中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国の人工知能産業は、米国にどこまで迫っているのか

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 034が発行になります。

 

人工知能というとどのようなイメージを想像されるでしょうか。例えば、iPhoneに搭載されているアップルの音声アシスタント「Siri」には人工知能の技術が使われています。

Siriは、ウィットに富んだ受け答えをすることで有名で、その会話がときどきネットで話題になったります。例えば、「Siriは人工知能なの?」と尋ねると、「ずいぶん個人的な質問ですね」とか「ご想像にお任せします」と答えてくれます。このようなユーモアぶりが人工知能ならではだと思う方も多いかもしれませんが、残念ながらこのような返答はエンジニアがあらかじめ入力をして用意をしておいたものです。

膨大な量の返答リストが用意されていて、質問に対し、どの返答をするべきなのか、その対応をとるのに、人工知能の技術のひとつである機械学習を行い、適切な返答を返しています。つまり、人工知能は、人間が用意したものの中から選んでいるだけなのです。

私たちは、人工知能というと、ついつい「人間っぽい振る舞い」をすることを人工知能だと思いがちですが、人工知能は、まだそこまでの領域には達していません。

 

Siriで最も機械学習の効果が大きかったのが音声認識です。音声認識は所有者が話した声を聞き取って、これをテキストに変換しなければなりません。従来は、静かな部屋の中でSiriに話をしても、誤認識が多発をしていました。それがiPhone 8あたりからだと思いますが、誤認識が激減し、しかも屋外でもきちんと認識してくれるようになりました。屋外では、自動車のロードノイズが雑音源となって、以前は誤認識が多発していたのです。「8日の15時に予定を入れて」と言っても「4日の5時」に予定を入れられてしまうことがたびたびありました。その不安はもはやありません。機械学習で劣悪な雑音環境でも、正確な音声認識ができるようになったからです。現在の人工知能は、こういう地道な部分で活躍してくれているのです。

 

人工知能の中心地と言えば、誰もが米国を思い浮かべるでしょう。グーグルやIBMスタンフォード大学カーネギーメロン大学あたりが思い浮かぶのではないでしょうか。先頭を疾走する米国に対し、中国が猛追している。そのようなイメージだと思います。

では、中国はどの程度猛追しているのでしょうか。どの程度、米国に迫ることができているのでしょうか。この距離感を把握しておくことは重要です。もし、米国が圧倒的で、中国はそれに追従しているだけなら、人工知能の最新情報を知るには、米国情報だけを見ておけばいいことになります。しかし、中国の追い上げが米国に迫り、米国と中国の二極になっているのであれば、米国と中国、両方の動向を見ておく必要があります。

今回は、中国の人工知能開発がどこまで進んでいるのかをご紹介します。

 

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コロナ需要で急増する宅配ステーション。赤字と繁盛の違いはどこにあるのか?

コロナ禍により、宅配便の需要が急増し、菜鳥では100都市3万カ所の宅配ステーションの増設を決めている。しかし、開業しても赤字のところもあれば、大きな利益をあげているところもある。この違いはどこにあるのか。立地と副業だと幸福341が報じた。

 

コロナで起きている大量の労働力の移動

コロナ禍により、飲食、旅行関係、小売、製造と広い業種が総崩れとなり、大量の潜在失業者を出した。一方で、宅配便、外売騎手(フードデリバリー)などでは需要が急増し、圧倒的な人手不足となり、大規模な労働力の移動が起きている。

アリババ傘下の宅配企業「菜鳥」(ツァイニャオ)では、急増する需要に応えるため、100都市で3万カ所の宅配ステーションを増設することを発表した。フランチャイズ方式で、職を失い生活に困っている人に宅配ステーションを開業してもらおうというものだ。

3月だけで40万人が応募し、7000カ所の宅配ステーションが開設された。メディアに取り上げられて話題になったのは、成都市の大学3年生、馬海燕さんが開設した宅配ステーションだ。

大学は休校となり、講義はすべてオンラインになっている。両親は農業を営んでいるが、農閑期に出稼ぎにいくことができない。そこで、自宅で菜鳥の宅配ステーションを開業した。家族3人の生活費、学費などを稼げる上に、家族がひとつ屋根の下で暮らせることから、コロナ禍における「家族経営」「パパママショップ」のよさが見直されている。

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成都市の大学生が開業した宅配ステーションは多くのメディアに取り上げられた。コロナ禍で出稼ぎにいくことができない両親と3人で運営をしている。このような時期に、家族が一緒に働ける点が見直されている。

 

儲かる宅配ステーションから赤字のステーションまで

宅配ステーションの仕事は、送られてくる宅配便を近隣に配達することと、近隣の人の荷物を集荷して、宅配物流に乗せることだ。

しかし、毎月82万元(約1250万円)の収入を得ている宅配ステーションもあれば、赤字になっている宅配ステーションもある。この違いはどこにあるのだろうか。

宅配ステーションを開設する開業資金は、10万元(約150万円)程度だと言われている。その多くは家賃だ。そのため、自宅で開業ができる場合は大いに有利になる。この他、パソコン、棚、宅配受付設備など1万元程度が必要になる。

