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アリババという企業とその創業者である馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)は、中国人にとって特別な存在です。近い将来、ジャック・マーは、偉人として教科書に載ることになるでしょう。
ジャック・マーが多くの人の尊敬を集めるのは、ビジネスを使って中国社会の課題を解決してきたからです。よくテック企業が創業する時に、創業者は「テクノロジーを使って世の中を変えたい」と口にします。しかし、実際に世の中を変えられる起業家はごくわずかでしかありません。中には上場に成功した時点で、本当はそこが出発点であるのに、ゴールに達したかのようにフェードアウトしてしまう起業家もいます。そういう人を非難するつもりはありません。長期間にわたって情熱を持ち続けることは、普通の人には簡単なことではないのです。
例えば、アリババは浙江網商銀行という銀行を傘下で運営しています。俗に「ジャック・マー銀行」などとも呼ばれています。
このジャック・マー銀行が面白いのは、利益がものすごく少ない銀行であることです。少しも儲かっていない。中国で最も利益を上げているのは中国工商銀行ですが、浙江網商銀行の年間の利益は、工商銀行の1日分にも満たないのです。
ところが、貸付顧客数は1200万人を超えていて、中国の主要銀行の中では頭抜けて多くなっています。第2位の建設銀行の5倍以上もあります。つまり、小口融資を基本にしている銀行なのです。浙江網商銀行は、中国版マイクロファイナンスなのです。
この浙江網商銀行は、中国の貧困農村の問題を解決する手段のひとつとして設立されました。中国の農村の貧困問題というと、とにかく貧しく、教育もなく、土地も痩せてという悲惨だらけのイメージをお持ちの方も多いかもしれません。しかし、実際はそうでもないのです。
まず、土地の地味は豊かなので、食べ切れないほどの作物が取れます。中国というのは世界の中でも土壌が最も豊かな国です。だからこそ、先史時代から人が住んで文明が興ったのです。
ところが、問題は、気候が厳しいために、栽培できる作物が小麦などに限られてしまうことです。同じものばかり大量にできる。飢えることはありませんが、食事としては味気ないものになります。そのために、中国は粉物文化が異常に発達しました。包子から餃子、小籠包、麺、饅頭。食感もそれぞれカリカリからモチモチまで、さまざまなものがあります。すべて原材料は小麦です。単一の食材しか手に入らない中、どうにかして食事を楽しもうとする先人の知恵です。
単一の作物しかできず、政府の政策として食材価格は安く抑えられているため、農村の最大の課題は現金収入に乏しいことです。作物は山ほどとれますが、売ってもたいした金額になりません。
一方で、近代化が進むと、農民もテレビやスマートフォンが欲しくなります。でも、そのお金がない。子どもを大学とまでは言わなくても、高校や専門学校ぐらいには進ませてあげたい。でも、そのお金がない。病気になったので医者に行きたい。でも、そのお金がない。生きていくということでは豊かな農村ですが、現代社会の生活を享受しようとすると圧倒的にお金が足りない。これが農村の貧困問題です。
これを解決する優れた方法は、小麦ではなく、より価値の高い作物を作り、高く売ることです。高級果物や特産物などを作ればいいのです。しかし、今度は、温室を建てたり、苗を買ったりするお金がない。
そこで、浙江網商銀行は、このような資金を貸し出す事業を行っています。温室を建てる資金を借りて、高級果物の栽培に成功をする。災害に見舞われた時、耕作地を放棄するするしかないところまで追い込まれても生活資金を借りて、耕作を継続する。そういう目的のために融資が行われます。
しかも、融資の実行が早い。浙江網商銀行では「310方式」を採用しています。310方式とは「スマホから3分で融資の申請ができ、1秒で審査と融資が実行され、人の介在は0」というものです。スマホから融資を申請すれば、瞬時に希望額がスマホ決済のアリペイに送金されます。銀行窓口に行く必要はありません。
この迅速な融資に使われているテクノロジーが「芝麻信用」(ジーマクレジット)=信用スコアです。芝麻信用はアリペイの口座の動きによって信用スコアが算出されるというものです。どんなものに支出をするかで、その人の経済的な信用力を計算します。この信用スコアがあるために、融資の審査が一瞬で終わるのです。災害に見舞われた農家にとっては、310方式は何よりもありがたいものです。
貸出金利も日利息0.03%と一般の銀行よりもかなり低く、信用スコアが高ければさらに利息が低くなります。
かといって、浙江網商銀行は慈善事業ではありません。利息も取りますし、わずかとは言え利益も出します。さらに、浙江網商銀行を利用して経済的に余裕が出た農民たちは、アリババのタオバオやフーマフレッシュを使うことになるでしょう。しっかりと、将来のアリババの顧客の育成もしているのです。
ここがジャック・マーの素晴らしいところです。社会貢献を慈善事業ではなく、営利事業として企画できる人なのです。
営利事業にする意味は持続性です。ジャック・マーは超人ではありません。いつか亡くなります。その資産は、法的に定められた人が相続することになります。もし、慈善事業として社会貢献をしていた場合、その相続人がジャック・マーの慈善事業を継続するかどうかはわかりません。
しかし、営利事業として行い、少ないとは言え投資家にはリターンがあり、従業員は給料がもらえるのであれば、社会貢献という使命に共感をした人が投資をし、働きます。必要とされる限り、永遠に続いていきます。浙江網商銀行がなくなる時は、社会課題が解決されて、浙江網商銀行が必要とされなくなった時です。
ジャック・マーは早くから、今日のソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)と共通する考え方を持っていたのです。
ジャック・マーのもうひとつの社会貢献事業=営利事業が「淘宝村」(タオバオ村)です。これは2009年からアリババが進めている大プロジェクトです。
農村の貧困を解決するために、農村の特産物をタオバオで販売する基地やインフラを提供するというものです。その道のりは簡単ではありません。成功例も出てきていますが、失敗例も出てきています。今回は、そのような成功例と失敗例を紹介しながら、この遠大なプロジェクト「タオバオ村」についてご紹介します。
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