中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

イノベーションを起こす女性起業家たち。過去にとらわれない自由な発想力

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 089が発行になります。

 

今回は、中国で活躍をする女性たちをご紹介します。

 

毎年富豪ランキングを発表している米「フォーブズ」誌が面白いデータを発表しています。それは「世界の女性富豪」(The Richest Women in the World)というもので、日本でも馴染みのある人として、4位の「マッケンジー・ベゾス」(アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスの元配偶者)、ローレンス・パウエル・ジョブズ(アップルの創業者スティーブ・ジョブズの元配偶者)などの名前が見えます。

男女区別のない総合ランキングでは、ジェフ・ベゾスを筆頭にビル・ゲイツイーロン・マスクマーク・ザッカーバーグなどのいわゆるGAFA、IT企業の創業者の名前が並びます。多くの人が創業者、つまり一代富豪で、代々富豪の家系という人は上位には入らなくなっています。時代は変わったものだと思います。

となると、女性のランキングでも、身ひとつで自分の力だけで富豪になった人を知りたいと思うのが人情です。フォーブズはそのようなランキングも発表しています。

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▲フォーブズが発表している女性の富豪ランキング。下段は一代富豪、つまり自分で創業をして富豪になった人のランキング。

 

このリスト(Self-made fortune)がなかなか衝撃的です。なんと、上位10位のうち9人までが中国人だったのです(1人は香港人)。製薬、不動産、製造業などの創業者です。

人の心の中まではわかりませんが、中国には男女差別という考え方そのものがありません。社会主義国家ですから平等が最も重要なことで、いかなる差別もあってはならないという考え方だからです。そのため、毛沢東時代には女性も社会の中で働くことを求められました。それも、女性の体力を無視して、工場や建築現場などつらい労働を強いられることもあったようです。

そのため、現在でも、夫婦で共働きというのは当たり前です。専業主婦というのは、限られた富裕層のごく一部の話にすぎません。そのため、家事の分担もごく当たり前のように男女で分担されることになりました。仕事が終わると、夫婦でWeChatで連絡を取り合い、早く帰れる方がスーパーによって食材を買い、料理をするというのはごく当たり前の姿です。

 

共働き夫婦というのは時間がないため、手間のかかる家事は外部化をしてしまいます。そのため、中国では以前から外食が当たり前のことでした。朝起きると、飲食店に行って、油条(ヨウティアオ=揚げパン)と豆漿(ドージャン、豆乳)の朝食を食べ、出社するというのは北方の都市ではありふれた姿です。

家事も外部化をしてしまいます。今では人件費があがってしまって富裕層だけのものになってしまいましたが、通称「阿姨」(アーイー、本来はおばさんの意味)と呼ばれる家政婦を利用する家庭も少なくありませんでした。10年ぐらい前までは、農村出身の阿姨の人件費が安く、若い夫婦では難しいものの、日本でいう部長さんぐらいの家庭では利用をしていました。洗濯や掃除、子どもの世話、料理などを代行してくれます。

このような家事の外部化という下地があったため、女性も社会で男性と同じように活躍することができ、同時に現在人気となっているさまざまな生活サービスが生まれてくることになりました。フードデリバリー、新小売スーパー、ハウスキーパー派遣などです。

以前は、信頼できる阿姨に家事全般をやってもらいましたが、現在はで「買い物」「料理」「掃除」「洗濯」「介護」「子守り」といった専業サービス化が進み、必要になった時に必要なサービスをスマホから注文するというのが普通になりつつあります。これにより、出費を抑え、専門家のレベルの高いサービスを受けられるようになっています。

 

ただし、女性差別がまったくない訳ではありません。女性には出産という大きな人生イベントがあり、数ヶ月は仕事を休まなければなりません。また、子どもが小さいうちの子育ては母親が主体になり、自我が形成されてからは父親が主体になるという文化があるため、出産と子育ては働く女性としては大きな問題になります。

もちろん、中国でも産休、育休制度があり、一定割合の給与を支払うことが企業には義務付けられています。しかし、経営者にとっては頭の痛い問題で、女性は、労働者としてだけ見た場合、高コストの人材に映ってしまいます。また、出産で数ヶ月仕事を離れる可能性があることから、代わりが効かない重要なポジションを任せるわけにはいかないと考えがちです。中国の企業の報酬額は、成果給の考え方を基本にしているため、重要でないポジションの給与は安く、結果として、男女の平均給与に格差を生じさせることになっています。

