中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

ロケット宅配で、地球上どこでも1時間配送。アリババのエイプリルフールネタ

ECサイトタオバオ」は、2022年からロケットによる配送を始めると発表した。発表日は2019年4月1日で、もちろんこれはエイプリルフールネタ。しかし、過去、アリババはエイプリルフールネタとして発表したテクノロジーを実現してきたと量子位が報じた。

 

2022年4月1日からロケット配送を始める?

ECサイトタオバオ」は、WeChatの公式アカウントを通じて、商品の配送にロケットを利用し、地球上どこでも1時間以内に配送する物流網を2022年までに完成すると発表した。

大型の「宝箭号」を利用すると、ボストンのロブスターを40分で上海の食卓に乗せ、東京の豊洲市場の海産物を15分で広州の食卓に乗せることが可能になる。

宝箭号は第一宇宙速度に近い秒速7kmで飛行し、南極から北極までの約2万kmを43分で飛行できる。従来、中国内であった配送地域を、米国、日本、韓国にまで拡大する。

また、小型の「小宝箭号」は、30km圏内に60秒で配送が可能。

いずれのロケットも液体燃料を使用し、回収して再利用できる設計で、配送コストは99%低減できるという。サービスインは、2022年4月1日に予定をしている。

f:id:tamakino:20190515105510j:plain

▲大陸間を1時間配送する宝箭号の軌道。エンジン部、ペイロード部のいずれも回収して再利用する計画だ。

 

f:id:tamakino:20190515105513g:plain

f:id:tamakino:20190515105521g:plain

f:id:tamakino:20190515105528g:plain

▲発射準備に入る宝箭号。こういう精巧なフェイクビデオまで公表したため、ネット民の間での期待が盛り上がっている。

 

アリババのエイプリルフールネタ。しかし…

この発表は、4月1日に行われ、しかもサービスインの時期を2022年4月1日とし、しかも公式サイトではなく、プライベート感の強いSNS「WeChat」による発表ということから、エイプリルフールのネタと考えている人が大半だ。

しかし、一部のメディアが、この「4月1日」との関連に触れずに、大真面目に報道してしまったため、ネット民の間では「ほんとなの?ジョークなの?」とざわついている。

しかし、このようなメディアを誤報、不備のある報道と責めるわけにはいかない。なぜなら、アリババグループ企業は、毎年4月1日にこのような面白ネタを発表しているが、そのうちのいくつかは実現してしまうからだ。


網膜認証発表の3年後、顔認証を実用化

2012年4月1日には、アリペイは網膜認証技術を導入すると発表した。スマホを見るだけで決済の認証ができるというものだ。

3年後、網膜認証ではないが、顔認証技術を使って杭州市にケンタッキーと共同でKPROをオープン。大型パネルでメニューを選んだ後、顔認証で決済ができるというもので、スマホ不要、パスワード不要の決済方式を世に送り出した。また、2017年にはアリペイを運営するアントフィナンシャルが網膜認証技術を公開している。

f:id:tamakino:20190515105753j:plain

▲ケンタッキーが運営するヘルシー料理中心のKPRO。入り口のタッチパネルで注文をし、顔認証で決済をする。

 

空気決済は実現

2014年4月1日には、アリペイが空付(空気決済)と呼ばれる技術を発表した。これはパスワードやパスコードの代わりに、その人しか知らない模様を利用して、決済するというものだ。例えば、タトゥーの模様、自分しか持っていない写真、画像、自分しか持っていない服や靴の模様などだ。

これもすでにさまざまなアプリで、写真をパスワードとして利用する機能が試みられている。


支付宝全新支付方式 KungFu空付

▲パスワードの代わりに自分だけが持っている写真やタトゥーなど図柄で認証できる「空付」。これはすでにさまざまなアプリで使われている。

 

相手の情報が表示されるARスマートグラス

2016年4月1日には、AR生活プラットフォーム「螞上」を発表した。眼鏡タイプのスマートグラスを通すと、人の肩にその人の情報が表示されるというもの。表示される情報は、その人の行動の文脈によって変わってくる。例えば、ファストフードであれば、スタッフからは「新規顧客」という情報が見える。人と知り合った時は、その人の趣味が表示されるといった具合だ。


