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コロナ禍で急増した詐欺事件。発見するのはテンセントの人工知能

新型コロナの感染拡大期に、WeChatなどのSNSを利用した詐欺事件が急増した。公安部が認知した件数は1万4786件、6605人の容疑者を逮捕した。そのうちの70%は、テンセントが開発した詐欺防止人工知能「ビンゴ」の早期警報に基づくものだと黒騎士が報じた。

 

コロナ禍で多発した詐欺事件

公安部刑事偵査局は、新型コロナウイルス感染拡大期に全国で起きたネット詐欺事件1万4786件を把握し、6605人の容疑者を逮捕したと公表した。被害金額は4.88億元(約73億円)にのぼる。

感染拡大期、流行したネット詐欺は3つの段階があった。初期にはマスクなどの衛生用品を購入できると偽って代金などの搾取する手口が流行した。中期には、人々の公益心を悪用して募金詐欺、また、多くの人が職場に行けず自宅にいることを利用して、自宅でできる仕事を紹介するという詐欺が流行。後期には、職場復帰が始まり、多くの中小企業、個人商店が資金繰りに悩んでいることを利用して、低利子融資が受けられるという詐欺が流行した。

 

犯行集団の多くは海外に拠点。偽造パスポートでWeChatを利用

多くの詐欺は、SNS「WeChat」を使って行われる。さまざまなシナリオで、得になる話を持ちかけ、手数料、申請料、代金などの名目でWeChatペイで支払わせたり、本人のアカウント情報を送らせて、アカウントを乗っ取り、銀行口座などの資金を盗むというものだ。

WeChatアカウントを取り、WeChatペイの機能を利用するには、国内では身分証、海外ではパスポートが必要になる。そのため、国内の詐欺集団がWeChatを利用して詐欺を行うのは難しい。身分証の偽造はすぐに露見するからだ。そこで、多くの詐欺集団は海外に拠点を持ち、現地の偽造パスポートなどを手に入れてWeChatアカウントを作成し、国内に向けて詐欺犯罪を行なっている。

 

7割の逮捕者は、人工知能「ビンゴ」が検出

今回、逮捕された6605人の犯人のうち、70%は、テンセント守護者計画のビンゴシステムの通報によるものだ。ビンゴシステムは、WeChat、QQでのメッセージのやり取りを監視し、詐欺的な内容が含まれていると判断すると、お金のやり取りが実行される前に事前通知をするシステム。

2018年5月、テンセントと浙江省公安庁は戦略提携を行い、「テンセント浙江セキュリティ連合ラボ」を設立し、テンセントのクラウド設備、クラウド計算力を活かし、ネット詐欺を早期警報するシステムの開発を行ってきた。

その開発内容は、5+1のシステムからなる。

1)鷹眼:電話詐欺を事前に検出する

2)騏驎:偽の携帯電話基地局を検出する

3)神羊:メッセージ内容の分析を行う

4)神茶:詐欺を行うIPアドレスを検出する

5)態勢:リスク度を分析する

この5つのシステムの上に位置をするのが「ビンゴ」だ。5つのシステムの検出結果を元に、各地公安に早期警報を発する。

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▲公開されているビンゴシステムの一画面。海外拠点から中国国内に対しての詐欺が多い。

 

導入後、すぐに詐欺実行を阻止するお手柄

テンセントと浙江省公安庁が戦略提携をした直後、ビンゴの能力が発揮されるできごとが起きた。浙江省金華市のある男性が、海外からの犯罪集団の詐欺にあった。犯罪集団は公安職員だと偽って、罰金や示談金を支払うことを要求した。このやりとりはビンゴがすぐに検出をし、金華市警察に通報、警察は男性に連絡を取り、お金を渡すことを阻止することができた。この男性は、警察に感謝の言葉を述べた。

ところが、2日後、再びビンゴが同じ男性について警報を発した。驚いた金華市警察が男性に連絡を取ってみると、男性は犯行集団と連絡を取り続けていた。公安の人間だと偽られて怯えてしまい、なんとかお金を払おうとしていたのだ。警察は男性だけでなく、家族にも連絡とり、送金するのを阻止。警察官が自宅に急行し、家族とともに説得することで、送金することを阻止することができた。

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浙江省公安庁とテンセントの戦略提携調印式。5つの詐欺検出システムの上位にビンゴシステムが位置する。精度は90%、すでに74万件の詐欺事件の警報を発している。