一方で、収入は荷物1つで0.5元ほどになる。平均して1日に500件ほどの荷物が送られてきて、それを近所に配送するので、0.5×500=250元ほどが1日の収入となる。

また、近所の人が発送する荷物を受けつける業務もある。省外への荷物であれば収入は6元から7元程度、省内であれば2元程度になる。平均して5元とみなし、1日平均20件ほどの荷物を扱うので5×20=100元となる。

配送、集荷合わせて1日の収入は250+100=350元となり、月に1.05万元(約16万円)になる。

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▲菜鳥では、100都市3万カ所の宅配ステーションの増設を決め、各地に続々とステーションが誕生している。フランチャイズ方式での展開が進んでいる。

 

標準収入では生活が成り立たない。立地が決め手になる

一方で、月の家賃、運営事務費などに6000元から7000元かかる。つまり、手元に残るのは月に3000元から4000元で、平均的な宅配ステーションで生活をしていくのはなかなか厳しい。そのままでは営業を続けていくことができず、倒産してしまうステーションもある。一方で、毎月82万元の利益を得ているところもある。

この違いの最も大きな原因はなんといっても立地だ。最も有利なのは、近隣に大学がある場所。中国の大学は、原則寮生活であり、大学生は買い物の多くをECで済ませる。そのため、荷物の数が多くなるので、収入も大きくなる。また、近くに大規模マンションがあるところも有利だ。ただし、若い世代が多く住む新しいマンションが望ましく、中高年老人世代の多いマンションは、ECを使う率が低いので、あまり売上に貢献しない。

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▲荷物を置くスペースさえあれば、簡単に開業できることから、コロナ禍で経営が苦しくなった小売店、飲食店の店主が宅配ステーションに転業する例も多いという。

 

コンビニなどと組み合わせることで利益が出る

とはいえ、このような立地のよさは簡単には得られない。そこで、利益を出している宅配ステーションの多くが行なっているのが副業だ。特に、米、小麦粉、食用油、果物などの販売を一緒に行なっている例が多い。荷物を出しにくる顧客が、帰りがけに買っていってくれるからだ。また、注文を受け、宅配荷物を配送するついでに配送することもできる。

最もうまくいっているのは、コンビニと併設する例だ。コンビニの客数は多いので、それが宅配ステーションの存在を宣伝することになり、コンビニと宅配ステーションの両方で利益を上げられるようになる。

いずれにせよ、菜鳥の宅配ステーションをただ開業しただけでは生活をしていけない。なんらかの工夫をしなければならない。中国のフランチャイズ方式の多くが、ただ開業するだけでは生活費ぎりぎりしか稼ぐことができず、各自が工夫をしなければならない設計になっている。

コンビニなどフランチャイズを展開する企業側も、こうした工夫に関してはおおらかに見ていて、店主各自の工夫を許容している。それどころか、うまくいく工夫に関しては、積極的に横展開をしていく。こういう感覚が、中国の経済回復を下支えをしている。

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▲コンビニと併設した菜鳥宅配ステーション。日本では、フランチャイズの契約上の問題があって、簡単には併設できないが、中国では店主の自由度が高い。宅配とコンビニの相乗効果で利益が出せるようになっている。

 

第4のEC「雲集」がナスダック上場。S2b2cソーシャルECの仕組み

5月3日、ソーシャルEC「雲集」が米ナスダック市場に上場をした。アリババ、京東という大手EC、急速に成長するソーシャルEC「拼多多」に次ぐ「第4のEC」となる。そのビジネスモデルはマイクロビジネスに立脚したS2b2c型と呼ばれていると陸水財経が報じた。

 

微商に立脚した新しいスタイルのソーシャルEC

5月3日に、ソーシャルEC「雲集」(ユインジー)が米ナスダック市場に上場した。上場当日、売り出し価格11ドルの株価は14.15ドルまで大幅上昇し、時価総額は30.87億ドル(約3100億円)に達した。

雲集は会員制のソーシャルECで、現在会員数は2300万人に達している。その中で有料会員が900万人を超え、リピート率は93.6%という高いものになっている。この秘密は、微商(ウェイシャン、マイクロビジネス)に立脚したS2b2cという独特のビジネスモデルにある。

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▲ナスダックに上場した雲集。マルチ商法的な要素もあったが、違法性が問われる部分を排除して、上場に成功した。

 

個人間の信用に立脚したSNSビジネス「微商」

微商というのは中国独特のビジネススタイルだ。SNSを利用した個人売買のことだ。最もわかりやすいのは、友人に「美味しい中国茶が買えるところ知らない?」と尋ねると、「この人がいい品質のものを安く仕入れているよ」とSNS「WeChat」アカウントを教えてくれる。連絡をとって、友人の紹介であることを告げると、価格を教えてくれ、注文をすると宅配便で送られてくる。決済はWeChatペイで行うというものだ。

