中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

命をかける出前。電動スクーターの速度は時速120km

中国で増え続けている電動スクーターの死亡事故。料理の出前サービス「外売」の配達員が無謀な運転をすることが原因だが、メーカーも時速20kmの基準を超えるリミッター外しの機能を提供していることも大きな原因だと央視新聞が報じた。

 

外売配達員の交通事故が急増中

中国で電動スクーターによる死傷事故が相次ぎ、社会問題となっている。その最大の理由は、外売サービスの流行だ。

外売とは、スマートフォンから注文できる料理の出前サービス。と言っても、独自の料理ではなく、提携している既存のチェーン料理店、老舗料理店の料理を出前してくれる。外売配達員は、まず指定された料理店に行って料理を受け取り、それから注文者の自宅や指定場所に配送をする。

外売配達員は、1件いくらの報酬なので、数をこなしたい。注文は、昼時と夕食どきに集中する。そのため、交通法規を守らず無謀な運転をしがちだ。これが交通事故の大きな原因となっている。

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▲外売サービスの大手2社。左が「餓了么」(ウーラマ、お腹減ったよね?の意味)、右が「美団外売」(メイトワン)。

 

南寧市では53名が死亡。ほとんどのケースが速度超過

人口700万人の広西チワン族自治区の南寧市では、2017年に電動スクーターの交通違反による交通事故が196件起こり、53名が死亡している。

南寧市交通警察支隊の責任者によると、事故原因となった交通違反のうち、最も多いのはスピード違反であるという。交通法規では、電動スクーターは制限速度時速20km。しかし、ほとんどのケースで、事故を起こした電動スクーターは速度超過をしていた。

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▲交通監視カメラが捉えた電動スクーターの事故。このような映像も毎日のように報道される。

 

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▲南京市で起きた外売配達員と車の交通事故。このような報道は、もう珍しくなくなっている。

 

20kmしか出せない電動スクーターのリミッター外し

しかし、これはおかしなことなのだ。なぜなら、国の製造基準では、電動スクーターは最高でも時速20km以上は出せないように設計しなければならないことになっている。速度超過ができるはずがない。

そこで、央視新聞の記者は、南寧市の中華路にある電動スクーター販売店を取材した。すると、モーターが72ボルト仕様だという「最強電動スクーター」を呼ばれるものが販売されていた。店員によると、時速20kmのリミッターがつけられているが、これは簡単に解除できるのだという。

実際にやってもらうと、わずか10秒でリミッターが解除できた。解除方法は、メーカーが教えてくれるのだという。実際に、タイヤを浮かせて走行させてみると、時速は最高で60kmにもなった。

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▲央視新聞記者が取材したリミッター外し。時速63kmが出ている。

 

時速120kmが出せる電動スクーターも

さらに、他店も調査してみると、最高速度が120kmから130kmにもなるという車種も見つかった。

消費者が少しでも速い電動スクーターを求めるため、メーカーは、形だけのリミッターをつけて最高速度時速20kmに制限し、国の製造基準を守っているが、リミッターの解除方法を販売店に教え、最高速度の競争をやっているようだ。

しかし、ブレーキや車体強度などは、時速20kmに合わせて設計されている。時速120kmも出してブレーキをかけたらどんなことになるか。

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▲悪天候の時は、外売の注文が大量に入り、なおかつ配達員には危険手当がつくので、みな勇んで出勤して、配達件数をこなそうとする。

 

熱々の料理が、時間制限を厳しくしている

全国でも、電動スクーターによる交通事故は、全体の交通事故の20%から50%に上昇、死亡者数も20%から40%に上昇している。記者は、北京や天津でも電動スクーター販売店を調査したが、やはり同じリミッター外しが行われていた。

外売の配達の仕事は、文字通り命がけになってきている。それでも、外売サービスの利用は年々急増している。圧倒的に便利だからだ。

中国では、冷めた料理というのは料理と認めない。誰もが、熱々のできたての料理を食べたいと考えるため、外売サービスが受けている。熱々の料理を運ぶため、配達時刻の制限が厳しい。少しでも遅れれば、利用者がからクレームがついてしまうのだ。

利便性の裏に問題を抱えている外売サービスだが、サービス自体は中規模都市にも波及し、ますます広がっている。

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スマホ決済が解決する病院の長い行列問題

浙江省杭州市の浙江大学医学部付属第一医院が、診療費の支払いでアリペイに対応をした。それも、最初にQRコードを登録することで、自動で支払えるという方式で、支払いに行列をする必要が一切なくなった。従来、2時間40分かかっていた診療が1時間以内で終わるようになったと浙江新聞が報じた。