 

90%の精度で詐欺を早期発見するビンゴ

テンセントの統計によると、男性被害者が63%を占め、女性の37%の2倍近くになっている。また、世代では90年代生まれ(36%)、00年代生まれ(27%)、80年代生まれ(20%)と、高齢者ではなく、若い年齢層の被害が多い。

多くのネット詐欺は、SNSがなくても電話などを使って行うことができる。しかし、SNSの登場によって、犯罪の効率も著しく上がった。大量に釣りのメッセージを配信し、かかってきたカモに対して、さまざまなシナリオでカタにはめていく。一方で、ビンゴのように人工知能の力を借りて、早期警報を発するシステムも構築されている。ビンゴは、この2年間で、各地警察に74万件以上の警報を発しており、精度は90%になっているという。

 

EC「タオバオ」が、低価格商品も送料無料にできる秘密

アリババのEC「タオバオ」には100円程度の商品が大量に出品されている。そのような商品を1つ注文しても、多くの場合、国内送料無料になる(業者による)。郵便小包でも50円程度の送料がかかるのに、どうして無料で配送することができるのか。その秘密を熱点指南が解説した。

 

宝探し感覚のEC「タオバオ

アリババのEC「淘宝」(タオバオ)は、CtoC型のECサービスだが、実質的には多くの小規模事業者が出店し、低価格で掘り出し物が購入できるようになっている。

目につくのは10元(約150円)以下の商品。10元で、下着や帽子、スニーカー、サングラスなどが買える。もちろん、質はわからない。わからないが、だめもとで買ってみてもいい金額だ。タオバオとは「宝探し」の意味。こういう掘り出し物を見つけるのがタオバオの楽しみ方のひとつになっている。

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タオバオの画面。10元(約150円)以下の商品も多くが送料無料。リピートしてもらうためのセール品という位置づけだ。タオバオには無数の業者が出店しているため、ただ出品しているだけでは、すぐに埋もれてしまう。

 

低価格商品であっても国内送料無料

ところで、多くの人が不思議に思っているのが、このような10元以下の商品であっても、送料無料であることだ。送料は出品業者の方が負担をしている。ところが、小さな荷物を近距離に送っても、4元以上の配送料がかかる。10元以下の商品で、配送料を負担したら、業者は利益がないどころか、赤字になってしまうのではないか。いったいどういう仕組みなのだと話題になっている。

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▲定額契約などもあり、宅配件数は増加する一方。ITを導入が遅れている中小の宅配企業では、人手で処理をする限界を突破している。

 

宅配サブスク契約が普及している

最も大きいのは、多くの出品業者が、宅配企業と月額定額制の契約を結んでいることだ。その価格や条件は、契約ごとに異なっているが、例えば「月1万2000件までで月額1000元」などという格安の契約になっている。もちろん、委託する荷物が少ない月でも定額を支払わなければならない。

宅配企業は、複数あり、競争は厳しい。そのため、大量に荷物が出る業者には、一本釣りの営業をかけ、荷物を確保したい。大量に委託する業者にとっては、配送コストが安く済む。互いの利益が一致した結果だ。

このような契約であるため、業者にとって配送料は固定費になる。契約条件の枠に余裕があるのであれば、配送料を考えずに価格が設定できることになる。

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▲仕分け作業も中小では人手に頼っている。一方、大手である順豊、菜鳥などでは自動化が進んでいる。IT導入が遅れている中小は、もはや限界に達し、近い将来、大きな業界再編が起きると見られている。

 

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▲一方、菜鳥などの大手宅配企業では、人工知能を利用した自動仕分けセンターなどの導入が進んでいる。

 

リピート率は40%から200%。再購入で元が取れる

もうひとつは、多くの業者がこのような低価格商品を、消費者と結びつくためのツールとして使っていることだ。タオバオの場合、リピート率は0.4から2.0程度が標準。つまり、一度何かの商品を買ってもらえば、そのうちの40%以上の消費者がもう一度同じ業者で買い物をしてくれる。

低価格商品を購入した消費者に、ダイレクトメールなどを送り、より利益率の高い商品を買ってもらう。多くの業者はそこを狙っている。

 

 