店舗を経営しながら、手軽なECとして利用する商店主も多いし、品質の高いものを市場価格ではなく、適正価格で売りたいという農産物生産者、あるいは仕入れルートを持っている個人などが、口コミベースで行っている個人売買だ。

利用する側からは、リアルな友人の紹介であるので信頼しやすい。近隣の商店では手に入らない種類、品質、価格の商品が手に入るなどメリットが多い。

個人売買なので、どのくらいの市場規模になっているかは不明な部分が多い。すべてを把握できないので、調査報告によって市場規模の数字が異なっている。中国電子商会微商専門委員会が公開した「中国微商業界全景調査研究及び発展戦略研究報告」によると、微商業者は約3000万人、流通総額は5000億元(約7.5兆円)と推定されている。

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▲会員数2300万人を超えたソーシャルEC「雲集」の総会。派手な演出で人を惹きつけるのが特徴。

 

微商をシステム化したソーシャルEC「雲集」

雲集は、この微商の中から登場したソーシャルECだ。創業者の肖尚略(シャオ・シャンリュエ)は、1999年21歳の時に、化粧品を扱うビジネスを始めたところから出発している。2003年には登場したばかりのアリババのEC「淘宝」(タオバオ)に出店して、成功をする。

しかし、アリババがBtoC型EC「Tmall」を始めると、次第にビジネスが縮小していった。化粧品メーカーがTmallに直接出店するようになり、わざわざ肖尚略のタオバオ店舗で購入する人が少なくなっていったからだ。

そこで、肖尚略は個人売買である微商に活路を見出していった。微商ビジネスをする中で、規模が拡大し、課題を解決しているうちに雲集の原型ができあがり、2015年に正式に雲集を創業することになる。

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▲雲集の創業者、肖尚略。本人もECに出店をしていたが、Tmallの登場により、微商に転身。微商をサポートするプラットフォームが現在の雲集になっていった。

 

購入も出店も。手軽に微商が始められるプラットフォーム

つまり、雲集は微商が手軽に始められるプラットフォームなのだ。雲集の会員になると、専用アプリから買い物ができるようになる。さらに398元を支払い、有料会員になると、買い物の優待が受けられる他、出店することができるようになる。仕入れは雲集が用意した商品を仕入れ価格で購入することができる。これを友人などに販売して利益を出すことができる。つまり、買うだけでなく、ちょっとした商売を始められるというのが雲集の特徴だ。そのため、S2b2cモデルと呼ばれる。Sは大手サプライヤー、bは個人ビジネス、cは個人消費者のことで、いずれも個人ベースなので小文字で表記されている。

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▲雲集の営業収入は年々増加している。会員登録料と取引手数料が収入の主な源泉になっている。

 

会員紹介制度が成長の駆動力となった

雲集のもうひとつの特徴は、有料会員を紹介することでも利益が得られることだ。ある有料会員が、友人を有料会員にすると、会員登録料398元のうち150元がもらえる。さらに、その友人の店舗の雲集が得るべき利益の15%が自動的に入ってくるようになる。

いわゆるネットワークビジネスマルチ商法の仕組みを取り入れていて、これにより会員数が急速に拡大していった。

しかし、この危ういビジネスモデルは、2017年に杭州市から違法性を問われることになり、958万元の罰金を課せられ、4ヶ月間の実質的な営業停止に追い込まれたこともある。

それ以降、雲集は会員構造を簡素化し、違法性を問われない形に改めたが、会員紹介制度と、「買うだけでなく、商売もできる」という点が成長の原動力になっていることは変わらない。

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▲会員数はすでに2300万人に達している。コロナ禍によるECの需要が増えているため、2020年末には3000万人の大台を突破する可能性もあると言われている。

 

課題は多いが成長力のある微商系ソーシャルEC

雲集と同様のS2b2cビジネスを展開する業者は無数に存在をしている。雲集がナスダック上場を果たしたことで、この領域のビジネスが今度盛り上がっていくことは明らかだ。

しかし、課題も多い。拼多多と同様に、雲集もナスダック上場しながら、創業以来黒字化が達成できていない。売上高に比べて赤字幅は小さいので、大きな問題ではないものの、早い時期の黒字化が必要になる。

もうひとつはマルチ商法の要素を持つビジネスモデルの危うさだ。雲集が問題を起こす可能性は少ないにしても、同類の業者が問題を起こし、S2b2cソーシャルECそのものに対する風評が悪化するというリスクもある。

それでも、現在の雲集の成長力は注目をされている。また、新しいソーシャルECモデルである点も注目されている。今後、雲集がどのような成長を遂げるのか、EC関係者からの関心が高まっている。

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▲利益は赤字が続いている。しかし、営業収入の規模に比べ赤字幅は小さく、会員に還元することを優先した戦略的赤字であると見られている。

 

 

 

なぜ香港ではECが成長しないのか。その3つの理由

中国では、コロナ禍で、ECの需要が急増し、ECに対する投資も活発になっている。一方で、香港はECが成長をしない。その理由は3つあると銀河集団が報じた。

 