 

スマホ決済のもうひとつの重要機能「先消費、後支払」

中国で決済手段の主役となったスマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」には、電子マネー機能以外にも、さまざまな機能が歓迎されている。

ひとつは、入れておくだけで4%程度の利息がつくMMF機能。そして、もうひとつが消費者金融機能「花唄」だ。

消費者金融機能といっても、借金が簡単にできるというだけではない。クレジットカードがほとんど普及しなかった中国で、分割払いやリボ払いのような支払い方法ができる機能だ。

このような機能は「先消費、後支払」として、多くの消費者から歓迎されている。先消費、後支払だと、使いすぎを心配する人もいるかもしれないが、ここで社会信用スコア「芝麻信用」が効いてくる。信用スコアの得点(信用度)により、先消費のショッピング枠が決められるので、統計的に使いすぎて破綻することは極めて少ない。スマホ決済側から見れば、焦げ付きの心配なく貸し付けることができる。

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中国の病院はお金が先。支払い行列にならばされる

この芝麻信用は、中国の社会問題ですら解決しつつある。病院だ。中国の病院では、デポジットが必要で、これを支払わないと診療が始まらない。さらに、検査、薬などの前にもまずお金を支払う必要がある。

問題は、支払いのたびに行列にならばされることだ。記事に挙げられる伝統的な病院では、診察時間10分、検査20分、薬の受け取りに10分の計40分の診療のために、2時間行列に並ばなければならない。

これなどまだ時間がかかるだけの話だが、最悪なのは、お金をあまり持っていない時、急に具合が悪くなった場合だ。病院に駆け込んでも、お金が支払えないので、治療をしてもらえない。家族か知り合いに頼んで、お金を持ってきてもらう必要があるのだ。

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▲中国の病院では、支払いに行列をしなければならない。この写真は、特別混雑しているもので、どの病院でもこの状態というわけではない。しかし、日本ではここまでひどい状態といのはまずありえない。

 

支払いはすべて自動。分割払いも可能に

浙江省杭州市の浙江大学医学部付属第一医院では、アリペイと花唄、芝麻信用を組み合わせて、この問題のある方式を変えた。

まず、アリペイアプリの中から、診察の予約ができるようにした。診察待ちの行列の長さもわかるようになっているので、それを参考にくれば、待ち時間なく、診察をしてもらえる。受付は自動受付機で行い、アリペイのQRコードを登録。そして、診察、検査、薬の支払いは、すべてアリペイから自動的に支払われるので、支払いに並ぶ必要がなくなった。

以前であれば、2時間40分かかっていたものが、53分で終わることになる。

また、芝麻信用が650点(普通より少し高い程度)がある場合、自動的に花唄で1000元(約1万7000円)の先消費枠が与えられる。そのため、アリペイの中にお金が入っていない場合でも、1000元以内であれば、医療費を自動支払いすることができる。

この花唄は41日間は無利息で、返済の分割回数も自由に設定できる。

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▲現金支払いとアリペイ支払いの比較。上が現金支払い、下がアリペイ支払い。

 

病院の外に出るだけで、支払いが済んでいる

病院を利用した劉さんは、浙江新聞の取材に応えた。「医療費の支払いがこんな便利になったとは思いませんでした。ネットタクシーを利用した時のよう感じです。車を降りるだけで、料金はアリペイが自動で支払っている。あの感覚ですね」。

浙江大学医学部付属第一病院の王偉林院長は、浙江新聞の取材に応えた。「この方式は患者の病院での時間の60%を節約してくれます。病院のワンストップサービス改革の大きな助けになっています。将来は、顔認証技術も導入したいですね」。

すでにアリペイによる診療費の支払いには、4つの省立病院、13の市立病院、56のコミュニティ保健センター、900近い薬局が対応をしている。

このアリペイ、芝麻信用、花唄を組み合わせた「先消費、後支払」は、単なる消費拡大だけでなく、社会問題をも解決しようとし始めている。

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ウォルマートに続き、カルフールも都心小型店へ

中国カルフールが、郊外大型店という出店戦略を見直し、都心小型店への転換を始めている。その第1号店「ラ・マルシェ」上海天山店がオープンした。レストランが併設され、顔認証決済も備えたスマートスーパーだと上観が報じた。

