中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

「つながらない権利」に関する裁判の行方。どこにいても、残業代を支給すべきだという判決

北京市で「つながらない権利」に関する裁判が行われ、多くの人の注目を集めている。時間外に業務上の対応をした場合は、残業代を支払うべきだという判決が出た。中国でも「つながらない権利」に対する認識が広がろうとしていると央視網が報じた。

 

つながらない権利に関する判決

「つながらない権利」に対する認識が世界中で広がっている。つながらない権利とは、時間外や休暇中に電話やメール、メッセージを拒否できる権利のことだ。各企業は、従業員のつながらない権利を認める、時間外には自動応答のメッセージが返信される仕組みを導入する、適切な担当者に自動転送される仕組みを導入するなどの対応を急いでいる。

中国でこの「つながらない権利」に関する裁判が行われ、北京市第三中級人民法廷は、時間外に連絡を受けることは残業にあたり、企業側に残業代として3万元(約60万円)を支払うという内容の判決を下した。

 

時間外での業務対応は残業にあたる

李さん(仮名)は、2019年にあるソフトウェア開発会社に入社し、プロダクトマネージャーを務めていた。李さんは会社側と不定時勤務の労働契約を結んでいたが、会社側はどのような状況が労働にあたるのかの定義を示さなかった。これが後々、大きな問題になる。

李さんが担当するプロダクトのWeChatグループがあり、そこには李さんの他、従業員、顧客などもメッセージを投稿してくる。そして、問題が大きければ「釘釘」(ディンディン)などのビデオ会議システムで話し合いをすることになっている。李さんはプロダクトマネージャーであるため、勤務時間外でも休日でも、WeChatグループに返信をし、ビデオ会議をしなければならなくなる。

李さんは、これが時間外残業にあたるとして、2019年12月21日から2020年12月11日までに勤務日残業140.6時間、休日残業397.9時間、法定休日残業57.3時間分の残業代を請求する訴訟を起こした。

▲裁判に提出されたWeChatのチャット記録。簡単な返答だけではなく、指示を出すなどしているため、業務にあたるとして残業代の支払いが命じられた。

 

簡単な返信は残業にはあたらない?

第一審では、「簡単なコミュニケーション」であり、残業にはあたらないとされ、労働契約が不定時勤務であったこともあり、残業とは認められないという判断だった。しかし、納得ができない李さんが上告をしたところ、二審では一転して残業が認められ、残業代の支払いが命じられた。

第二審では、不定時労働勤務であっても、労働者と企業側が勤務時間に関する合意をする必要があり、労働者が同意をしていない時間に業務が発生した場合は残業と認めるべきだとした。また、技術の発展により、労働をする場所がオフィスであるか、それ以外の場所であるかは問題にならないとした。また、ソーシャルメディアによるコミュニケーションは、双方向のメッセージ交換が求められ、さらには会社側から作業指示を受け、指示書の転送、人員の配置、指揮などを行っており、「簡単なコミュニケーション」の範囲を超えており、なおかつ周期性と固定性が認められ、労働にあたるとした。

 

武漢市でも24時間待機は残業にあたるとの判決

昨2023年10月には、武漢市洪山区法廷は別の訴訟に対し、従業員の残業を認め、残業代5000元を支払う命令を出している。原告は2021年7月から11月まで、業務が終わって帰宅をしても、24時間待機を会社から求められ、問題が発生した場合は対応をしなければならない状態だった。実際には午前2時に、WeChatで業務に関する打ち合わせをしたこともある。

これも「周期性と固定性が認められる」として業務だと判断され、残業代の支払いが命じられた。

 

つながらない権利の現実と理想のギャップ

しかし、「つながらない権利」を厳密に適用することは現実にそぐわないところがある。責任者の時間外に突発自体が発生した場合は、連絡を取らざるを得ず、責任者も対応をしなければならない。そのため、時間外であってもメッセージを送ることは認め、そのメッセージに対する返信、対応は従業員が自分の裁量で行える(多くの場合は出勤後)ルールを設定する。一方、内容によって従業員がどのような状況であってもすぐに返信、対応をしなければならない場合は時間外残業として認め、規定の残業代を支給するべきだという考え方が広がろうとしている。つまり、会社は、従業員がオフィスにいてもいなくても、拘束をしている時間に対して給与を支払うという考え方だ。

