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中国のビットコイン採掘場で1年働いてみた

中国は、ビットコイン採掘場のメッカだ。一時期は、全世界のビットコインの7割が中国で発掘されているとまで言われていた。しかし、中国政府はビットコインを始めとする仮想通貨の排除に乗り出した。盛り上がり、そして冷水を浴びせられたビットコイン産業。その採掘場で、1年間働いたあるエンジニアが内情を語ったと雲鋒金融が報じた。

 

仕事はきつくない採掘場の仕事

このエンジニアは、電子機器修理の専門学校を卒業後、電子機器の訪問サービスを行う企業に就職をしたが、2016年の年末、この企業が倒産をしてしまい、失業者になってしまった。

中国にも、失業保険のような制度はあるものの、実際には機能していない。彼はすぐに生活に困るようになってしまった。友人に相談をすると、紹介されたのが、ビットコイン採掘場での仕事だった。

彼は、当時、ビットコインのことを知らず、「採掘場」と聞いて断ってしまった。生まれ故郷にも炭鉱があり、子どもの頃そこで働く人を見ていたが、劣悪な環境の中できつい仕事を強いられ、とても人間ができる仕事には思えなかった。しかし、説明を聞いてみると、採掘場といっても、実際はサーバーセーターの保守点検の仕事なのだという。聞いてみると、待遇も悪くない。問題なのは、場所が内モンゴル自治区のオルドス市郊外という遠い場所だということだ。「周りに遊ぶところは何もないが、それさえ辛抱できれば、お金はたまるよ」と友人は言う。彼は、他に選択肢もなく、オルドス市のビットコイン採掘場で働くことにした。

 

採掘場はひどい騒音で、ノイズキャンセルイヤフォンが必須

オルドス市のビットコイン採掘場に到着した彼は、その大きさに後ずさりをしてしまったという。しかし、責任者の説明を聞いて安心をした。仕事の内容は、採掘場の中にある機器を、1日1回巡回して、1台ずつ採掘計算用マシンにノートPC接続をして検査する。問題があれば、手順に従って基盤を交換する。これだけでよかった。こんな簡単な仕事だったらじゅうぶんこなせそうだと感じた。

仕事は24時間、3交代で、毎月、どの時間帯を受け持つかが変わっていく。仕事は楽で、まったく快適だったが、ひとつだけ不満なのは、採掘場の中も、宿舎の中も、ファンの音でものすごい騒音なのだという。「最初の日の仕事が終わったその日に、タオバオでイヤフォンを注文をして、音楽を聞きながら仕事をするようにしました。それでもうるさいので、高かったですが、ノイズキャンセル機能付きのイヤフォンに買い直しました」。

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▲オルドス市にあったビットコイン採掘場。とにかく広く、採掘用の計算機が無数に並べられている。工場内は、廃熱ファンでひどい騒音だという。

 

未来はないゴールドラッシュ。ビットコイン

彼は、工場のあちこちに「ビットコイン」という文字が書いてあることに気がついた。同僚に聞いてみると、それは仮想通貨のことで、この工場は、ビットコインを作っているのだという。同僚も細かことには関心がないようで、彼は工場長に聞きにいった。すると、工場長はビットコインの原理から丁寧に教えてくれた。

彼は、すぐに19世紀に米国にカリフォルニアで起きたゴールドラッシュを思い起こした。この世界で儲けるためにいちばん必要なのは「運」であると感じたという。なぜなら、誰でもさほど難しくなく採掘場を運営することができるのだから、すぐにライバルが山ほど登場してくるだろうと考えた。

実際、すでに中国にはわかっているだけで180箇所の採掘場があり、さらにはアイスランドやロシアの人が住めず、寒冷な地域(廃熱問題がクリアできる)にも続々と採掘場が建設されている。

しかも、時間が経てば経つほど、採掘量は少なくなっていくのだ。ビットコインの発案者ナカモトサトシの構想では、ブロックを連結するナンス値を計算した物に、報酬としてビットコインが与えられるが、その報酬量は徐々に減って行き、2050年前後にはゼロになると見られている。

 

10年で劇的に進化した採掘テクノロジー

それでも採掘場建設が止まらない理由は、ビットコインの価格が高騰しているからだ。得られるビットコインの量は減っていっても、それを通過に交換すると、報酬はうなぎ登りに増え続けている。

また、採掘場で使われるテクノロジーもこの10年で急速に進歩をした。10年前は採掘に使うのはCPUが一般的だった。しかし、2010年にAMDGPUチップに高速計算機能を持たせると、採掘場はこぞってGPUを組み込んで使うようになった。さらに2011年にはFPGA(プログラム可能な集積回路)が使われるようになった。しかし、今の採掘場はすでに第4世代に入っており、ASICチップ(特定用途向け集積回路)が使われるようになっている。CPUの(採掘場が必要としている計算の)計算速度を1とすると、GPUは10。FPGAは8程度でしかないが、電力消費量がGPUの1/40になる。ASICの計算速度は2000。それでいて電力消費量はGPUとほぼ同じだ。

さらに、ASICチップを採用した採掘専用機も販売されるようになって、1万元(約17万円)程度で購入できる。このような専用機を数百台稼働させるだけで、ビットコイン採掘場が開設できるのだ。

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▲最新のASICチップを搭載したビットコイン採掘専用機。一般のCPUの2000倍の計算速度があるという。これが1万元程度で購入できる。

冬は内モンゴル、夏は四川省に移転する「渡り鳥工場」

彼がオルドス市のビットコイン採掘場で働き始めて半年が経ち、寒い内モンゴルにもようやく春の気配が漂ってきた。すると、工場長から「工場は移転をする」と告げられた。冬は廃熱問題を考えて寒い内モンゴル自治区、夏は水力発電による低コストの電力を求めて四川省で操業するのだという。四川省の高地であれば、気温は20度程度までしか上がらず、さらに、大量の河川水を使って冷却をすることができる。

この採掘場は、毎時間40兆ワットの電力を消費する。これは1万2000家庭分に相当する。四川省では、省政府が企業誘致のため電力の補助政策を行っているので、1億元(約17億円)以上が節約できるのだという(現在、四川省は、ビットコイン採掘場に対する電力優遇策を停止している)。

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▲移転した四川省の工場。河のそばにある自前の水力発電所を持っている。廃熱も河の水を利用して水冷方式で処理する。

 

政策の転換により、今度はウイグル

しかし、四川省に移転をしてみると、工場内の室温は35度にもなり、彼の仕事は忙しくなった。故障率が大幅に上昇し、修理作業が増加したのだ。それでも、工場長は、増加する修理費用よりも節約できる電力費の方が大きいという。

ところが、今年になって、採掘場は再び移転を考えなければならなくなった。昨年末、仮想通貨が普及することを恐れた中国政府は、ビットコイン採掘場に対して電力の供給を停止する措置をとったからだ。

工場長は、次は新疆ウイグル自治区へ行くという。ウイグルではまだビットコイン採掘場への電力供給が停止になっていないからだ。

しかし、中国の政策は明らかに「ビットコイン排除」だ。彼は、今後、ビットコイン採掘場は北欧とロシア、そして北朝鮮などで増えていくと考え、すでに次の転職先を模索しているという。

惜しむらくは、この世界に参入する時期が遅すぎた。5年早く参入しておけば、かなりの財産を築くことができたはずだという。実際、採掘場のオーナーたちは、早くから採掘場を経営し、かなりの財産を築いているという。彼は、参入する時期が遅すぎたと歯噛みをし、別の仕事への転職をするか、北朝鮮の採掘場へ行くか、悩んでいるという。

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