蚂蚁金服:AR生活服务平台“蚂上”

▲グラス越しに顧客などの情報が見えるAR生活サービスプラットフォーム「螞上」。アリペイを運営するアントフィナンシャルがエイプリフールネタとして発表した。

 

スマホがいらなくなるアリペイエアー

2017年4月1日には、「如影計画」(アリペイエアー)を発表した。スマホは必要なくなり、小さなプロジェクターを使い、手のひらの上に画面が見えるようになる。これを指で操作して、自転車の鍵を開けたり、経路探索ができたり、決済ができるというもの。


如影计划@阿里巴巴支付宝

スマホが不要になる「アリペイエアー」。手のひらなどの空中にプロジェクションされる。自転車用のナビゲーションシステムが秀逸。ユビキタスの世界が実現されている。

 

エイプリフールネタを実現してしまうアリパバ

アリババのエイプリルフールネタは、荒唐無稽ではなく、発想としては王道だし、ひょっとしたら実現できるのではないかと思わせるものがほとんどだ。しかも、その一部は実現している。

今回のロケット物流も、まったく荒唐無稽ではなく、ひょっとしたら実現されるかもしれないのだ。

 

世界初の地下鉄車内での5G通信。成都市は「5Gスマート都市」を目指す

成都市の地下鉄10号線で、5Gの設備工事が始まっている。世界で初めての5Gが利用できる地下鉄になると封面新聞が報じた。

 

世界で初めての地下鉄内5Gを目指す

成都市地下鉄10号線は、成都市内の太平園と成都国際空港(双流空港)を結ぶ10.9kmの地下鉄。2019年1月には、太平園駅に5G設備が設置され、世界で初の5G地下鉄駅となった。四川移動、成都地下鉄、成都鉄塔、ファーウェイは、さらに5G導入を進めて、太平園駅と隣接する簇錦駅の地下鉄区間1.98kmの間に5G設備を設置、地下鉄内での5G通信検証を始める。成功すれば世界初の地下鉄車内で利用できる5Gとなる。

この検証実験の結果を得て、10号線全線に5G区間を拡大していくのが当面の目標となる。

f:id:tamakino:20190514110202j:plain

f:id:tamakino:20190514110205j:plain

▲地下鉄10号線では、5Gアンテナの取付工事が進んでいる。世界で初めての地下鉄車内の5G通信となる。成都市は「5Gスマート都市」になることを目指している。

 

5Gの狙いは、地下鉄の無人運転と遠隔運転

地下鉄10号線は、成都国際空港と市内を結ぶ路線で、成都を訪れた観光客に地下鉄車内で、VRを体験してもらうことを考えているという。成都に到着してすぐ、パンダ基地、都江堰などの成都の観光名所をリアルなVR映像で体験してもらおうというものだ。

しかし、最終的な狙いは、地下鉄車両も5Gに対応させ、リアルタイムでの運行管理、車内管理を実現することだ。地下鉄をスマート化させ、ATO(Auto Train Operation)運転によるワンマン運転から無人運転、遠隔運転などを視野に入れている。

f:id:tamakino:20190514110159j:plain

▲第2環状高速を走るバスの車内では、5G通信がすでに利用できる。VR機器が貸し出され、成都市の観光地の案内VR映像を体験することができる。

 

成都市が狙う「5Gスマート都市」

成都市は5Gを市の「名刺」としてアピールしていく政策を打ち出している。すでに全長28kmの第2環状高速の5G設備の工事が完了し、時速40kmで走行するバス車内でVR映像を体験する実証実験も行われている。

成都市は、5Gを「点、線、面」の3ステップで拡大していく計画を立てており、高新南区域、遥洋太古里、天府ソフトウェアパーク、パンダ基地、都江堰などでは5Gが開通しており、このような点を起点に、地下鉄、高速道路に沿った線を伸ばし、最終的に面で成都市全体を覆い、成都市を「5G都市」にする計画だ。