しかし、具体的にどのような状況が労働にあたるのか、労働時間をどう計測するのか、難しい課題がある。中国でも、「つながらない権利」が認知されようとしている。

 

 

解答を教えるのではなく、考え方を教えるAI先生。対話型AIを搭載した学習タブレット「有道X20」

対話型AIを搭載した学習タブレットが登場した。問題の解答をいきなり教えるのではなく、考え方をステップバイステップで示していき、生徒に考えさせるAI先生「小P先生」が搭載されているとCCTV財経が報じた。

 

対話型AIが先生の学習タブレット

教育用デジタルデバイスを開発している網易有道(ワンイー・ヨウダオ)は、2024年1月3日に、学習用タブレット「有道X20」の発売を発表した。このX20には対話型AI大規模言語モデル「子曰」(ズーユエ)が搭載され、そのアプリケーションとしてAI家庭教師「小P先生」が搭載されている。対話型AIにステップバイステップで教わりながら演習問題に挑戦ができるというものだ。

このような対話型AIを使った自習教材は、すでにいくつも存在するが、そのほとんどは中国語や英語などの言語学習に特化されていた。しかし、小P先生は英語、中国語だけでなく、数学、物理、化学、生物学、歴史、地理、情報、総合科学など、主要10科目に対応をしている。また、学年は幼稚園から高校までをカバーしている。

▲学習タブレット「有道X20」の製品発表会。考え方を教え導く対話型AI「小P先生」が搭載されている。

▲学習用タブレット「有道X20」。幼稚園から高校までの主要10科目の演習問題が内蔵されている。



ステップバイステップで教えてくれる「小P先生」

問題は、対話型AIの教え方だ。宿題の中でわからない問題を尋ねて、一気に解答と解法を教えてしまうのであれば、単なるアンチョコになってしまい、生徒は次第に考えることをしなくなり、対話型AIの回答を丸写しするようになってしまう。

小P先生はここが工夫をされている。例えば、次のような算数の問題を例に、小P先生がどう回答し、どう指導するかを見てみよう。

 

問:赤いビーズ2個、緑のビーズ3個、黄色のビーズ4個をこの順番で糸につなげていきます。600個目にくるビーズは何色ですか?

回答:この問題を解くには、ビーズの繋ぎ方にくり返しがあることに注目しましょう。最初に何個のビーズの組み合わせが繰り返していくのかを数え、それから600個の中に何回のくり返しがあるのかを考え、最後に600個目のビーズがこの繰り返しの中の何番目にあるのかを考えます。

繰り返しは赤2緑3黄色4ですから、繰り返しの数は2+3+4=9となり、9個のビーズの並びが繰り返していきます。次に600を9で割ると、600個目のビーズが何回目の繰り返しの中のどの位置であるかが求まります。このような方法で、600個目のビーズの色を決めることができます。

このような考え方で計算をしてみて、途中でわからなくなったり、もっと詳しく知りたくなったら、いつでも聞いてください。アドバイスをします。

おわかりだと思うが、全部を解説するのではなく、考え方しか解説をしない。ここが小P先生の最大の特徴になっている。

 

問:600個目のビーズになるまで何回繰り返しがあるのかはどうやって計算しますか?

回答:600個目のビーズまでに何回ビーズの繰り返しがあるかは、600を繰り返しの個数で割ることで求めることができます。

繰り返しの数は、2+3+4=9で9個でした。つまり、600を9で割ると繰り返しの数を求めることができます。

600÷9=66余り6

この計算結果から、600個目のビーズは67回目の繰り返しの中の6個目のビーズであることがわかります。9個のビーズの並びが繰り返していくのですから、66回目の繰り返しのところで、66×9=594個のビーズが並んでいることになります。次の67回目の繰り返しの6番目が600個目のビーズになります。

このような計算方法で、600個目のビーズの色を決めてください。途中で疑問があればいつでも質問してください。

 

問:600個目のビーズは黄色だと思います。正解ですか?

