中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

スマホも不要。進む杭州市の顔認証サービス。顔パスの未来がもう始まっている。

浙江省杭州市と言えば、中国を代表する古都。その古い街で、顔認識技術を応用した本人認証サービスが多方面で始まっている。古今東西文人墨客が愛した西湖を抱える古都が、未来都市に生まれ変わろうとしている。都市快報の記者が取材した。

 

顔パスで、ホテルにチェックイン:星都酒店

杭州市の都市部人口は約700万人。中国の都市の中では小さい方だが、文人墨客が愛した西湖があり、中国特有の熱気や喧騒とは無縁の落ち着いた静かな都市だ。その古都が、顔認証技術を導入することで、未来都市に生まれ変わろうとしている。試験導入や実証実験ではなく、官民一体になって実用サービスとして導入され始めているのだ。アリババが、レジなしの無人スーパー「アリババ無人販売店」の第一号店を杭州市に開いたのは、このような杭州市の取り組みがあったことと無関係ではないだろう。

杭州市の中心街北側の拱墅区にある星都酒店は、チェックイン時に顔認証を導入した最初のホテルだ。中国では旅行や出張の際、身分証の携帯は必須だ。ホテルに宿泊するときには必ず提示を求められるし、博物館、美術館などの公共施設を利用するときにも提示が必要になる。家に忘れてきたり、紛失してしまうと、なにもできなくなり、すぐに警察に届け、仮身分証を発行してもらう必要がある。

しかし、星都酒店では、身分証がなくても、顔認証でチェックインができる。専用機器のカメラの前に立ち、身分証の番号を入力すると数秒で照合が行われる。公安部の身分証データベースと連結しており、事前登録のようなものは不要だ。身分証に使われている写真と同一人物であるかどうかを判定するだけなので、認識率はほぼ100%。星都酒店では、身分証を忘れた、荷物に紛れてすぐに出てこないという宿泊客に限って、補助的に使っているが、それでも毎日2、3人が利用している。

このシステムを開発した悉点科技の開発責任者によると、現在の判定精度は99.8%。星都酒店ではすでに4ヶ月間、このシステムを使い、2、300人の宿泊客が利用したが、トラブルは一件も起きていないという。他のホテルも今後、この顔認証システムを導入していく予定だ。

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▲星都酒店の顔パスチェックイン。公安部の身分証データベースと照合するので、身分証の顔写真と同一人物であるかどうかを判定する。顔画像から個人を検索するのではなく、一致を判定するだけなので、精度は高い。すでに、数百人が利用して、トラブルはゼロだという。

 

顔パスでゲートが開く駐車場:杭州蕭山国際空港

杭州市の国際空港である杭州蕭山国際空港の駐車場では、顔認証技術が使われ、「顔パス支払い」が可能になっている。スマートフォンも不要で、顔を見せるだけで駐車、支払い、出庫ができる。事前に専用アプリに、自分の顔と自動車のナンバー、アリペイのIDを登録しておく必要があるが、それができてしまえば、入り口のバーの前に車を一旦停車させるだけで、前方のカメラが運転席の本人の顔と自動車のナンバーを読み取り、バーが開く。駐車料金はアリペイから自動的に支払われる。ドライバーは、操作のようなことをする必要はなく、ただゲートの前に車を止め、そのまま数秒持っているだけでいい。

このシステムは、アリババが開発した「無感支付」と呼ばれるもので、杭州市だけでなく、中国全土の駐車場に広がり始めている。

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▲空港の駐車場では、顔認証によるゲートの開閉が行われている。カメラで、運転席のドライバーの顔、車のナンバーを認識し、料金はアリペイから引き落とす。ドライバーは、運転席に座ったままでいい。

 

顔パスで現金を引き出し:中国農業銀行

中国農業銀行では、銀行カードを持っていなくても、顔認証でATMの操作が可能になっている。ATMにカードを入れる代わりに、顔認証をして、身分証の番号とカードの暗証番号を入力する。これで、通常のカードと同じように、引き出し、入金、振込などの操作ができるようになる。銀行カードを持ち歩く必要がなくなったと、預金者からは好評だ。

