中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

ユニコーン企業の世界分布図。米国、中国、欧州の3極に

米国の投資調査機関CB Insightはユニコーン企業のランキングリストを公開している。それを見ると、米国109社、中国59社、欧州28社となっている。アジア圏では、韓国、インドネシアが2社、シンガポール、日本が1社となった。

 

上場をしない大企業、ユニコーン

ユニコーン企業は、企業価値が10億ドルを超えているのに上場をしていない企業のこと。上場をしない理由はさまざまなだが、一般には非上場である方が、経営者が自由に経営ができるため、ユニークなビジネスを展開しているスタートアップほど、ユニコーン状態を維持するケースが多い。投資家から見れば、そのようなユニコーン企業の株式を手に入れることができれば、上場後に大幅に値上がりすることは目に見えているので、是が非でも株式を手に入れたいと注目をする。 

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ユニコーンは米国独占から3極化に

米国の投資調査機関CB Insightは、このようなユニコーン企業のランキングリストを公開している。それによると、世界には220社のユニコーン企業があり、最も多いのはやはり米国で109社だったが、中国も59社となり追い上げている。また、インドの10社も注目に値する。

2013年の段階では、ユニコーン企業のほとんどは米国と欧州に集中をしていたので、世界のユニコーン地図は大きく様変わりしたことになる。

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▲世界のユニコーン企業の分布。インド、アジアのユニコーン企業の多くが中国の投資を受けていることを考えると、米国、中国、欧州の三極が中心になっていると考えられる。

 

成長スピードが速い中国のユニコーン

特に大きいのが、トップ10に中国企業が4社もランクインしたことだ。タクシー配車・ライドシェアの滴滴出行、携帯電話・家電メーカーのシャオミー、上海の金融企業の陸金所、レストラン検索サービスの新美大だ。米国の6社は、ウーバー、AirBnB、スペースX、パランティア・テクノロジー、ウィーワーク、ピンタレストというワールドワイドにサービスを提供している企業ばかりだ。

また、欧米のユニコーン企業が創業から平均7年でユニコーン化を果たしているのに、中国のユニコーン企業は平均3年前後という猛スピードでユニコーン化していることも大きな特徴だ。

 

インド、アジアのユニコーン中国企業の影

インドの躍進も注目に値する。ECサイトのフリップカート、スナップディーなどがユニコーン企業のランキングに入り、フリップカートはいよいよ自家ブランドの家電製品の発売も始めた。

また、インドのQRコード方式スマホ決済Paytmを運営するOne97コミュニケーションは中国アリババの投資を受けている。インドのライドシェアであるオーラも中国の滴滴出行の投資を受けている。こういった中国企業の投資を背景にしたインド企業が急成長をしている点も注目に値する。

東南アジアでも、中国企業の投資の影響がある。東南アジアでユニコーン企業となっているライドシェア企業グラブは、やはり滴滴出行の投資を受けている。同じくライドシェア、ゴージェックは中国の京東の投資を受けている。東南アジアでのグラブとゴージェックの競争は、あたかも中国の滴滴出行と京東の代理戦争とも言えなくない。

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ユニコーンの多さは、成長余力のバロメータ

世界のユニコーン企業の分布は、スタートアップの本場である米国、独自路線を行く欧州、内需だけで急成長ができる中国という三極が中心になっている。インドを含むアジア圏にもユニコーン企業は生まれているが、中国の影響を色濃く受けている。

CB Insightのリストには、日本企業が1社だけ見つかる。個人取引のメルカリだ。しかし、メルカリは上場目前との噂もある。上場をすれば、ステークホルダーが増え、スタートアップらしい思い切った経営は薄まっていく。中国経済は、まだまだじゅうぶんな伸び代を秘めていると考えざるを得ない。

 

キャッシュカードも不要。顔認証で預金が引き出せる中国農業銀行

全国に2万3000店舗を展開する中国農業銀行は、ATMでの預金引き出しに顔認証を取り入れた。銀行カードがなくても、顔を見せるだけで預金が引き出せるようになったと今日頭条が報じた。

 

ペイメント革命の次はユビキタス革命

中国は、スマートフォンによるペイメント革命が進み、無現金都市、シェアリングエコノミー、社会信用スコアという新たな概念を生み出してきた。そのペイメント革命はまだ進行中だが、すでに次の革命へと進む動きが現れ始めている。それがユビキタス革命だ。

