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ATMで現金化が可能に。白熱するスマホ決済vs銀行

甘粛省蘭州市都市銀行である蘭州銀行が、アリペイ、WeChatペイなどの残高を銀行ATMですぐに現金化できるサービスを始めたと品玩が報じた。銀行がこのような現金化サービスを提供するのは初めてのことだという。

 

スマホ決済の残高を即現金化できるサービス

甘粛省蘭州市都市銀行、蘭州銀行は、アリペイ、WeChatペイの残高を銀行ATMで現金化できるサービスを始めたと発表した。蘭州銀行の銀行口座も不要で、もちろん銀行カードも必要ない。現金化したい金額を入力後、ATMに表示されるQRコードを読み込んで、アリペイまたはWeChatペイから送金を行うと、その場で現金が出てくる。

ただし、1回5000元(約8万3000円)まで、1日2万元(約33万5000円)までという制限があり、手数料に0.3%が必要となる。

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▲ATMで、スマホ決済の残高を現金化する手順を紹介した蘭州銀行の説明。銀行口座や銀行カードが介在せず、スマホ決済口座さえあれば、現金化ができる。

 

現金化が面倒だったスマホ決済

従来、アリペイなどの残高を現金化するには、自分の銀行口座に送金をして、銀行カードなどを使ってATMから現金を引き出すということが必要だった。銀行口座に送金する手数料も0.3%で、ATMに利用手数料はほとんどの銀行で無料になっている。今回の蘭州銀行のサービスは、自分の銀行口座を経由させる手間がなくなるものだ。

また、銀行口座への送金は、銀行の営業時間内のみで、営業時間内であっても2時間ほどはかかる。それが即時現金化できることになる。

 

ライバルだったスマホ決済と銀行が手を結んだ

このサービスは、「少し便利になった程度」だと多くの消費者から受け止められているが、金融関係者にとっては大きなニュースになっている。なぜなら、現金を扱う銀行と、スマホ決済のアリペイ、WeChatペイは、強烈なライバル関係にある。それが、スマホ決済を促進するようなサービスを銀行が始めた。反スマホ決済の銀行関係者からすれば、蘭州銀行は裏切り者に見えるかもしれないし、将来を見越している銀行関係者にとっては時代を先取りしたように見えるだろう。

今後、銀行とスマホ決済は、複雑に絡み合いながら、中国の金融業界を激変させていくことになる。

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▲思い切った施策を打った蘭州銀行。銀行団から見れば、”裏切り”にも見えるこの決断が、スマホ決済と銀行決済の将来を大きく変えてしまうかもしれない。

 

企業間では、銀行間決済が主流

スマホ決済は、個人消費の分野では主役の決済手段になっているが、企業間取引ではまだ現金(銀行決済)が主役だ。

例えば、多くのホワイトカラーが、もはや給料をアリペイなどで支払ってもらいたいと思っている。現状は、銀行振込であり、その残高をわざわざスマホ決済口座に移して使っている。直接、スマホ決済口座に給料を振り込んでくれた方がありがたい。

しかし、支払う企業の側から見ると、大きな問題がある。地方や業種によって異なるが、雇用者への給与の一定割合は”現金”で支払わなければならないことになっているからだ。

スマホ決済の残高は、現金ではなく、あくまでもポイントにすぎない。そのため、スマホ決済で給与支払いをすると、それは現物給与ということになり、中国では現物給与は「みなし販売」となり、売上を立てなければならなくなる。社員に支払うべき現金給与によって、現物を販売したということになるのだ。税務処理上、さまざまな問題が発生する。

また、企業間での取引も、銀行経由、つまり現金が主流だ。技術的にはスマホ決済にすることもできるが、その場合、税務上の問題、監督官庁の規制などの問題などがあり、簡単にスマホ決済に変えることはできない。

 

スマホ決済と銀行が手を結べば、通貨革命が起こる

スマホ決済が普及をしたといっても、それはあくまでも個人消費の分野での話であって、企業間取引にはほとんど使われていない。もし、企業までスマホ決済を利用するようになれば、アリペイ、WeChatペイは、“第2の通貨”になることができるだろう。そうなると、スマホ決済を軸にしたビジネスがもう一度、爆発的に進化することができるようになる。

スマホ決済が“第2の通貨”になるためには、運営会社のアリババやテンセント単独では無理で、どうしても銀行の協力が必要になる。今回の蘭州銀行のサービスは、このスマホ決済と銀行の提携の第一歩になる可能性があるのだ。

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スマホ決済と銀行決済の熾烈なライバル関係

スマホ決済運営企業と銀行をバックにした銀聯は、これまでライバルとして激しく火花を散らしてきたし、現在でもその関係は変わっていない。

個人信用度の問題からクレジットカードが普及しなかった中国で、デビットカード銀聯カードは、電子決済の主役になった。訪日中国人の“爆買い”の決済手段はほぼ全員が銀聯カードだった。

ところが、元々はアリババが運営するECサイトタオバオ」のポイントにすぎなかったアリペイが、スマホ決済を始めると、その導入のしやすさから、中国国内の電子決済の主役となり、銀聯カードは急速にシェアを落としてしまった。

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スマホQRコード決済の標準化で主導権を握りたい銀聯

すると、銀聯QRコード方式のスマホ決済に参入。それだけでなく、銀聯が主導をして、QRコード決済の国際規格の標準化を行った。銀聯スマホ決済は、当然この標準規格に準拠をしているが、アリペイ、WeChatペイは修正をしなければ国際規格に準拠できない。海外の加盟店は、当然ながら標準規格に準拠したスマホ決済=銀聯を選ぶことになる。

つまり、銀聯は、中国外でのQRコードスマホ決済でシェアを握ることで、反撃に出ようとしているのだ。

 

スマホ決済の次の顔認証決済に踏み込むアリババ

すると、今度は、アリババは、蘭州銀行のような地方の都市銀行との提携を進め、同時に、QRコードの次の技術として、顔認証決済(アリババはSmile to Pay、スマイル決済と呼んでいる)を強力に推し進めている。まるで、銀聯という秦帝国を倒すために、項羽と劉邦が怒涛の進撃をしているような有様なのだ。

この銀聯とアリババ、テンセントの競争は、今後も続いていくことになる。中国の電子決済の主役を誰が握るのか、まだまだわからない。

 

※注記

その後の報道によると、政府からの命令で、この現金化サービスは一時停止になった。「非銀行決済機関ネット決済業務管理法」第9条の規定で、ネット決済機関は、外貨両替や現金化サービスを行ってはいけないことになっている。スマホ決済を利用して、資産を違法に海外移転されることを防止する目的の条項だ。アリペイは、この規定に触れないように、蘭州銀行と提携して、現金化を銀行に委託したわけだが、当局の見解は違っていたようだ。現在、調査中で、サービスの再開の見込みはたっていない。