しかし、本人の顔写真を、ATMのカメラに見せるなどして、ハッキングされてしまう危険性はないのだろうか。このシステムを開発した雲従科技の開発責任者によると、通常の顔画像と同時に赤外線による顔画像も同時に取得しているため、生体の顔でなければはじかれてしまうという。顔写真で誤認識させるということは不可能であり、現在のところ、そのような事件は1件も起きていないという。

 

顔パスで日用品をレンタル:徳信北海公園小区

杭州市北側の高級住宅街には小区と呼ばれるマンション群が林立する。出入り口には警備員がいて、居住者以外が出入りするときは、警備のチェックを受ける必要がある。小区の中は、公園のように整備されていて、居住者が散歩を楽しんだり、子どもを遊ばせたりしている。この中のひとつ、徳信北海公園小区の中には、居住者だけが利用できる生活用品のレンタル店がある。自転車の空気入れ、ベビーカー、折りたたみ椅子、雨傘、レインコート、レインブーツ、充電バッテリーなど10数種類の商品が用意されている。

ここにも顔認識技術が使われている。店舗に置かれているタッチパネルのメニューから借りたい商品を選び、レンタル料金を確認した後、「レンタル」ボタンをタッチする。すると、顔認証が行われ、アリペイ用のQRコードが表示される。これを自分のスマートフォンでスキャンすると、アリペイで支払いが完了する。初めて利用するときは、身分証の提示や顔の登録が必要だが、2回目からは貸し出し、返却の際は、身分証不要で、顔パスが可能になった。

このサービスは好評で、他の小区からの出店要請も多く、需要の高い小区、集合オフィスビルなどへの出店がすでに決まっている。

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▲マンション内にある日用生活品のレンタル店。顔パスで貸し出し、返却の処理が行え、支払いはスマホ決済。利用者からは好評で、他の小区、オフィスビルなどからの引き合いが多いという。

 

顔パスで出退社:杭州人工知能小鎮

杭州市のIT企業、中国(杭州人工知能小鎮では、顔認識を使って、社員の出退勤を管理している。中国(杭州人工知能小鎮の入り口手前には、60インチの液晶モニターが置かれている。社員はこの前に立つだけで、顔認識され、モニターに社員証番号と姓名が表示される。同時に、入り口の自動ドアが開き、会社の中に入れる。

このシステムを開発した宇泛科技の蘇亮亮CEOによると、朝夕は大人数の社員が出退勤をする状況を想定し、同時に40人までの顔認証が可能なように設計されているという。実際に利用している社員は、スピーディーに認識が行われるので、実際にはモニターの前で立ち止まる必要がなく、モニターの方に顔を向けて歩いていけば、止まることなく自動ドアが開いて、中に入れると好評だ。

宇泛科技の蘇亮亮CEOは、当初、このシステムを顔ではなく、胸に下げている社員証のQRコードを認識する設計で開発を始めた。社員が、社員証をスキャナーにかざすのではなく、歩いているだけで社員証のQRコードを認識させようと考えていたのだ。ところが、この動いているQRコードを認識するというプロセスは複雑な画像処理を必要とし、1人ではうまくいくものの、2人になるとシステムが混乱し、処理時間が大幅に伸びてしまったという。そこで、顔認識に注目したところ、スピーディーな処理ができるシステムになったという。

宇泛科技では、同様の顔認識技術を応用した入館管理システムを開発し、柒号主場東聯館などのジムの入館管理に採用されている。今後も、ジムを中心に導入されていく予定だという。

現状では、顔認証が応用されているのはまだ一部でしかない。しかし、杭州市政府はこの技術導入を促し、杭州市を「顔パス都市」にしていく計画を立てている。杭州市は、アリペイなどのスマホ決済を促す政策も進めていて、すでに「無現金都市」の宣言をしている。数年以内に、身分証を携帯することなく、日常生活が送れる環境を構築することを目指しているという。未来は杭州市から始まろうとしている。

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▲IT企業の出退勤管理に使われている顔認証。画面では社員証のバーコードをカメラに見せているが、現在は不要で、顔認証だけで、右側の自動ドアが開く。