 

アリババの新小売戦略に揺れる中国の小売

中国のスーパーが揺れている。その発信源は、アリババの新小売戦略だ。新小売とはIT技術を使って、小売、流通、配送、飲食などの業務を効率化し、消費者中心に再配置をすること。その新小売をもっとも体現しているのが「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)だ。

海鮮、生鮮野菜などを中心にしたスーパーだが、本格レストランが併設されている。レストランの料理は、すべてスーパーで販売している食材を使っている。また、半径3km以内の「フーマ区」では、スマートフォンから食材や料理を注文することができ、最短30分で配送してくれる。つまり、「店で買う、食べる」「家で作る、食べる」と4通りの楽しみ方ができるスーパーだ。

現在、北京、上海、杭州などを中心に37店舗を展開し、大規模な出店計画が進んでいる。すでに「フーマ区」内の家賃やマンション価格が上昇しているという話もあり、都市生活者に歓迎されている。

このような業態は、グローサラント(グロッサリーストア+レストラン)と呼ばれ、日本でも成城石井が始めているが、なかなか宅配まで手が回らず、一部の商品を翌日配送するにとどまっている。

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▲アリババが展開するフーマフレッシュ。半径3km以内の地域には、料理と食品を最短30分で配送してくれる。

 


盒馬鮮生實踐「新零售」模式 線上線下無縫連接

▲アリババのフーマフレッシュの紹介映像。オンラインショッピングとオフラインショッピングを融合した例として、海外からも注目されている。

 

カルフールの都心中型店「ラ・マルシェ」

このような新しい小売の潮流に追い詰められているのが、中国では老舗スーパーとなったカルフールやウォルマートだ。中国に321店舗を展開するカルフールの2017年の売り上げは498億元だが、前年比-1.3%と厳しい数字になっている。

カルフールやウォルマートの基本戦略は、郊外大型店だった。1995年にカルフールが中国に上陸した時は、圧倒的な商品量で中国人を驚かせた。マイカーが普及していくとともに、「週末に車でいってまとめ買い」の習慣が根付きはじめた。

しかし、2010年代になって、スマホ革命が進むと、若者を中心に都心で暮らすライフスタイルが広まり、郊外大型店の成長が止まる。

ウォルマートもカルフールも、郊外大型店の出店計画を見直し、都心の中型店、小型店を充実させる戦略転換を始めた。

カルフールは、中国独自の業態として、中型店の「ラ・マルシェ」、小型店の「イージー」の出店計画を進めている。

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カルフール「ラ・マルシェ」の生鮮野菜、果物コーナー。大量の生鮮食料品が並ぶイメージを維持したまま、都心の中規模店として展開している。

 

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▲「ラ・マルシェ」では、食品の加工も行なってくれる。

 

グローサラントQRコード

ラ・マルシェ1号店となった上海の天山店は、面積4000平米と中規模で、商品種類点数も一般のカルフールの半分である2.5万種類となっている。また、輸入品の比率を高めていることも特徴だ。商品の78%は食品だが、輸入食品は食品全体の17%になる。

ラ・マルシェもレストランが併設されたグローサラントとなっている。さらに、海鮮などでは、食品を購入時に加工するサービスも行なっている。

また、無人スーパー的なサービスも導入している。商品を自分でとって、商品のバーコードをスマホでスキャン。そのままスマホ決済で支払うことができる。支払いを済ますと、スマホ内にQRコードが生成され、出口でスタッフにこのQRコードをスキャンしてもらうと、決済が済んでいることが確認でき、そのまま外に出られるという方式だ。カルフールによると、近日中に、出口に改札のような装置を設置し、そこにQRコードをかざすことで外に出られるようにするという。

また、レジは有人だが、決済はWeChatペイで支払うことができ、事前に顔写真を登録しておくことで、顔認証による決済も可能になっている。

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▲レストラン、カフェも併設している。イートインコーナーではなく、ちゃんとした料理が出てくる本格レストラン、本格カフェだ。

 

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▲WeChatを利用したスキャンショッピング。自分で商品のバーコードをスマホでスキャン、WeChatペイで支払い。帰るときは、生成されるQRコードをスキャンしてもらうだけ。

 

スマホ決済による系列化の始まりか?