ストライキ、新型コロナで挫折をするフォクスコンのインド移転計画

アップルは製造委託先であるフォクスコンをインドに進出させて、iPhoneのインド需要をインド生産で賄おうと計画してきた。しかし、フォクスコンの中国式を押し付けるやり方にインド人労働者が反発をし、ストライキが起きている。さらに新型コロナによる休業で、インド進出計画は事実上頓挫をしていると傑哥資訊社が報じた。

 

「世界の工場」は、中国からインドに移転中

中国は人件費コストが安い割に、インフラがそこそこ整い、技術力もあったことから、「世界の工場」となることができた。アップルもその多くの製品を、富士康(フォクスコン)などに委託生産している(社名は台湾に本社がある鴻海精密工業。中国向けには富士康の名称を、北米向けにはフォクスコンの名称を使っている)。

しかし、この数年で事情が大きく変わった。人件費コストが大きく上昇し、海外企業は、中国からより人件費の安い国に工場を移転し始めている。海外企業の多くがインドに注目をしている。

 

インド需要の上昇、米中貿易摩擦でアップルもインド生産へ

特にアップルは、インドのスマートフォン市場で3%程度しか占められていないが、インド生産のiPhoneはそのうちの1/3程度で、インド国内の需要をインド生産で賄い切れていない。しかも、プレミアム価格帯のスマホとしてiPhoneの人気が上昇しており、2020年1-3月期の出荷台数は前年同時期から78%も増加をしている。

また、米中貿易摩擦も大きく影響している。中国で生産したiPhoneを米国に輸出しようとすると、追加関税が徴収される懸念がある。一方で、インドではiPhoneの輸入関税を10の%から20%へ引き上げるなどしている。つまり、インドで売るものはインドで生産するように誘導しようとしている。

そのため、アップルは、インドに巨額投資をして、フォクスコンなどを通じて、インドの生産拠点の10から12カ所の拡充を急いでいる。

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▲フォクスコンのインド工場。工員がインド人であるというだけで、中国工場とそっくりの風景になっている。中国式を押し付けることに対する工員の反発は強く、ストライキが起きている。

 

フォクスコンのインド進出計画は頓挫か?

しかし、フォクスコンのインド工場はかなり苦労をしているようだ。中国のフォクスコン工場では、残業が当たり前のことになっている。中国人労働者は残業を歓迎する。基本給よりも稼げるからだ。しかし、インドの労働者は残業を嫌う。残業が多くなると、職場放棄、ストライキが相次いでいる。

これにより、フォクスコンのインド工場は生産性が上がらず、その分、多くの工員を雇用しなければならず、生産コストが中国工場に比べて必ずしも安くはなっていないのだ。

またインフラも脆弱で悩まされている。断水、停電が起きるのだ。さらに、インドで生産するといっても、組み立てる部品は中国で生産したものを持ち込まなければならず、そのコストもかかる。

フォクスコンは50億元(約750億円)を投資して、インド工場を稼働させようとしたが、このままでは失敗に終わりかねない。そこへ新型コロナの感染拡大が起こり、インドでは国内全土を対象とした封鎖措置を実行し、インド工場も操業停止に追い込まれている。

インドの州政府も、アップルとフォクスコンの投資計画を次々と凍結し、インド進出計画は頓挫をしたと見られている。

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鴻海精密工業の郭台銘氏は、インド各地の州政府と協同して工場の進出を行ってきたが、コロナ禍の影響もあり、ほぼ失敗に終わったと見られている。

 

中国式が通用しないフォクスコンの海外進出

フォクスコンは、これまでにも、2011にはブラジル、2014年にはインドネシア、2018年からインドと脱中国プロジェクトを進めてきたが、その多くが頓挫をしている。

その失敗の根底にあるのは、日本企業がかつて中国で失敗したのと同じく、「自国式を押しつける」感覚にあると言われている。

フォクスコンが中国に回帰をすることは簡単だ。しかし、それには人件費コストの高騰が待ち構えている。海外にもいけない、中国にも戻れない。アップルとフォクスコンは漂流をし始めている。スマホの世界で圧倒的な強さを持っていたiPhoneも、意外なところで踊り場を迎えている。

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マスクつき顔認証の現在の精度は95%前後。入退室管理では実用レベルに到達

中国で入退室管理や決済認証に用いられてた顔認証。それが新型コロナウイルスの感染拡大で、マスクをつける人が増え、課題にぶつかっている。すでに昿視科技、百度ではマスクつき顔認証を実用レベルにまで精度を上げていると中国安防行業網が報じた。

 

