で博士号を取得している。その後、スウェーデンのチャルマース工科大学で研究を続けた。2001年5月に、当時ルーセントテクノジーズの所属だったベル研究所(現ノキア傘下)に移り、光ファイバー通信システムの研究を行った。

謝崇進は、国際学会誌に200以上の学術論文を発表し、50以上の特許を取得している。

輝かしい経歴だが、謝崇進は、面白いことに大学を卒業していない。謝崇進が生まれたのは、安徽省の馬鞍山の農村で、学習環境は決して恵まれていなかった。中学生になって初めて町の書店に行き、本がたくさん並べられていることに驚いたほどだ。

1985年に中学を卒業したが、高校や大学に進学する道を選ばず、山東郵電学校という日本の高専にあたる学校に進学をした。卒業後に就職しやすいということと、卒業をすると農村戸籍から都市戸籍に変更することができたからだった。しかし、この学校でマイクロ波通信の面白さに魅入られてしまった。研究することの楽しさを知ってしまった。

山東郵電学校を卒業すると、大学卒業と同等の卒業資格が与えられることから、謝崇進は北京郵電大学の大学院を受験し、合格をした。それ以来研究者としての道を歩み続けている。

アリババでも通信関係の研究を続けている。

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▲通信システムのサイエンティスト、謝崇進。大学を卒業していない異色のサイエンティスト。

 

アリババ、林昊(リン・ハオ)研究員

2007年にタオバオに入社した林昊は、コンピューター科学ではなく、生物学で学士号を取得している。高校生の頃はコンピューターには触れたこともなかったという。しかし、大学の軍事教練があまりにも退屈なので、ルームメイトと一緒にコンピューター室に隠れていた。これがきっかけで、コンピューターに触れるようになった。初めて、コンピューター室に入った時、ルームメイトが「Windowsを使う、それともDOS?」と尋ねてきて、一体何のことを言っているのかまったくわからずショックを受けたという。それからコンピューターに夢中になっていった。

大学2年生の時に、HTMLに興味を持ち、ウェブ掲示板やフォーラムなどを自作し始めた。

大学卒業後は、深圳のある行政系のソフトウェア開発企業に入社し、その後、アリババに転職をした。

それから10年、林昊はエンジニアのP10と呼ばれる階級に昇進した。P10以上は通称「高P」と呼ばれ、創業者のジャック・マーやダニエル・チャンCEOが出席する会議に出席することができる。

しかし、高Pになった途端、林昊が責任者となったチームが開発をした登録システムがまったく動作せずに、会社に損害を与えるという大失敗をして、P9に降格になってしまった。

しかし、林昊は、手順通りの動作テストをしたのに問題が出たことを重要視し、第三者の目による安全検査が必要であることを訴え、安全生産委員会の設置を提案。そして、この委員会の責任者となり、安全生産委員会の存在意義が評価され、再びP10に昇格した。

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▲安全生産委員会を立ち上げた林昊。現在でもプロダクトの品質管理チームを率いている。

 

アリババ、張瑞(ジャン・ルイ)研究員

張瑞は2005年にアリババに入社した。当時、アリババはタオバオが急成長をしている頃で、大量のデータベースエンジニアを必要としていた。張瑞はそれに応じて、アリババに入社した。

張瑞は、かつてオラクルエースでもあった。データベース関連ソフトウェアを開発しているオラクルが、能力の高いエンジニアに与える称号のようなものだ。しかし、張瑞は2009年に「脱IOE」戦略を提案する。IOEとはIBMOracle+EMC

の3つのことだ。つまり、自社サーバーを運営するのではなく、クラウドサービスに移行するというものだ。

張瑞がこのような考え方に至ったのは、独身の日セールのデータベース責任者になったことが大きい。毎年、取引額が異常な成長をする独身の日セールで、当初はIBMミニコンピューターとオラクル+EMCのデータベースを利用していたが、限界がくるのは明らかだった。

そこでクラウドサービスを利用し、データベースをMySQLに変更することを提案した。独身の日セールでは、わずか1日にで膨大な流量が生まれるが、その他の日はそこまでの流量は生まれない。そこで、独身の日のピークに合わせたクラウドを設置し、独身の日以外の日は、クラウドサービスを提供するビジネスを行うことも併せて提案した。ここからアリクラウドが生まれてくる。

