中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

欧州で売れ始めた中国製e-Bike。中国の自転車製造が強くなった原点はシェアリン自転車騒動

中国独特の乗り物「電動自転車」が、欧州だけでなく米国でも売れ始めた。2023年の輸出品の中では最も成長が期待できる製品として注目をされている。シェアリング自転車騒動で、中国の自転車製造は鍛えられ、価格と品質のバランスで他国製品を圧倒していると運営研究社が報じた。

 

中国の電動自転車はこがなくても自走する

中国の電動自転車は、日本のアシスト方式ではなく、こがなくてもバッテリーにより自走をする。最高速度は時速25kmに制限されているが、疲れない乗り物として普及をしている。電動スクーター、電動バイクと違い、あくまでも自転車という建て付けであるために、一応ペダルがついているが、使うことはほとんどない。自転車であるために免許が不要で乗れるという点が受け、保有台数は3億台を突破し、自動車よりも多く、中国で最も普及している乗り物になっている。

▲DYUのe-Bike。クラウドファンディングで立ち上げたスタートアップだったが、欧州の需要が強いことがわかり、海外事業に注力を始めている。

 

日本と海外で異なるe-Bikeの定義

この電動自転車が、e-Bikeとして欧州や米国で売れ始めている。e-Bikeの定義は日本と海外で異なっている。海外のe-Bikeの多くはペダルを漕がなくても電力による自走をする中国タイプだ。ペダルを漕ぐと加速をし、漕ぐのをやめると自走に戻る。日本の法律では、自転車ではなく、原付自転車(電動バイク)に相当するため、運転免許とヘルメット、保険加入が必須となる。

一方、日本国内では電動アシスト自転車をスポーツタイプにしたものがe-Bikeの名称で販売されている。こちらはあくまでもアシスト自転車なので、ペダルを漕ぐのをやめると減速し、停止をする。自走はしない。

 

中国よりも海外で売れた折りたたみe-Bike「DYU」

このe-Bikeで最も成功したのは、2016年に創業した大魚智行車(ダーユー、DYU、http://www.dyu.vip/)だ。DYUは折りたたみができる電動自転車を製造するために、淘宝網タオバオ)のクラウドファンディングを利用して、40日間で1200万元を獲得し、最初の製品を出荷した。

その後、新製品を開発すると、中国内にも需要はあったが、それ以上に海外での需要が強いことに気がつき、海外事業に注力をし始めた。これにより、2021年には60カ国、100万台以上を販売した。

▲ハンドルの部分を折りたたむと1m以内に収まる。重量はe-Bikeとしては軽量の14kg。車のトランクには問題なく入り、携行バッグに入れて鉄道に持ち込むことも可能になる。

 

高級e-Bikeを開発するTENWAYS

また、深圳市十方運動科技(シーファン、TENWAYS、https://www.tenways.com)も注目を浴びているe-Bike企業だ。2021年5月に創業されたが、オランダにある欧州本部がブランディング、販売などを行い、深圳では研究開発、サプライチェーン拠点などを持っている。

典型的な深圳発のグローバル企業で、2021年のエンジェル投資から高瓴創投(ヒルハウスインベストメント)など中国のベンチャーキャピタルが投資をし、2022年にはテンセント投資とアリババが投資をし、さらに2023年にはルイ・ヴィトン系の投資会社「L Caterton」が投資をして注目されている。DYUと方向性は大きく違い、高級e-Bikeを開発している。

▲高級e-Bikeを製造販売するTENWAYS。オランダを拠点に販売を行い、深圳で開発製造をするグローバル企業。

 

欧州で人気が高まるe-Bike

このe-Bikeは、欧米で急速に売れている。Statistaの統計によると、欧州で2009年に売れた電動自転車は約50万台だが、2020年には470万台に増加をしている。また、2021年に米国のe-Bikeの売上は240%増加した。一般の自転車は15%成長にとどまっている。

World Economic Forumの予測によると、2020年実績と2025年の予測によるe-Bike市場は、600万台から1900万台に成長をする。特に欧州では450万台から1200万台になり、米国でも60万台から480万台に大幅増加をすると予測されている。

 

シェアリング自転車騒動で中国の自転車製造能力が鍛えられた

この中で、中国企業は大きな存在感を持ち始めている。DYUはすでに米国のe-Bike市場の35%のシェアを占めている。2022年のe-Bikeの世界出荷台数は約800万台程度だと推測されているが、中国は300万台を輸出し、1/3以上を占めている。

なぜ、中国企業は存在感を出すことができたのか。それは品質と価格だ。中国では、2017年をピークにシェアリング自転車が大流行をし、ofo(オーエフオー、オッフォ)とMobike(モバイク)を中心に大量の自転車が街中に投入される競争が起きた。この時に、従来の自転車企業だけでなく、新たなに創業する自転車関連企業も多く、技術とサプライチェーンが徹底的に鍛え上げられた。現在、自転車関連企業は83万社あり、e-Bikeを生産しているメーカーも数百社にのぼっている。e-Bikeの輸出が好調であることから、今後もe-Bikeを生産するメーカーは増え続けていくことになる。

また、中国はSHEIN、Temuなどのアパレル、日用品の領域で越境ECのビジネスモデルの成功例が生まれている。多くの中国企業が、このような越境ECを利用して、需要の強い欧米での販売に期待をしている。e-Bikeが中国の特産品として認知される日がやってくるかもしれない。

▲2017年頃、中国ではシェアリング自転車の競争が激化をし、過剰な自転車が投入されたため、街中に自転車の墓場が現れるほどになった。しかし、この時に、自転車関連産業が鍛えられ、現在の中国製自転車は高品質と低価格を両立できるようになっている。