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描いたのは人なのかAIなのか?生成AIが火をつけてしまった信頼への導火線

騰訊(タンシュン、テンセント)から配信されたモバイル、PCゲーム「白夜極光」のプロモーション用に作成された画像が、人ではなくAIが描いたのではないかと絵師とネット民の間で論争になっていると17171遊戯網が報じた。

 

ゲーム用プロモ画像が大炎上

「白夜極光」は、騰訊(タンシュン、テンセント)傘下の「巡回犬工作室」(TourDog Studio)が開発したスマートフォン向けモバイルゲーム。テンセントから配信をされ、中国だけでなく、日本でも好評を得ている。

しかし、そのプロモーション用に外部の絵師「卜爾Q」に依頼をした画像が大きな問題になっている。ネット民は、これが人間の絵師ではなく、AIが描いたのではないかと指摘をしたのだ。

▲問題が指摘された最初のバージョンのプロモーション画像。4つの不自然な点が存在する。

 

4つの不自然な生成AIっぽい間違い

確かにこの絵にはおかしなところが多い。

1)クロスした脚で、上になっているのは右足のはずだが、指のつき方が左足のそれになっている。親指が内側にこないとおかしい。

2)右鎖骨の部分で、水着のストラップが折れ曲がっている。

3)あごの下に置いている左手の指が骨折をしているかのように不自然になっている。

4)左のバストのところで、ストラップが肌に密着をするように、不自然に折れ曲がっている。

このようなミスは、人間が描いていたら起こらないもので、AIに生成させ、それを修正して完成させたのではないかと炎上をしたのだ。

▲問題が指摘をされた4つの不自然な箇所。これにより、多くのネット民が画像はAIにより生成されたのではないかと疑った。

 

生成AIは進化をしても苦手な部分を残している

AIの進化が急速に進み、AIGC(AI Generated Content=AI生成コンテンツ)のレベルが急速にあがっている。画像の分野では、言語で画像の内容を指定すれば完成度の高い画像を出力してくれるサービスが複数登場している。

しかし、AIの画像生成にはまだまだ弱点もある。AIは人間の指の数が何本であるかを理解できず、手や足の指がおかしくなる。人間の骨格構造を理解できず、歪んだ立ち姿になってしまう。光と影の扱い方が統一されない、髪の毛の細かい描写が苦手など、細かいところを見ればまだまだ問題がある。

しかし、AIに画像を生成させ、それに手を入れて修正をし、完成させるということは、多くのプロの絵師が試し、チャレンジしていることだろう。プロの絵師にとって、AIGCはすでに描画ツールのひとつになろうとしている。

 

今後は制作過程を録画して公開する

この問題について、TourDog Studioは、微博(ウェイボー)でコメントを発表した。それによると、問題の画像は海外プロモーション用に、外部の絵師に依頼をして作成したもので、ゲーム内に使用する予定はないという。また、TourDog Studioのクリエイティブチームは制作にAIを使用していないとした。

問題の絵師の卜爾Qも、ウェイボーで、制作過程の図を示して弁明をした。構図の調整などをし、制作には数十時間はかかっているという。しかし、最終的な処理に問題があり、多くの人に迷惑をかけることになったとして謝罪をしている。また、今後は、このような論争を起こさないために、制作過程をライブ配信するか、録画をしておき、適切なタイミングで公開することを表明した。

▲卜爾Qは騒動に対して、釈明のメッセージを公開したが、AIを使っていないとは断言をしなかったため、火に油を注ぐ結果となった。

▲卜爾Qが公開した制作過程の図。暗に「AIは使っていない」と証明しようとしたものだが、言葉では「AIを使っていない」とは断言をしなかった。

 

修正画像にも不自然な点が

しかし、これが火に油を注ぐことになってしまった。なぜなら、卜爾QはAIを使ったとも、使っていないとも断言をしていないからだ。そして、修正された画像が公開され、左手の指の不自然さ、右側鎖骨付近のストラップの不自然さは修正されたが、左胸のストラップの不自然さ、右足の指のつき方についてはそのまま修正されていない。

▲修正された最新の画像。しかし、2つの不自然な点が放置されたままになっている。

 

信頼の導火線に火がついてしまった

この騒動に、卜爾Qのファンたちから失望の声が上がっている。多くのファンが、「AIは新しい時代の筆や絵の具」と考え、絵師がAIを使うことを許容をしている。今回の件は、仕上げに問題があったが、さまざまな時間的な制約があったのだろうと労っている。

しかし、一方で、もはや絵師は信用できないと言う人もいる。問題の絵が最初から人が描いのであれば起こらないはずの不自然さが残っており、AIで描いたのは明白であり、しかも絵師はその制作過程の図まで出してきているが、これは後からあわてて描いたのではないかとまで疑っている。

絵というのはその絵師の創作性を楽しむためのもので、AIに描かせるのであれば鑑賞する価値はなく、絵師という職業は不要になる。AIGCは信頼の導火線に火をつけてしまったという人までいる。

卜爾Qが表明したように、今後は、制作過程を録画し、それを公開しなければならないのかもしれない。それはちょうど、食品工場や飲食店が調理過程をすべて顧客に公開するのと同じだ。それは透明性が高い素晴らしい社会なのか、それともエビデンスなしには何も信用しない殺伐とした社会なのか、いずれになるのかは今は誰にもわからない。