中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

始まった中国の本格EVシフト。キーワードは「小型」「地方」「女性」

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 097が発行になります。

 

今回は、EVシフトの現状をご紹介します。

「vol.095:大ヒットする「宏光MINI EV」の衝撃。なぜ、50万円で車が販売できるのか。その安さの秘密」で、EVシフトが進む地方都市、広西省チワン自治区柳州市のことに触れました。交通渋滞の解消のため、小型EVを積極的に活用することで、EVシフトを軌道に乗せた都市です。

2019年に中国で大きな話題となり、地方政府の視察が相次ぐようになり、大ヒットEVとなった「宏光MINI EV」を販売している上汽通用五菱のチームも視察に行ったはずだというお話をしました。

しかし、vol.95のメルマガを発行した直後、「中国新エネルギー車柳州モデルビッグデータ報告」(新エネルギー車国家ビッグデータ連盟)という報告書が公開されました。

これの報告書には、協力機関として「柳州市人民政府」と「上汽通用五菱」の名前が掲載されています。つまり、五菱は視察に行ったどころではなく、柳州モデルの構築に積極的に協力をしていたようです。さすが五菱だと思います。

 

この報告書は「ビッグデータ報告」と銘打っているだけあって、さまざまな興味深いデータが掲載されています。そこから、EVシフトを成功させるいくつかの鍵が見えてきます。

その鍵とは、

1)中短距離移動:ツアラーからコミューターへの変化

2)小型EV:ステータスシンボルからビークルへの変化

3)女性:男性オーナーから女性オーナーへの変化

の3つです。

 

しかし、ここに至るまでの道のりは簡単ではありませんでした。中国の新エネルギー車の販売は2011年頃から立ち上がり、2015年から中央政府が購入補助金を出すことで本格的に始まり、「EVシフト」という言葉が聞かれるようになりました。2015年の購入補助金は、航続距離が80km以上のEVは3.15万元(約56万円)というもので、さらに地方政府の購入補助金、免税措置などの政策があり、8万元から10万元の優待が受けられるというものでした。

これにより、新エネルギー車が本格的に売れ始めますが、当時、多くの人が「EVシフトはうまくいかない」と口にしていました。多くの人が指摘をしたのが、充電ステーションの問題です。充電ステーションはEVの保有台数3に対して1程度が必要だと言われていますが、なかなか数が増えません。

中国の場合、数を増やすことよりも、その後の運用が粗いという問題もあります。充電ステーションの故障は放置され、実際に使える充電設備の数が増えません。また、駐車場不足に悩む多くの都市で、EV用の充電スペースに燃料車が駐車するというマナー違反が続出し、せっかくEVを買っても充電ができないという問題が、EV購入者の大きな不満でした。

充電ステーションの場所はスマートフォンの地図上で検索ができ、利用可能かどうかもわかるようになっています。しかし、利用可能だと確認をしてから行っても、そこの充電設備が故障をしていた、燃料車が駐車をしていたということが起こり、現場に行ってから初めて充電できないということがわかるということから、EV購入者の不満が大きくなっていきました。

 

さらに、高速道路を走行すると空気抵抗が大きくなり実際の航続距離が大幅に短くなるため、次のサービスステーションにたどり着くことができず、バッテリー切れで路肩で立ち往生をするということもしばしば報道されるようになりました。

また、バッテリーは低温下で出力性能が落ちることも大きな問題になりました。北方の冬では航続距離が短くなり、バッテリー切れで立ち往生をしてしまうと、ヒーターも使えません。場合によっては命に関わることもあり、救援をしてもらうという事故も起こるようになりました。

さらに極め付けは、2018年には、接触事故を起こした時に、EVのバッテリーが激しく発火をするという事態も起こります。

このような中で、あるEVオーナーがネットで公開した「EVは粗大ゴミ。買ってはいけない」という文章が多くの人に読まれるなど、EVシフトに対する市民の気持ちはどんどん冷めていったのです。

 

さらに、購入補助金も縮小がされていきました。政府の思惑としては、当初は商用車の需要でEVシフトが始まり、2018年ぐらいまでには商用車の需要が一巡をして低下をしてくる。しかし、それと入れ替わるように個人需要が出てきて、EVシフトは軌道に乗るというものだったのでしょう。

ところが、実際は商用車の需要が一巡をしても、個人需要が伸びなかったのです。その中で、2017年には購入補助金が、航続距離80km以上に2万元と減額をされ、2019年からは航続距離250km以上のEVに対して1.8万元とさらに減額をされました。

特に2019年の減額は、専門家からも批判を浴びました。この状況で、購入補助金を減額すると、個人需要が完全に落ち込んでしまうというものです。

実際、2019年の新エネルギー車の販売は、初めての前年割れを起こし、EVシフトの先行きに危険信号が灯るようになりました。この時点では、政府のEVシフト政策は失敗だったと言っても差し支えがなく、実際にメディアはそのような批判的な論調を展開しました。

さらに、2019年末から2020年春にかけて、新型コロナの感染拡大が始まり、もはやEVシフトの失敗は決定的だと思われるようになったのです。

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▲中国の新エネルギー車の販売台数推移。ゆっくりとだが進んできたEVシフトは、2019年に購入補助金が大幅減額される中で前年割れを起こした。ところが2020年後半になってEVが突如として売れ始める。2021年は前年の2倍に届きそうな勢いになっている。乗用車市場信息聯席会(CPCA)の統計より作成。

 

ところが、2020年後半になって、新型コロナの感染状況が落ち着いてくると、新エネルギー車が「突如として」売れ始めました。多くのメディアが「突如として」という言葉を使い、驚きを持って報道しました。

2020年には過去最高の販売台数を記録し、2021年はさらに販売が好調で、1月から9月までの統計で、すでに昨年を大きく上回っています。通年の統計では、昨年からの倍増も可能な勢いです。

この突然の変化は、もちろん自動車メーカーの努力が大きいですが、消費者側の意識も大きく変化をしたことがあります。その変化が、最初にあげた3つの変化でです。

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▲2021年1月から8月までの車種別累計販売台数。EVシフトは小型「宏光MINI EV」とテスラが牽引をしている。低価格の宏光が大ヒットしていることも驚きだが、高級車に分類されるテスラも都市部で売れている。中国汽車工業協会の統計より作成。

 

また、地方都市である広西チワン自治区柳州市が、独自政策によりEVシフトに成功をしていることが、ひとつの成功モデルとなり、他の都市にも広がっています。

EVシフトというのは、多くの国で「環境などの意識の高い人」「高級EV」「都市男性」が中心になっています。しかし、中国のEVシフトは「普通の人」「小型EV」「女性」がリードをしているのです。「環境」というキーワードから切り離して、「利便性」に焦点を絞ったことにより、EVシフトが進みました。

このような変化はどのようにして可能になったのでしょうか。今回は、中国のEVシフトがなぜ成功の軌道に乗り始めることができ、柳州モデルとも言われる柳州市はどのような政策を実行したのかを紹介します。

 

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今月発行したのは、以下のメルマガです。

vol.096:国潮と新国貨と国風元素。中国の若い世代はなぜ国産品を好むようになったのか?

 

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