中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

北京五輪会場までを結ぶ最高時速350kmの無人運転高速鉄道

2019年12月30日から、北京北駅から張家口市までの高速鉄道173kmが営業運転を始めている。張家口は2022年北京冬季オリンピックのスキー競技場になっている。従来の鉄道では3時間ほどかかっていたが、高鉄により最短47分で到着する。しかも最高時速350kmの高速列車は無人運転を実現していると彭湃新聞が報じた。

 

世界で初めての無人運転高速鉄道

2019年末に京張高鉄が開通をして大きな話題となった。京張高鉄は、北京冬季五輪のスキー競技場までを結ぶ高速鉄道「高鉄」。最高時速350kmで、無人運転をするという中国の鉄道技術を世界にアピールするものでもあった。しかし、すぐに、コロナ禍が起きたため、実際に乗車した人は多くはない。現在、感染拡大が収まるとともに次第に利用する人が増え、再び注目されている。

京張高鉄は、世界初の無人運転高速鉄道となる。運転席には監視員が座り、異常を発見した場合は、手動による緊急停止をすることになっているが、運転操作は発車から停車まですべてが自動で行われる。

現在、30列車による運用だが、そのうち6列車が無人運転に対応をしている。有人列車のチケットは77元から231元で発売されているが、無人運転の列車は90元から270元と少し高く設定されている。また、無人運転の列車は2日以上前の予約が必要になる。

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北京冬季五輪用にデザインされた高鉄列車。世界初の無人運転高速鉄道となった。

 


京张高铁开通了,北京坐无人驾驶高铁去八达岭长城看看,太方便了变化好大大了

▲開通直後に、八達嶺駅を訪れたビデオブロガーのレポート。万里の長城見物が手軽にできるようになった。

 

鉄道ファンに親しまれた京張線

この京張高鉄は、中国の鉄道ファンにとって、格別の思い入れがある。なぜなら、京張線は1909年に開通した路線で、初めて中国人が設計し、建設をした純中国産の鉄道路線だからだ。当時は張家口まで8時間かかっていたという。

しかし、この歴史ある路線は、2022年の北京冬季五輪が決まると、高鉄の建設のため、2016年に廃線となっている。その歴史ある鉄道が復活をしたということから鉄道ファンに注目をされている。

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▲1900年代始めの京張線の工事の様子。中国で初めての純国産鉄道路線として、鉄道ファンには格別の思い入れがある。

 

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▲開通当時の京張線。張家口まで8時間かかったという。現在の高鉄は最短47分で結んでいる。

 

万里の長城へも高鉄で観光

また、京張高鉄は、鉄道ファンでない人にも注目されている。万里の長城の観光スポットとして有名な八達嶺駅が設けられた。今まではバスや車で行くしかなかったが、今後は高鉄で万里の長城見物ができることになる。

発達嶺駅は深度102mの地下駅となり、世界で最も深い地下駅となっている。また、高鉄列車は万里の長城を地下トンネルで抜けて走ることになる。北京北駅から八達嶺駅までは33分で到着する。

北京市では、2022年の北京冬季五輪をきっかけに、京張高鉄もひとつの観光資源としてアピールしていく計画だ。

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▲京張高鉄の路線図。全長173kmに10の駅、2つの支線が設けられ、北京と張家口を結ぶ。

 

プラレール E5系新幹線&E6系新幹線連結セット

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  • 発売日: 2014/08/28
  • メディア: おもちゃ&ホビー
 

 

諸葛孔明の木牛流馬の国、中国で盛んになる四足歩行ロボットの開発

ボストンダイナミクスが開発した四足歩行ロボットSPOTの販売が開始されている。中国では、四足歩行ロボットと言えば、諸葛孔明が開発した木牛流馬が有名だ。ボストンダイナミクスに刺激を受け、中国ではさまざまな研究チームが四足歩行ロボットを開発し、スタートアップ企業も生まれていると兎兎正能量が報じた。

 

ボストンダイナミクスのビッグドッグに刺激された中国

MITからスピンアウトして創業されたボストンダイナミクスが、数々の驚異的なロボットを発表してきたことはよく知られている。その中でも有名なのが2005年に発表された四足歩行のロボット「ビッグドッグ」だ。山岳地帯を踏破する兵士を追尾して、180kgの荷物を積載して、時速5.3kmで歩行することができる。

三国志が好きな人は、このビッグドッグを見て、すぐに諸葛孔明の「木牛流馬」を連想した。もちろん自律的に走行することはできず、手押し車のようなものだと考えられているが、兵糧を運ぶのに使われていたと考えられている。

当然ながら、中国人であればこのタイプのロボットは自分たちが元祖だと考えることだろう。大学、軍事関連企業で一斉にビッグドッグ的な四足歩行ロボットの開発が始まっている。

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諸葛孔明が考案をした木牛流馬。兵糧などの物資輸送に使われたことはわかっているが、その原理や構造などは不明だ。

 

軍事兵器開発企業が開発した木牛流馬

その中でも開発が進んでいるのが、2014年6月に、中国兵器工業集団中国北方車両研究所に、兵器地面無人プラットフォーム研究開発センターが設置され、9月には中国版ビッグドッグを発表している。

自重は130kg、荷物積載量は50kg、最大速度は時速6.0km、後続時間は2時間、登坂能力は30度というものだ。

この他にもさまざまな企業、大学で四足歩行ロボットの研究開発が進められている。

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▲中国版ビッグドッグも、山岳地帯を行軍する際の物資輸送に使われることが想定されている。

 

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▲中国版ビッグドッグの外観は、ボストンダイナミクスのものとよく似ている。

 

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▲中国版ビッグドッグと米国版ビッグドッグの性能比較。中国版がやや劣る。

 