2013年5月17日、アリババ、アリペイ部門で稼働していた最後のIBMニコンピュターが停止された。2009年に提案された「脱IOE」戦略は4年で達成された。

張瑞は、自分が持っていた高いスキルを自己否定するような戦略を提案して、それをやり抜いた。

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▲オラクルエースだった張瑞。アリババに転職後、クラウドサービスへの移行を提案する。それはオラクル製品の使用もやめるという自己否定の提案だった。この「脱IOE」戦略を成功させた。

 

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▲2013年に、最後のIBMコンピューターが撤去されたことを祝うチーム。脱IOE戦略は4年がかりで完成した。

 

アリババ、庄卓然(ジュアン・ジュオラン)

2009年にアリババに入社し、2013年から独身の日の技術責任者を務めている。8月以降、11月11日のその日まで、10時に出社して、翌日の午前3時に寝るという生活が連続をする。毎年2000件以上ものシステムの問題が噴出をし、それを2週間で解決をし、テストをしていかなければならない。ストレスがどうしようもなくなると、午前3時から車を運転して杭州市の龍神山に行き、明け方の空気を吸い、午前5時に戻って寝るということもあるそうだ。

庄卓然が最初に参加した独身の日セールは、2011年の第3回だった。その前の2回で、多くの販売業者が、セールの前に値上げをして、セール当時に値引きをして、値引き幅を大きく見せるということを行ったため、事前にセール中の価格と値引き幅を定める方式に変えた。このために50もの新しいプログラムを開発しなければならなかった。

11月10日、セール前日の午前11時、あと1時間でセールが始まるという時に、テストをしてみると、一部の販売業者で「5割の価格」が「0.5割の価格」で表示されてしまう問題が発覚をした。

この問題が修正できたのは、セールが始まってしまった11日午前0時10分だった。しかし、たった1行のプログラムミスにより、一部の販売業者に、注文した商品のサイズやカラーの情報が送られていない問題が発覚をした。庄卓然ともう一人のエンジニアである蔡勇(ツァイ・ヨン)の2人は、華星時代広場24階の会議室で、このデバッグを行っていた。

バグを修正し、送信されていなかった商品情報を復元して送信できたことを確認し、作業が終わったのは午前6時だった。庄卓然は72時間、一睡もしていなかった。しかし、仮眠を取ろうとしても目が冴えてまったく眠れなかったという。

この年の独身の日セールの売上は52億元となり、その前の年の約4倍となった。

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▲独身の日を担当している庄卓然(右端)。左から2人目が当時のタオバオ総裁、現アリババCEOのダニエル・チャン。


独身の日セールで鍛えられるエンジニアたち

アリババの2019年の独身の日セールは、売上が27億元、発送した荷物が12.92個となった。この注文がわずか1日に間に入り、すべて決済をしなければならない。これはエンジニアから見れば、トランザクションの規模ではなく、サイバー攻撃の規模だ。

アリババのエンジニアが優秀な理由は、核になるリードエンジニアがそろっている。ジャック・マーがエンジニアをどんどん採用する、毎年の独身の日セールで鍛えられるといういくつもの要因が重なっている。

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ファーウェイはなぜ豪華な自社ビルを建てないのか?

テック企業が成功をすると、まずやることが豪華な自社ビルの建設だ。ランドマークとなるような高層建築、あるいはユニークなデザインにして、存在感を知らしめる。しかし、ファーウェイは広大な敷地の基地は作るものの、豪華なビルは建設しない。2つの基地以外の都市のオフィスはいずれも賃貸物件だ。それには創業者、任正非の考え方があると商界績効管理が報じた。

 

売上はアリババの2倍以上

米中貿易摩擦の標的にされているファーウェイ。しかし、ビジネスは好調だ。2019年の売上は8588億元(約12.9兆円)となり、前年から19.1%増加した。ファーウェイは戦略的に上場をしないので企業価値が算出できないため、中国のテックジャイアントを表すBAT(百度、アリババ、テンセント)に含められることは少ないが、アリババの2019年の売上が50.5%増の3786億元であることを考えると、ファーウェイがいかに巨大企業であるかがわかる。売上ではアリババの2倍以上あるのだ。

 