コロナ禍でも成長する中国のEC

中国のECが成長をしている。コロナ禍で、さまざまな産業が休業、縮小する中で、ECへの投資案件が増加している。

中国の新型コロナの感染拡大期は1月下旬から3月上旬まで。「2020年4月中国EC業投資データ報告」(網経社)によると、感染拡大期間、ECに対する投資案件の数も投資金額が急増した。特に3月は、昨年同時期の7.36倍になっている。終息をした4月になると投資件数、投資金額ともに減少をした。

元々ECが普及をしているところに、外出制限などの影響でEC需要が大きく高まった。これを見越して、ECへの投資熱が生まれている。終息後、各ECはこのような投資資金を使って、さらに成長をしていくことになる。

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▲中国本土のEC投資は、新型コロナの終息が見えた3月に急増をした。2019年には個人消費の20.7%がECによるものだったが、2020年はこの数値が大きく上昇すると見られている。

 

ECが成長しない香港

一方で、香港のECは奮わない。香港は「買い物天国」と呼ばれ、中国からも海外からもショッピング目的の旅行が多い地域であるのに、なぜかECは発展しない。

中国国家統計局の統計によると、2019年の中国の個人消費は41兆1649億元(約618兆円)。このうち、ECでの消費額は8兆5239億元で、個人消費の20.7%を占めている。ところが、香港のEC消費額は、個人消費のわずか4.7%でしかない。

 

香港最大のECはHKTV mall

香港でECが発展をしない理由は、香港の嫌中市民感情があるために、アリババ、京東、拼多多といった中国の巨大ECがなかなか受け入れられないことが大きい。香港最大のECは「HKTV mall」。香港電子網絡が運営するECだ。

香港電子網絡は、通信会社の城市電訊が地上波テレビ局開設を目指して設立された放送局だが、中国政府の意向に沿わない香港独自の内容の番組制作を目指していたため、テレビ局としての免許が下りなかった。2013年には、この事件に納得がいかない市民がデモ行動を起こしている。結局、香港電子網絡はネットとワンセグによる放送を行なっている。HK TVmallは、香港電子網絡内のテレビショッピング番組と連動したECとなっている。

この他、香港ではeBay、アマゾンなどを利用する人が多い。とは言え、ほとんどの人は店舗で買い物をしている。日本の2018年のEC化率は6.22%なので、香港は日本以上にECを使わないということになる。

なぜ香港では、ECが発達をしないのか。銀河集団は3つの理由を挙げている。

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▲香港最大手のEC「HKTV mall」。750万人という市場であるため、中国の巨大ECのような成長は期待できない。

 

理由1:店舗の利便性が高い

ひとつの理由は、小売店舗の利便性が高いということだ。香港は、中国本土よりも早く発展したため、小売店舗が充実している。香港のマンションでは「下に降りれば買い物ができる」状態になっている。マンションの下層階が商店街になっていることが多く、市場、スーパー、電子製品店、化粧品、雑貨などの店があるのが普通で、中には都市鉄道の駅まで備えているマンションもある。

住民にとっては、雨の日であっても傘を持たずに買い物ができる。逆に言うと、中国本土では、店舗が近くにないためにECが発達したということもできる。

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▲香港の典型的なマンション。下層階が商店街になっているところが多い。中には鉄道駅まで備えているマンションもある。この利便性がECに対する需要を抑制している。つまり、香港市民はECをそれほど必要としていないのだ。

 

理由2:物流コストが高くつく

もうひとつの理由が物流コストが高いことだ。香港は土地が狭いために空間コストが高くつく。そのため、ECの巨大倉庫に適した土地がない。中国本土では、高速道路や鉄道などが整っていれば、郊外の土地の安い場所に巨大倉庫を作ることができる。

また、物流系の人件費も、中国の2倍になるため、ECの魅力のひとつである低価格化を実現することが難しい。さらに、道路交通の規制もあるため、三輪車や電動バイクといった低コストで走ることができ、小回りもきく配送車を利用することもできない。

 

理由3:市場が小さいため投資が行われない

3つ目の理由が、ECに対する投資があまり行われないことだ。香港はわずか750万人の都市であり、香港市場で高いシェアを握ったとしても、750万人の利用者が限界になる。投資家たちは、無限に成長する企業に投資をしたがっており、成長空間の大きい中国本土の企業に投資をしたがる。

香港のECに投資があまりされないため、成長も限定的にならざるを得ないということになる。

 

小さくても完結した市場に巨大ECは入りづらい

アリババは以前から香港進出に挑戦をしているが、香港の高コスト状況、規制、市民の嫌中感情などに阻まれている。香港市場の小ささを考えると、強い熱意で香港進出をするという気運も生まれづらい。

香港は、小さい市場ながら、すべてがそろっていて、完結している。それにより、中国本土のテック企業が入りづらい状態になっている。一方で、香港は外に対しては開いている。貿易、金融などで外貨を稼いで、香港は成長をしてきた。香港は、生活スタイル、生活習慣の点でも、中国とは同じではないのだ。

 