杭州宇樹科技(Unitree)

2017年から四足歩行ロボットLaikagoを発売している。スプートニク2号に乗せられて、地球軌道を周回した最初の動物となった犬「ライカ」の名前に因んでいる。大学や科学博物館、テック企業などに販売されている。半分以上が海外の需要だという。


Laikago: a four leg robot is coming to you」

 

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杭州宇樹科技のLaikago。キャスター付きスーツケースを引っ張るデモが行われている。

 

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▲Laikagoは、荒れた地面も問題なく歩行できる。

 

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▲LaikaGoのバランス試験。

 

杭州雲深処科技(DeepRobotics)

浙江大学の四足歩行ロボット研究開発チームがスピンアウトをして企業。絶影シリーズを販売している。


浙大造四足机器人:摔倒后可自行站立

 

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杭州雲深処科技の絶影には、さまざまなバリエーションが用意されている。新型では、頭部のセンサーが強化された。

 

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杭州雲深処科技の絶影。浙江大学の研究チームが中心になって起業したスタートアップ。

 

南京蔚藍智能科技(WEILAN)

2019年に創業したばかりのスタートアップ。アルファドッグシリーズを販売していて、毎秒3mという高速で走ることができ、蔚藍によると世界最速だという。


Motion Control Highlights of AlphaDog’s Daily Test

 

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▲南京蔚藍智能科技のアルファドッグ。毎秒3mという高速で歩行することができる。

 

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▲アルファドッグもさまざまなバリエーションが用意されている。

 

山東優宝特知能機器人(Yobotics)

山東大学ロボット研究センターなどからのスピンオフ企業。YoboGoを販売している。学生の研究向け需要が多い。

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山東優宝特知能機器人のYoboGo。山東大学の研究チームが中心になって起業したスタートアップ。研究用用途が多い。

 

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▲横から蹴るという試験は、四足歩行ロボットのデモでは定番になっている。

 

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▲バク転をするYoboGo。

 

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▲カートを牽引するYoboGo。

 

大学でも四足歩行ロボットの研究が盛ん

このほか、銀弗科技(INNFOS)、深圳智擎新創科技など、アクチュエーターなどのパーツメーカーも四足歩行ロボットを開発し、発売をしている。

さらに、このようなロボティクス企業を生むインキュベーターともなっている大学でも盛んに四足歩行ロボットの開発研究が行われている。浙江大学知能系統制御研究所ロボット実験室、山東大学ロボット研究センター、北京交通大学、ハルビン工業大学、ハルビン理工大学、上海交通大学、北京理工大学、華中科技大学、国防科技大学などに研究開発チームが存在する。

その多くが、中国北方車両研究所の軍事用を除けば、ロボティクス学習、研究用途で、実用用途は広くないが、ボストンダイナミクスに刺激され、木牛流馬の国である中国では四足歩行ロボットの研究開発が盛んになっている。アトムの国の日本が二足歩行ロボットの開発が盛んになったのと似た状況になっている。

 

コロナ禍で、アウトドアに商機?デカトロンが新小売に対応

コロナ禍により、レジャーの過ごし方が変わるかもしれない。人が密集する観光地を避け、キャンプや登山などのアウトドアに注目が集まっている。この商機を逃さないために、北京のデカトロンは、ウーラマの外売に対応したと戎馬財経科技が報じた。

 

アウトドア用品を30分で配達

北京市のデカトロンが、ウーラマの外売りに対応をした。約200種類の商品を、ウーラマアプリ内のデカトロンページから購入することができ、配送範囲内(約5km圏内)であれば店舗から30分以内に配達してくれる。

コロナ禍により、密集する観光地を避け、キャンプや登山などに注目が集まっているからだ。出かけよと思った前日、あるいはその当日の朝にも、30分でアウトドア用品を自宅に配達してくれる。

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▲ウーラマの騎手が、注文した商品をデカトロン店舗で受け取って、30分以内に配達してくれる。出かける前に注文しても間に合う配達時間だ。

 

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▲北京のデカトロンが、ウーラマと契約して、新小売化をした。店舗と店舗ECの2つのチャンネルで、業績回復をねらっている。

 

新小売化を進める外売企業

美団、ウーラマの二大外売企業は、小売店への対応を急いでいる。外売企業は、ウーバーイーツや出前館と同じように出前代行をしてくれるサービス。しかし、2017年頃から、一般小売店への対応を伸ばし、2019年には飲食品の配達は70%となり、30%は生鮮食料品や一般商品の配達をしている。

ウーラマでは、晨光文具、良品舗子などと契約している他、上海のショッピングモール「大悦城」、中国石油が経営するコンビニ「昆侖好客」などの商品を配達する。

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▲美団外売が即時配送している商品の変化。わずか1年で、飲食品以外の商品が増えている。

 

注目されるアウトドア、自宅でできるインドアアクティビティ

2020年春から、デカトロンが加わった。デカトロンでは軽量アレイ(水を入れるアレイ)、バドミントン用具、ヨガ用具、タコ糸、フリスビーなどが宅配してもらえる。

売店側では、店舗での販売と短時間配送が可能な店舗ECの2つの販売チャンネルを持つ新小売化が可能で、コロナ禍により、アウトドアレジャーや自宅でできるインドアアクティビティに注目が集まっていることから、ウーラマと契約をしたのだと思われる。

中国の小売店は、2002年から2003年にかけて起きたSARSアウトブレイクにより、大きな痛手を受けた。現在と同じように、多くの人が外出と移動を避けるようになったからだ。この時に、ECに対応した店舗としなかった店舗で明暗が分かれた。アリババの「淘宝」(タオバオ)は、この波に乗って成長したECだ。

