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中国・夢の新交通システム「巴鉄」は、大掛かりな詐欺だった模様

米タイムズ誌で、2010年に「世界で最も優れた50の発明」に選ばれた「巴鉄」(バーティエ)が、その後、順調に資金を集め、昨年には河北省秦皇島市で試験路線の建設が始まり、第1号車両も公開された。しかし、一転して、技術を衣にした詐欺事件であることが明らかになり、巴鉄投資会社の責任者以下32名が逮捕される事態になったと捜狐が報じた。

 

渋滞解消の切り札として注目を浴びた立体バス

巴鉄は、交通渋滞に悩む中国の公共交通の切り札として、国内外から大きな注目を浴びた。2階建てバスの形状をしているが1階部分は空洞となっているのが特徴だ。全長22m、幅7.8m、高さ4.8mという巨大な車両で、約300人が乗車することができ、1階空洞部分は、車高2m以下の一般自動車が通行できる。巴鉄が停車しても、一般車両はその下をすり抜けることができ、逆に一般車両が渋滞中でも、その上を巴鉄が通行することができ、交通渋滞解消の切り札として期待された。

巴鉄は、2010年に北京で開催された第13回中国北京科学技術博覧会に出品されると大きな話題を呼んだ。主要な道路の交通渋滞を25%から30%解消し、地下鉄に比べて建設費は1/10、建設期間は1/3だと説明された。また、発明者の宋有州が小学校卒の学歴しかないことも、チャイナドリームの実現として話題になった。

当時の名称は「立体快巴」(巴はバスの意味)だったが、専門家からはさまざまな疑問も寄せられた。「カーブをどうやって曲がるのか?」「車高の高いトラックなどが通行していた場合どうするのか?」などだ。このような疑問に、発明者の宋有州は明快に答えることができず、立体快巴は次第に話題に上らなくなっていった。

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▲夢の交通システム「巴鉄」。1階部分が空洞になっていて、一般車両は1階部分を通り抜けることができる。渋滞を解消する切り札として期待されていた。

 

路線建設が集まり、800億円の資金が集まった

しかし、2016年になって、第19回北京国際科学技術産業博覧会に、「巴鉄」として出品され、再び大きな話題となった。車両のデザインは以前とほぼ同じだったが、河北省秦皇島市に試験路線を建設し、試験運行をすると発表したからだ。そして、白志明という人物が、巴鉄投資会社「華凱来」を設立、開発資金を募り始めた。

この投資会社の資料によると、調達規模は5000万元から1億元(約16億6000万円)で、年12%の配当を見込んでいた。

この投資会社は、秦皇島市政府との協議もまとめた。秦皇島市に建設する120kmの路線に必要な建設費は100億元(約1660億円)と見積もり、まず、投資会社の資金により、1kmの試験路線を建設する。2年以内に10kmのモデル路線を建設し、最終的に120kmの営業路線を建設する。モデル路線の建設に入ったところで、投資会社と秦皇島市政府の出資割合を改めて協議するということになった。そして、試験路線の建設が実際に始まり、試験車両の製造も始まった。

この状況を見て、個人投資家や企業が次々と巴鉄に投資を始めた。4万人が投資をし、48億8600万元(約810億円)が集まったと報道されている。

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▲披露された試験車両1号。確かに乗用車でも高さぎりぎりであり、トラックなどが通行するときはどうするのか疑問に思える。投資家はそこに気づかず、出資をしていた。

 

明らかになった社長のスキャンダル

ところが、この白志明はいわくつきの人物だった。過去に「スーパー水稲」を発明したとして資金を集めたことがある。1ヘクタールの水田から2万4000kgの米を収穫することができ、米に含まれるタンパク質の量は鶏卵よりも多いという触れ込みだった。日本の水田でも、1ヘクタールあたりの収穫量は豊作でも6000kg程度なので、常識外の数字だ。実際に、黒竜江省宝清県の農民に協力をしてもらい、大々的に栽培が行われたが、すべて育たず、収穫量は0だった。

このような報道が新聞などで行われるようになると、資金を引き揚げる巴鉄投資家も現れ、配当が遅れ始め、問題が大きくなっていった。投資会社は、不動産を処分をして、返還金を確保すると公表したが、すべての不動産を処分しても、投資金額の30%ほどにしかならない。

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▲公開された車内。駅は巴鉄の高さに合わせて設置される。まさに夢の交通システムの雰囲気だが、まったくの詐欺に利用された。

 

32名が出資法違反で逮捕され、800億円が消えた

さらに専門家から巴鉄に対する技術的な疑問も相次いで寄せられた。

大きな問題は車高だ。中国の法律では、車両の車高は最高でも4.5mと定められているのに、巴鉄は4.8mある。この最高車高4.5mに合わせて、信号機や標識が設置されているので、そのままでは、巴鉄が信号機などに当たってしまう可能性がある。

一方で、1階部分の空洞は2mしかないが、一般車両の車高は最高3.5mまでが許されている。車高の高いトラックなどが通行していた場合は、接触してしまう可能性がある。さらに、車両重量は100トンを超えると推測され、一般的な道路はこの重さを支える設計になっていないので、陥没などの事故が起こることが予想される。

投資会社は、このような問題は解決できると言っているが、道路強度を補強し、信号機や標識をより高い位置に付け替える、トラックやバスなど車高の高い車両の専用レーンを設けるなどの対応策をとった場合、建設費は地下鉄と変わらなくなってしまうのではないかという疑問も出された。多くの専門家が「高架式の都市交通システムを建設した方が賢い」と指摘した。

一部の投資家は、投資資金の返還を投資会社に申し入れたが、白志明代表との連絡がつかなくなった。7月になって、北京警察は、6月末に白志明以下32名を出資法違反の容疑で逮捕したと発表した。同時に、出資者保護のため、出資資金の保全を急ぐと公表したが、未だに48億元の行方がどうなっているかは解明されていない。

夢の交通システム「巴鉄」は、文字通り夢で終わることになった。

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▲車輪にはボギー機構などが付いているように見え、カーブも曲がれそうだ。車両後尾には信号機が点いていて、道路の信号と連動するという。

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