普及した顔認証にマスクという新たな課題

中国では、オフィス、公的機関、教育機関などの入退室管理に顔認証が広く使われている。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、マスクをつけるのが一般的になり、そのままでは顔認証ができないことから問題になっていた。

入退室管理をする場所では、人が滞りやすく、そこでいったんマスクを外して顔認証をするというのは、感染リスクを瞬間的に高くしてしまう。以前から顔認証システムを提供している昿視科技、百度などでは、感染拡大を受けて、マスクをしたまま顔認証が可能になるシステムの開発を始めている。

 

避けられないマスク付き顔認証技術の開発

企業向けの入退室管理システムだけでなく、スマートフォンの顔認証ロック解除などにもシステムを提供している昿視科技では、「マスクつき顔認証は、顔認証技術にとって新しく生まれた難題です。しかし、挑戦をしなければなりません。私たちは実現することを何よりも重んじる企業だからです」と語っている。

精度の面ではまだ改善が必要なものの、マスク付き顔認証はすでに実用レベルとなり、多くのシステムがアップデートされている。昿視科技は、多くのスマホメーカーに顔認証技術を提供していることから、近々に、スマホの顔認証ロック解除もマスクをしたままできるようになる可能性がある。

 

目認証と顔認証を併用する

マスク付き顔認証を実現するには、2つの技術上のポイントがあった。ひとつは顔認証ではなく、目認証のシステムを構築することだ。目の部分だけで認証ができるように、人工知能を学習させる。これと従来の顔認証を併用することで、個人識別ができるようになる。

しかし、ただ目認証と顔認証を切り替えて使う、同時に使うだけではうまくいかない。そこで、顔映像の中で、どこにより強く注目すべきかも人工知能に学習させた。マスクをしていない、顔全体が撮影されている場合には、目、鼻、口、顔の輪郭などに注目をして識別をするようにし、マスクをしている場合には、目や顔の輪郭に注目をし、マスク部分は注視しないように判断をする。

また、マスクをしている場合は、ほぼ目と輪郭だけで判断をするようになる。このように識別に利用できる要素が少ない時は、自動的に判断基準を厳しくすることで誤認識を減らす工夫をしている。

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▲目認証と顔認証をただ組み合わせるだけでは精度が出ない。状況によって顔のどの要素に注目をするかも人工知能に学習をさせ、利用できる要素が少ない場合は認識基準を厳しくする。

 

不足した教師データをGANで大量生成

また、マスク付き顔認証を開発する際、問題となったのが、「マスクをした顔」の画像データが圧倒的に不足をしていたことだ。これにはGAN(Generative Adversarial Network、敵対的生成ネットワーク)技術が利用された。

GANは教師データが得られない場合に、教師なし学習をする場合に用いられる手法で、データを生成する人工知能と判別をする人工知能の2つを用意し、それぞれが敵対しながら学習を進めていくというものだ。

よく、「偽金づくり」と「鑑定士」に例えられる。偽金を作る方は、鑑定士をごまかすように学習していき、鑑定士は精巧な偽金も見分けられるように学習をしていく。これを繰り返していけば、両方の人工知能が、教師データなしに学習をしていける。

このGANを利用し、すでに豊富に持っているマスクなしの顔画像から、マスクをした顔画像を生成し、これを利用して最終的な学習を行った。

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▲マスクつき顔認証の開発では、マスクをした顔画像という教師データが不足をした。マスクの形状、材質によっても人工知能の学習結果が変わってくるからだ。そこでGAN手法を使い、大量にマスクつき顔画像を生成し、これを教師データとして学習させた。

 

現在の識別率は95%。入退室管理では実用レベル

現在、一般的な企業の入退室管理では、識別率が95%以上にまでなっている。5%以下の確率でうまくマスク付き顔認証ができないことがあるが、その場合は、マスクを外して再度認証してもらうことになる。

百度でも、ほぼ同様の手法でマスク顔認証を完成させ、2月下旬からまずは自社の入退館システムに導入し、問題点を洗い出した。現在は、以前から百度のシステムを利用していた100社以上の企業にマスク顔認証のアップデートを行った。

さらに、百度では、同時に複数の人をマスク顔認証できるシステムも開発済みで、これであれば、通路などに設置をし、人は立ち止まることなく、歩いて通過するだけで認証ができる。このシステムも、空港や駅、公的機関などに導入が始まっている。