今回の新型コロナでも、新小売に対応する店舗としない店舗で明暗が分かれることになるかもしれない。

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▲デカトロン店内。中国でも密集を避けることができるキャンプに注目が集まっている。

 

新小売化で業績回復を目指すデカトロン

デカトロンでは、テントなどのアウトドア用品も販売している。コロナ禍により、多くの人が密集をする観光地を避け、車で行けて、他の人と接触する機会の少ないキャンプに関心が集まっている。また、室内で手軽に体を動かすことができるヨガもブームの兆しがある。

このような追い風を受けて、新小売化をすることで、コロナ禍による売上減を回復させようとしている。

 

 

アリババが自動運転シミュレーションを公開。自動運転の実現が加速

アリババの最先端AI研究機関「ダモアカデミー」が、自動運転のシミュレーションテストプラットフォームを公開した。コンピューター内で自動運転の人工知能を学習させることができ、公道走行と組み合わせることで、自動運転の実現が加速する。アリババ はダモアカデミーが技術提供し、傘下の菜鳥で無人カートを実用化することを目指していると榕樹下的学習が報じた。

 

先端技術を開発するダモアカデミー

ダモアカデミーは、人工知能などの最先端技術を研究するアリババの研究機関。新型コロナウイルス感染拡大期には、機械学習により肺のCTスキャン画像から新型コロナであるかどうかを20秒で、96%の精度で判定するシステムを公開して話題になった。

そのダモアカデミーが、自動運転のためのシミュレーションテストプラットフォームを公開した。

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▲アリババダモアカデミーのシミュレーションプラットフォーム。1日で800万kmに相当する走行実験が可能になる。

 

シミュレーションで人工知能を高速学習させる

このプラットフォームは、現実の道路環境をコンピューター内で再現し、なおかつ自動車や歩行者を自由に動かし、さまざまな道路環境を再現できるというもの。雨、雪などの天候条件や照明のよくない状況など、さまざまな環境をわずか30秒で作り出すことができ、自動運転の人工知能はこのプラットフォーム上で学習を進めることができる。

シミュレーション学習のメリットは、人為的にさまざまな道路環境を作り出すこともあるが、最も大きなメリットは、時間を早回しして学習を進めることができることだ。ダモアカデミーのプラットフォームでは、1日で800万kmに相当する走行を学習することができ、これを公道で行おうとすると数十年はかかることになる。

世界で最も自動運転車の公道走行を行っているグーグル傘下のウェイモーでは、2019年には148台の車両を使って、233万kmの公道走行を行っている。走行距離だけを比べれば、ダモアカデミーのプラットフォームは、ウェイモーの3.4年分をわずか1日で学習できることになる。

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▲菜鳥では配送拠点でも人工知能による自動化が行われている。このお掃除ロボットのようなデバイスが、荷物の配送先コードを読み取り、自動で仕分けをしていく。

 

シミュレーションと公道走行を組み合わせて開発

このようなシミュレーションテストプラットフォームは、自動運転を開発している企業はどこも開発をしている。ウェイモーは2017年にCarcraftを開発し、2018年には百度が、2019年にはテンセントがTADSimを開発している。さらに、ファーウェイ、インテルマイクロソフトなども開発を進めている。

自動運転の試験走行は、このようなシミュレーションプラットフォームと公道走行を組み合わせて開発をしていくのが主流になっている。プラットフォームで、現実ではあり得ない状況を学習させ、また計算の時間軸で走行させることで、大量に学習を進める。その結果を公道で実際に走って学習成果を確認する。

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▲グーグル傘下のウェイモーが開発したCarcraft。公道走行と合わせて、自動運転に最も近い位置にいるが、中国の百度なども追い上げてきている。

 

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▲テンセントが開発したTADSim。コンピューター内で自動運転人工知能を高速学習させることができる。

 

アリババは無人カート配送の実現を優先

自動運転をどのような分野に応用するか、各社さまざまな展望を持っているが、アリババの場合は、末端物流の自動化を最も重要視している。アリババの傘下には物流企業の菜鳥網絡科技がある。菜鳥(ツァイニャオ)は、無人配送カート、ドローン配送、無人配送センター、AI電話などの実用化を進めている。この菜鳥に対して、基礎技術を提供しているのがダモアカデミーだ。

菜鳥では、成都市の未来園区、河北省の雄安新区などのテックパーク(技術工業団地)などに無人カート基地を設置し、実際に無人配送を行っている。道路環境が整備されているテックパークなどで、運用走行を始め、次第に一般の街中に拡大をしていく予定だ。

ダモアカデミーのシミュレーションプラットフォームにより、この動きが加速されると見られている。

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成都市未来園区の無人カート基地。菜鳥はすでに無人カートによる配送の実用化に迫りつつある。

 

 

各界著名人が語るジャック・マーの人物像

ジャック・マーの引退は、中国のテック業界にいまだに影響していて、「ジャック・マーロス」的な空気感すらある。ジャック・マーが引退をした2019年9月10日、多くの著名人がメディアにコメントを寄せている。上游新聞は、そのコメントをまとめて掲載した。

 

夢とホラの20年。そのすべてを実現した

2019年9月10日、教師節の日であり、55歳の誕生日であったアリババのジャック・マーは引退をした。あるメディアは「夢とホラの20年。そのすべてを実現した」と評した。ジャック・マーは新しい事業を始める時、普通の人には想像がつかない発想や高い目標を掲げる。そのため、多くの人が「大風呂敷を広げている。ホラを吹いている」と感じるが、数年以内にそのホラを実現してしまう。畏敬の念を込めて「ホラ吹き」と呼ばれている。

ジャック・マーの周囲の人は、ジャック・マーという人物をどう見ていたのだろうか。

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▲ジャック・マーがアリババを去る瞬間。中国のインターネット史にとって、大きな節目となっている。