クラスター対策に使われた「ビッグデータ」とは?北京市民がざわつく

6月11日、それまで新規新型コロナ患者がゼロの日が56日間続いた後、新発地農産物市場で突然クラスターが発生した。北京市は、新発地市場に立ち寄ったことがある人全員に連絡、PCR検査を受けさせることでクラスターを終息させた。この連絡に使われた「ビッグデータスクリーニング」という言葉が市民の強い関心を呼んでいると科技日報が報じた。

 

1週間で35.6万人を検査、農産物市場クラスターは終息

6月11日、北京市では新規感染者ゼロの日が56日間続き、誰もが新型コロナは終息をしたと思っていた。ところが、新発地市場の通称「西城大爺」と名付けられた52歳の男性が陽性診断を受けた。

翌12日には、新発地市場を閉鎖したが、6例の新規感染者が見つかる。市場で働く人や買い物にきた人だ。13日には市場関係者全員にPCR検査を実施、14日には非常事態を宣言して、新発地市場周辺の住民4.6万人にPCR検査を実施した。16日には、北京市全体で警戒レベルを1段あげ、不要不急の外出を控えるように勧告し、17日までに濃厚接触者全員35.6万人のPCR検査を終えた。

結局、335名の陽性患者が出ることになったが、8月7日には最後の入院患者が退院をし、死亡者を一人も出さず、医療関係者への感染拡大も起こらず、このクラスターは終息をした。短期間で濃厚接触者を確定し、全員検査を行うことで、二次感染によるクラスターの発生を回避することができた。

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▲北京の各メディアは、時間軸にそって、詳細に状況を報道した。また、連日、記者会見も1日に2回を標準として行われ、ライブ配信されている。

 

ビッグデータにより濃厚接触者を確定

この時に、北京市民の間で話題になった言葉が「ビッグデータスクリーニング」だ。なぜなら突然、保健当局からショートメッセージが送られてきて、そこにこの言葉が使われていたからだ。

「全市ビッグデータの分析により、あなたは5月30日以降、新発地市場を訪れた可能性があります。北京市の防疫施策により、以後の外出を控え、現在の健康状況をお知らせください。地域から連絡がありますので、PCR検査の予約をしてください」というものだ。

つまり、誰が新発地市場を訪れたかを当局は把握をしていて、該当者にこのようなショートメッセージを送り、PCR検査を行っていたことになる。

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▲ある人に当局から送られてきたショートメッセージ。ビッグデータスクリーニングにより、濃厚接触の可能性があるので、PCR検査を受けることを求めている。

 

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▲新規感染者発生から、ビッグデータにより濃厚接触者を確定し、わずか1週間で35.6万人のPCR検査を行い、クラスターの封じ込めに成功した。

 

そばを通っただけでも濃厚接触者認定

ウェイボーなどのSNSでは、驚きを隠せない人のメッセージが見受けられた。ある人は「30日に、高速バスで新発地市場近くの高速道路を通過した。ビッグデータスクリーニングに引っかかった」「突然電話がきて、PCR検査を受けろという。ビッグデータスクリーニングに引っかかったからだという。西紅門に行って、スペアリブを食べただけなのに。この2週間、外食には2回しか行っていないのに」というものだ。

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ビッグデータスクリーニングに驚いた人たちが、SNSにメッセージを投稿している。新発地市場のそばを通っただけなのに、濃厚接触者と認定されて、PCR検査を受けるように求められたからだ。

 

位置情報、ソーシャル、商品情報を統合

このビッグデータスクリーニングがどのような仕組みで行われているのか、当局は公開をしていない。しかし、スパコンメーカーの「中科曙光」のビッグデータ主席サイエンティストの宋懐明博士によると、一般的にビッグデータスクリーニングは3つの方法で行うという。

ひとつはスマートフォンの位置情報から移動履歴を取得する方法だ。GPSだけでなく、接続している携帯電話基地局のデータからも移動履歴を得ることができる。2つのデータを合成することで、精度の高い移動履歴が得られる。

2つ目は、SNSソーシャルグラフを利用する。誰と誰が親密に連絡を取り合う関係にあるかを把握することができ、密接な関係にある人に対して電話による聞き取り調査、訪問調査をかけることで、新発地市場の関係者、濃厚接触をした人を短時間で割り出すことができる。

3つ目は、商品情報によるデータだ。市場で物品の受け渡しをしたということは濃厚接触をしていることになる。市場に商品を納入した人、市場で商品を購入した業者などの記録をたどって、濃厚接触者を確定することができる。

ネット民の間では、スマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」が決済記録を当局に提出をして、濃厚接触者を確定させたという話が出回っているが、これは運営両社が否定をしている。しかし、宋懐明博士はキャッシュレス決済の取引記録は強力な追跡手段になるという。取引記録には場所の情報も含まれているため、新発地市場で決済をした人が、その後、どこで決済をしているかがわかるからだ。

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クラスターの中心となった新発地市場。335名の患者を出す大規模クラスターとなったが、死者は0、医療従事者への感染も0で、全員が治癒をした。

 