回答:この答えがあっているかどうかを確かめてみましょう。

これまでに繰り返しのビーズの数は9個であり、600を9で割ると答えは66で余り6ということから、600個目のビーズは67回目の繰り返しの6個目であるということがわかっています。

この繰り返しは、「赤赤緑緑緑黄黄黄黄」ですから、1個目から2個目は赤、3個目から5個目までが緑、6個目から9個目までが黄色になります。ここから、600個目のビーズは67回目の繰り返しの6個目ですから、黄色であるということが言えます。

あなたの回答した黄色は正解です。あなたの計算方法と考え方は正確です、素晴らしいです。別の問題にも挑戦したい場合は、いつでも私に尋ねてください。

問:ありがとうございます、先生。

回答:礼には及びません。他の問題に挑戦したかったり、助けが必要な時はいつでも尋ねてください。楽しく勉強できることを願っています。さようなら!

▲高校数学などについても、このような考え方を中心にした教え方をしてくれる。

 

対話型AIにより、考えさせるAI先生が登場した

おわかりの通り、いきなり解答まで示すのではなく、考え方や計算方法だけを示して、生徒に実際に考えさせ、手を動かさせる仕組みになっている。2年ほど前、「AI先生」と呼ばれるサービスが流行し、社会問題となったことがあった。それは、宿題の課題の写真を撮影すると、それを解析して、解法と回答を示してくれるというサービスだった。そのため、子どもたちは、その解答を丸写しして宿題を提出するようになり、学習の妨げになっていると教育界、親などから強い批判を浴びた。

この小P先生は、そこを踏まえて、いかに生徒に考えさせるかの工夫をしている。もちろん、宿題や問題集の問題をカメラで撮影して、その問題の解き方を教わることもできるようになっている。

この小P先生が搭載されたX20は、7126元(約14.9万円)という価格ながら、発売2ヶ月で15万台が売れるというヒット商品になっている。幼稚園から高校卒業まで使える学習デバイスと考えれば、親たちは決して高くないと考えているようだ。

▲すでに発売されていて、淘宝網などでは5999元(約12.4万円)で購入可能。

 

 

電気自動車EVはオワコンなのか?中国で克服されるEVの弱点

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https://www.mag2.com/m/0001690218.html

 

今回は、中国EVがどこまで進んでいるかについてご紹介します。

 

「vol.215:BYDのEVは欧州市場で成功できるのか。スイスUBSの衝撃的なレポート」で、中国の電気自動車(EV)が欧州市場で大きなシェアを取る可能性があると予測するレポートをご紹介しました。BYDが低コストで高品質のEVを製造できる理由についてもご紹介しました。

このメルマガの内容を整理して、ビジネス+ITに「なぜBYDは世界を獲れた?「BYD・テスラ・VW」3車分解比較で判明、圧倒的コスパの秘密」(https://www.sbbit.jp/article/st/134787)という記事を書きました。これがYahoo!ニュースに転載をされ、たくさんの方からコメントをいただくことになりました。

その多くは「学びがあった」という好意的なもので、コメントをしてくださった方にはお礼を申し上げたいと思います。とても励みになります。

一方、批判的な意見もありました。その多くが「EVはもうオワコンになっているのに、この筆者は知らないのか?」というものです。EVの普及が踊り場に差し掛かっているのは事実ですが、「EVは失敗だった、終わった」というのはかなり極端な見方で、そう考えている人が多いことにかなり驚きました。

個人としてEVを選択するかどうかはまったくの自由です。EVが嫌だという人は燃料車やハイブリッド(HEV、PHEV)を買えばいいだけです。しかし、メディアまで「EVは失敗だった」と書き始めたことに二度驚きました。

例えば、「【言わんこっちゃない!】世界でEVの逆回転始まる!中国の弱点を攻めるトヨタの粘り勝ち」(https://carview.yahoo.co.jp/article/detail/722dd48536e4d8e7aa4b2ce62fedc5feb66bb89f/?page=4)などという記事もあります。

 

EVがオワコン、失敗と感じている方々は次のような事実を根拠にしているようです。

1)欧州市場において、ハイブリッド(HEV)の伸び率がEVの伸び率を上回った。

2)米国市場において、HEVがEVの販売台数を抜いた。

3)これによりトヨタのHEVが売れ、過去最高益を記録した。

4)1月、シカゴに寒波が襲来し、充電器が凍結し、多数のテスラ車が充電できず立ち往生した。

5)メルセデスベンツが2030年以降も燃料車を開発、販売すると方針転換した。

6)アップルがEVの開発を断念した。

 

