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北京冬季五輪の開会式。「雪花」の演出を陰で支えたAIoTテクノロジー

600人のぼんぼりの鳩を持った子どもたちが集まり、雪の結晶とオリーブの枝で作られた聖火台が光り出す。この印象的な演出「雪花」を支えていたのは、AIにより三次元座標を計算するテクノロジーだったと21世紀経済報道が報じた。

 

聖火台を製造したのは京東方

北京冬季オリンピック大会の聖火台が中国でも大きな話題になっている。雪の結晶のような聖火台で、トーチをセットすると、光が四方八方に広がるというもの。小さく、ささやかな聖火は、持続可能性を重視するこれからの時代と、火が象徴する人類の文明は壊れやすく、大切に守っていかなければならないものだというメッセージが込まれられていると高く評価された。

この聖火台を設計、製造したのは、液晶ディスプレイなどを製造する京東方(ジンドンファンBOEテクノロジー)。直径14.89mで、96の雪の結晶型と6つのオリーブの枝を模した部分が組み合わさっている。これに55万個のLEDが使われている。

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▲多くの人から注目された聖火台。雪の結晶とオリーブの枝からできている。制作をしたのは京東方。

 

開発は難航。500枚の設計図面と10のプロトタイプ

しかし、開発は難航した。京東方の開発チームは、500枚以上の設計図を書き、10のプロトタイプを試作したという。最も難航したのは、LEDの配光(広がり方)を絞り込むことだった。この配光の調整により、雪の結晶を感じさせる輝きが生まれることから、最も気を遣った部分だという。

また、中心に聖火トーチをセットすると、光が聖火台の中心から周辺に広がり、さらに会場地面の巨大LEDスクリーンとも連動して、小さな聖火が会場中に広がる演出がある。これには京東方が開発していたAIoT技術が使われた。

さらに、LEDスクリーンとの連動には、LoRa(Low Power Wide Area、低電力広域無線通信)が採用されているが、どうしても通信のタイムラグが生じるため、巨大スクリーンとの連動にも調整が必要だった。

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▲会場外には、システム間の移動基地局も設置された。

 

視覚美術とテクノロジーを融合した巨大LEDディスプレイ

会場の地面には、世界最大となる8K高精細LEDディスプレイが敷かれた。面積は10393平米。29900×15096ピクセルで、10万:1のコントラスト比で映像表示ができる。

出演者の練習、リハーサルは5ヶ月間にわたって行われ、しかも本番は気温が零下30度になる可能性もある。さらに、雨、雪も想定される。単に動作するというだけでなく、耐久性に関しても工夫が必要となった。

開幕式の視覚効果を担当したチーム「黒弓」(ブラックボウ)の責任者である王志鴎氏は、視覚美術とテクノロジーをいかに高度に融合させ、美しさを表現するかが制作の大きなテーマになっていたという。

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▲「雪花」の演出。子どもたちの動きをリアルタイム補足し、その動きに合わせて、地面のLEDディスプレイに雪花を表示する。

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https://v.douyin.com/LxGfXKt/

インテルが公開している映像。雪花の演出にどのようにインテルの3DATが使用されたかを解説している。

 

リアルタイムで600人の三次元座標を計算する

その視覚美術とテクノロジーが見事に融合したのが、「雪花」と題された演出だ。風が吹いてくると、ぼんぼりになっている、平和の象徴である鳩を持った600人の子どもたちが会場の中を楽しそうに駆け回る。その時、地面のLEDディスプレイには子どもたちを追いかけるように雪花が表示される。

これは映像をつくっておいて、その通りに子どもたちを走らせるのではなく、子どもたちを自由に走らせておいて、その座標をリアルタイムで読み取り、映像を生成し、表示している。

会場に4台のビデオカメラが設置され、子どもたちの動きをリアルタイム撮影する。この映像からAIにより人を認識し、4台の映像を合成することで、子どもたちの三次元座標を1人1人計算する。この技術はインテルの3DAT(3Dアスリートトラッキング)が使われている。元来は、サッカーなどの試合でアスリートの動きを記録し、試合の戦術などに役立てる技術だ。

子どもたち1人1人の動きに合わせて雪花の映像を表示し、さらに、子どもたちの動く方向、動く速さを計算し、雪花のかすれ具合の効果を追加する。

600もの動体の三次元座標をリアルタイム補足し、それに対応した映像表示を行ったのは3DATでも初めての試みだという。処理時間のタイムラグは最大でも数十ミリ秒程度に収まり、関係者は満足のいく結果が得られたとしている。

入場行進により、各国の名前が入った雪の結晶が集められ、子どもたちによって鳩が集められ、これにより雪の結晶とオリーブの枝からなる聖火台が完成する。その中央に点火された小さな炎が光となって会場中、世界に向かって広がっていく。その素晴らしい演出、視覚効果をテクノロジーが支えていた。

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▲子どもたちの動いた跡には雪花の軌跡が表示される。子どもたちの三次元座標をリアルタイムで計算して表示されている。