それは、スマホも不要、財布も不要、「門、カード、証、券」をすべて生体認証で済ませてしまおうというものだ。現在のところ、生体認証として顔認証が最も多く使われている。

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顔パスで預金が引き出せる中国農業銀行

中国農業銀行では、顔認証引き出しのサービスを始めた。つまり、身分証、銀行カードなどが不要、スマートフォンも不要で、体ひとつでATMから現金を引き出せるサービスだ。事前に顔写真を登録しておく必要はあるものの、それさえ済ませれば、全国どこの農業銀行ATMでも、顔パスで預金が引き出せることになる。

操作も簡単だ。ATMで顔を撮影して、身分証番号を入力するだけ。身分証番号は、地域コード+生年月日+3桁の個人番号という構造になっているので、暗記をするのは難しくない。

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中国農業銀行のATM。顔パスだけで預金の預け入れ、引き出しができるようになった。

 

セキュリティ対策も万全

赤外線による測定も行っているので、写真のようなものでハッキングされる可能性も低い。身分証番号を入力させることで、本人の顔との差異を計測するだけなので、誤判別率はきわめて低い。

それでも不安な人には、暗証番号を設定、スマートフォンによる認証を追加することもできるようになっている。

現在、顔認証引き出しができるのは、新型ATM機を導入した一部のみだが、農業銀行はできるだけ速やかに全国のATMに導入していきたいとしている。

中国で、ペイメント革命が起こり始めて5年、中国はもう次のユビキタス革命を始めようとしている。

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▲ATMで「顔認証」を選ぶと、キャッシュカード不要で預金引き出しが可能になる。中国農業銀行のATMは、何気にアップルペイやユニオンペイ、各種クレジットカードにも対応している。

 

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▲顔認証を行うには、正面、素顔、50cm以内に近づくという注意点がある。ATMにわかりやすい表示が出る。

 

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▲顔認証の後は、自分の身分証番号を入力する必要がある。身分証番号は地域コード+生年月日+個人識別番号3桁という組み合わせなので、簡単に記憶できる。

 

マイATMバンク (ATM型多機能貯金箱)  KK-00383 (ブルー)

マイATMバンク (ATM型多機能貯金箱)  KK-00383 (ブルー)

 

 

 

脱スマホに走り始めた中国アリババ

アリババとその傘下のアントフィナンシャルは、上海地下鉄と共同して、地下鉄の発券システムと改札を脱カード、脱スマホに変えていくと鳴金網が報じた。音声でチケットを購入することができ、改札は顔認証で入ることができる。アリババは、脱スマホ技術に注力をしていくという。

 

スマホの次はウェラブル?スマートスピーカー?

世界中が「スマホの次」を考え始めている。誰もがスマホがICTの最終形態ツールではなく、過渡期のツールであることを感じていて、ICT社会の最終形態を思い描き始めている。数年前のウェラブルブームもその方向を目指したものだったが、今では「ちょっと便利な腕時計」にすぎないと誰もが考えるようになった。今、話題になっているスマートスピーカーも最終形態の方向を目指したものだ。悪くないアイディアだが、それを利用者たちが受け入れてくれなければ普及はしない。

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人はICTツールを持たないユビキタスな未来

最終形態がどのようなものであるかは、実ははっきりとしている。1991年、ゼロックスパロアルト研究所マーク・ワイザーが論文「The Computer for the 21st Century」の中で提唱したユビキタスだ。

ユビキタス社会では、誰もスマートフォンのようなICTツールは持ち歩かず、ただ、自分であることを識別するチップだけを装着している。オフィスのテーブルや壁やモニターになっていて、そこをタッチすれば、自分の作業環境が表示され、仕事ができる。ICTツールは、社会という公共が用意をし、それを使用するという考え方だ。

ユビキタスは、すでに部分的に実現されている。鉄道で使われる交通カードがそうだ。乗客は、自分を認識する交通カードを持つだけで、改札機の中にコンピューターが入っていて、必要な精算処理を行う。近い将来、カードをタッチさせる必要もなくなり、ただ改札を通過すればよくなるだろう。

ユビキタス社会では、人は操作を極力しない。必要な行動をするだけで、周囲の環境が適切な処理をしてくれる。その意味で、スマートスピーカーはユビキタスの方向に向かっている。スピーカーは壁に埋め込まれるようになり、背後では人工知能が動作をし、適切な処理を行ってくれるようになる。