欧州でEVの伸び率が鈍化をしたのは当然です。9月にはフランスでEV補助金の対象車の条件が厳格化されました。国内メーカーを守るため、中国EVを補助金対象から外すための措置だと言われています。また、12月にはドイツで補助金が1年前倒しで終了しました。補助金予算を新型コロナ対策費から支出していたことが、憲法裁判所によって違憲だと判断されたためです。

補助金が少なくなれば実質価格が高くなるのですから、伸び率が鈍化するのは当然です。それでもEVは前年よりも伸びているのです。あくまでも伸び率鈍化です。EU各国は新たなEV促進の枠組みを構築しなければならなくなっています。

 

アップルが自動車製造プロジェクト「タイタン」を放棄しましたが、「EVが売れていないから」という理由づけは、かなりピント外れの見方です。アップルがつくる自動車は、コアファンに向けた高級車になるはずで、EVが売れていようが売れていまいが、アップルカーの売れ行きにはほとんど影響しません。

2015年、腕時計をしない人が増える傾向が進んでいる時代に、アップルはアップルウォッチを発売しました。そして、腕時計としては驚異的な売れ行きを示しました。アップルウォッチは腕時計の形をしていますが、腕時計とは別物で、それがアップルのねらいなのです。アップルカーも同じように、EVには見えるけど、EVとはまったく別物という線をねらっていたはずです。「EVが売れていないからやめよう」などという発想はしないと思います。

 

アップルのタイタンプロジェクトはベールに包まれていて、その中身は誰にもわかりませんし、断念をした理由も誰もわかりません。しかし、報道から推測すると、EVということよりも自動運転の開発に行き詰まりを感じたようです。ティム・クックCEOは「自動運転技術が最も重要な根幹の技術であり、すべての人工知能プロジェクトの母だ」とコメントしたことがあります。つまり、アップルはアップルカーでAI人材を獲得し、そこからさまざまなAIプロジェクトを派生させようと考えていたようです。

アップルがやるのであれば、ハンドルもペダルもない、L5完全自動運転を目指したはずです。車というより、動く部屋でなければインパクトがありません。しかし、L5自動運転は技術的に無理なのではないかという見方が一般的になってきています。L5自動運転は砂漠やジャングルといったオフロードでも自動運転走行できなければなりません。オート三輪や歩行者が交通法規も守らずに飛び出してくる中国やインドの裏町も自動運転走行できなければなりません。あらゆる環境に対応できる完全自動運転というのは無理なのではないかと考えられるようになっています。

一方、「条件つき自動運転」であるL4はすでに実現できています。例えば、高速道路だけであるとか、キャンパスやマンション、公園などの閉鎖区域内であるとかです。また、シャトルバスのように固定ルートを走行する場合も実現できています。あらかじめ道路条件が限定できるため、ハンドルをなくした完全自動運転ができるわけです。

おそらく、アップルはここを悩んだのではないでしょうか。アップルカーが、遊園地の乗り物のように限定された区域しか走行できないものになるのか。どこでも走れるようにしようとするとハンドルをつける必要がある。どっちを選ぶべきなのかという議論が内部でされていたことでしょう。実際、断念報道の前には、L5自動運転を放棄して、テスラやファーウェイと同じL2+自動運転(人間が運転の主体となる自動運転)に方針転換をするのではないかという観測報道もありました。しかし、ハンドルとペダルがある一般的な自動車では、アップルのブランドイメージやミッションにそぐわないのだと思います。そこに莫大な資金を投じることは意味があるのかという話になり、だったら、最初から現実性のあるAIプロジェクトに直接投資をした方がいいということになったのではないかと思います。アップルが断念をしたのは完全自動運転であって、EVであるかどうかは問題ではなかったと思います。

 

EVの欠点と言われているのは次のようなものです。

1)充電ステーションが少なくて充電できない

2)航続距離が短い

3)火力発電でつくった電気で走ってもエコじゃない

4)充電に時間がかかる

5)寒冷地では出力が落ちて使い物にならない

6)自然発火をするので危険

7)バッテリーが劣化をしてエコじゃない

8)製造とリサイクルの過程で大量の二酸化炭素を排出するのでエコじゃない

 

EVにはこのような問題があるのは事実ですが、EV先進国(もはやそう言っていいかと思います)である中国では、すでにこのような課題に対して克服されつつあります。簡単に言えば、「EVはオワコン」とおっしゃっている方は、5年くらい前のEVの状況に基づいて「EVは使えない」と判断してしまっています。