 

テンセント、馬化騰(ポニー・マー)CEO

同業者のことを論評はしません。なぜなら、ジャック・マーと私は個人的にはとても仲がいいからです。競争をしたこともあれば、提携をしたこともありました。一緒に投資をした企業も5、6社あると思います。競争し、提携するというのは当たり前のことで、大袈裟に語るべきではありません。二人とも20年も苦労をしながら、小さな会社の時から競争をして大きくなってきたのです。ECでは、アリババは海外の強敵を打ち破り、市場を獲得してきました。私たちは互いに尊敬をする間柄です。

 

京東、劉強東(リウ・チャンドン)CEO

ジャック・マーは特別な人です。いつでも、問題を、現状に対処するという低い視点ではなく、一段高いレベルから見ていたと思います。話はうまく、人を惹きつける内容で、常に最高の到達点を示し、人類とか国家とか社会といった視点から語るのです。

私たちはアリババと競争せざるを得ませんでしたが、京東とアリババが目指しているものはまったく違っていました。もしアリババと100年間競争ができれば、私たちは100年間生き続けることができるでしょう。

 

アリババ、彭蕾(ポン・レイ)副総裁

ジャック・マーには腹が立つこともありますし、びっくりさせられることもあります。でも、私は最初に出会った頃の尊敬の念をずっと持ち続けることができました。彼も人間ですから欠点もあります。でも、大局観、知性、判断力、人間的な魅力にはやっぱり惹かれてしまうのです。心からそう思います。

 

アリババ、張勇(ジャン・ヨン)CEO

ジャック・マーは遥に遠くまで見通せる人だと思います。遠い未来のことまで考えながら、同時に周囲に気を使える人なのです。

私たち二人は長い間肩を並べて仕事をしてきて、互いに補い合える関係だったと思います。ジャック・マーからさまざまな新しい事業を起こす発想法を学びました。彼の言葉の中には、たくさんのチャンスがあり、深く考えるに値することがたくさんありました。私たちは友人のように互いの考え方を話し合ってきました。それはビジネスに関することもあり、まったくビジネスとは関係のないこともありました。

 

アリババ、衛哲(ウェイ・ジャー)前CEO

中国はジャック・マーという人を惜しむべきです。ジャック・マーが始めたECというビジネスは社会の多くのことを変えていきました。ジャック・マーは時代が生み出した英雄という見方に私も賛成しますが、その英雄が時代に与えた大きな影響を忘れてはいけません。

 

360、周鴻禕(ジョウ・ホンイ)CEO

経営者が社員を厳しく管理するというのは、私に言わせれば、経営者に管理能力が欠如していることの証明です。技術やプロダクトに対する理解という点では、私はジャック・マーを上回っていると思います。しかし、リーダーシップや人間的な魅力という点では、私はジャック・マーに遠く及びません。だから、ジャック・マーは大きな事業を率いていくことができるのです。

 

新浪、曹国偉(ツァオ・グオウェイ)CEO

彼にはいくつも素晴らしい点がありますが、いちばん優れているのは、問題の核心を素早く理解することです。そうして、構造を理解し、鍵になる点をつかみます。周りからは、彼の眼がよく、遠くまで見通せるように感じます。これが彼が成功できた理由だと思います。友人としても、そこが最も尊敬できる点です。

 

捜狐、張朝陽(ジャン・チャオヤン)CEO

2008年ごろ、私の捜狐は事業が好調でした。しかし、本当は大きな問題を抱えていたのです。プロダクトや技術を軽視する傾向が生まれ、私自身も仕事に気持ちが入らない時期でした。それでも、私は成功した経営者という名声に浮かれていました。

あるとき、カラオケバーで遊んでいる時に、ジャック・マーが北京にきているということを知って、気軽に呼び出したのです。ジャック・マーは夜の12時すぎになってようやく顔を出し、30分ほど楽しく遊んで帰りました。後から、彼はあの時、猛烈に忙しくて、普通ならそんな時間など取れないほど多忙だったと知りました。それでも暇そうな顔をして私と遊んでくれる。それがジャック・マーです。

 

58同城、姚勁波(ヤオ・ジンボー)CEO

私が最も崇拝する企業家がジャック・マーです。なぜなら私もジャック・マーと同じビジネスをしているからです。ジャック・マーは中小のメーカーをインターネットを使って事業が成立するようにしました。私たち58同城は、規模が小さい企業と人材をインターネットでマッチングさせることで、事業が成立するようにしているからです。

 

蘇寧、張近東(ジャン・ジンドン)董事

ジャック・マーはネットビジネスの英雄で、風が吹くのを待つのではなく、自分で風を起こしていきました。私もジャック・マーに共感します。夢を描いて、着実に実行し、最後には風を起こす人になる。私もそうでありたい。

 

小米、雷軍(レイ・ジュン)CEO

ジャック・マーは、ネット第1世代の企業家の中で最も成功した人です。アリババがニューヨーク証券市場に上場をした日、中国の経営者は全員が、夜通しその中継を見ていたと思います。中国人の一人として誇りに思いました。ジャック・マーは、中国人が米国でIPOを果たすという奇跡を起こしたのです。

 

レノボ、揚元慶(ヤン・ユエンチン)CEO

理想を語り、未来を語り、それだけで人々の情熱を引き出すことができるでしょうか。自分が熱狂していないのに、人々を熱狂させることができるでしょうか。ジャック・マーは、熱い情熱を抱き、人々を熱狂させてきました。この点で、私はジャック・マーという人を尊敬しています。いつも遠大な志を持ち、具体的な未来を描き出します。これが人々の情熱を引き出すのです。

 