 

スマホを可能にしたレストランKPro

この最終形態に向かうのに、まずは「脱スマホ」を目指すことが重要だ。スマホという頻繁に操作しなければならないツールは、ユビキタス社会を実現するための不協和音となり始めている。

中国アリババは、この「脱スマホ」戦略を積極的に進めている。杭州市に今年開業したケンタッキーフライドチキンとの協業であるレストラン「KPro」では、利用をするのにスマホも財布も不要だ。あらかじめ、専用アプリに顔写真やアリペイのアカウントを登録しておく必要はあるが、それを済ませておけば、顔認証で支払いが可能になる。入り口に設置してある大型タッチパネルで、顔認証、注文、座席指定をし、あとは座席に座っていれば、料理が運ばれてくる。食べ終わったら帰るだけだ。支払いは、アリペイから自動的に決済される。

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声でチケットを買い、顔で改札を通る上海地下鉄

アリババとアリババ参加のアントフィナンシャルは、上海地下鉄と協働して、上海地下鉄の発見システムをユビキタス化していくことを発表した。

乗車券を買うときには、モニターに向かって「○○まで」と言うだけ。音声認識で発券される。支払いは、スマホを使ってQRコードを読み込んでアリペイでもかまわないが、事前登録してあれば顔認証でも決済される。

改札は、顔認証のみとなっていて、スマホも財布もなく、地下鉄に乗ることができるようになる。

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▲チケットの購入は音声で。「○○までのチケットをください」と話すだけ。紙のチケットはでてこず、顔が認識され、改札は顔認証で通過する。

 

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▲上海地下鉄は、顔認証で改札を通ることができるようになる。支払いは、紐づけられているアリペイで行われる。

顔認証技術があらゆるところに広がっていく

この顔認証技術の応用先は、交通だけではない。「門、カード、証、券」の4つを顔認証でき置き換えていくことができる。映画館、博物館などの「門」、交通、社会保険、銀行などの「カード」、身分証、免許証、学生証などの「証」、チケット、伝票などの「券」、すべてが顔認証技術に置き換えることができる。

アリババは、上海地下鉄を皮切りに、また世の中を大きく変えていく事業を始めようとしている。

 

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▲上海地下鉄用のシステムのお披露目式。アリババのジャック・マー会長も出席した。運用開始は「近日」と報道されている。

 

大盛況だった独身の日セール、各ジャンルで売れたブランドは?

史上最高の売り上げを記録した中国独身の日セール。主要ECサイトでの売り上げ合計は1日で4兆円を超えた。日本のアマゾンの年間売り上げが約1.1兆円であることを考えると、想像がつかない規模のセールになっている。調査会社「星図数拠」は、主要4サイトで、どのブランドが売れたのかを調査した「双十一全網網購大数拠分析報告」を公開した。

 

家電製品、携帯電話、化粧品、ベビー用品が売れた独身の日セール

星図数拠は、20のECサイトで、5万2186種類のブランド、1056万の商品の11月11日セールの売れ行きを観測した。その合計での売り上げは、2539.7億元(約4兆3200億円)前年比43.5%の伸び、発送宅配便数は13.8億件、前年比29%の伸びとなった。また、特徴的なのがスマートフォンからの購入が91%と極めて高くなり、海外製品の購入も21.9%と高いものになった。

金額ベースで売り上げが大きかった製品ジャンルは、家電製品、携帯電話、化粧品、ベビー用品となっている。星図数拠は、このすべての製品について、どのブランドが売れているか分析調査を行った。すべてのランキングを表示するのは煩雑になるので、日本ブランドが関係するものを中心に紹介していこう。

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ベビー用品は、海外ブランドから中国ブランドへ

ベビー用品は、多くの中国人が中国ブランドに不信感を持っていた時期があり、海外ブランドが多く買われている。しかし、中国ブランドも信頼を得てきていて、母親がいちばん神経質になる粉ミルクでもビーイングメイトなどの国産ブランドの人気が上がってきている。

また、紙おむつは以前はパンパースやハギーズなどの米国ブランド一色だったが、日本ブランドも強く、また国産ブランドもじわじわとランキングに入るようになってきた。今後、中国ブランドがどこまで伸びてくるか注目されている。

