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アリペイ安全の死角。若い世代ほど被害額は大きい

中国銀聯は、「2017移動支付安全大調査分析報告」を公開した。この調査から、スマホ決済の事故は、利用者の安全意識の低さにより起きていることが浮き彫りになったと中国経済網が報じた。

 

可処分所得の小さい人ほどスマホ決済に依存する

この大調査は、約10.5万人のサンプルを抽出し、アンケート調査をしたという大掛かりなもの。スマートフォン決済に関するもので、銀行カード、デビットカード、クレジットカードなどは調査対象外。

基礎調査で注目すべきは、スマホ決済使用率と可処分所得の関係。スマホ決済を利用している人の割合は9割を超えるが、「スマホ決済を主要な決済手段にしている」という人は、男性で77%、女性で68%だった。さらに、「スマホ決済を主要な決済手段にしている」割合を、可処分所得別に見てみると、可処分所得が小さいほど、スマホ決済の比率が上がる。

その理由までは分析されていないが、可処分所得の大きい層は、以前からクレジットカード、銀聯カード(デビット)などスマホ決済以外の決済手段を使っているため、その習慣を変えない人が多いと想像される。可処分所得の小さい層は、以前は現金決済をしており、他の電子決済手段を利用できない人が多いと推測される。中国で、スマホ決済が爆発的に普及した理由のひとつは、「他の電子決済手段を利用できない人が多数いた」ということも大きな理由のひとつになっている。

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▲毎月の可処分所得と「スマホ決済を主要な決済手段にしている」人の割合。可処分所得が小さい人ほど、スマホ決済を主要な決済手段にする傾向がある。可処分所得が大きな人は、以前からクレジットカードやデビットカードを使っていたからだと推測される。


スマホ決済の死角は、利用者による危険な操作

スマホ決済は、他の電子決済手段に比べて安全性が高いのも特長のひとつだ。他の電子決済では、アカウントとパスワードが盗まれてしまうと、他のデバイスからでも資金移動ができてしまうが、スマホ決済では、登録したデバイスからでないと資金操作ができない。スマートフォンそのものが盗まれたとしても、指紋認証や顔認証などの生体認証がかかっているし、リモートでスマホの電源をオフにすることも可能だ。

しかし、唯一弱点として残るのが、利用者自身が騙されて、自分で操作をして、資金を移動してしまうケースだ。最も多いのが、不審なQRコードをスキャンして支払いをしてしまうケース。例えば、多くの都市で駐車違反の車には、QRコード付きの違反キップが貼られ、そのQRコードをスキャンして罰金を支払えれば処理が終わる。これを、自分の口座番号をQRコード化した偽の違反キップを貼って、罰金を不当に振りこませる詐欺が横行している。QRコードだけでは、それが正当なものであるかどうか見分けるのは難しいが、表示される宛先名などをよく確認する必要がある。また、「優待」「特典」「無料進呈」などとうたって、QRコードを読ませる広告も多いが、これも不用意にスキャンをすると、うまく誘導されてお金を騙し取られることになる。

このような危険な行為をした経験がある人は、半数近くになり、利用者への啓発がスマホ決済の課題のひとつになっている。

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▲利用者がしたことのある危険な操作。問題になっているのは、出所を確かめずにQRコードをスキャンしてしまうケース。PCで、出所不明のリンクをクリックして、フィッシングサイトに誘導されるパターンと類似している。

高年齢ほど詐欺被害、しかし被害額の大きさでは20代

詐欺にあっているのは、想像通り、50歳以上が圧倒的に多い。スマホセキュリティに対するリテラシーが低い上に、スマホ決済詐欺は、システムよりも人間の心理の隙をつくものが多いので、他人を信用しやすい中高年の方が騙されやすいのだと思われる。

しかし、一方で、興味深いのは、被害金額が5000元(約8万7000円)以上の高額詐欺の被害を受けた人になると、20歳代の男性が27%と、最も割合が高くなる。20歳代は、リテラシーも高いが、利益にも敏感で、大型の詐欺被害に遭いやすいのだと思われる。

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スマホ決済詐欺の被害を受けたことのある人の割合。圧倒的に50歳以上が多い。しかし、高額被害を受けたことのある率になると、20歳代が最も高くなる。

 

利用者のセキュリティ意識を啓発することが今後の課題

今回の大調査を行なった中国銀聯のリスクコントロール部の王宇高級主管は、中国経済網の取材に応えた。「スマホ決済を使うのであれば、新たに専用の銀行口座を用意しておくといいでしょう。その口座には必要最低限の金額しか入れないようにしておきます。万が一、詐欺や事故にあった場合は、その銀行口座を凍結すれば大きな被害を受けることはありません」。

銀行業界を背景にした銀聯がこのようなアドバイスをするのは、ややポジショントーク的な印象はあるが、スマホ決済のセキュリティ手段としては有効な方法で、実際に、給与受け取りや貯蓄の銀行口座とは別に日常決済用の銀行口座を作る人は増えているという。

スマホ決済は、他の電子決済に比べて安全性が高い。スマホ本体が鍵として使えるからだ。一方で、利用者の心理の隙をついた詐欺が横行している。利用者のセキュリティ意識をどうやって啓発していくかが現在の課題になっている。

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▲中央電視台のニュース番組でも、この報告の内容に基づいた報道がされた。利用者のセキュリティ意識をどのように啓発するかが大きな課題になっている。