滴滴出行、程維(チャン・ウェイ)CEO

ジャック・マーは中国の企業家の中でも傑出した存在です。これは、彼の視野の広さと遠さに由来し、その視野は英語力と関係があります。ジャック・マーの話で最も印象に残っているのが、英語は言語ではなく、僕の視界なのだという言葉です。ジャック・マーは中国でも早い時期に英語を学び、それ以降、世界中の企業家と交流してきたのです。

 

当当網創業者、李国慶(リ・グオチン)

ジャック・マーは友だちとして最高の人間です。なぜなら友人を騙したりしないからです。彼は20年間、友人からお金を騙し取るようなビジネスをしていません。それがビジネス上の成功をもたらしたのだと思います。

 

レノボ創業者、柳伝志(リウ・チュアンジー

私はジャック・マーより20歳ほど年上ですが、彼のことを尊敬しています。彼は一流の企業戦略家で、彼が口にしたことを実現する様を自分の目で見てきました。そのたびに、彼は何に基づいて未来を見通しているのか、どうやって実現しているのかを真剣に研究したものです。

 

分衆伝媒、江南春(ジャン・ナンチュン)主席

ジャック・マーは体は弱かったですが、精神はものすごく強かった。なぜアリババを成功させることができたか、これは重要な問題です。私は、ジャック・マーは事業よりも人を見ていることが成功の要因ではないかと思います。

ジャック・マーの最大の長所は、未来を見通せることで、今、ジャック・マーが話していることは、常に10年後のことなのです。ジャック・マーの話すことは、多くの人にとって常識外のことですが、彼は地道に前に進んで、それを常識にしてしまうのです。

 

新希望集団、劉永好(リウ・ヨンハオ)董事

ジャック・マーは常に学び、どこにでも行って、あらゆる物を見て、あらゆる人と交流します。自分の事業に役立つことを発見して、それを実行します。理解が不足をしていれば、また理解をするためにどこにでも行きます。これが彼の知識を作っているのです。

ジャック・マーは世界最大級のECを構築することに成功しましたが、この知識の積み重ねと、改革を恐れない彼の性格があったからこそだと思います。

 

巨人網絡、史玉柱(シー・ユージュー)董事

ジャック・マーと面識を得るまでは、彼のことをホラ吹きだと思っていました。でも、知り合ってみると、ジャック・マーは自分のホラをすべて実現する人だということがわかりました。ホラを実現して、ホラではなくしてしまう人なのです。

 

セコイアキャピタル共同創業者、沈南鵬(シェン・ナンパン)

ジャック・マーはとても聡明な人ですが、彼の聡明さは学校の成績のよさや仕事ができる聡明さとは違うものです。自分の中に秘められた能力を発現するには、情熱と知識を結合する必要があります。さらに、適切な時期に、適切な事業を行い、適切な方向に進んでいかなければなりません。

アリババは最も価値のあるネット企業ですが、それはジャック・マーという人が創業したからに他なりません。ジャック・マーは将来を見通す力、大胆な想像力を持ち、妙手を打つことができる人です。そして、粘り強く考え続けます。多くの人は、自分のことを評価していませんが、ジャック・マーは自分のことを評価し、信じていました。

 

万通、馮侖(フォン・ルン)董事

ジャック・マーという人は、飾ることなく、道理を語る人です。その道理は彼の心から出ているものです。とても誠実で率直な人です。自分が確かだと思うことを語り、それは時には不快に感じることもありますが、こちらを気遣う気持ちから出ていることがわかります。耳に痛い忠告をしてくれる得難い友人です。

 

銀泰集団創業者、沈国軍(シェン・グオジュン)

ジャック・マーはいつまでも青年の心を持っています。それはアリババの企業文化を見ればわかります。彼は、この20年になる企業を、常に1年目の気持ちにすることができる人です。チームの結束は強く、上から下まで目標が明確になっていて、常に戦闘態勢であり続けています。

 

新東方、敏洪(ユ・ミンホン)董事

ジャック・マーは大きな事業を始める時に、性格上、世の中を騒がすことが大好きなのです。私のように小さくまとめて安定させるという考え方とは大きく違っています。

ジャック・マーは、米国でインターネットを初めて見た時、チャイナページという事業を発想し、ECを発想しました。この2つで、中国の中小メーカーの製品を世界中に届けようと考えたのです。この世にできなことはない。その言葉に従って、ジャック・マーは大きな企業家になりました。私のような小さな企業家とは気迫が違うのです。

 

華誼兄弟創業者、王中軍(ワン・ジョンジュン)

ジャック・マーは事業以外に興味のない人だと思います。例えば、美術品のオークションで気に入った絵を買ったら、私なら家に帰ってすぐに壁に飾ります。でも、ジャック・マーは、たぶん一年経っても、包装したままだと思います。

 

胡潤百富、胡潤(フー・ルン)董事

ジャック・マーは、独身の日のイベントに積極的に登場します。こういうことをする富豪は彼ぐらいです。しかし、ジャック・マーは富豪になりたくて努力をしてきたのではありません。確かに彼は事業でたくさんのお金を稼ぎましたが、公益的な寄付も大胆に行っています。アリババという企業も、多くの慈善活動を行っています。100年後に、ジャック・マーを振り返った時、彼は社会の中で与えられた責任を果たしたと評価されると思います。

 

娃哈哈、宗慶后(ゾン・チンホウ)董事

人民代表としてアリババを視察したことがあります。ジャック・マーはその時、私たち実体経済を乗り越えるという話ばかりをしていました。私は、誰かを倒せば、必ずあなたも誰かに倒されると忠告をしました。でも、私とジャック・マーの間に衝突はありません。彼はネット経済で努力をし、私は実体経済で努力をし、それぞれがそれぞれの道を歩めばいいのです。私たちの販促活動にも協力的で、実際に小売店の売上を伸ばしてくれたこともあります。