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百度はすでにマスクつき顔認証を開発済みだが、精度を上げるデータを取るため、自社の入退室管理に導入し、実験を行なっている。

 

決済認証にも利用可能な精度が求められている

中国では以前からマスクをつける人が増えていた。大きな理由は大気汚染だ。さらに花粉症にかかる人も増えている。また、冬は防寒にもなるということからマスクをつける人が増え、そのような人にとっては顔認証が不便な認証方式になっていた。これが、新型コロナの感染拡大で解決される。

今後、注目されるのは、普及が始まっていた顔認証決済だ。マスク付きでも認証できるのが理想的だが、決済認証の場合は最低でも99%以上の認識率が必要になる。誤認識で決済をしてしまうことはあってならないことだし、認識されずにやり直しをすることがたびたびあると、消費者の間に不安が生まれ、顔認証決済が避けられてしまうことになる。マスク付き顔認証の精度をどこまで上げられるか、注目されている。

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▲同時に複数の人をマスクつき顔認証ができ、同時に体温測定もできるシステムも開発済みで、駅や空港などの公共施設への試験導入が始まっている。

 

 

変わる農業。今の農機具は、スマホ、無人田植機、ドローン。

春の農作業が始まっているが、その様子は伝統的な農業とは違うものになっている。すき、くわ、耕運機という農業から、スマートフォン無人田植機、ドローンが使われる農業が始まっていると新華社が報じた。

 

現代の農機具はスマホ、自動運転、ドローン

春が来て、農作業が始まった。江西省南昌県蒋巷鎮の大田現代農業基地でも数台の耕運機が農作業をしている。ありふれた風景だ。

しかし、耕運機にはセンサーとカメラが搭載されている。田んぼの横に立つ南昌県蒋巷瑞田農業専業合作社の技術総監は、スマートフォンを手にもち、アプリを操作している。「このアプリによって、耕運機がどの深さまで耕しているのか、耕した場所はどこなのか、重複して同じ場所を耕していないかなどがすぐにわかります。データに基づいて農作業が進められるのです」。

伝統的な農具と言えば、すき、くわ、耕運機。しかし、現代の農具は、スマホ無人田植機、ドローンになっている。

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▲大田現代農業基地での農作業の様子。従来の耕運機にセンサーが取り付けられ、耕した状態のデータがスマホで可視化される。効率よく作業ができ、なおかつ耕し方が足りない場所を生まずにすむ。

 

ドローンレンタルビジネスも

江西省上饒市余干県鳥泥鎮銅鼓包村で農機具の販売をする李蘭さんは、2年前に多くの農家がドローンで農薬散布をしていることを知った。しかし、多くの農家がドローンを所有しているわけではなく、李蘭さんのところで農薬を購入した後、農薬散布用のドローンを所有している農家を探して、ドローンを借りなければならなかった。

そこで、李蘭さんは農薬散布用のドローンを7万元(約105万円)で購入し、農家に貸し出すビジネスを始めた。農薬が売れ、貸出し料が取れ、農家はドローンを探す手間が省ける。李蘭さんの商売も上向きになった。李蘭さんは言う。「今は、農薬や農具を販売するだけでは商売は成り立ちません。サービスを提供することが重要になっています」。

江西省中軽知能設備は、江西省鷹潭市政府に100台の農薬散布用ドローンを納入した。同社の桂永斌会長は言う。「弊社は2016年から農薬散布用ドローンの生産を始めています。最初の1年は300台ほどしか売れませんでしたが、この2年は市場が活発になり、今年は1000台以上が販売できる見込みです」。

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▲ドローンによる農薬散布はもはや当たり前のことになってきた。ドローンのレンタルビジネスも始まっている。

 

長靴の農民から革靴の農民へ

江西省井岡山糧油集団の馮小慶副総経理は、昨年の農機具展示会で、無人田植機を見て、すぐに導入をした。田んぼの横に立ち、リモコンで田植えをする場所などを設定すると、無尽田植機がその通りに動いて、苗を植えてくれる。

馮小慶副総経理は言う。「この無人田植機はナビゲーション技術が使われていて、田んぼの形状から田植えをするルートを設定すると、すべての田植え作業を無人で行うことができます。1時間で4ムー(0.27ヘクタール)の田植えが可能です」。

この無人田植機は、手作業では厳しい仕事になる田植え作業を自動化することができ、人件費コストも下げられることから、馮小慶副総経理は追加で数台を購入することを考えている。