自社ビルを持とうとしないファーウェイ

中国の成功したテック企業がまずやることは「大厦」(ダーシャ)と呼ばれる自社ビルを建設すること。その多くは高層建築であったり、著名な建築家に依頼をしたユニークなデザインなものであったりして、その土地のランドマークとなるような建物を建て、そこに企業のロゴを高々と掲げることが成功の証になっている。本部だけでなく、各都市にもランドマークとなる建物を置いていくというのが一般的だ。

しかし、ファーウェイはなぜか「ファーウェイ大厦」と呼ばれる建物がない。本部は深圳市の坂田にあり、本部の建物も20階建ほどで、建築デザイン的な面白味もあまりない普通の建物だ。

ファーウェイは、他のテック企業と同じように北京、上海、武漢、長沙、成都昆明などに拠点を持っているが、すべて賃貸物件だ。自社所有の豪華ビルを持たないという点でも、ファーウェイは他のテック企業と一線を画している。

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▲テンセントの本社ビル。ユニークなデザインで、深圳のランドマークとなっている。

 

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▲北京にある百度本社ビル。直線と曲線を融合したデザインになっている。

 

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杭州市にあるアリババ傘下のアリクラウドビル。アリババのビルは、いずれもユニークなデザインになっている。

 

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杭州市のアリババビル。ユニークなデザインで、杭州市の観光名所にもなっている。

 

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▲ファーウェイ坂田基地の本部ビル。大きな建築物はこの本部ビルぐらい。

 

東京ディズニーランド3個分の坂田基地

ただし、ファーウェイがケチだとか、節約好きというわけではない。深圳市坂田の本部は、敷地が1.2平方キロもある広大なものだ。東京ディズニーランド3個分に相当する。この敷地に本社の他、研究センター、研修センター、百草園と呼ばれる単身者向けの住宅などが点在している。そのため、「坂田基地」と呼ばれている。

この坂田基地は、深圳市の中心部からはかなり離れている。この坂田基地の建設が始まったのは1996年のことだが、当時、深圳のテック企業は、中心部の深南大道に高層ビルを建築するというのが常道だった。この当時の坂田基地は、何もない荒れ野だった。そこにファーウェイは2階建ての社屋をいくつか建てたことから坂田基地が始まっている。

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▲ファーウェイの坂田基地全景。本部ビルと円形のホールの他は、大きな建築物はほとんどない。

 

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▲坂田基地内にある社員寮「百草園」。松山湖基地でも社員用マンションの建設を進めている。


ヨーロッパのお城風の松山湖基地

2018年には、深圳市の北側に隣接する東莞市に「松山湖基地」を建設した。こちらも1.3平方キロという広大なもの。ヨーロッパのお城風の建物が並び、移動のための高山列車風鉄道まで走っている。研究施設が多く、社員住宅なども建設されている。

一見、豪奢に見えるが、総工費は100億元程度と見積もられている。ファーウェイの売上を考えれば、大きな額とも言えない。

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▲ヨーロッパのお城風の松山湖基地。研究施設が中心になる。

 

お金はビルではなく、人に使う、製品と研究に使う

このような奥ゆかしさは、すべて創業者の任正非(レン・ジャンフェイ)の思想によるものだ。「一流の大学は、高層ビルがあるかどうかでは決まらない。企業の実力は豪華な本社ビルがあるかどうかでは決まらない。お金は奮闘する者に配分すべきで、製品と研究に使うべきだ。それでこそ、顧客に価値を提供できるようになる。これがファーウェイが追求したいことなのだ」と語っている。

この言葉は建前だけのことではない。実行が伴っている。ファーウェイは中国一報酬が高い企業で有名だ。しかも、創業者である任正非は、ファーウェイの株式を1.4%しか保有していない。その多くは社員持株会が所有をし、ファーウェイの社員は高い給料の他に、自社株を持つことができる。これは「富散人聚」と呼ばれ、利益のほとんどを社員に分配してしまうことで、優秀な人材を集める施策だ。

もし、任正非が強欲で、ファーウェイの株の大半を保有していたとしたら、任正非は比喩ではなく、小さな王国を維持できるほどの大富豪になっていただろう。しかし、それをしていたら、今日のファーウェイは存在しないかもしれない。

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▲坂田基地は、深圳の中心部からはかなり離れている。中心地から見ると、丘を超えた向こう側にあるという感覚だ。

 