 

SOHO中国共同創業者、潘石屹(パン・シーイー)

ジャック・マーは今では神格化されすぎているのではないでしょうか。私はジャック・マーと付き合いが長く、彼が著した「私の価値観」を読んでも、とても率直で、技巧を凝らすことがなく、自分の思ったことを素直に表現しています。ジャック・マーはそういう人です。

 

ソフトバンク孫正義会長

私たちは素晴らしいパートナーで、素晴らしい友人です。ジャック・マーはずっとアリババを率いてきて、重要な働きをしてきました。意見を言う必要がある時は、果敢に意見を言います。ジャック・マーの人間性により、若い人たちが成長し、次第に彼は理論面の問題を考えることができるようになっています。

 

投資家、ウォーレン・バフェット

7、8年前、私はジャック・マーと面識を持ち、一緒に食事をしました。彼は素晴らしいビジネスマンです。しかし、私はアリババに出資するかどうかは大いに迷いました。なぜなら、ジャック・マーの経営手法は、常識外れのものだったからです。

 

マイクロソフト創業者、ビル・ゲイツ

ジャック・マーは事前活動を始めて、多くの新しいことを学んだと思います。また、中国の事前活動についても深く理解をしたと思います。彼がアリババを成功に導いた考え方を、慈善活動に応用してくれることを期待しています。

 

ジャック・マー アリババの経営哲学

ジャック・マー アリババの経営哲学

  • 作者:張燕
  • 発売日: 2014/12/25
  • メディア: Kindle
 

 

ポイント還元をむしゃぶりつくす羊毛党とその産業構造

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。
明日、vol. 025が発行になります。

 

羊毛党という言葉をご存知でしょうか。
多くのネットサービスでは、クーポンや還元ポイントを配布しています。額としては大きくないものの、「得をしたい」という人間の心理をついたうまい販売促進策です。ただの割引よりも効果があり、しかも次回も利用してもらうことができるということから、多くのネットサービスで取り入れらています。ポイントを集めて、賢く買い物をすることにハマっている方も多いのではないでしょうか。
このように、ポイントをうまく集める人のことが羊毛党と呼ばれます(名前の由来については後ほど)。

 

これは何も悪いことではないのですが、これを組織的に行う集団が存在します。職業として羊毛党行為を行う人たちです。職業羊毛党などと呼ばれることもあります。
最も多いのは、ネットサービスが大規模なポイント還元を行うと、不正なアカウントを大量に用意して、ポイントをかき集めるという行為です。組織的に行うので、金額もバカになりません。また、ネットサービスのバグやセキュリティホールをついて、大量にポイントや換金性の高い電子クーポンを取得して、転売をするということも行われます。


一般の消費者がポイントを貯める行為は何の問題もありません。むしろ、それでネットサービスの利用が高まりますし、提供側はそれをねらってポイント還元策を行っているわけです。
しかし、職業羊毛党の問題は、不正な手段によって大掛かりにポイントをむしりとり、サービス提供企業に大きな損害を与えていることなのです。利益になることから、ブラック産業としてのサプライチェーンまででき上がっていて、SNSで連絡を取りながらシステム化されています。


セキュリティ企業「深セン永安在線科技」が運営するセキュリティチーム「威脅猟人」の推計によると、平均的な職業羊毛党は、3人でチームを組み、1万件以上の電話番号やアカウントを保有し、年間に100万元(約1500万円)の利益を上げていると言います。中国ではまずまずの収入で、中には、テック企業に勤めるよりも高い収入をあげている職業羊毛党もたくさんいると見られています。

 

2018年のクリスマスに、中国スターバックスは専用アプリをリリースしました。同時に、アカウント登録をしてくれた方にはコーヒー1杯が無料になるクーポンを配布しました。しかし、このキャンペーンは1日半の後、急遽中止になります。なぜなら、登録されたアカウントの90%が実在しないデタラメの情報だったからです。これにより、スターバックスの損失は1000万元(約1億5000万円)以上だと言われています。しかも、アプリリリースキャンペーンを中止したのですから、トータルの損失がどのくらいになるのか誰もわかりません。


2019年1月にはソーシャルEC「ピンドードー」が被害を受けます。会員に向けて、1人1枚限定で100元(約1500円)相当のクーポン券を配布しました。しかし、これがシステムのバグにより、何枚でも取り放題になっていたのです。職業羊毛党だけでなく、一般消費者も参加して、ネットはお祭り状態になりました。
その日のうちに、ピンドードーの運営が気がつき、クーポンの配布を急遽中止し、同時にクーポンの無効を宣言しました。しかし、遅かったのです。職業羊毛党たちは、手に入れた大量のクーポンを使って、携帯電話料金のプリペイドカードなど換金性の高い商品を既に購入済みでした。被害総額は数千万元(数億円)だったと言われています。

 

このような羊毛党の被害は、中国だけでなく、日本にも影響している可能性があります。2019年7月にセブンイレブンの決済システム「7pay」の不正アクセス事件が起こりました。犯行集団は、不正にチャージした7payで、すぐにセブンイレブンで換金性の高いタバコなどを大量購入しています。この購入をした「買い子」の中に中国人留学生がいて、「アルバイト感覚だった。SNSで面識のない人から依頼された」と証言しています。確証はありませんが、背後に中国の職業羊毛党集団がいると見た方がいいでしょう。


今回は、このような羊毛党の産業構造がどうなっているか、ネットサービス提供側はどのような対策をしているかをご紹介します。


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再始動を始めた滴滴出行。滴滴の8年間の戦い(下)