春の農作業の風景は大きく変わっている。長靴ではなく、革靴を履いて農作業をすることが可能になる日も遠くない。

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▲農作業の多くのプロセスがデータ化され、可視化される。この後、作付けには自動運転の無人田植機が使われる。

 

 

OPPO、vivoを生んだ歩歩高とその創業者段永平

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。
明日、vol. 022が発行になります。

 

中国のスマホメーカー「OPPO」(オッポ)は、日本法人があり、さまざまなルートでスマートフォンを発売しています。しかし、中国のメーカーであることや、耳慣れないブランドであることから、なんとなく手を出しづらい人も多いのではないでしょうか。一昔前の「中国製品は安かろう、悪かろう」のイメージのまま、「価格は手頃だけど、性能や品質が心配」と考えている人もいらっしゃると思います。
しかし、その感覚は少し遅れているかもしれません。Canalysの調査による2019年の世界でのスマートフォン出荷台数を見ると、1位はサムスン、2位がファーウェイ、3位がアップル。ここまでは多くの人の想像通りです。しかし、第4位は小米(シャオミ)、第5位はOPPOとなります。OPPOはもはや世界市場で認知されているスマホブランドになっているのです。

 

と言っても「世界市場といっても、大半は中国向けの販売なのではないか」とおっしゃる方もいるかと思います。OPPOの世界市場のでの出荷台数は1億2020万台。中国での出荷台数は6570万台です。つまり、45%は海外市場で売れているのです。すでに欧米、日本、東南アジア、インドなどで販売されています。
中国市場では、ファーウェイの1位は揺るがないものの、第2位以降はOPPOvivo(ビーボ)、小米、アップルと続きます。日本で人気のアップルは、中国市場ではもはや第5位、市場シェアは7.5%にすぎません(ただし、この統計は2019年の出荷台数であり、中国ではiPhoneの旧機種、中古機種が人気です。なので、保有率の統計をとると、iPhoneが30%から40%程度になり、人気ブランドであることは変わりありません。iPhoneは旧機種でもじゅうぶん使える性能であるために現行機種の売れ行きが落ちるという皮肉なことになっています)。

 

OPPOvivoは日本では格安スマホに分類されることが多いことから、「安かろう、悪かろう」と見られることも多いかと思います。しかし、実際は違います。中国では「トガったテクノロジーを投入してくる」ブランドとして認知されています。確かに、アップルやファーウェイのように、成熟した製造技術、使いやすさを考えたデザインという点ではまだまだ追いつけていない部分もあるので、初心者にお勧めしづらい点があるのは事実です。でも、ある程度のリテラシーがある上級者であれば、OPPO、vvio、シャオミといったブランドのスマホは、トライしてみる価値があります。

例えば、OPPOのFind 7では、実質5000万画素で撮影できるカメラが搭載されています。カメラ自身は1700万画素なのですが、シャッターを押すと自動的に10枚の写真が撮影され、これを人工知能で合成して5000万画素の写真を生成します。
さらにOPPOでは、「5分の充電で2時間通話ができる」超急速充電技術を開発しています。
vivoも画面内指紋認証を搭載、小米は世界に先駆けてベゼルレス(フチなし)を実現するなど、中国のスマホメーカーは攻めに攻めてきました。「世界初」と呼ばれるスマホテクノロジーは大体OPPOvivo、小米という中国の中堅メーカーが初め、それをファーウェイやアップルがより洗練された形で追従するという構造になっています。
日本では、いまだに「iPhoneに○○という新テクノロジーが搭載」と大きな話題になりますが、同様のものは数年前にこのような中国メーカーがすでに搭載していることも多くなってきました。


逆に言えば、このような中国メーカーは、ブランド力が強くないので、常にトガったテクノロジーを搭載していかないと、生き残っていけません。事実、この2年ほどは、どのメーカーも5G対応以外のトガったテクノロジーに欠けるところがありました。すると2019年の中国市場シェアは、OPPOvivo、小米、アップルとも20%前後落とし、ファーウェの一人勝ち状態になっています。文字通り、厳しいサバイバル戦を戦っています。

 

