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新小売化で売上を伸ばした百貨店「銀泰百貨」。その鍵はスタッフと顧客のバインドの強化

中国でも、高級品を正価で販売する百貨店は、どこも苦しんでいる。同じものがECでずっと安く購入できるからだ。その中で、銀泰百貨はアリババと協働して新小売化を進め、売上を伸ばすことに成功している。新小売化することで、効率化をコストを下げるだけでなく、スタッフと顧客のバインドを強化することに成功したからだと中国新聞網が報じた。

 

苦境に立たされる都市型百貨店

銀泰百貨(Intime)は、杭州、北京、武漢など9都市28店舗を展開する大型百貨店。主力商品は、化粧品や女性用衣類で、伝統的なスタイルの百貨店だ。都市の中心部に出店をしており、価格は高め、高級品を中心に、経済的に余裕のある都市ホワイトカラーに支持されている。

近年、中国でもこのような伝統的スタイルの百貨店は、軒並み経営に苦しんでいる。ECを使えば、同じものがかなり安く手に入るからだ。商品を見るために百貨店に行き、気に入った商品を見つけたら、ECで安く手に入れる。そういうショールーム化も起きている。

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▲銀泰百貨は杭州市を中心に、9都市28店舗を展開する百貨店チェーン。高級品を正価で販売するスタイルの百貨店は、どこも伸び悩んでいる。その中で、銀泰百貨は新小売化をすることで、売上を伸ばしている。



新小売化をすることで業績を伸ばす銀泰百貨

その銀泰百貨が新小売に対応することで、業績を伸ばしている。「2018ー2019中国百貨小売業発展報告」(中国百貨商業協会)によると、調査をした90の百貨店チェーンのうち、38チェーンが売上が前年割れになっている。その中で、銀泰百貨は37%も売上を伸ばし、中国の百貨店チェーンの中では最高の伸び率となった。オンライン会員は1000万人を超え、売上の30%程度がオンラインからのものとなっているという。

5年で、EC化比率を50%にする目標を立てており、それが達成されれば、ネット上にもうひとつの銀泰百貨チェーンが出現することになる。

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▲銀泰百貨では、化粧品を中心に新小売化を進めている。補充買いの人はECを利用し、アドバイスを求める人が店頭を利用するようになり、売り場スタッフは「売り子」ではなく「コンシェルジュ」になっていった。

 

補充買いはECに、アドバイスが必要な顧客は店舗に

銀泰百貨では、独自のECアプリ「街」を使って、店舗在庫を翌日以降配送する店舗型ECを行っていたが、本格的に新小売化が始まったのは、2017年1月にアリババと提携して始まった「私有化粧品購」計画だ。26億ドル(約2900億円)を投資するという大規模なものだった。

化粧品売り場に関しては、宅配便ではなく、アリババの即時配送を活用し、10km圏内2時間配送を行う。現在18店舗で実施されている。また、10-30km圏内への翌日配送も一部の店舗で試験中だ。

最も歓迎されているのは、10km圏内2時間配送で、銀泰百貨は市の中心部に店舗があることが多く、その周りにはオフィス街が多い。そのため、「出社したけど口紅を忘れた」「午後から来客がある、出張にいくのでファンデーションがすぐ欲しい」というニーズが相当数ある。

商品が決まっている消耗品の補充購入はECに流れ、新しい商品を探してカウンタースタッフのアドバイスがほしい顧客が店舗にくるようになり、スタッフの業務負担は減り、しかも、本来のアドバイザー、コンシェルジュとしての業務に割ける時間が増えた。しかも、店舗発信のECであるため、ECの売上も店舗の売上になるため、売上高は2年前から倍増しているという。

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▲店頭でも、顧客のEC、店頭での購入履歴を簡単に見ることができるため、スタッフの専門知識だけでなく、データも見て、パーソナルなアドバイスができるようになっている。

 

コスト削減分は共通クーポンで還元

特に大きな効果があったのがクーポンキャンペーンだ。銀泰百貨では、新小売に対応し、販売コストが下がって売上高が増加した。その利益分を、価格を下げるのではなく、会員向けに優待クーポンを配布することで還元をしている。

このようなクーポンは、店頭販売のみの時代は、印刷をして配布をしなければならず、顧客から見れば店頭までいかなければ利用できないものだった。それが現在では、街アプリなどに配信をしている。

店頭、ECで共通したクーポンであるところがポイントで、忙しくて店頭にこれない消費者が、クーポンの有効期限間際にECで注文をする。「クーポンはたくさんもらえるのに、結局、使う機会がない」という消費者の不満を解消したため、クーポン利用率が大きく上昇している。

 

消費者とのバインドを強化する「淘姐」

また、2019年4月には、「淘姐」と呼ばれる100名のスタッフからなるチームを立ち上げた。淘姐とは、「カウンターを探す女性スタッフ」といった意味で、カウンタースタッフが販売している商品を取り上げて、Tik Tok風のショートムービーで紹介をするというものだ。

100人のスタッフは内容をそれぞれに工夫をし、単なる商品紹介ではなく、街中に出てどのようなシーンでどのような商品が映えるかを紹介するなど、Tik Tokの網紅(インフルエンサー)に近い動画を配信するようになっている。

昼休みにこの動画を見ている人は多く、紹介した商品が昼すぎに2時間配送でオフィスに配送する注文が大量に入るという。

また、この淘姐には、会員がチャットで連絡を取ることもでき、商品の詳細について直接尋ねることも可能だ。

従来のカウンタースタッフは、カウンターでずっと立って、客がやってくるのを待つのが仕事だった。しかし、今ではカウンターの奥に座って、スマートフォンでお客に対応するのが大事な仕事になっている。

また、淘姐はカウンターで働くスタッフなので、来店客が「あの動画を配信した人」として、気軽に声をかけてくるようになった。スタッフの「顔が見える」状態になり、店頭でもスタッフを指名して、商品購入の相談をする人が増えている。

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▲淘姐による商品紹介のショートムービー。実際の売り場スタッフが配信をするため、店舗に行けば実際にその人がカウンターの中にいる。スタッフと顧客のバインドを強化することにつながっている。

 

新小売は効率化だけでなく、顧客とのバインドを強化する

新小売は、オフライン購入体験とオンライン購入体験を融合することで、顧客の都合に合わせて様々な購入方式が選べるようになることが最大の利点だ。「店舗にいく時間がない、面倒だ」と感じればオンライン購入すればいいし、「現物を見ないと心配だ」と感じればオフライン購入すればいい。購入方式の選択の幅を広げることで、購入体験の痛点を消滅させ、購入機会を増やすことが狙いだ。

銀泰百貨の新小売は、それだけではなく、スタッフと顧客の結びつきを強化する施策にもなっている。百貨店という大きな商店で、顔なじみのスタッフがいるという人はそう多くはない。その百貨店でしか買い物はしないという一部の富裕層に限られる。

しかし、淘姐はオンラインで顔馴染みになることができる。新しい商品の購入相談なども気軽にできるようになった。会員のデータは自動的に集積されており、店舗側では、その顧客の基本情報や購入履歴を見ることができる。淘姐はそれを見て、適切な案内をすることができる。このようなデータは、銀泰百貨全体で共有されているため、旅行先、出張先などでも銀泰百貨を利用すれば、適切な購入アドバイスをしてもらえる。

銀泰百貨は、新小売を顧客の利便性、店舗の効率化ということだけでなく、顧客との結びつきをいかに強化するかという目的で活用している。