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化粧品も海外から中国ブランドに

化粧品も同様に以前は海外ブランド一色だったが、国産ブランドの百雀羚が国民ブランドとして確立しつつある。しかし、個々の商品のランキングは入れ替わりが激しい。特に韓国ブランドは毎年顔ぶれが変わるほどで、競争が激しく、ひとつの商品が流行すると爆発的に売れ、旬をすぎると売れなくなるという断続的なブームが起きている。

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家電は圧倒的な中国ブランド志向

家電では、フラットテレビ、掃除機、ジューサーがそれぞれの分野で最も売れた商品となり、この顔ぶれは毎年ほぼ同じだ。ただし、家電製品は圧倒的な国産志向になった。

家電製品全体の売り上げランキングは、ほぼすべてが中国ブランドで、日本のシャープが台湾のホンハイ精密傘下になっていることを考えると、純粋な海外ブランドはシーメンスのみになってしまった。

それでも各製品ごとのランキングでは、日本メーカーも検討をしている。特に、フラットテレビのシャープ、ソニー、空気清浄機のシャープ、パナソニックは注目に値をする。

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▲大型家電の売上ランキング

 

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▲生活家電の売上ランキング

 

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▲キッチン家電の売上ランキング

 

各製品では日本ブランドも健闘

中国には、ミデア、ハイアールという世界的な家電メーカーが存在し、中国市場における総合力ではもはや競争していくことは難しいが、個々の製品であれば、まだ日本メーカーにも競争力がある。ソニーのフラットテレビの画質、パナソニックの日常家電に対する信頼度はまだまだ高い。

しかし、携帯電話メーカーであったシャオミーが、デザイン志向の家電製品を開発し、若者を中心に売れ行きを伸ばしている。デザインが優れていて、単機能だが、比較的低価格という路線が、若者のシンプルなライフスタイルと合っているようだ。日本の無印良品と似ているポジションを獲得している。

シャオミーの家電は、携帯電話メーカーの余技と見られていたところがあったが、売り上げ的にも、他の家電メーカーも無視できない存在になってきている。特に、日本メーカーとは購買層が重なるので、日本メーカーはシャオミーの動向に留意しておく必要がある。

 

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今後は海外進出を目論む「独身の日」セール

今年の独身の日セールは、中国ブランドの台頭が顕著だった。この傾向はますます強まると見られ、中国は海外ブランドをありがたる段階を脱し、国産ブランドを志向するようになっている。

また、全売上の5%程度は、海外からの購入で、この割合も年々伸びている。主な購買国はロシア、香港、米国、台湾、オーストラリア。多くは現地国に暮らす華人によるものだと推測されるが、頭打ち感が出てきたECサイトの新たな発展空間として、海外からの越境購入に力を入れていく可能性もある。アリババは、すでに国際物流+越境ECサイト「Ali Express」の増強を始め、来年の独身の日に備え始めている。

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成功する無人レストラン、失敗する無人レストランは何が違う?

無人レストランは、2015年サンフランシスコに開業したEatsaを皮切りに、現在中国でさまざまな企業が挑戦中だ。しかし、すでに成功例、失敗例があらわになり始めている。その違いはどこにあるのか。攻略は、無人にする目的を明確にしているかどうかにあると論じた。

 

成功できなかったサンフランシスコのEatsa

2015年、多くの話題をさらったサンフランシスコの無人レストランEatsa(イーツァ)。設置されたiPadにクレジットカードをかざすと、パーソナライズされたメニューが表示され、そこから注文。食品ができあがると、ロッカーの中に出てくるので、セルフでとって、好きな席に座って食べるというもの。店内にスタッフの姿はなく、バックヤードに調理スタッフがいるだけだが、ハンバーガーやドリンクはロボットにより自動化されていて、最終的にはすべての調理を自動化し、完全な無人レストランになるというものだった。

瞬く間に7店舗を開業したが、2年足らずで5店舗を閉鎖して、サンフランシスコの2店舗のみとなった。一言で言えば、話題にはなったが、人気が出なかった。


Futuristic Restaurant Eatsa Replaces Cashiers With iPads | CNBC

 

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▲サンフランシスコのEasta。奥のカウンターにはiPadが並べられていて、クレジットカードを通してから注文。商品は手間のロッカーに出てくる。

 

中国でもdicosが無人レストランを試験開業

このEatsaとほぼ同じ仕組みを、中国のレストランチェーンdicosが採用した。dicosは四川省成都市を拠点とし、中国全土に2300店舗を展開する。その成都市の本社1階に無人レストランを開業している。

