中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国のユニコーン企業(4):36氪

時価総額が5億ドルから10億ドル以上あると見積もられているのに、上場をしない企業ーーユニコーン企業。投資家から熱い視線を浴びるユニコーン企業は、米国だけではなく中国にも数多く存在する。科技企業価値は、そのようなユニコーン企業を紹介している。今回は、テック系メディアの36

 

メディアとして王道の拡大成長をした36

36は、テック系のウェブメディア。ITスタートアップ企業関連のニュースから、海外のテックニュースまでを扱っている。36は、メディアとしてもっとも成功した成長ぶりを見せた。現在、メディア事業とともに、金融業とインキュベーター事業の3つが主要な事業になっている。つまり、メディアのための取材で知ったスタートアップに、出資をし、インキューベーターとして支援することで、利益を得て、企業価値を高め、ユニコーン企業となったのだ。

メディアの取材で、スタートアップ企業の内部を深く知り、有望な企業には資金と支援を提供する。その投資益で会社を成長させる。メディアとしてお手本のような成長をしてきた。

創設者の劉成城は、大学4年生の時に36のサイトを始め、メディアを出発点として次々と事業を拡大してきた。2013年には米フォーブス誌から「中国30歳以下の創業者30人」の1人に選ばれている。

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▲36を創設した劉成城CEO。業界のルールを打破するスタートアップ企業を、メディア、資金、インキュベーターの3方面から支援してきた。スタートアップのためのプラットフォームを構築するのが目標だという。

 

企業姿勢が込められた「クリプトン」のネーミング

36というのは「36クリプトン」の意味。36はクリプトンの原子番号だ。なぜ、このネーミングを採用したのか、劉成城CEOは明確に説明していないが、多くの人がネーミングの由来を理解している。

クリプトンは不活性ガスで、他の物質と反応をしない。電球にクリプトンを封入するのは、フィラメントと反応しないので、フィラメントの昇華が最小限に抑えられるからだ。これはメディアとしての気概を示している。他のいかなる資本に左右されない、独立性を表したいのだろう。

もうひとつクリプトンは、そのスペクトルの波長が1mの長さの基準として用いられていた。36で報道することで、中国のIT界の基準でありたいという気持ちを表しているのだと思われる。

しかも、クリプトンの語源は、暗号などと同じくkryptosで、「隠れる」という意味だ。メディアが前面に出るのではなく、スタートアップ企業の陰に回り、彼らの動向を報道し、金銭的な支援をし、起業の支援をする。そういった意味も含まれているかもしれない。

36とは一見風変わりな名前だが、その意味を知ると、なかなかいいネーミングに思えてくる。

 

党中央との繋がりもある劉成城CEO

劉成城CEOは、おそらくビル・ゲイツタイプの人間で、テック方面にも明るいが、政治力もあるようだ。共産党中央の李克強総理とも面識があり、その交友範囲には、国務院副総理、科技部長(日本の文科大臣に相当)、中央政治局委員など錚々たるメンバーが並ぶ。中国政府は、若いスタートアップを積極的に支援をして、中国経済をさらに成長させたいが、政府内にスタートアップ起業に明るい人間がいない。そのため、劉成城CEOが重用されるということもあるだろうが、劉成城CEO自身もその要望をうまく使い、政治力をじわじわとつけているようだ。

 

スローガンは、「業界ルールを打破し続ける」

座右の銘は「業界ルールを打破し続ける」で、数多くのスタートアップ企業を支援してきた。一方で、政治家ともうまく付き合い、ルールを打ち破ろうとする若者たちが、既得権益の壁に当たって自滅しないように、支援をしている。

「僕の目標は、中国に起業のためのプラットフォームを構築することです。起業しようとする人に、必要なものを、水や電気のように当たり前に提供できるプラットフォームを作りたいのです」。

現在、拠点は北京市中関村に置いているが、インキュベーター拠点は上海、広州、深圳、武漢成都など10都市、30拠点に置いている。インキュベーター拠点は、今後も次々と拡大していく予定だ。