では、中国ではどのように克服をしているのでしょうか。今回は、中国EVで、どのような技術や工夫が行われているのかをご紹介します。

 

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110番通報はショートメッセージで。聴覚障害者、音が出せない状況で活用

中国公安局は2015年からショートメッセージによる公益通報システムを運用している。指定された電話番号のショートメッセージを送ると、それが110番通報と同じように対応してもらえる。このシステムは聴覚障害者を中心に活用されていると光明網が報じた。

 

ショートメッセージによる110番通報

2024年1月3日午前3時、浙江省嘉興市の公安110センターは、一通のショートメッセージを受け取った。そのメッセージにはこう書いてあった。

「音声が聞こえないと思いますが、現在、バリアフリー通報システムを使って通報をしていています。すぐに応答できませんがお許しください。私の住所は浙江省嘉興市桐郷市文華路x-x-xです。救助をお願いします。もうだめです」。

110センターのオペレーターには、このメッセージの読み上げ音声が聞こえるようになっている。オペレーターは、通報者が聴覚障害者だと判断し、すぐに通報者の地区を担当している武通警察署に連絡がいき、2人の警察官が現場に急行した。

▲市民からショートメッセージで送られてきた緊急通報。聴覚障害のある人などはショートメッセージで110番通報ができるようになっている。

 

食中毒で倒れていた聴覚障害者を発見

警察官は、通報された住所の家で、ソファーに横たわる中年女性を発見した。その女性は大量に汗をかき、ぐったりとしている。近くにあった紙に「病院に連れて行ってください。食中毒のようです」と書いてあった。警察官はすぐに救急救命の連絡をとり、救急チームが駆けつけ、病院に搬送された。

女性は夕方に骨付き肉の煮込みとヨーグルトを食べた。その時、味に違和感を感じたが食べてしまったという。その後、夫が夜勤に出かけたため、女性は就寝した。しかし、午前2時頃、頭痛とめまいが激しく目が覚めてしまった。しばらく様子を見ていたが、体調は悪化をし、どうにもならないと感じて110番通報をした。

▲警察官が急行すると、聴覚障害の中年女性が自宅で倒れていた。食中毒のようだった。

▲警察官がテーブルの上を見ると、「医者に連れて行ってください。食中毒のようです」というメモがあった。

▲警察官は救命チームに連絡を取り、無事病院に連れていくことができた。

 

2015年からスタートしているショートメッセージによる110番通報

女性は聴覚障害があるために、警察や救急の通報の電話ができない。中国の公安局では、2015年からショートメッセージによる公益通報システムを導入している。それは、フィーチャーフォンスマートフォンのショートメッセージを利用して、「12110」+「地域局番」のアドレスにメッセージで通報できるというものだ。

各地公安では、110センターでこのメッセージを受け、電話による緊急通報と同じ手順で対応をする。

▲救出した後、警察官のスマートフォンに送られてきたメッセージ。感謝の言葉が述べられている。

 

音が出せない状況での通報にも活用

公安によると、このショートメッセージ通報「12110」は、主に3つの目的で運用されているという。

ひとつは、聴覚障害などがあり、電話での通報ができない場合だ。2つ目は、状況が逼迫をしていて音が出せない状況にある場合。3つ目は、市民が写真、URLなどの捜査に必要な証拠を提供したい場合だ。

聴覚障害のある人が通報する時以外にも、たとえば深夜に泥棒が自宅に侵入をして声を出せない状況、犯人が近くにいて電話ができない状況などでも利用されている。また、警察官が現場に急行する間に、現場の状況を知るために、通報者に写真やビデオの撮影を依頼することもあるという。この場合、この12110でやりとりが行われる。

日本でもアプリから110番通報ができる「110番アプリシステム」(https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/jiken_jiko/110/110site.html#:~:text=聴覚や言語に障害,を開設しています。)が運用されている。

 

 

改革開放でGDPは340倍に。一方、給料の方は340倍になっているのか、計算してみた

中国では1978年に改革開放が始まり、経済成長が始まった。その頃から、GDPは約340倍になっている。GDPが340倍になったのだったら、個人の給料も340倍になっていないと、市民は経済成長を実感することができない。実際には何倍になっているのか、資本百科が計算をしてみた。

 

改革開放でGPDは340倍、収入は何倍?