しかし、完全無人ではないようだ。フロアに1、2名、厨房に4、5名のスタッフが働いている。フロアスタッフは、主に、テーブルの清掃を行っている。

入店をしても、座席の案内は特にないので、自分で空いている席を探して座る。テーブルにあるQRコードを、自分のスマートフォンでスキャンすると、メニューが現れるので、スマホを使って注文。商品ができあがると、スマホに通知がくるので、ロッカーに自分で取りに行くという方式だ。注文して商品ができあがるまでは平均して2分40秒。Eatsaの仕組みとよく似ている。

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▲中国に2300店舗を展開するレストランチェーンdicos。本社にdicos未来店を開店し、無人レストランの試験運用を始めている。人件費は30%になり、売上は20%増加した。

 

成功と失敗を分ける「無人レストラン」の目的

問題は、無人レストランは何を目的として無人にしているかだ。Eatsaの場合は、「近未来的なユーザー体験」を来店客に提供することが目的だった。しかし、近未来的といっても、結局は「自分で席を探し、自分で商品を運び、自分で食器を片付ける」というセルフ食堂にすぎない。一度は面白がって来店するかもしれないが、もう一度いきたいと思わせる魅力に欠けていた。

dicosの場合は、無人にすることによってユーザー体験が低下するのは承知で、人件費の圧縮を目的としている。dicosによると、無人店の人件費は、有人レストランの30%にまで圧縮できた。1/3以下になった。一方で、来店客の回転率がよくなったので売り上げは20%増加しているという。

現在のところ、他の有人レストランと価格体系は同じだが、無人レストランでは別の価格体系を設定して、今後多店舗展開をしていくという。無人にすることによって「安さ」を来店客に提供しようとしている。

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▲dicosでは、座席にあるQRコードをスキャンして、スマホから注文を行う。料理ができたこともスマホに通知される。

 

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▲dicos無人レストランのロッカー。注文した商品がここに出てくるので、自分で取りにいく。ガラス面は液晶モニターになっている。

 

マクドナルドは客数が少ない時間帯に無人システムを活用

昨年、杭州市のマクドナルド5店舗が無人システムを導入した。入り口に大きなタッチパネルが設置され、そこで注文をし、スマホ決済。商品ができあがるとカウンターに取りにいくという方式だ。しかし、この無人システムが使えるのは、午後2時から午後4時まで。客数の少ない時間帯で、この時間帯はレジが休止となり、無人システムを利用することになる。これも人件費の圧縮が目的だ。

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杭州市のマクドナルドでは、昼間の客数の少ない時間帯に無人注文システムを利用している。この時間、有人レジはクローズされる。

 

ユーザー体験の向上を狙ったKPro

一方で、同じく杭州市で開店したアリババとケンタッキーによるKProは、ユーザー体験の向上を目的とした無人レストランだ。入り口付近にある大きなタッチパネルで顔認証。メニューと座席を選ぶ。それから、選んだ座席に座っていると、スタッフが料理を運んできてくれる。顔認証によるスマホ決済が済んでいるので、食べ終わったらそのまま帰ればいいというものだ。

ファストフード系レストランでは、座席の案内を待つ、注文カウンターに並ぶあるいは注文スタッフがくるのを待つ、決済カウンターに並ぶという「待つ」時間が多い。空いている時はともかく、混雑時には意外に時間を取られる。KProは、この「待つ」時間を徹底的に解消している。

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無人レストランが目指すべき3つの方向性

無人レストランが目指すべきは、3方向あると、掌攻略はまとめている。1つは人件費の圧縮。しかし、この場合、ユーザー体験の低下が伴うので、必ず「低価格」という形で来店客に還元をしていくことが重要だという。無人化することにより、注文、配膳、会計に伴うロスタイムが減り、座席の回転率が上がるので、そこで売上を伸ばすことができる。

2つ目は、ユーザー体験の向上。KProのように、来店客がレストランに対して抱いている不満ーー「カウンターに並ぶ」を解消し、「席に座って食べて帰る」以外のすべてを自動化する。