北京市でも導入されている接触追跡「健康宝」

具体的に、北京市がどのような方法でビッグデータスクリーニングを行なったのかはわからないが、北京市ではすでに接触追跡アプリ「健康宝」を導入している。移動履歴などから新型コロナの感染リスクを3段階で表示してくれるというものだ。このデータが利用されたと見られている。

中国疾病センター主席専門家の呉尊友氏によると、このようなビッグデータの活用は2つの面で防疫に効果があるという。ひとつは、新発地市場のようなクラスターが発生した場合、短時間で濃厚接触者を確定して、PCR検査を行い、隔離や入院などの必要な処置を行えることだ。クラスター発生直後は時間が勝負になる。濃厚接触者の確定が早ければ早いほど、クラスターの規模が小さいうちに押さえ込むことができる。

もうひとつは、クラスターの拡散を防ぐことができることだ。濃厚接触者がその後、どこに移動したのかもわかるため、移動先でPCR検査を行い、必要な処置をすることで、二次感染によるクラスターの連鎖を断ち切ることができる。

新型コロナのような感染拡大を押さえ込むには、ビッグデータの活用による素早い処置はもはやなくてはならないツールであるという。

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北京市が導入している接触追跡システム「健康宝」。位置情報などから、濃厚接触の可能性を3段階で評価するもの。

 

プライバシーとの兼ね合いが議論に

実際、6月15日には、維智科技が移動ビッグデータを分析して、新発地市場での濃厚接触者が、上海に91人、広州に89人など、各都市に移動していることを公表している。また、上海を例にとり、上海市のどこで濃厚接触者が活動しているかのヒートマップまで公開をしている。これらは必ずしも濃厚接触というわけではなく、「特定期間に新発地市場を訪れたことがある人」の移動データの分析で、あくまでも接触の可能性が高い人のデータにすぎないが、PCR検査はこのような「接触の疑いがある人」に対しても実施されたと見られている。

ここまでくると、当然、誰もがプライバシーとの関係を不安に感じる。しかし、北京市民の間には、このような移動履歴を取得されること自体が問題であると感じている人は少ない。匿名化されたビッグデータとして扱われて、終息に役に立つのであればかまわないと考える人が多いようだ。

健康宝など個人情報を取得する仕組みの利用は強制ではない。使わないという選択ももちろん可能だ。しかし、その場合は、必要な情報も受け取れなくなり、情報の孤島になることを覚悟しなければならない。それよりは、自分の個人情報を公共に提供することで、自分も正しい情報を入手したいと考える。新発地市場での濃厚接触者にはすぐに連絡がいき、PCR検査を受けられるので、自分の健康を守ることにもつながる。

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▲維智科技が公開したビッグデータ分析の結果。特定期間に新発地市場に立ち寄ったことがある「接触の疑いがある人」が、上海など別の都市に移動していることを明らかにしたもの。

 

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▲維智科技が公開したデータでは、上海に移動した「接触の疑いがある人」が、上海市のどこで活動しているかのヒートマップも公開されている。

 

プライバシー情報の取得ではなく、用途が問題

しかし、多くの市民が不安に感じているのは、個人情報が収集されることではなく、収集した個人情報が目的外に使用されることだ。実際、感染拡大期には各地で、収集した個人情報の流出事件が起きている。多くの場合は、その個人情報を利用して何らかの商売に結びつけたいというものだが、それ以外のことにも利用されないかを心配している。

科技日報は、ビッグデータクラスター対策に役立てること自体は肯定するものの、個人情報保護の立法が不十分であると指摘をしている。国家レベルでの公共データ管理に関する法律がなく、各地方政府が独自の条例で規制をしている状態になっている。個人情報を取得する時には、市民にどのような情報が収集されるのか、どのようなことに使われるのか、誰が責任を持って管理をするのかが曖昧になっているケースも多いという。

宋懐明博士は言う。「ビッグデータの所有権、使用権、使用規範などを厳密に定めることが重要です。それで、市民のプライバシーを守りながら、公共安全にビッグデータを役立てることができるようになるのです」。

科技日報によると、すでに中央政府でもビッグデータ保護による立法の議論が始まっているという。今後、防疫対策には、当たり前のようにビッグデータが活用されるようになるかもしれない。

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突然、ECからギフトカードが送られてくる「29元詐欺」。狙いは個人情報か?

中国では、ガラクタを代引き宅配で送りつける「39元詐欺」が横行している。宅配企業が、事前に内容を確認させる手順を可能にししたため、下火にはなっている。すると、今度はギフトカードを送りつけてくる「29元詐欺」が見られるようになったと問律が報じた。

 

低額商品を送りつける39元詐欺

日本でも中国でも送りつけ詐欺が横行している。宅配便や郵便の代引きを利用して、ガラクタのような品物を送りつけ、代金を騙し取ろうというものだ。

中国では通称「39元詐欺」と呼ばれる。なぜなら、代金が39元(約590円)のことが多いからだ。この微妙な価格設定が詐欺を成功させるコツになっている。39元という価格であれば、高額商品ではないことから、軽い気持ちで受け取って代金を支払ってしまう人が多い。後で、宅配便を開けて騙されたと気づいても、被害額は39元という少額なので、多くの人が警察に届けたりしない。