中国のスマホメーカーは、この他にもたくさんあります。あまりに数が多すぎて混乱されている方も多いでしょう。そこで、ここで整理をしておきます。分類の方法はいろいろあると思いますが、ここでは4つの系統に分類してみます。
1)ファーウェイ系:ファーウェイとそのサブブランドである栄耀(honor、オーナー)があります。
2)歩歩高系:OPPOvivoに加え、一加(OnePlus)があります。「歩歩高」については、後ほど解説します。
3)小米系:小米の他に紅米(Redmi)のサブブランドがあります。
4)外資系:中国市場での外資系ブランドはアップルのみになりました。サムスンはほとんど売れていません。

 

ここで登場した「歩歩高」(ブーブーガオ)という社名と、その創業者である段永平(ドアン・ヨンピン)の名前をご存知の方は少ないと思います。しかし、段永平はアリババのジャック・マーとほぼ同世代の起業家で、しかも、非常にユニークな成長手法をとってきた人です。多くの中国人経営者が、自分の利益を重要視し独占しようとするのに対し、段永平は利益の多くを人に分かち与えてしまいます。やる気のある人、成果を出す人には可能な限りの利益と環境を与えることに腐心をし、多くの成功者を育ててきた中国テック業界のメンター的存在です。


OPPOvivoもこのような段永平の支援の元に生まれてきたメーカーです。では、なぜ、そのような素晴らしい人物が今ひとつ有名ではないのでしょうか。それは段永平は40歳の時に早々と経営者を引退して、現在はゴルフと投資三昧の日々を送っているからです。段永平にとって、事業で成功することは目的ではなく、あくまでも楽しい日々を送るための手段にすぎないのです。
今回は、この段永平という人物と、その後に続くいわゆる歩歩高系の企業をご紹介します。その来歴を知れば、「OPPOが安かろう悪かろうの格安中国スマホ」というイメージが違っていることがわかってくるはずです。


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住宅価格が高騰する深圳市と東莞市。マンション投資に振り回されるファーウェイ社員

ファーウェイの本拠地である深圳市、研究施設がある隣接する東莞市は、住宅の価格がいまだに上がり続けている。ファーウェイのある社員は、マンション投資で利益を出そうとマンションを購入したが、政策などに振り回されて、利益を得るのは簡単ではなかったと騰訊網が報じた。

 

深圳市から1時間の距離にあるファーウェイ松山湖基地

木さん(仮名)は、2010年に大学を卒業後、すぐに華為(ホワウェイ、ファーウェイ)に入社し、数年後に数十万元の貯蓄ができたため、東莞市松山湖にマンションを購入した。

ファーウェイは、2014年9月から松山湖基地の建設を始め、深圳からそちらに移転する予定だったからだ。敷地面積は130ヘクタール(東京ドーム約28個分)という広大なもので、建物はすべてヨーロッパのお城風で、敷地内を移動するための高山列車風の電車まで走っている。深圳市からの慰留もあって、本社まるごと移転はしていないものの、研究部門を中心に移転が始まり、最終的には3万人のファーウェイ社員がここに勤務する予定だ。

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▲ファーウェイ松山湖基地内の移動に利用できるシャトル列車。スイスの高山列車風のデザインになっている。

 

投資と住居の両得を狙ってマンションを購入した木さん

そのため、木さんは、松山湖基地近くのマンション「万科金域松湖」の一室を購入した。松山湖のマンション価格が急騰するのを見越して、投資を目的としていた。しかし、木さんにはマンションのローンを払いながら、賃貸住宅の家賃を払うまでの余裕はない。

そこで、松山湖のマンションに住み、勤務地である深圳市坂田に1時間ほどの通勤時間をかけて通おうと考えた。数年後、自分が松山湖基地勤務になれば、歩いて通えるようになるし、深圳市勤務が続くのであれば、値上がりしたマンションを売却すればいいと考えた。どっちに転んでも悪くない。


华为东莞基地曝光

▲ファーウェイの松山湖基地。広大な敷地に、ヨーロッパのお城風の建物が並んでいる。敷地内を移動する路面電車も高山列車風になっている。

 

結局6年後にマンションを売却

松山湖のマンションは2013年8月に購入し、98平米3室2LDK(ゲスト用のLDKがある)で、1平米単価は9800元、価格は約98万元(約1500万円)になった。

勤務地の深圳市坂田までは、バスで1時間ほどかかるが、この万科金域松湖マンションには、ファーウェイの専用通勤バスの路線となっている。専用バスであるためにゆったりと座っていける。1時間ほど、ノートPCを膝に置いて、簡単な仕事をすることができる。