究極の目標は、地下鉄、バス、車両の無人運転だ。リアルタイムで遠隔監視を行い、万が一の場合は、遠隔で運転に介入する。そういう形で無人運転を実現しようとしている。

成都市の5G設備は、地下鉄、高速道路といった線に沿って広がっていくことになる。

 

低所得者、地方に照準を定めた第3のEC「拼多多」

第3のEC「拼多多」(ピンドォドォ)はなぜ価格が安いのか。そう問われた創業者の(ホアンジェン)CEOは、一言で「中間広告費がないから」とだけ答えた。これこそが拼多多の安さの秘密だと財経頭条が報じた。

 

それぞれに性格が異なる3つの中国EC

中国のECは「アリババ(Tmall+タオバオ)」「京東」(ジンドン)、「拼多多」(ピンドォドォ)が3強だ。

この3サービスは、それぞれに性格が異なっている。京東は全国に140カ所の物流センターを持ち、在庫を持つ。アマゾンに近いビジネスモデル。アリババは、TmallではBtoC、タオバオではCtoCのマッチングをするだけで、物流センターもなければ在庫も持たない。日本で言えば、楽天市場に近いビジネスモデル。

第3の拼多多は、とにかく価格を安くして、地方都市や農村に浸透をしている。いわゆる激安ECだ。販売されるものは、トイレットペーパーや洗剤、普段着などの日用品で、百円均一ショップや雑貨スーパーに並んでいる商品が中心。

f:id:tamakino:20190513122139p:plain

▲拼多多アプリ。アリババのようなクールなルックスではなく、テンセントのようなスクエアなルックスでもない。中国伝統の赤をあしらった賑やか、時としてうるさいデザインを採用をしている。しかし、これが拼多多の目指す「地方」「低所得者」には楽しく賑やかに移り、購買意欲が刺激される。

 

輸入品の扱いも始まり、日本にとっても無視できなくなった拼多多

拼多多は、2015年9月に創業し、それからわずか3年で米ナスダック市場に上場を果たしている。現在、会員数は4億人を超え、現在も成長中だ。超低価格商品が中心であったため、日本の商品サプライヤーは参入が難しく、日本で話題になることは少なかったが、拼多多は現在、輸入品を専門に扱う拼多多国際をスタートさせている。日本企業にとっても、無視できない存在になってきた。

 

最初から低所得者層と地方都市に狙いを定めた拼多多

拼多多は激安が売りになっているため、参加商店がいわゆる「偽物」「粗悪品」を出品する事態が続き、都市生活者からは「貧乏人のEC」とバカにされることも多かった。経営コンサルタントなどの間でも、購買力の小さい地方都市や農村に焦点を当てたECビジネスはうまくいかないという意見が多かった。

しかし、CEOは、最初から地方都市と農村に焦点を当てて、ビジネスを組み立てていた。一人一人の購買力は確かに小さく、価格が高くてアリババや京東を利用することができない。しかし、ECでの買い物を楽しんでみたいし、スマートフォンは持っているという人が地方にはたくさんいるのだ。

杭州市の出身で、浙江大学を卒業後、ウィスコンシン大学に留学。卒業後、エンジニアとしてグーグルに入社する。中国グーグルのオフィスの立ち上げに参加するために帰国し、その後、ゲーム関連とEC関連のスタートアップを起業。拼多多は3つ目の起業となり、これが大成功した。

f:id:tamakino:20190513122136j:plain

▲拼多多創業者のCEO。グーグル出身者で、常識からはうまくいかないと否定された地方、低所得者を焦点に当てた拼多多で、創業後わずか3年で、ナスダック上場を果たした。

 

お得に買うには商品をSNSでアピールする必要がある

は、拼多多のビジネスモデルを「コストコ+ディズニーランド」だと言っている。利用者はまず自分が買いたい商品をSNS「WeChat」でアピールをする。それに賛同した人が共同購入をする。共同購入者を集めれば集めるほど価格が安くなっていき、最大90%オフにまでなる。