 

このため、結婚していることを隠す「隠婚」(インフン)という現象が起きた時期がありました。女性が結婚しても、そのことを会社に報告せず、独身者であると装って仕事を続けることです。経営者の中には、女性に重要な仕事を任せて、いきなり出産で産休を取られるよりは、最初から結婚をした女性には重要な仕事を任せないという考え方をする人もいたからです。

これは明らかな女性差別で、労働仲裁事件も多発をしましたが、うまく解決することはまれです。結婚をしたから重要なポジションにつけないというのは「本人の能力不足」という主張がいくらでもできるからです。

 

このような問題は、現在でも中小企業ではときどき労働仲裁事件が起きていますが、大企業やテック企業ではまれになりました。事前に出産の計画などを会社側と話し合い、女性社員のキャリアを長期で考えるようになっています。

それができるようになったのも女性比率が高いからです。男性の上司が女性従業員のキャリアを考えるのではなく、女性の上司が女性従業員のキャリアを考えるようになっています。特にテック企業では、女性比率が50%近いという企業は珍しくありません。

 

それでもまだ課題は残っています。ひとつは上場企業の女性役員の比率が低いことです。「2019デロイト中国上場企業女性役員調査報告」(デロイト中国研究センター)によると、上場企業の女性役員比率は10.9%でしかなく、欧州の平均である22.6%、米国の14.2%から見ると大きく遅れています。テック企業だけを見ると、女性役員比率は12.5%となりますが、それでも米国よりも低い数値です。

面白いのは女性がCEOを務めている企業だけに絞ると、女性役員比率は33.2%と大きく上昇することです。つまり、女性が多く、高い地位についている企業では、女性のキャリアに対しても理解があるため、役員にまでなる女性が増えるのです。

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▲上場企業の女性役員比率。女性の社会進出が進んでいる中国だが、女性役員比率は欧州の平均や米国と比べて大きく遅れている。「2019デロイト中国上場企業女性役員調査報告」(デロイト中国研究センター)より作成。

 

また、「中国には賃金の男女格差は存在しない」と主張する人がいる一方、「中国にも賃金の男女格差が存在をする」と主張する人もいます。この矛盾する主張がどうして生まれるのか、その理由をひとつのデータが解き明かしてくれます。「2020中国職場性別報酬差異報告」(BOSS直聘研究院)では、報酬額別に報酬の男女格差があるかどうかのデータを掲載しています。男女ともに報酬を多い方から小さい方まで並べ、それぞれの25分位点(少ない方から25%)、50分位点(中央値)、75分位点、90分位点での男女の割合を比較しています。すると、報酬が低い領域では男女差はほぼ同数ですが、報酬が高い領域では圧倒的に男性が多くなります。

つまり、平社員レベルでは報酬の男女格差は存在しないものの、女性は報酬の多い重要な役職に就きづらいという傾向があるのです。このため、女性全体で見ると、報酬に差が生まれてしまっています。

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▲報酬が区別に見た報酬の男女格差。報酬が低い下位の方では男女割合はほぼ同じだが、上位になるほど男性の割合が増えていく。女性が重要な役職に就くことができてないことを示している。「2020中国職場性別報酬差異報告」(BOSS直聘研究院)より作成。

 

このような社会的ハンデがあるからなのか、それとも伝統文化に根付いた感覚なのかはわかりませんが、中国で活躍する女性たちは、非常に粘り強い人が多く感じます。しがみついてでも、何がなんでも成功させるという人が多いと感じます。もちろん、男性には文化的に「努力をしている姿を人に見せたくない」というところがあるので相対的にそう見えるだけかもしれませんが、経営している商店の経営が難しくなって、夫が「もうだめだ」とあきらめると、妻が夫を叱咤して再建させるなどという話はよくあります。

もうひとつは、よく考え抜くということです。目の前のことだけでなく、長期にわたって物事を考えるので、行動をするときにはとても聡明に見えます。女性起業家だけでなく、農村から出てきて工場に勤めているような女性でも、5年先、10年先にどうすべきかということを仲間と話し合い、考えています。

そして、女性ならではの発想、視点をうまく活用します。それを利用して、女性ならではのビジネスを企業する人もいれば、男性経営者にオルタナティブな視点を与える役割をして、参謀として大きな働きをする女性もいます。

そこで、今回は、そのような女性企業家、参謀をご紹介し、中国の女性がどのようにしてイノベーションを起こしているのかをご紹介します。

 

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