中国の2023年のGDPは126兆600億元となり、2022年から5.2%増となった。改革開放が始まった1978年には約3700億元で、そこから比べると、約340.7倍になっている。

しかし、多くの人が気にするのは自分の収入だ。1978年から比べて、給与は340倍になっているのだろうか。GDPが成長をすれば、それに比例して物価もあがっていく。GPD成長率以上に給与があがっていなければ、実質目減りをしているようなものだ。

 

給料は340倍にはほど遠い

経済統計によると、1978年の平均給与は年644元だった。GPD成長率と同じように給与が増えていけば、国の経済発展の恩恵を市民全員が感じることができるが、それには給与も340倍になっていなければならない。

644×340.7=21万9400元

となり、現在は22万元程度の年収がなければならない計算になる。

中国の平均給与の統計は「非私営単位」と「私営単位」に分けられる。非私営単位とは、公務員、国有企業、株式会社などで、日本の感覚では公務員と企業だ。私営単位とは株式会社などの組織化をしてなく、経営者が直接従業員を雇用しているもので、飲食店などに多い。日本の感覚では中小零細企業にあたる。

2023年の平均給与の統計はまだ発表されていないため、2022年の統計を見ると、非私営単位では11万4029元となっており、1978年と比べると177.06倍になっている。私営単位では6万5237元となり、1978年と比べると101.3倍になっている。

いずれもGDPの伸び率340倍にはほど遠く、中国の労働者は経済の発展ほどの恩恵を感じられていないかもしれない。

 

上海市の企業ではほぼGDP成長率と同じ

中国は広く、給与、物価ともに地域による格差がまだまだある。最も給与が高いのは上海市で、上海市の2022年の平均給与は非私営単位では21万2476元、私営単位では10万4560元で、1978年から比べると、それぞれ329.9倍、162.4倍となり、上海市の非私営単位では、ほぼGDPの成長率と同じ程度の恩恵を受けることができている。

しかし、このレベルにあるのは北京、広州、深圳を加えた4大都市であり、省単位では10万元前後であり、1978年の150倍程度にすぎない。中国のほとんどの市民は中国の経済成長の恩恵をじゅうぶんに享受できていない。

 

2000年以降はGPD成長率と給与伸び率が一致をする

しかし、2000年以降は様子が異なる。2000年のGDP、平均給与を1として、各都市が何倍になっているかを計算すると、GDPと給与の伸び率は見事に重なる。政府がGDPの伸び率に合わせて賃金をあげるように促しているからだ。

2000年以降は、経済成長の恩恵を享受できていると考えられる。

▲2000年を基準にすると、GPDの増加割合と企業給与の増加割合はみごとに一致をする。

 

ジニ係数も下げ止まりをし始めている

ただし、問題は格差があることだ。所得の不平等さを表すジニ係数は、中国も2010年頃から下がり始めたが、0.46台で下がらなくなってしまっている。OECDの調査によると、日本は0.34程度、格差の大きな米国でも0.375であるので、中国はまだまだ先進国とは呼べない水準になっていることがわかる。平均給与の上昇よりも、この格差の解消が目下の大きな課題になっている。

低所得者の賃金を引き上げて格差を解消することは、購買力の拡大にもつながる。人口が減少をすると、国民全体の購買力の総和も減ることになる。その時、低所得者の賃金を引き上げ、格差を解消することは、経済を成長させる効果的な策にもなる。格差解消が、中国社会にとって大きなテーマになってきている。

▲格差を表すジニ係数は、2000年代半ばから2010年代半ばにかけては大きく下がっていった。しかし、2015年以降下げ止まっている。

 

 

低俗と言われてもやめなかった椰樹集団のライブコマース。今では大人気に

ココナッツジュースの老舗「椰樹集団」がライブコマースを行ったところ、多くの人から女性の性を商品化している、低俗だという批判を受けることになった。しかし、椰樹集団はそのテイストを変えず、続けたところ、今では多くの人に受け入れられるようになったと首席商業知慧が報じた。

 