3つ目は、パーソナライズで、掌攻略はここはまだどの無人レストランも手をつけていない領域だという。顧客の注文履歴をビッグデータ化し、解析することで、メニューなどをパーソナライズしていく。客単価を上げようとして「ご一緒にポテトはいかがですか」というセリフをどの客にも毎回言うのは、短期的にはポテトの売上を上げる効果があるが、長期的にはポテトの商品価値を落としてしまう。顧客の印象の中で、「ポテトはついでに注文する商品」という意識が形作られてしまい、わざわざそれにお金を払って買おうという気が薄れていくのだ。それよりは、メニューをパーソナライズし、注文したメニューに即して、毎回違うもの、その顧客の嗜好に合ったものを推薦した方がずっといい。短期的にも客単価を上げる効果があるし、長期的には顧客の忠誠度を高めることができる。

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完全無人ではなく、人とITの最適解を見つけることが重要

攻略は完全無人レストランにこだわるのは誤りだと結んでいる。無人レストランを経営するためには、まず目的を明確にさせること。人件費なのか、ユーザー体験なのか、パーソナライズなのかをはっきりとさせる。それがはっきりとすれば、IT技術にどの部分を担当させ、人にどの部分を担当させるかが見えてくる。完全無人ではなく、人のスタッフとIT技術による自動化のベストミックスに最適解があるのだと結んでいる。

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中国のビットコイン採掘場に電力供給停止措置

中国は、全世界の70%のビットコインを算出する「ビットコインの本場」だ。特に四川省では豊富な電力を活かして、ビットコインの採掘場が無数にある。しかし、中国政府は四川省の電力供給会社「四川電力」に対して、ビットコイン採掘場に電力を供給しないように緊急の通達を出したと今日頭条が報じた。

 

採掘により増えていくビットコイン

オープンソース通貨であるビットコインは、日々新しい通貨が「採掘」されて増えている。ビットコインの技術的な背景になっているブロックチェーン技術は、簡単に言えば、改竄ができない分散台帳だ。ブロックチェーンは、取引記録をブロック単位にまとめ、チェーン状に連結をしていく。この連結をするときに、数学的な工夫がある。

2つのブロックをつなぐ接続部分は、レゴのように凸部分と凹部分がうまくはまるようになっている。凸部分を作るのは簡単で、簡単なアルゴリズムで計算できるハッシュ関数を使う。しかし、そこに連結する次のブロックの凹部分を計算するのは極めて難しい。前のブロックの凸部分にうまくハマるようにしなければならないからだ。

基本的には総当たりで調べて行くしかなく、膨大な計算が必要になる。この計算は、ボランティアの手によって行われる。しかし、無償でこんなたいへんな計算をしようという人はいないので、利用できる凹部分を計算した人に対しては、ご褒美として一定額のビットコインが与えられる。つまり、凹部分の計算をビットコインを報酬してビジネスで行うことができる。これが「採掘」と呼ばれる。

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▲稼働しているビットコイン採掘場。大量の熱が発生し、これを効率よく排出する方法がポイントになる。多くの場合は、大量のファンとエアコンに頼ることにになり、これに電力が必要になる。

世界の70%のビットコインを産出する中国

この採掘工場は、世界の中でも中国、それも四川省貴州省といった内陸部の農村地帯に集中をしている。特に四川省には、ビットコイン採掘場に有利な条件がそろっている。

高地で気候が寒冷であるため、大量のコンピューターからの排熱の問題がクリアできる。人口密度が低く、人家のない土地がふんだんにあり、騒音の問題も考える必要がない(コンピューターは無音だが、排熱用のファンの音が相当にうるさくなる)。地方大学の工学部卒業生が、仕事を得られずにいるので、優秀な人材が低賃金で確保できる。

四川省の康定にある採掘場は、深圳市のあるIT企業が運営するもので、24時間稼働をしている。4つの建物があり、各建物の中には約7000台のコンピューターが動いているという。規模はさほど大きくはないものの、それでも運営者によると、世界の5%のビットコインをここで産出しているのだという。

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貴州省に建設中のビットコイン採掘場。倒産した工場を買い取って、そこにラックをおき、CPUを並べて、採掘計算をさせる。電力は必要になるが、小さな設備投資で始められる効率のいいビジネスになっている。

 

余剰電力を格安で採掘場に供給してきた四川電力

もうひとつ、四川省ビットコイン採掘の本場になった大きな理由が、電力だ。四川省は、高山が多く雨も豊富なため水力発電が以前から大量に建設されていた。しかし、それを利用するだけの工業がなかなか興らず、時代はIT時代になってしまった。大量の電力は必要なくなってしまったのだ。