中国のタクシー配車、ライドシェア大手の滴滴出行。中国最大のユニコーン企業と呼ばれ、わずか4年で大きく成長をし、ウーバー中国をも買収したが、2018年に運転手が乗客の女性を殺害するという問題を起こし、滴滴の成長は完全停止をしていた。今年2020年になって、程維CEOは新たな中期計画を発表し、滴滴出行が再始動をしようとしていると捜狐汽車E電園が報じた。

 

ウーバー上陸に備え、ライドシェアサービスを始める

2013年、嘀嘀打車と快的打車は、上海の市場をどちらが取るかで凌ぎを削っていた。両社は大量のクーポンをばらまき、赤字覚悟の消耗戦を展開していた。

この消耗戦が、一瞬で止まった。米国のウーバーが上海でサービスを提供すると発表をしたからだ。ウーバーはライドシェアという新しいスタイルのタクシーサービスだった。自動車の所有者であれば誰でも運転手登録ができ、自分の車に客を乗せることができる。本質的には、自分が自分の車で移動をするときに、ついでに同じ方向に行きたい人を乗せるシェアリングサービスだったが、実質的には行政の管理を受けない白タクサービスであることは明らかだった。

嘀嘀打車も快的打車も、強い危機感を持った。ウーバーのサービスは、クーポンを使ったタクシーサービスよりも安く利用することができる。ウーバーが本格上陸をしたら、中国のタクシーサービスは駆逐されてしまう危機感すらあった。

嘀嘀打車も快的打車も、資金を優待クーポンに使うのではなく、ウーバーと同じライドシェアサービスを構築することに使うようになった。

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▲一人の乗客に対して、複数の空車がいる場合、乗客全員の待ち時間の合計が最小化されるように、配車される車が決まっていく。

 

嘀嘀打車だけではウーバーに対抗できない

程維は、快的打車とのシェア争いも行いながら、ウーバーとも戦わなければならなくなる。そのためには資金がさらに必要になる。そこで、国際的な投資会社であるテマセク、DSTグローバルなどから7億ドル(約750億円)の投資を受けた。

しかし、DSTは投資をする際、さまざまな条件をつけてきた。ウーバーは中国すべての都市でライドシェアを展開しようとしている。嘀嘀打車も快的打車も対抗することはできないだろうというのだ。嘀嘀打車が生き残る唯一の道は、快的打車と合併をしてライドシェアサービスを立ち上げることだという。もし、それを可能にしたら、DSTはさらに10億ドルを追加投資する用意があるというのだ。

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滴滴出行では都市を小さなセルに分けて、需要と供給のギャップを常に計算している。供給過多のセルにいる運転手には、隣の供給が少ないセルへ移動する指令が出される。このような仕組みで、効率よく乗客を乗せることができるようになっている。

 

合併の女神、柳青登場

程維は頭を抱えた。快的打車とは激しい競争をしてきて、仁義なき戦いの様相を呈し、互いの関係はとても良好とは言えなかった。しかも、それぞれの背後にいるのはテンセントとアリババというライバル関係にあるテックジャイアントで、代理戦争とまで言われている。どうやって合併話をもちかければいいのだろうか。

そこに登場したのが、2014年7月に入社したばかりの女性社員、柳青(リウ・チン)だった。柳青は北京大学を卒業後、ハーバード大学の大学院に進み、卒業後は香港のゴールドマンサックスでアナリストをしていたという才媛だった。それ以上に、レノボの創業者、柳伝志(リウ・チュアンジー)の長女だったのだ。誰もが一目置く存在だった。快的打車側も柳青の面会をむげに断ることはできない。

柳青は何度も快的打車側に面会を求め、ウーバーに対抗するためには合併が必要だということを説いた。

この柳青の努力により、2015年2月14日、小桔科技と快的の合併が成立をした。新会社は共同CEOの形を取ることになった。程維と快的の呂伝偉が共同CEOとなり、柳青が総裁に就任をした。新しい会社は、社名を変更して、現在の「滴滴出行」となった。ひとつの企業に、テンセントとアリババの両方が出資をしているという珍しい企業が誕生した。

これにより、ライドシェアの分野でもウーバーと対抗できる力を持つようになった。

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▲合併の女神となった柳青(左)と程維CEO。柳青はレノボ創業者の柳伝志の長女。彼女の働きで、快的との合併が成立し、ウーバーに対抗することができるようになった。

 

資金消耗戦からウーバーは脱落

ウーバーは予告通り、中国に進出をしてきた。そこに新生滴滴は、例によって大量のクーポン戦略で対抗した。

中国政府も当初はライドシェアに対して厳しい規制を設けていた。ライドシェアはビジネスではなく、あくまでも善意に基づくシェアリング活動なので、料金の上限枠を定め、運転手に利益が出ないようにした。つまり、商売として行うのではなく、善意のボランティア活動として行うべきだという考え方だ。こうすることで、既存のタクシー業界を圧迫しないようにした。

しかし、それでは誰もライドシェアの運転手をしようとは思わない。そこで、滴滴もウーバーも、価格設定は政府の規制に従いながらも、大量の奨励金を出すことで、運転手に利益が出る構造にした。

滴滴にしてみれば、これは先行投資であり、いつものことだった。しかし、ウーバー本社では大きな問題になっていた。先行投資であればまだしも、中国政府の価格規制がいつ緩和されるのか予測が立たない。永遠に価格規制が行われるのだとしたら、ウーバーチャイナは永遠に利益を出すことができない。

であるなら、株式交換によって、ウーバーチャイナを滴滴に売却し、滴滴の株式を保有する方がウーバーとしては得なのではないか。そういう議論が生まれ、結局、2016年8月に、ウーバーチャイナは滴滴に売却をされ、ウーバーは中国から撤退をすることになる。