このラ・マルシェが消費者に受け入れられるかどうかわかるまでは、まだ時間が必要だが、ひとつ多くのネットユーザーから指摘をされているのが、スマホ決済「アリペイ」と「WeChatペイ」の分離問題だ。

アリババが運営する「盒馬鮮生」は会員制スーパーであり、原則「アリペイ」ユーザーでなければ利用ができない。一方、アリババの新小売戦略に対抗しなければならないウォルマートでは一部の店舗でアリペイの対応を停止してWeChatペイに一本化をした。カルフールのラ・マルシェも、顔認証やスキャン購入などの先進サービスはWeChatペイのみなのだ。

現在、多くの消費者が「アリペイ」と「WeChatペイ」の両方を使っているので大きな問題にはなっていないが、似たような財布を2つ持ち歩き、お店によって使い分けしなければならないことであり、利便性はかえって以前よりも低下しかねない。今は大した問題ではないが、これがあらゆる小売業で始まり、「この店はアリペイ」「この店はWeChatペイ」というアリババとテンセントによる小売の系列化が起こったらどうなるのだろうか?という不安の声をコメントしているユーザーもいる。

「アリペイ」と「WeChatペイ」の2つのスマホ決済が激しい競争をしながら普及をし、生活サービスを大きく変えてきた中国で、今度はその競争の弊害が現れ始める時期に差し掛かるのかもしれない。

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物流拠点から人が消える。進む大型トラックの自動運転走行試験

中国各都市で始まっている自動運転車の公道走行実験。その中で、物流企業「蘇寧物流」が、上海市の奉賢物流基地内で、40トントラックの自動運転試験に成功したと、物流商用車が報じた。

 

自動運転はマイカーよりも商用車から

自動運転は、個人用のマイカーよりも商用車の方が普及が早いと見られている。ひとつは事故が起きた場合の被害を考えると、人を乗せる車よりも貨物を乗せる車の方が影響が小さい。もうひとつは、商用車は走行の目的が明快なので、自動運転のハードルが低いのだ。

中国ではすでに、天津港に中国重汽製の大型トラックHOWO T5Gを自動運転車(L4)に改造した車両が投入され、試験運用が始まっている。その他の物流企業も、物流拠点で自動運転車の試験走行を始めていて、物流と自動運転の組み合わせはすでに目新しいものではなくなっているという。

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▲天津港で試験が進む中国重汽製の大型トラック。この試験を皮切りに、多くの商用車メーカーが、路上試験を始めている。

 

閉鎖区域である港などの物流拠点が注目されている

物流拠点は、自動運転に向いている。ひとつは閉鎖区域であり、一般人が入れないため、不測の事態が起こりづらい。また、レーンマークやビーコンなど補助設備も必要であれば整備しやすい。それを見越して、一汽解放、福田汽車などの商用車専門メーカーだけでなく、蔚来汽車、吉利汽車、威馬汽車、長安汽車、広州汽車、上海汽車などのメーカーが、トラックを中心とした商用車の自動運転技術を開発し、そこにBAT(百度、アリババ、テンセント)が投資をするというホットな分野になっていた。

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▲上海・奉賢物流基地で走行した自動運転車。現在は、物流拠点内の自動運転を目指しているが、将来的にはそのまま公道に出ていくことになる。

 


全球首个40吨物流无人重型卡车亮相上海

▲蘇寧物流の走行試験の様子。歩行者を感知して停車する様子が映されている。物流拠点という環境では、歩行者が出てくることは基本的にないので、自動運転が応用しやすい場所だ。

 

空の無人化vs陸の無人

蘇寧物流は、4月から、南京市で、小型無人配送車「臥龍一号」の走行実験を始めている。これは、諸葛亮孔明が発明したと伝えられる無人運搬具「木牛流馬」からの命名だという。

蘇寧物流は、物流拠点の無人運転化、宅配配送の無人運転化から始め、L4(特定の環境下の自動運転)を広げていき、ドライバーの負担を減らしていく計画だ。また、末端配送ドローンの開発も進めている。

同じ物流企業である豊順は、有人貨物飛行機+無人貨物飛行機+ドローンという空の無人化を目指している。陸の無人化と空の無人化のいずれが実現性が高いかは今のところわからないが、いずれにせよ、中国の物流は猛スピードで無人化されていくことだけは確かだ。

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▲南京市で走行実験が進んでいる「臥龍一号」。個人宅、オフィスまでの末端配送を自動運転化することを狙っている。

 

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「芝麻信用」信用スコア750点以上の人ってどんな人?

