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漢服専用の生成AIが登場。生成AIの産業応用の鍵は、学習素材の正統性

漢服のデザインコンテストで、漢服専用の生成AIが公開された。デザイン協会が漢服の専門資料を提供し、それを学習素材とした生成AIだ。漢服の詳細な要素まで正確に生成することができ、漢服と現代服のデザインを融合した新たなアパレルデザインが生まれることが期待されていると潮新聞が報じた。

 

デザインとして定着をし始めた漢服

女性だけでなく男性の間でも漢服が人気になってきている。当初は、ゲームや時代劇ドラマに影響されて、コスプレとして楽しまれていたが、次第にパーティー服として着られるようになり、さらに部屋着としても着られるようになった。今では、外出着としても着られるところまできている。2022年には、漢服の市場規模は前年比で23.4%増加し、125.4億元(約2600億円)にまで成長している。

さらに、近年、目立つようになっているのが、漢服の要素を現代の服に持ち込む試みだ。漢服の要素を取り入れたパーティードレス、外出着などに若いデザイナーが挑戦をしている。

▲コンテストで発表された現代の漢服。生成AIで出力した漢服と現代服の融合したデザインを元に作成されている。

 

宋時代の漢服を生成するAI「無界AI」

その中でも人気があるのが宋時代の漢服だ。「宋風」「宋っぽい」という意味で「宋韵服装」という言葉も生まれている。2023年8月に、浙江省杭州市の中国美術学院象山校で、「2023年全国宋韵服装デザインコンテスト」が開催され、さまざまなデザイナーが宋の時代の漢服を取り入れた服のデザインを出品した。

そのキックオフイベントで、浙江省クリエイティブデザイン協会と生成AIサービス「無界AI」(https://www.wujieai.cc/)は協働をして、世界初の宋韵服装に特化した生成AIを発表し、この大会で正式に公式の生成AIツールとして採用された。

デザイナーがデザインをする時に使うだけでなく、消費者が自分で好きな漢服を生成AIを使ってデザインし、淘宝網タオバオ)で注文することもできるようになる。

▲生成AIの発表をする「無界AI」。浙江省クリエイティブデザイン協会の協力を得て、考証済の資料を学習素材としたため、細部まで正確な漢服を出力することができる。

 

漢服を精密に生成するAI

すでにMidjourneyやStable Diffusionなどの生成AIを使って、漢服を生成し、デザインに活かすということは行われているが、プロのデザイナーが満足できる出力は得られない。一見、漢服っぽく見えるものはできるが、細部はいい加減であり、それを型紙に起こして、実際に生産しようとすると、デザイナーが相当に手を入れなければならなくなる。結局、漢服のデザインに本格的に利用することは難しく、デザイナーがヒントをもらう程度の活用しかできない。

そこで、無界AIは、浙江省クリエイティブデザイン協会の協力を得て、大量の漢服の画像データを提供してもらい、これを生成AIに学習をさせ、さらに漢服の専門家のアドバイスを受けながら調整を行った。プロンプトに使うことができる用語も、デザインの専門用語がふんだんに用いられた。生成AIのベースは、Stable Diffusion XLが用いられている。

▲無界AIが生成した漢服デザイン。漢服そのままではなく、現代服と融合されているが、使われている漢服の要素は正確に生成されている。

 

漢服の要素を活かして新しいデザインを創造する

無界AIの創業者である長鋏氏によると、この生成AIは漢服のバリエーションを生成するだけでなく、現代のアパレル要素と組み合わすことができ、新しい漢服を生成することが可能になっているという。その品質は、プロの商業デザイナーがツールとして利用できる水準に達しているとしている。生成AIが本格的なアパレル開発に活用することが始まっている。