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「芝麻信用」信用スコア750点以上の人ってどんな人?

スマホ決済アプリ「アリペイ」の中には、支払い履歴などから算出した社会信用スコア「芝麻信用」の機能がある。700点以上で優良と言われる芝麻信用で、750点をキープしているブロガー楓中聴風氏は、普通の人でもアリペイを使えば高得点が得られるという文章を公開し、話題になっている。

 

5つの観点で、個人の信用度が評価される芝麻信用

スマホ決済「アリペイ」の中には、社会信用スコア「芝麻信用」の機能がある。これは決済履歴などからその人の信用度をスコア化したもので、何か行動するたびに少しずつ上下する。芝麻とはゴマのことで、ゴマ粒のように積み重なっていく信用スコアという意味だ。

最低は350点、最高は950点で、主に5つの観点で個人の信用度が評価される。

1)身分特質:社会的ステイタスや高級品の消費など

2)履約能力:支払い履行能力

3)信用歴史:クレジット履歴

4)人脈関係:交友関係の社会信用スコア

5)行為偏好:消費行動の偏り

一般に、700点以上で良好、750点以上でとても良好と考えられ、一定得点以上になると、ビザ取得が簡単になる、ホテルなどのデポジットが不要になるなど、さまざまな特典が与えられる。

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▲芝麻信用で評価される5つの観点。それぞれがスコアリングされ、総合得点が産出される。

 

プライバシーを守りながら、個人信用スコアを活用する

このような社会信用スコアについて、日本人の感覚だと、「プライバシーの侵害」や「なんか怖い」といった印象を持たれる方が多いかと思う。しかし、中国人の感覚は逆だ。むしろ、プライバシーが保てると感じている。

例えば、ホテルが宿泊時のデポジットを不要にするとき、従来であれば、その人の勤先や資産状況、過去の信用事故情報などを知らなければ、なかなかデポジット不要にはできない。しかし、現実にはホテルがそのような調査をすることは難しいし、宿泊客に尋ねることもできない。結局、クレジットカードを提示してもらうか、現金を預かるデポジット制度をやめることができなかった。

しかし、芝麻信用の場合、ホテル側に伝わるのは、総合得点と5つの観点のバランス評価のみだ。具体的な中身については知らされない。しかし、それでホテル側はじゅうぶんで、宿泊客のプライバシーを根掘り葉掘り聞くことなく、デポジット不要にできるのだ。

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▲アリペイアプリ。中央、左下にある「Zhima Credit」が芝麻信用。タップすると、自分の信用スコアを見ることができる。

 

スコアを上げるには「先消費、後支払」

この芝麻信用は、どのような行動を取ると上がるのか下がるのかということは一切公表されていない。そこで、ネットでは、デマを含めて「こうやると上がる」「こうやると下がる」という情報が毎日にように交換されている。

ただし、如実に上がるのが、花唄の利用だ。花唄というのは、アリペイの中にある消費者金融機能で、簡単に言えば、分割払いだ。何かを買うときに、花唄で支払い、41日間は無利息。そして、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月分割ができ、毎月9日までに必要な額を返済していくというもの。

この花唄を利用すると、芝麻信用のスコアが上がっていくため、多くの人が利用するようになり、「先消費、後支払」という言葉が定着している。

 

すべてアリペイ決済にすれば高得点になる

楓中聴風氏は、毎月20日以上は出張をしていて、ホテル代、出張旅費をすべて花唄で支払い、9日に一括返済しているという。その額はだいたい8000元前後になる。

食事、買い物はすべてアリペイで支払い、税金や保険料もアリペイから引き落とし。また、病院、映画などもアリペイから予約をして、アリペイで決済をする。

給料をもらったら、1時間以内に余額宝(アリペイ内のMMF投資信託)に入れてしまう。

tamakino.hatenablog.com

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スコア化することで守られるプライバシー

楓中聴風氏は、特に高給取りでも、周囲に金持ちの友人がいるわけでもない。ごく一般的な中国人の会社員だという。それでも、支払いのすべてをアリペイを利用するようにし、積極的に「先消費、後支払」の花唄を利用し、きちんと返済をしていれば、750点を超えるのは難しくないという。実際、楓中聴風氏は現在774点で、周囲には同じ程度の収入で850点を超えている同僚もいるという。

 

日本でも、クレジットテック企業が中心になり、芝麻信用と似たような社会信用スコアの普及への挑戦が始まっているが、「プライバシーが侵害される」という拒否反応が強く、特定の分野以外では苦戦をしている状況だ。

芝麻信用は、プライバシーを丸裸にし、人を点数で序列化する仕組みではない。信用行動をスコア化することで、スコアから向こう側のプライバシーには触れさせないようにし、スコアだけを社会で自由に活用できるようにする仕組みだ。ある意味、個人信用を創造し、社会で活用できるようにしているのだ。

もちろん、ベースになるデータベースは中国中央政府が提供をしており、いつなんどき政治的に利用されかねないリスクはある。しかし、「スコア化して、プライバシーを守り、同時に活用しやすくする」という芝麻信用のアイディアのキモは理解しておく必要がある。