そこで、各宅配便業者は、代引きや着払い便の場合、受取人の求めに応じて、いったん開封して内容を確かめてもらう対応をとっている。これにより、39元詐欺は次第に下火になっているようだ。

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▲横行した39元詐欺のラベル。代引きで39元を支払って受け取ると、中にはガラクタが入っているというもの。現在、各宅配便企業では、代引きの場合は、開封して中身を確かめることを可能にしている。

 

ギフトカードが送られてくる29元詐欺

しかし、今度はさらに洗練をさせた「29元詐欺」が起きている。

5月26日、山東省の王さん(仮名)は、ECサイト「京東」からの着払いの荷物を受け取った。配送料は29元(約440円)であり、それを支払ってもらいたいと言う。王さんは京東で買い物をした覚えはないので、内容を確かめさせてほしいと言った。すると、中には、タオバオ、京東、拼多多で利用できる100元のギフトカードが2枚入っていた。合計200元分のギフトカートで、それが配送料の29元を支払えば受け取れる。王さんは、29元を支払って受け取ってしまった。

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▲京東から送られてきた2枚のギフトカード。送料の29元は着払いだが、多くの人が200元の得ができるのだからと、29元の送料を支払って受け取ってしまう。

 

危ういところで、難を逃れた王さん

受け取ってみたものの、王さんは訝った。なぜなら、王さんは京東の会員になっていない。なぜ、京東からこのようなギフトカードが届くのだろうか。京東は、どうやって王さんの名前や住所を知り得たのだろうか。

しかも、そのギフトカードにはQRコードが付いていて、SNS「WeChat」のアカウントをフォローし、そこからアプリをダウンロードして、そこに個人情報を登録することで利用できるようになるという説明があった。王さんは、賢明にも「なぜアプリストアからではなく、WeChatのアカウントからアプリをダウンロードさせるのか?」と不審に感じた。

そこで、確認のために、京東のコールセンターに連絡をし、確認すると、京東ではそういう宅配便を送っていないという。しかも、発送人の名前、事業者番号は偽のもので、京東が発行したものではない。何らかの方法で、京東の流通に乗せた偽の宅配便ではないかという。

京東側では、調査をすることを約束した。

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▲送られてきたギフトカード。QRコードをスキャンして、WeChatアカウントをフォローし、そこから専用のアプリをダウンロードする必要があるという。王さんはこの手順を不審に思い、京東のカスタマーセンターに連絡をとった。

 

京東は100倍にして送料を返金

一方で、王さんは、QRコードでフォローさせられたWeChatアカウントに「詐欺なのではないか。送料の29元を返金してほしい」というメッセージを送ったところ、WeChatのシステムが「詐欺に利用されているアカウントの可能性が高い」という警告を発した。

京東は、調査結果を王さんに伝えた。しかし、京東ではそういう宅配便は送っていない。王さんの個人情報は、京東では把握をしていない。発送人の名前、事業者番号は偽のもので、京東が発行したものではない。何らかの方法で、京東の物流に乗せたものではないかという。それ以上のことは京東ではわからないという。その代わり、29元の配送料の返金の件は、京東で利用できる2900元のポイントを贈るので、それで了承してほしいという。

王さんとしては、それで了解をしたので、この件はこれで終わった。

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▲WeChatで送り元にクレームを言うと、WeChatのシステムが上部に「詐欺防止のために、相手の身分を確認してください」という、詐欺に利用されている可能性の高いアカウントである警告が表示された。


集荷業者は扱い数ノルマを達成するために偽装荷物も受けてしまう

しかし、ネットでは、犯人の狙いなどについて議論がされている。その情報を総合すると、犯人の狙いは個人情報の収集であったようだ。指示通りアプリをインストールすると、ギフトカードの番号の他、チャージをするECサイトのアカウントとパスワードの入力が求められる。このアカウント、パスワードを収集して、EC内で勝手に買い物をし、商品を詐取するのが目的ではないかという。

また、王さんはタオバオの会員であり、以前からタオバオで買い物はしているので、販売業者の誰かが王さんの個人情報を外部に渡すなどして、宅配便が送られてきたのではないかという。京東の物流に乗せるのはさほど難しくない。正規の宅配便の集荷をする業者の中には、伝票データを操作して、京東物流だけでなく、さまざまな宅配便に偽装をして、正規の物流に乗せてしまう業者がいる。

宅配便の集荷業者には、各宅配企業からのノルマが設定されている。月に何千件以上の荷物を集荷すると、手数料利率が上がるなどの制度がある。そのため、怪しい荷物であっても、大量であれば受けてしまう業者が存在するのだという。

 

送料不要の低コストの個人情報詐欺か?