そこで、四川電力が目をつけたのがビットコイン採掘場だった。採掘場では大量のコンピューターを使って計算を行い、大量の電力を消費する。水力発電を主にしている四川電力では、発電量の制御が難しく、余剰電力が生まれている。四川電力は、ビットコイン採掘場に対して、1kWhあたり0.3元(約0.5円)という低価格で電力を供給している。日本の家庭用電力が、1kWhあたり20円程度なので、四川省は、世界でいちばん低コストの電力が得られる場所といってもいいかもしれない。

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▲川の左岸に並ぶ建物がビットコイン採掘場。川沿いにあり、独自の水力発電所を持っていて、電力を自前で供給している。

 

ビットコインを打ち出している中国政府

しかし、中国政府は、ビットコインに最大限の警戒をしている。中国の政治家が汚職をして私腹を肥やし、資産を海外に移転し、逮捕直前に海外逃亡をするという事件が相次いでいた。世界中に華僑が住み、チャイナタウンがある中国人は、海外でもお金さえあれば生きていける。

また、国内で成功した事業家の資産も海外移転させたくない。できるだけ国内で消費をし、国内経済を回してほしい。そのため、資産の海外移転を厳しく制限している。

ところが、ビットコインを利用すれば、資産を簡単に海外移転させてしまうことができる。

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▲四川電力が各水力発電所に通知した内容。通知書には「ビットコインの生産は違法経営であり、このような組織に電力供給をすることも違法となる。電力供給を継続した場合は、ネットワークから切断し、処罰をする」と記載されている。現状で、採掘ははっきりと違法と定められていないが、事実上違法行為とみなされているようだ。

 

消費行動をすべて把握しようとしている中国政府

もうひとつは、中国政府は通貨の取引記録のすべてを把握しようとしていることだ。取引のすべてを把握できるようになれば、脱税、汚職などが取り締まれるようになるだけでなく、消費行動から犯罪者、テロリストの追跡、特定ができるようになる。中国政府は、匿名性の高い決済手段である現金決済割合を減らしていく政策をとっている。当然、匿名性が高く国際決済ができてしまうビットコインは、あってはならないものなのだ。

すでに、中国ではビットコインの取引所が違法化され、個人間でのビットコイン取引も「法的根拠がない取引だ」として、将来取り締まりの対象になると予想されている。

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上に政策あれば、下に対策あり

現在のところ、ビットコインの採掘ビジネスを違法化することはできないものの、電力供給を断つことで、兵糧攻めにして、ビットコイン撲滅に動き出しているのだと思われる。

しかし、採掘場もしたたかだ。中には電力供給を絶たれて閉鎖してしまった採掘場もあるが、川沿いに自力で水力発電所を建設して、電力を自前で供給するところも出て来ている。また、排熱を熱交換器などを導入することで効率化し、エアコンやファンの使用を抑え、小さな電力で採掘場を運営できるようにしているところも現れている。

しかし、正確な統計はないものの、全世界のビットコインの70%は中国で採掘されていると言われ、この採掘量が大きく下がるのは間違いない。このところの、ビットコイン価格の乱高下は、このような事情も絡んでいるものと見られている。

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四川省にある採掘場の一棟。屋根が空いているのは排熱のため。見た目は、なんの工場だかわからない。

 

 

万引きし放題だった無人コンビニWell Goが、2.0になってリベンジ

今年夏、深圳市に開店した無人コンビニ「Well Go」は、メディアから酷評された。すべてが杜撰で、消費者にサービスを提供するレベルに達していないと評されてしまったのだ。そのWell Goが、2.0になって再オープンした。その実力はいかに。雷峰網が取材した。

 

中国スタートアップの評価が二極化する理由

中国のスタートアップに対する評価は人によってまったく違う。「素晴らしい、学ぶべきことがたくさんある」という人もいれば、「あいつら、デタラメ。ビジネスってレベルじゃない」という人もいる。なぜ、そのように見方が分かれるのか、理由は単純だ。

中国のスタートアップには、「やってみなければわからないことを考えているよりも、まずやってみよう」という感覚がある。そのため、ビジネス設計が不十分のまま、事業をスタートさせてしまうことが多い。当然、しっちゃかめっちゃかの状態になる。そして、多くのスタートアップはそのまま空中分解をしてしまう。ここを見れば、「あいつら、デタラメ」になる。