莫大な研究投資をするファーウェイ

ファーウェイは研究開発にも莫大な額を費やしている。2019年度の研究開発費は、1317億元(約1.99兆円)で、売上の15.3%となる。ちなみにアップルの2019年度の売上は2601億7400万ドル(約27.8兆円)、研究開発費は162億1700万ドル(約1.73兆円)で、約6.2%となる。

つまり、ファーウェイはアップルの半分以下の売上であるのに、アップル以上の研究開発を使っている。

それだけではない。「情報通信白書平成元年版」(総務省)によると、2017年度の日本の情報通信産業全体の研究費の総額は3.7117兆円になっている。つまり、日本全体でも、ファーウェイ1社の2倍はないのだ。しかも、2007年には4.7兆円あったものが年々減少傾向にある。

儲かったら、それで贅沢をするのではなく、人と知恵にお金を注ぎ込む。それがファーウェイをファーウェイにしている。自社ビルを建設して、自慢をするような行為はファーウェイ的ではないのだ。

 

中国インバウンド客はいつ頃戻ってくるか?

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。
明日、vol. 026が発行になります。

 

今回は、中国人インバウンド旅行客について考えてみたいと思います。
コロナ禍によって、多くの国が海外渡航の制限を行っているため、日本のインバウンド市場も実質0になるという未曾有の事態が起こりました。観光業界は元より、それに関連する飲食、交通、グッズ製造など、幅広い業種に影響が広がっています。
関係者のみなさんが気を揉んでいるのは、中国人インバウンド客が戻るのかどうなのか。戻るとしたら、いつ頃なのか。以前と同じような旅行を楽しむのだろうかということだと思います。

 

初めに、お断りをしておく必要があると思いますが、インバウンド客が戻ってくるかどうかは、誰にもわかりません。日本の観光地が、以前にも増して賑わうこともあり得ますし、ひょっとしたら「もう海外旅行はしない」という時代に突入をする可能性も否定できません。


中国の旅行業界でも、旅行の再開がどうなるかは大きな関心になっていて、さまざまな機関が旅行の意向を尋ねるアンケート調査を行っています。この中でも、中国社会科学院旅行研究センターとテンセント文旅産業研究院が共同で行った「何日更重旅ーー新型肺炎下の旅行需要傾向調査報告」は、1万人以上の人にアンケート調査を行ったという大規模なもので、今回はこの調査結果に基づいて、中国人の旅行需要がどうなるかを考えていきたいと思います。


ただし、このアンケートも「今後1年の旅行に対する意向」を尋ねたもので、その意向がそのまま現実になるかどうかはわかりません。終息後には誰もが旅行に行きたいと思うものですが、実際に行こうと思い立ってみたら、いろいろな問題が頭をよぎりあきらめるということもじゅうぶんあり得るからです。
しかし、現時点での中国人の旅行に対する意向を知ることで、何らかのヒントにはなるはずです。

 

このアンケートによると、中国人の旅行への関心は、コロナ終息によって高まっているようです。
終息直後の段階で、すでに7割以上の人が旅行に行こうと考え、具体的な計画を立てている人も3割以上に登ります。もちろん、これは国内旅行が主体です。

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▲すでに7割以上の人が旅行に行く意向を持っている。具体的な計画をしている人も3割を超えている。

 

次の図は、検索数などから算出した関心度を、新型コロナウイルスと旅行について時系列で調査したものです。2019年年末までは、春節の旅行を予定している人が多かったために、旅行関連情報に強い関心がありました(青い線)。しかし、2020年1月中旬から新型コロナの感染拡大が始まり、関連情報への関心が急速に高まりました(黄色い線)。その後、1月下旬に旅行への関心がピークになるのは、旅行の計画を変更、キャンセルするためのアクセスです。しかし、終息が見えてくると、旅行関連情報へのアクセスが増加をしていきます。これは、春節前の旅行に対する関心よりも強く、しかも持続していることに注意してください。
こういう状況なので、実際に旅行に行くかどうかはともかく、情報アクセスだけを見れば「旅行ブーム」と言ってもいいほどの盛り上がりです。

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▲「新型コロナ感染状況」と「旅行計画」に関する検索数などから算出した関心度の推移。終息後は旅行に対する関心度が高まっている。春節前には旅行の予定を立てるため、旅行への関心が高まるが、それよりも強く、長く持続をしている。


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