スマホ決済アプリ「アリペイ」の中には、支払い履歴などから算出した社会信用スコア「芝麻信用」の機能がある。700点以上で優良と言われる芝麻信用で、750点をキープしているブロガー楓中聴風氏は、普通の人でもアリペイを使えば高得点が得られるという文章を公開し、話題になっている。

 

5つの観点で、個人の信用度が評価される芝麻信用

スマホ決済「アリペイ」の中には、社会信用スコア「芝麻信用」の機能がある。これは決済履歴などからその人の信用度をスコア化したもので、何か行動するたびに少しずつ上下する。芝麻とはゴマのことで、ゴマ粒のように積み重なっていく信用スコアという意味だ。

最低は350点、最高は950点で、主に5つの観点で個人の信用度が評価される。

1)身分特質:社会的ステイタスや高級品の消費など

2)履約能力:支払い履行能力

3)信用歴史:クレジット履歴

4)人脈関係:交友関係の社会信用スコア

5)行為偏好:消費行動の偏り

一般に、700点以上で良好、750点以上でとても良好と考えられ、一定得点以上になると、ビザ取得が簡単になる、ホテルなどのデポジットが不要になるなど、さまざまな特典が与えられる。

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▲芝麻信用で評価される5つの観点。それぞれがスコアリングされ、総合得点が産出される。

 

プライバシーを守りながら、個人信用スコアを活用する

このような社会信用スコアについて、日本人の感覚だと、「プライバシーの侵害」や「なんか怖い」といった印象を持たれる方が多いかと思う。しかし、中国人の感覚は逆だ。むしろ、プライバシーが保てると感じている。

例えば、ホテルが宿泊時のデポジットを不要にするとき、従来であれば、その人の勤先や資産状況、過去の信用事故情報などを知らなければ、なかなかデポジット不要にはできない。しかし、現実にはホテルがそのような調査をすることは難しいし、宿泊客に尋ねることもできない。結局、クレジットカードを提示してもらうか、現金を預かるデポジット制度をやめることができなかった。

しかし、芝麻信用の場合、ホテル側に伝わるのは、総合得点と5つの観点のバランス評価のみだ。具体的な中身については知らされない。しかし、それでホテル側はじゅうぶんで、宿泊客のプライバシーを根掘り葉掘り聞くことなく、デポジット不要にできるのだ。

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▲アリペイアプリ。中央、左下にある「Zhima Credit」が芝麻信用。タップすると、自分の信用スコアを見ることができる。

 

スコアを上げるには「先消費、後支払」

この芝麻信用は、どのような行動を取ると上がるのか下がるのかということは一切公表されていない。そこで、ネットでは、デマを含めて「こうやると上がる」「こうやると下がる」という情報が毎日にように交換されている。

ただし、如実に上がるのが、花唄の利用だ。花唄というのは、アリペイの中にある消費者金融機能で、簡単に言えば、分割払いだ。何かを買うときに、花唄で支払い、41日間は無利息。そして、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月分割ができ、毎月9日までに必要な額を返済していくというもの。

この花唄を利用すると、芝麻信用のスコアが上がっていくため、多くの人が利用するようになり、「先消費、後支払」という言葉が定着している。

 

すべてアリペイ決済にすれば高得点になる

楓中聴風氏は、毎月20日以上は出張をしていて、ホテル代、出張旅費をすべて花唄で支払い、9日に一括返済しているという。その額はだいたい8000元前後になる。

食事、買い物はすべてアリペイで支払い、税金や保険料もアリペイから引き落とし。また、病院、映画などもアリペイから予約をして、アリペイで決済をする。

給料をもらったら、1時間以内に余額宝(アリペイ内のMMF投資信託)に入れてしまう。

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スコア化することで守られるプライバシー

楓中聴風氏は、特に高給取りでも、周囲に金持ちの友人がいるわけでもない。ごく一般的な中国人の会社員だという。それでも、支払いのすべてをアリペイを利用するようにし、積極的に「先消費、後支払」の花唄を利用し、きちんと返済をしていれば、750点を超えるのは難しくないという。実際、楓中聴風氏は現在774点で、周囲には同じ程度の収入で850点を超えている同僚もいるという。

 

日本でも、クレジットテック企業が中心になり、芝麻信用と似たような社会信用スコアの普及への挑戦が始まっているが、「プライバシーが侵害される」という拒否反応が強く、特定の分野以外では苦戦をしている状況だ。