レトロなパッケージのココナッツジュース「椰樹椰汁」

中国で有名な飲料「椰樹椰汁」(イエシュー)。中身はさっぱり味のココナッツジュースで、子どもから大人まで飲まれている。1998年創業で、もはや定着をしているジュースのひとつだ。椰樹では昔から広告に女性を起用してきた。身体の線が見えるぴったりとしたアオザイを着た女性が体をくねらせて椰樹の缶を持っているというもので、なんとも言えないレトロ感がある。

サイトのデザインもレトロ感がある。製品のパッケージにもレトロ感がある。

▲椰樹集団の元々の広告は、南国をイメージする女性が謎のポーズを取っているというもの。このポーズを見れば、誰もが椰樹集団だとわかるようにまでなっている。

▲椰樹椰汁。中身はさっぱり味のココナッツジュースで、夏場の飲み物としては美味しく、冬はホットでも飲むことができる。

 

ライブコマースで顰蹙を買い炎上する

この椰樹が202210月にライブコマースに進出をした。その時、使ったビジュアルが、ピチピチのノースリーブシャツにショートパンツの美女が集団で、単純なダンスを繰り返すというもので、これが炎上をした。

椰樹としては以前からこういうテイストでプロモーション活動を行なっていて、そのままライブコマースでも使っただけなのだが、「性的表現としてギリギリだ」「女性を商品として扱っている」という批判が寄せられ、「低俗だ」とする声が多かった。ライブコマースを配信しているショートムービープラットフォーム「抖音」(ドウイン)にも苦情が殺到し、ライブコマースが一時中断される事態にまでなった。

性的表現がギリギリというわけではない。露出度だけで言えば、もっと過激な映像が抖音にもいくらでもある。しかしながら、踊りもクラシックなもので、登場する美女の化粧の仕方もレトロで、なんとなく大昔のキャバレーやカラオケを想像させる。見ていて、女性が商品として扱われている感じがして、確かにもやもやするところがある。

しばらくはこのプロモーションを続けていたが、あまりに批判的な声があるために女性に今風のトレーニングウェアを着させるなどの修正を行なっていった。

▲椰樹集団の初期のライブコマース。女性が延々踊り続けるというもので、低俗だという苦情が相次いだ。

▲椰樹集団の養成学校の生徒募集広告。安くない給料がもらえ、「車と家と高給で、美男美女があなたを追いかける」というコピー。

 

女性がダメなら男性を登場させる

20233月になって、事件が起こる。椰樹はライブコマースで、女性だけでなく、筋肉ムキムキの男性チームも登場させ、男女混合で踊らせたのだ。

これが大受けとなった。男女混合で踊らせているのだから、「女性の性の商品化だ」という批判は通用しなくなる。「女性の性を商品化していると批判がございますので、平等に男性の性の商品化も行いました」と開き直っている感じもする。案の定、SNSでは、パッケージの女性の不思議なポーズを真似た自撮り写真をあげる人が増加した。

観客を入れたライブコマースでは、多くのファンが集まるようになった。女性ダンサーも男性ダンサーも人気となり、みんな一緒に写真を撮りたがるのだ。低俗と言われ、女性の性を商品化していると言われ、フェミニズムが叫ばれる現代で、椰樹は昔からやってきている自分たちテイストのプロモーションを貫いたところ、受け入れてもらうことができた。

▲女性の性の商品化だという批判を受けた椰樹集団は、男性ダンサーも起用することで、自分たちのテイストを維持した。

▲椰樹集団のライブコマース担当者は、メディアの取材に「平等に尊重しています。美しさを尊重しています」と答えた。

 

再び成長をし始めた椰樹集団

椰樹集団は、2024年の社内仕事始めで、2023年の総販売量は前年同期比10.26%70万トン、売上は3.08%増の50億元以上にまで増加したことを発表した。さらに、20241月の売上は、前年度同期比20%以上増加するなど好調が続いている。

2023年、椰樹は抖音で114回のライブ配信を行い、そのうち99回で商品を販売した。平均視聴者数は28万人、総売り上げは50万元から75万元程度だと推定されている。

独自のセンスと独自のプロモーションで、定番商品だった椰汁が再び注目され、販売も上向きになっている。

▲2013年以降、他の飲料が登場し、昔ながらの椰樹の売上は伸び悩んでいた。しかし、ライブコマースを始めた2022年以降、営業収入が再び増加をし始めた。

▲観客を入れたライブコマースを行うと、ファンが集まり、ダンサーは異常な人気ぶりとなる。

 

 