この詐欺のポイントは、犯人側はきわめて低コストであるということだ。偽物のカードを作り、それを宅配便で送りつけるだけで、配送料は被害者が払ってくれる。それで個人情報が取得でき、ECのアカウントとパスワードまで入手できる。じゅうぶんに引き合う犯罪なのだ。

この29元詐欺は、今後も横行すると見て、各地公安は市民に注意を呼びかけている。

 

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BATがBATである理由。トラフィック制御からの視点

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 033が発行になります。

 

中国のビジネスやテックに関心がある方であればBATという言葉はご存知だと思います。米国のテックジャイアントを表すGAFAと同じように、中国のテックジャイアントを表す言葉です。

Bは百度バイドゥ、Baidu)、Aはアリババ、Tはテンセントを表しています。この3社は、中国インターネット協会と中国工信部が毎年発表している「中国IT企業100強ランキング」の1位から3位を占めています。

ただし、このBATという言い方はもはや適切ではないという意見も増えてきています。ひとつは百度が近年売り上げを落として、新たな事業の柱である人工知能がまだまだ収益が得られる段階に達していないことから、BATのBを消すべきではないかという人もいます。

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▲中国インターネット教会が毎年発表している中国IT企業100強ランキング。BATが常に上位3位を独占し続けてきた。アントフィナンシャルはアリペイを運営するアリババ傘下の企業。

 

また、多くの方がお気づきだと思いますが、ファーウェイ(Huawei)がこのランキングには入っていません。ファーウェイはあくまで製造業であるということと、未上場であるためにランキングから除外されているのです。ところが、売上高で見ると、2019年の売上ではファーウェイは8588億元(約13.2兆円)もあります。これはBAT3社の合計とほぼ同じなのです。

ファーウェイは通信設備、電子機器などのメーカーなので、IT企業、ネット企業と言われると少しずれますが、テクノロジー企業であることには間違いありません。そうすると、BATよりも巨大なジャイアントであると言えます。そこから、BATではなくHATという言葉を使うべきだと言う人もいます。

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▲ファーウェイの売上高は圧倒的。BAT3社の合計に匹敵する。しかし、ファーウェイは製造販売であり、投資は内部に向けて研究投資をする。独自性が強い。BATという言葉は、単なる企業規模だけで使われている言葉ではないのだ。

 

また、最近では、BATの地位を脅かす存在としてTMDという言葉も使われるようになっています。Tはバイトダンス(最初の成功したアプリ「今日頭条」=toutiaoからTと呼ばれます)、Mは美団(Meituan)、Dは滴滴出行(Didi)です。さらに、Tik Tokを擁するバイトダンスの成長が著しいことから、BATのBはバイトダンスに入れ替えるべきだと言う人もいます。

 

つまり、BATが必ずしも中国テック企業の3強というわけでもなくなってきているのです。それでも、中国のテック企業を理解するにはBATを中心に考える必要があります。

なぜなら、BATを中心に戦略提携が行われ、その他のテック企業の多くが「アリババ系」「テンセント系」「百度系」に分類できるからです。

例えば、2014年にはタクシー配車の「滴滴」と「快的」の2社がシェアをめぐって激しいクーポン合戦を繰り広げました。一時期は、クーポンを利用すると実質無料でタクシーに乗れるようになってしまい、近所のスーパーに買い物に行くのにもタクシーを利用するというという人まで現れたほどです。

滴滴はテンセントの投資を受け、快的はアリババの投資を受けていました。2社は潤沢な資金を活かして、赤字覚悟の大盤振る舞いをしました。

2015年には、外売(フードデリバリー)の「ウーラマ」と「美団」が激しいクーポン合戦を行いました。ウーラマはアリババの投資資金を受け、美団はテンセントの投資資金を受けています。ここに百度百度外売が加わり、激しい消耗戦を繰り広げました。

つまり、中国で新しいサービスが熾烈な新顧客獲得合戦をする時には、多くの場合、BATの巨額資金が流れ込んでいるのです。その意味で、BATはやはり中国のテックビジネスを動かしている存在なのです。

 

BATが重要なもうひとつの理由が、トラフィックの流れです。ネット企業は、インターネットというサイバー空間にいる消費者をいかに自社のサービスに呼び込むかがビジネスの要諦になります。このトラフィックを、BATはうまく分け合っていて、中国のネット空間は、このBAT3社によって支配されているといっても過言ではありません。

BATは互いの領域を侵さないように棲み分けていますが、時々、国境線を越えて侵入をしていきます。すると、侵入された方は全力で押し戻す。そういうことが繰り返されてきて、BATの棲み分けが成立しています。

これは、中国人が大好きで、日本人にもファンの多い、三国志の魏呉蜀のパワーバランスとまったく同じ構造になっています。

このトラフィックの棲み分けを理解することは、中国のテックビジネスを理解する上できわめて重要です。そこで今回は、トラフィックという観点でBATを理解してみようと思います。これを理解すると、BATの熾烈な競争の構造が理解できるようになると思います。また、このトラフィック構造は、中国だけのものではなく、原理のようなもので、米国や日本でも同じような構造になっています。これを理解しておくことで、中国以外のネットビジネスの競争の背後にあるものが見えてくるようになると思います。

 

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vol.031:大量導入前夜になった中国の自動運転車

vol.032:ソーシャルEC。次世代ECなのか、それとも中国独特のECなのか

 

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