芝麻信用は、プライバシーを丸裸にし、人を点数で序列化する仕組みではない。信用行動をスコア化することで、スコアから向こう側のプライバシーには触れさせないようにし、スコアだけを社会で自由に活用できるようにする仕組みだ。ある意味、個人信用を創造し、社会で活用できるようにしているのだ。

もちろん、ベースになるデータベースは中国中央政府が提供をしており、いつなんどき政治的に利用されかねないリスクはある。しかし、「スコア化して、プライバシーを守り、同時に活用しやすくする」という芝麻信用のアイディアのキモは理解しておく必要がある。

 

月の裏側でもネットが使える?月の裏側に通信衛星

中国空間技術研究院は、公式ウェイボーで、西昌衛星発射センターから通信衛星「鵲橋」を搭載した嫦娥4号の打ち上げに成功したと報じた。中国は、月への有人飛行を目指しており、これで月の裏側と地球の通信手段を確保できたことになる。

 

月には表側と裏側がある

衛星はいびつな形をしているので、惑星の引力に引っ張られて、重たい方の面を向け続けることになる。月も常に重たい側を地球に向けるため、月の表側と裏側ができる。

そのため、月の裏側に人を送り込むことは様々な困難が伴う。最大の問題が、月の裏側に入ってしまうと、月本体が邪魔になって、通信が途絶えてしまうことだ。これでは月面活動を行うことができない。


在地月之间架“鹊桥” 中国做到了美国人都没做到的事

嫦娥4号の打ち上げ成功を報じるテレビニュース。「月からでもネットが使えるようになる」と話題になった。

 

静止させることができない地球・月間の通信衛星

そこで、月の向こう側に通信衛星を配置して、地球からの通信をいったん通信衛星で反射させて、月の裏側に届けるというアイディアが浮かんでくる。しかし、これはうまくいかないのだ。

月の向こう側に通信衛星を配置した場合、太陽から見ると、その通信衛星は、地球の公転軌道よりも、内側または外側を公転することになる。地球の公転軌道の内側の物体は地球よりも早く太陽を公転することになり、外側の物体は地球よりもゆっくりと太陽を公転することになる。地球から見ると、通信衛星の位置がどんどんずれていってしまうことになる。

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▲月の裏側は、これまで通信手段がないため、月面活動が難しかった。通信手段が確保できることで、月の裏側での月面活動ができるようになる。


ラグランジュ点なら静止衛星が可能になる

そこで利用されるのがラグランジュ点だ。太陽と地球、月という3つの天体の引力が釣り合うため、そこの物体が、地球から見て静止しているかのように見えるポイントが5箇所ある。通信衛星「鵲橋」(カササギの橋。七夕に天の川にかかる橋のことで、織姫と彦星の出会いを実現する)は、そのうちのL2ラグランジュ点を周回するハロー軌道に投入される。

このハロー軌道は、月から約6.5万km外側にある。地球と月との距離が変化するため、ハロー軌道の位置も変化していくが、最大で月から8万kmの位置になる。

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▲地球と月の通信回線を中継する通信衛星「鵲橋」。月の外側に静止し、通信を反射して中継する。

 

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▲鵲橋は、月の向こう側にあるラグランジュ点L2を周回するハロー軌道に投入される。地球から見て、ほぼ静止した位置にある準静止衛星となる。

 

世界初の地球軌道外の通信衛星

L2は、太陽から見て、地球の外側にある。本来、軌道半径の大きな公転軌道なので、地球よりもゆっくりと太陽を周回することになるが、太陽と地球の両方から引っ張られるので、地球と同じ速度で太陽を公転するポイントだ。つまり、地球から見て、静止衛星になる。

地球公転軌道以外に投入される通信衛星としては世界初。この鵲橋が通信中継に成功すれば、月の裏側と地球との通信回線が確保でき、中国が目指す月への有人飛行が一歩実現に近づくことになる。

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▲発射準備中の鵲橋。ハロー軌道投入後に、上部の傘の部分が開いて、アンテナとなる。

 

ハセガワ 1/48 アメリカ航空宇宙局 無人宇宙探査機 ボイジャー プラモデル SW02

ハセガワ 1/48 アメリカ航空宇宙局 無人宇宙探査機 ボイジャー プラモデル SW02

 

 

