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ファーウェイCEOの持ち株比率はわずか1.4%。それでも統治できる仕組み

ファーウェイの任正非CEOの持ち株比率はわずか1.4%でしかない。それでもファーウェイの決定権を握っているのは、上場をせずに、LLCに近い会社形態をとっているからだと企業導師朱国輝が解説した。

 

ファーウェイの売上高は、アリババ+テンセントを超えている

ファーウェイはすでに最大の中国IT企業になっている。ファーウェイは株式上場をしていないので、企業価値が算出できない。企業価値ランキングのようなものには顔を出さないため、目立たないが、売上高では群を抜いている。

2018年のIT企業の営業収入ランキングに、ファーウェイが公開した報告書の数字を当てはめてみると、ファーウェイは世界第3位、中国第1位の売上の企業になる。中国のIT企業三巨頭はBATからHATに移り変わっているが、ATにあたるアリババとテンセントの営業収入の合計をすら、ファーウェイは上回っている。

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▲ファーウェイは非上場であるため、時価総額ランキングなどには顔を出さないが、売上高で見ると、世界第3位。アリババとテンセントの合計を上回っている。

 

決定スピードを重視するために、あえて上場しない

ファーウェイはなぜ上場をしないのか。多くの非上場企業の狙いは、決定スピードだ。上場企業では、株式の持ち分に比例して議決権が決まる。創業者は創業当時には自社株のほとんどを持っているが、投資を受け入れるたびに持ち株比率は減っていく。投資というのは、資金を提供してもらう代わりに、株式を渡すことであり、つまりは決定権までも渡していくことになる。創業者の持ち株比率が50%を切ってしまったら、自分で何かを決めることはできず、主要株主の同意を得ることが必要となり、決定スピードが遅くなる。

これを嫌って、戦略的に上場をしない企業も多いし、上場企業であってもあえて上場廃止をすることもある。ファーウェイもこの決定スピードの問題を考えて、上場をしていない。

 

莫大な研究投資と、「富散人聚」で成長したファーウェイ

ファーウェイが成長してきた理由は主に2つある。ひとつは、利益をどんどん研究に投資することだ。このため、ファーウェイは数多くの特許を生み出し、技術力を誇る企業に成長してきた。これも上場していたら、過度の研究投資には異論が出ていたかもしれない。

もうひとつの理由が、創業者の任正非(レン・ジャンフェイ)の「富散人聚」という考え方だ。富を拡散して、人を集めるという意味だ。任正非CEOの持ち株比率はわずか1.4%でしかない。正確には、個人所有はわずか1.01%で、98.99%は社員持ち株会が所有している(任正非CEOは、さらに持ち株会を通じて0.39%の株を所有していて、合計で1.4%になる)。

つまり、優秀な社員にはどんどん株式を渡してしまうのだ。社員持ち株制度は、中国のIT企業では当たり前になっているが、ここまで徹底している企業は珍しい。

非上場なので、株価の差益で利益を得ることはできないが、会社が好調になれば配当が増えていく。退職をするときに、保有株を持ち株会に引き取ってもらえば、まとまった資金ができる。

この富散人聚の考え方が、優秀な人間をファーウェイに引き寄せ、社員はファーウェイの将来を自分ごととして考えることができる。

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▲ファーウェイは本社は深圳市だが、北側の東莞市に大規模な研究拠点がある。松山湖基地は、ヨーロッパのお城風の建築で、研究棟間を移動するための高山列車風の電車も走っている。

 

持ち株比率1.4%で統治できる秘密は中国版LLC

しかし、任正非CEOの持ち株比率はわずか1.4%。ということは議決権も1.4%ということだ。これでどうして、ファーウェイは決定スピードが速いのだろうか。

ファーウェイの本体は「華為技術有限公司」。ここの株式はすべて「華為投資ホールディング有限公司」が保有をしている。このホールディングカンパニーの株式のうち、1.4%を任正非CEOが保有している。

中国では2種類の会社が認められている。有限責任公司は株主が50人以下、株式有限公司は発起人株主が2人から200名まで。後者の「株式有限公司」は一般の株式会社と同じで、株式の保有比率がそのまま議決権割合となる。しかし、前者の有限責任公司では、公司法第42条の規定で、特別に約款を作ることで、議決権のあり方を別に定めることができるようになっている。つまり、国際的なLLC(Limited Liability Company、合同会社)に近い形態なのだ。

この約款により、華為投資ホールディングでは、任正非CEOと孫亜芳氏の2人が株主代表に任命されていて、重要事項はこの2人だけで決定できるようになっている。

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▲ファーウェイ創業時の営業拠点のひとつ。電話交換機を販売するビジネスからスタートした。当時は給料の遅配が相次ぎ、その経験から「富散人聚」というユニークな制度が生まれた。


創業当時、給料の遅配で借用書を発行したのが「社員が株主」の始まり

ファーウェイが創業した当時、ファーウェイは銀行からの借り入れもままならず、たびたび社員に給料が支払えないことがあった。その場合、ファーウェイは社員に対して借用書を発行した。

それでも給与を支払うことができないので、1990年から借用書を株式と交換する制度を始めた。1株1元換算で、利潤の15%を株主に配当するという制度だ。これが富散人聚の始まりになっている。

ファーウェイは、利益を研究開発に再投資し、社員=株主に分配してしまう。だからこそ成長することができた。もし、任正非CEOが株式を持ち続け、どこかで上場をしていれば、任正非CEOは世界有数の富豪になっていただろう。しかし、最初からそれを目指していたら、ファーウェイの成長はなかったかもしれない。ファーウェイは「社員が株主」という点でも、ユニークさを誇る企業なのだ。