将来、松山湖基地勤務になれば、歩いて通勤することもできるし、自転車通勤もできる。

しかし、木さんは、2019年にこのマンションを売却して、深圳市坂田にマンションを購入することになった。

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▲木さんが購入した松山湖、万科金域松湖マンション。3室2LDKという豪華なもので約1500万円だった。

 

東莞市の規制により価格上昇が鈍る

第1の計算違いは、松山湖のマンション価格が思ったほど上昇しなかったことだ。

東莞市では、ファーウェイの移転に伴い、周辺の住宅価格が暴騰すると見て、2017年4月から住宅販売数の規制を始めた。この影響で、松山湖周辺の住宅市場は停滞し、マンション価格の上昇も抑えられた。

中国人の感覚では、マンションを購入するということは、住みながらも価格が上がり続ける資産を買うことだ。それが価格が上がらないため、長期に持つには適さない資産だと感じられた。

そこで、2019年4月に270万元(約4000万円)で売却をした。6年住んで、約170万元(約2500万円)の利益を得た。木さんにとっては、これ以上価格は上がらないと見ていたので、あきらめのつく利益だった。

 

深圳市のマンションは上がり続けていた

第2の計算違いは、勤務地付近の深圳市坂田付近のマンションは、規制などないために価格が上昇し続けていたことだ。

マンションを購入した2013年当時、坂田のマンションは1平米2万元が標準で、松山湖の2倍の価格だった。木さんが購入したのと同じ広さのマンションを坂田で購入しようとすると、200万元(約3000万円)ほどが必要になる。2019年には600万元(約9000万円)ほどになっていた。

松山湖のマンションを売った資金では、とても坂田のマンションを買うことはできない。買うのであれば、広さや駅からの近さなどを大きく妥協しなければならない。

 

売却後に東莞市の規制が緩和される

第3の計算違いは、マンションを売却した直後、東莞市の規制が緩和され、松山湖のマンション価格が急上昇したことだ。

木さんのマンションは340万元(約5100万円)ほどまで価格が上昇した。あと1年売却を遅らせたら、木さんはより大きな利益を得ることができた。242万元(約3600万円)も利益を出すことができたのだ。

それどころか、勤務地近くの坂田にマンションを購入しておけば、ローンが少し苦しくなるものの、400万元(約6000万円)の利益を出すことができた。しかも、会社の近くなので、歩いて通勤することができるのだ。

木さんは、坂田にマンションを買うのでも条件を大きく妥協しなければならないし、今さら松山湖にマンションを買おうにも資金が足りない。自分の中では、大きな利益を出すはずの計画だったのに、どこにもマンションが買えないという状態になってしまった。

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▲深圳市、東莞市のマンション価格の推移。わずか6年で3倍の価格になる。テック企業が集まる都市でマンション価格が上昇する現象は世界的に起きており、非テック企業の人の住宅環境を圧迫している。

 

ファーウェイは社員に3万室のマンションを提供

さらに、木さんに追い討ちをかけることが2018年に起きている。従業員の住宅問題が切迫していると感じたファーウェイは、松山湖に3万室の社員用マンションの建設を始めた。このマンションは、ファーウェイ社員であれば、5年間賃貸で住むことができる。しかも、内装済み、家具付きだ。

5年間賃貸で済んだ後、依然としてファーウェイ社員であれば、わずか8500元(約13万円)でそのマンションを購入することができ、ファーウェイ社員以外に転売をすることも可能になる。

社員に住宅を提供するだけでなく、一種のボーナスでもある。

 

社員の買い込みに住宅を提供するテック企業

多くのテック企業が、社員の囲い込みに必死になっている。コストをかけて優秀な社員を雇用しても、数年で転職されては割が合わない。そこで、待遇面だけでなく、福利厚生面で長期勤続社員を優遇する策を取っている。

このような社員住宅を低価格で提供し、しかも一定年数勤続すれば、資産として売却などもできるようにするということはファーウェイだけでなく、アリババやテンセントも同様のことを行なっている。

木さんは、自分で利益を出そうと、いろいろ考えて行動した結果、最も利益が小さくなる道を選んでしまった。ではどうしたらいちばんよかったのかと考えると、いまだに正解がわからない。マンションを買わなければ、賃貸の家賃を支払い続け、利益も出なかったのだから、損はしていない。270万元の利益で満足するしかないと自分を納得させている。