「中国製品は品質が低い」先入観を払拭したANKER

すでに多くのファンがいる電子機器ブランドANKER。このブランドのメーカーは中国の湖南海翼電子商務有限公司で、創設者は元グーグルのエンジニアだった。ANKERは、「品質が悪い」という中国製品のイメージを払拭することに成功したと小沐科技が報じた。

 

品質、デザイン、価格、顧客体験。一歩抜けているANKER

ANKERというブランドをご存知だろうか。モバイルバッテリーやBluetoothスピーカーなどを製造、販売していて、品質も高く、デザインもいい。それでいて、ライバル製品よりも価格が一段低いのだ。

さらに素晴らしいのがユーザーサポートだ。電子機器である以上、不具合や故障はどうしても生じてしまう。その場合、電話1本かけるだけで、細かいことを言わずに、すぐに新品を送ってくれる。それもアマゾンの配送システムを利用するので、翌日には到着する。別便で、回収キットを送ってくるので、そちらに故障した製品を入れて、郵便局などから返送すれば終わりだ。

日本の多くのメーカーが、故障した場合、販売店やサービスセンターに持参することを強要し、しかも保証修理にするか有償修理にするかを検査するということをやっている。それが日本の常識なのかもしれないが、消費者からしてみれば、不具合が発生した上に手間と時間がかかり、顧客体験は最悪のものになる。

ANKERは、不具合が発生した場合も、最高の顧客体験を与え、不具合発生というネガティブな状況を、ポジティブな経験に変えてしまう。そもそも、製品にもよるが保証期間が18ヶ月もあるのだ。

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▲ANKERのウェブサイト。モバイルバッテリー、スピーカーなどで、日本でもファンが増えている。http://www.anker.com

 

ANKERの国外輸出額は670億円

このANKERが中国メーカーであることを知らない人は多い。2017年、中国の越境ECサイトの販売額は7.6兆元(約130兆円)であり、中国の輸出額の約1/3にもなっている。その中で、もっとも越境ECサイトの販売額が高いのがANKERだ。売上は39.12億元(約670億円)あり、全世界に2400万人のユーザーがいる。2018年の輸出企業では第7位にランキングされている。

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▲ANKERで人気なのが、バッテリー内蔵スピーカーSoundCore。小さいのに音質がいいという評判だ。

 

創設者は元グーグルのエンジニア陽萌

ANKERの創設者の陽萌は、もともとはグーグルのエンジニアで、200万元(約3400万円)もの収入を得ていた。ところが、ある時、ノートPCのバッテリーをネットで購入しようとしたが、選択肢があまりにも少ないことに気がついた。あるものは価格が高く、あるものはレビューの評判がものすごく悪い。

陽萌はこれは大きなビジネスチャンスではないかと考えた。当時、中国の製造業は品質が向上し、他国の製品と比べても遜色がなくなっていた。ところが、世界では「中国製品は品質が悪い」というイメージが強く、価格を思いっきり下げなければ売れなかった時代だ。

きちんと品質の高さ、デザイン性をアピールすれば、「安いだけの中国製品」のイメージを変えることができるのではないか。

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▲ANKER創設者の陽萌氏。元グーグルのエンジニアで、自分のネット購入体験からANKERの創設を思いついた。

 

アマゾンを利用することで世界に販売

2011年、陽萌は湖南省長沙市に帰り、湖南海翼電子商務有限公司を設立、質の高い電子機器の生産を始めた。しかし、当時、地方のスタートアップメーカーが海外輸出をするのは簡単なことではなかった。そこで、陽萌は、アマゾンとeBayを利用することにした。

これがあたった。アマゾンやeBayを利用する人の多くは、「中国製品は劣悪」というような先入観よりも、レビューの内容で購入を決定する。2011年に、すでに北米でUSB3.0スマホバッテリーで最も売れたブランドとなり、2012年にはモバイルバッテリーが北米でヒット、2013年6月にはアマゾンで世界で最も売れたモバイルバッテリーのメーカーとなった。

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もはや製造国は意味がなくなっている

すでに製造業はグローバル化している。日本メーカーも米国メーカーも、実際の製造は中国だったり東南アジアだったりすることが多い。その状況の中で、「中国製だから」「日本製だから」とこだわっているのは、すでに時代錯誤になろうとしている。

ANKERは中国製品のイメージを変えることに成功した。同時に、消費者に、製造国を見て判断するのではなく、自分の目やレビューを参考に判断する習慣をもたらした。日本でもANKERのファンが増えている。一度、アマゾンのレビュー欄を見てみることをお勧めする。