こうして、滴滴は中国市場をほぼ掌中に収めることに成功をした。主要都市でのシェアは90%を超えた。さらに、海外のLyft、Grabなどには投資をし、提携関係を結ぶ。わずか6年で、ここまできたというのはできすぎと言ってもいいほどだ。

2017年末、滴滴出行は創業以来の累積乗車数が74.3億件となり、地球の人口を超えた。

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▲滴滴では、ショッピングモールや空港などの施設で、ARを使ったピックアップ地点までの誘導も行っている。スマホをかざすとどちらに歩いていけばいいかを教えてくれる。ビーコンではなく、施設内部の画像解析で位置を判断している。

 

程維の心の隙に起きた大事件

これは企業としては成功だが、程維にとっては失敗の始まりだったかもしれない。程維は基本的に愛嬌があり、抜けたところも多い典型的な「80后」青年だ。それなのに、目覚ましい成果を挙げられたのは、わかりやすい目標があり、立ち塞がるライバルがいたためだ。このような時、程維は自分でも驚くほどの能力を発揮する。

しかし、中国市場を確保したことで、次の目標が見えなくなってしまった。ライバルもいなくなってしまった。日本とメキシコに進出をしたが、それは滴滴の大目標とは言えない。

その心の隙をつくように、2018年5月5日、滴滴を揺るがす大事件が起きる。明け方、鄭州空港から鄭州駅まで乗車した祥鵬航空の客室乗務員が、滴滴のライドシェアを利用したところ、運転手にレイプをされ、殺害されるという事件が起きた。

被害女性が誰もが認める美人であったこと、車内からSNSを使って友人に助けを求めるメッセージを発信していたこと、犯人が自殺をし、しかも身分を偽って滴滴の運転手をしていたことなどが明らかになって、滴滴は社会から大きな批判を浴びることになった。

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▲客室乗務員はSNSで車内から友人に助けを求めていた。運転手からキスをしたいと言われ怖いと訴え、友人は、夫が空港に迎えにきているフリをしろとアドバイスをしている。そして、夫のフリをして電話までしたが、本人がだいじょうぶだと言うので安心してしまった。痛ましい事件はその直後に起きた。

 

安全対策直後に再び悲惨な事件が起こる

多くの利用者、特に女性は、不安になって滴滴のライドシェアの利用をしなくなった。滴滴側でもしばらく順風車(ライドシェア)のサービスを停止して、安全対策を行うことにした。

しかし、順風車のサービスを再開した途端、再び痛ましい事件が起きてしまった。温州楽清市で保育士の女性が運転手にレイプされ殺されるという事件が発生した。しかも、滴滴が対策したという安全対策がまるで意味がないということが明らかになった事件でもあった。

被害女性が乗車をしていると、車はいく必要のない山道に入り、周りには人影もないことから、被害女性はSNSを使って友人に「怖い」とメッセージを送っていた。そして、5分後「助けて、救助」という途中で途切れたメッセージがきて、連絡が取れなくなった。その友人はすぐに滴滴のカスタマーセンターに連絡をし、その車のナンバーや位置情報を開示して、警察に通報したいと訴えたが、滴滴のカスタマー担当は「運転手の個人情報」という理由で、車両情報を開示しなかった。

友人はすぐに警察に通報し、警察から滴滴に運転手情報の開示を求めたが、やはり滴滴は個人情報を理由に拒否をした。しかも、該当の利用者は乗車前に予約をキャンセルしているため、利用をしていないという回答だった。

事件が起きたのは午後2時15分頃だったが、当日の午後6時すぎに、滴滴はようやく警察に対して該当車両のナンバーを開示した。これにより、警察の捜索が開始され、翌日、犯人が逮捕され、該当車両が発見され、その中から被害女性の遺体も発見された。

 

ライドシェアに起きていた数々の問題

この事件から数々の問題が明らかになった。ひとつは「私人訂単」の問題だ。乗客がライドシェアを予約した時、運転手と乗客は交渉をして、滴滴を通さずに乗せる約束をしてしまうことがある。滴滴に手数料を支払わない分、運転手の取り分は多くなり、乗客は支払額が少なくなる。運転手と乗客の交渉が成立をすれば、滴滴の予約を取り消して、そのまま運転手と直接交渉で価格を決め、乗せてもらう。このようなことが横行をしていたため、滴滴のシステム上把握ができない乗車があった。滴滴側も把握していない乗車なので、緊急対応が取れないのだ。

もうひとつの問題が、カスタマーセンターを外注していたことだった。外注運営であるために与えられている権限に限界があり、カスタマーセンター独自の判断で運転手の個人情報を開示することができなかった。

 

新たな中期計画で再始動を始めた滴滴出行

いずれにしろ、滴滴の信用度は地に落ちた。痛ましい事件を起こし、安全対策をして万全ですと言った瞬間にまた痛ましい事件が起きた。滴滴の言う安全対策が抜け穴だらけのものでもあることも報道された。

それ以来、滴滴出行は低迷を続けている。と言っても、滴滴の需要が減ったわけではない。ライドシェアである順風車(自動車が向かう方向に利用する人をマッチングするライドシェア。価格は安くなる)はサービスを停止しているが、タクシー配車と専用車(滴滴が専属の運転手で提供するサービス)の需要は相変わらず高い。

2020年になって、程維は「0118」というスローガンを社内に伝えた。今後3年間の滴滴の計画を象徴したもので、「安全を怠るとすべては0に帰する」「3年以内に1日1億乗車を達成する」「3年以内に月間利用者数8億人を達成する」というものだ。これを達成すると、国内の移動の8%を滴滴が担うことになる。

この2年、滴滴は苦しみ、ようやく次へのステップを踏み出そうとしている。程維は何を目標に設定しただろうか。誰をライバルと見ているだろうか。いずれ明らかになる時がくるかもしれない。