しかし、そのカオスの中で、問題点をひとつひとつ解消して、形を成していくスタートアップもあり、そのような企業が、ユニコーン企業となったり、株式公開に成功をすることになる。ここを見れば、「素晴らしい。学ぶべきことがたくさんある」になる。

これは、中国だけのことではない。「まずやってみる」は、米国でも日本でもスタートアップの基本だ。シリコンバレーにも「ビルドファースト、メンドレイター」(先に作って、後から直す)という言葉がある。

 

万引きし放題のダメダメ無人コンビニだったWell Go

今年夏に深圳市で開業した無人コンビニWell Goは、各メディアから酷評された。商品の品揃え設計が合理的でないために、補充がうまくいかず、品切れ商品が多い。レジで同じ商品を精算しても、精算するたびに合計金額が違ってくる。商品そのもの価格が、有人コンビニよりも高い。きわめつけは、風で自動ドアが閉まらないので、商品を万引きし放題。あまりにもずさんすぎると、消費者からもメディアからも酷評されることになった。

しかし、それから3ヶ月半。無人コンビニWell Goは、Well Go 2.0として帰ってきた。その実力はいかに。各メディアが早速体験記を掲載している。

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入口と出口を分離して、万引き問題を解決

Well Goを運営する天虹は、なかなか強気だ。酷評されたWell Go 1号店は、深圳市の天虹本社ビルの1階に設置された。Well Go 2.0は、その1号店を撤去して、まったく同じ場所でオープンしたのだ。

最も大きく改善されたのが、入口と出口を別にしたことだ。以前は、出入り口が共通だったため、精算をしていない人であっても、誰かが外から入ってきたら、その隙に商品を持って外に出てしまうことができた。2.0では、出入口は一方通行となり、精算をしなければドアが開かない。もちろん、風で閉まらない問題も改善されていた。

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▲大失敗だったWell Go1号店と同じ場所に再オープンしたWell Go 2.0。内部は、さまざまな改善がされ、Well Go2.0に対しては、どのメディアもおおむね好評な記事を掲載している。

 

ニーズを分析し、1日5回の食事時間に合わせて計画配送

さらに大きく変わったのが、品揃えだ。無人コンビニの場合、人手をかけないために、足の速い生鮮食料品、おにぎり、サンドイッチ、生菓子といったものを置かないケースが多い。このような商品を扱うには、配送回数を増やし、消費期限がくる前に古い商品を棚から撤去する必要がある。

配送回数を増やし、店内作業をするのであれば、無人にする意味がなくなる。店員が常駐をすればいいじゃないかということになってしまう。

Well Go 2.0では、過去の売り上げ分析から、消費者は1日5回食事をとることを発見した。朝方、昼、午後、夕方、深夜だ。この時間に合わせて、品揃えを適切なものに変えながら、配送計画と陳列計画を立てる。そのため、人的コストを上昇させずに、同時に、時間帯に合わせて適切な品揃えを実現している。

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無人コンビニには珍しく、消費期限の短いサンドイッチや生菓子なども置いている。食事時間に合わせて計画配送することで、人的コストを上げずに、その時間に最適な商品を陳列できるようにした。

 

無線タグだけでなく、画像解析も併用して、精度を上げる

また、レジの誤認識問題も改善された。従来は商品に付けられたRFID無線タグの情報のみに頼っていたが、画像解析も併用することで、精算ミスを減らしている。同時に、店内にもカメラを設置し、利用客から顧客センターに問い合わせがあった場合も、映像からすぐに状況を把握できるようになった。

また、入り口での認証もWeChatペイのQRコードで行う方式だったが、すでに顔認証の技術を確立しており、順次、顔認証システムを導入していく。

 

コンビニ運営ではなく、技術開発にビジネスをシフト

また、天虹のプロジェクト責任者によると、ビジネスデザインを大きく変え、無人コンビニの運営ではなく、無人コンビニ技術を確立して、その技術を販売するという方向に大きく舵を取ったのだという。つまり、現在のWell Go店舗は、利益を上げるための店舗ではなく、実験をするための研究店舗ということになる。現在、Well Goは深圳市に3店舗が開業している。当面は、店舗数を増やさずに、データを集め、システムを改善していくことに集中する。

「Well Goでは、万引きが多発した。だから、人がどのようにして万引きをするかは、Well Goが最も詳細なデータを持っている」と、本気か冗談かわからない評をするメディアもある。しかし、それもまた事実。マイナスの経験をプラスに転化できるかどうかが、Well Goに問われている。