スターバックスで開催される囲碁大会。上海の囲碁好きがスターバックスに集まる理由

スターバックス上海市中遠両湾城店は、週に3回、囲碁愛好者が集まり、囲碁大会が行われる。自然発生的に生まれた囲碁の会だが、スターバックスとも良好な関係を築き、売上も増加していると長江日報が報じた。

 

囲碁会館となったスターバックス

上海市北部の住宅地区の中にあるスターバックス中遠両湾城店は、毎週、月、木、土の午後は、囲碁会館となる。30人から40人ほどの囲碁愛好者が集まり、対戦を楽しむ。

この集まりのきっかけになったのは韓軍(ハン・ジュン)さんという1人の囲碁愛好者だった。中国ではプロ棋士には優れた環境が与えられるが、アマチュアには囲碁を楽しむ環境が身近にはない。中国独特の中国将棋の方が一般的に人気があり、囲碁は高級さがあり敷居が高いため、愛好者の数が少ないからだ。そのため、日本のような囲碁会館、囲碁会所も少なく、多くの囲碁愛好者が対戦相手を見つけ、囲碁を楽しむ場所の確保に苦労をしている。

若い世代はオンライン対戦をするようになったが、強くなるよりも対戦を楽しみたい愛好者はやはり実際に会って対戦をしたい。

囲碁会館のようになったスターバックス。愛好者たちはルールを守るため、スターバックス側も歓迎をしている。

 

一人の囲碁愛好者が始めた囲碁大会

そこで、韓軍さんはSNS「WeChat」で囲碁仲間を募り、近所のベーカリーで囲碁を楽しむようになった。このベーカリーにはイートインコーナーが用意されていたが、パンは多くの人が買って帰り、その場で食べるという人は少ないために、イートインコーナーはいつも空いていた。そこで囲碁を楽しんだのだ。ベーカリーで買い物をする、混雑をしてきたら席を空けるというルールを自分たちで課したために、ベーカリー側も黙認をしていた。

ところが、このベーカリーが閉店をしてしまった。そこで、しかたなく近所のスターバックスに移動をしたところ、この活動が評判となった。韓軍さんの囲碁愛好グループのアカウントは瞬く間に400名を超え、集まりにも30人から40人は集まるようになった。

さらには、SNSでの評判を聞いて飛び込みでやってくる人などもいる。韓軍さんは、新顔がやってくると棋力を聞いた上で、適切な対戦相手を探し、この会の幹事を務めるようになった。

スターバックス中遠両湾城店。ここは週に3日、囲碁好きが集まって、囲碁を楽しむ場所になっている。

 

スターバックスとも良好な関係を築く

この活動がSNSで知られるようになると、ネットでは賛否両方の声が聞かれるようになった。賛の方は、とてもいい時間がすごせる素晴らしい活動だと褒めるもの。否の方は、長時間席を占有して他のお客さんの迷惑になるのではないかというものだ。

この活動の規模が大きくなると、韓軍さんはスターバックスと交渉をし、2つのことを決めた。ひとつは、大声をあげるなど、他の客の迷惑になるようなことはしないということ。もうひとつは、参加者は最低でもひとつ以上のメニューを注文することだ。スターバックスは決して安くはないが、それで昼から夕方まで囲碁を楽しむことができるため、場所代としては決して高くない。

囲碁愛好者たちは、他の客に迷惑にならないように静かに囲碁を楽しんでいる。

 

スターバックスの売上も増加

ひとつの注文で大人数が長時間居座られてしまうと、スターバックスの売上が下がってしまうのではないかと心配する声もあるが、実際はむしろ売上はあがっているようだ。この中遠両湾城店は背後に大型の公園があるという絶好のロケーションになる。店舗が囲碁活動に使われていることが評判になると、それを見にやってくる客が増えた。見学客はテイクアウトの飲み物を買って、しばらく店内で囲碁の会の様子を見た後、公園に行ってゆっくりと飲み物を楽しむ。

スターバックスのコンセプトは、サードプレイス(第三空間)。自宅、職場や学校の次の居場所を提供することだ。この囲碁活動は、そのサードプレイスのコンセプトにそったもので、今後、他の都市でも同様の活動が行われるようになるかもしれない。

SNSでこの集まりが伝えられると、ますます多くの囲碁愛好者が集まるようになっている。