従来のまとめ買いサイトと異なるのは、知り合いを集めたり、ただ共同購入者が増えるのを待っているだけでなく、自分で不特定多数の人に商品をアピールして、積極的に共同購入者を集める必要があることだ。そのためには、ただ商品を示すだけではなく、その商品のよさやどんなメリットがあるのかを訴え、人を惹きつける必要がある。そういう影響力を持った人ほど安く買える仕組みになっている。

つまり、小さなインフルエンサーである必要があり、自分の影響力が次第に強まっていくことが、単なる共同購入を超えた、消費者の楽しみになっている。安く買えたというお得感だけでなく、自分の努力や工夫が実る達成感も同時に感じられる仕組みになっている。

f:id:tamakino:20190513122146p:plain

▲ほぼ毎日セールが行われていて、日用品のほとんどは10元(160円以下)。品質についてはそれなりだが、超お買い得商品を見つけることが楽しみのひとつになっている。日本の100圴一ショップに近い感覚だ。

 

広告費が捻出できない弱小メーカーが出品をする

このため広告を打つことができない規模の商店、メーカーが多く参加をしている。主体となっているのは、地方の弱小メーカーだ。アリババや京東に納品をするには、数量面、価格面で難しく、ECの潮流から取り残されようとしていた中小メーカーが拼多多によって生き延びる道が与えられた。価格設定さえうまく行えば、あとは拼多多の利用者が宣伝をしてくれ、大量の購入者をまとめてくれるのだ。

単なる激安ECというだけでなく、発展する中国で取り残されつつあった地方の消費者と地方の中小メーカーに居場所を与えた功績も大きい。

販売側は低コストで大量の商品を販売することができ、消費者側は楽しみにながら激安商品を手にすることができる。消費というプロセスから、無駄なものをすべて削ぎ落として、再構築したようなビジネスモデルだ。

売れ筋の商品は10元から20元程度の激安商品だが、次第に家電製品や化粧品などの値の張る商品も売れるようになってきている。

アリババ、京東に次ぐ、第3のEC、ダークホースとして無視できない存在に成長してきている。

クノール カップスープ バラエティボックス 30袋入

クノール カップスープ バラエティボックス 30袋入

 

 

斜めの方向が斜め上。倍近い車両が駐車できるリフト式駐車場

重慶の盛捷高科技が開発した、斜め駐車をすることで24台分のスペースに40台が駐車できる装置が話題になっている。斜め駐車といっても、その方向が斜め上。車を乗せたままリフトが28度から32度傾斜し、車間を詰めていく方式だと上游新聞が報じた。

 

人間は平面状態のリフト上に駐車するだけ

この、まるで収納上手のコンサルタントが発想したような駐車リフトは、もちろん人間が運転をして、このリフトの上に駐車するのではない。リフトの間にある通路に1台分のリフトが出てきていて、最初は平面になっている。その平面状態のリフトに停車をするだけでいい。車を離れると、リフトが上昇し、同時に横に動き収納される。

車を出す時は、自分の車が乗ったリフトが通路に出てきて、平面に戻る。それに乗って出発すればいい。

駐車にかかる時間は1分以内。しかも、空いている駐車スペースを自分で探す必要はなく、直進してリフトの上に駐車をすればいいだけで、運転者も楽になる。また、各リフトに電気自動車用の充電装置も完備している。

駐車場側は同じスペースにより多くの車を収納することができる。約65%も駐車数を増やすことができる。コストはかかるが、立体駐車場を建設するよりは安い。

f:id:tamakino:20190512131809j:plain

▲リフトの上に駐車した車は、リフトが30度程度上昇し、「収納」された状態で駐車される。24台分のスペースに40台が収納できる。

 

f:id:tamakino:20190512131759g:plain

▲出庫する時は、リフトが通路まで出てきて、平面に戻る。運転手がそれから乗り込んで出発する。

 

二階式駐車場と比べて数多くのメリットが

特に注目されているのが、二階式駐車場との比較だ。この斜めリフトは二層式よりもコストが安い。しかも、二階式駐車場は下段の車を出さないと、上段の車を出せない。これを避けようとすると、パレットが横にも動いて昇降できるにしなければならない。同じスペースに2倍の車が駐車できるとはいえ、駐車、出庫に時間がかかる。なおかつ、パレットの操作は危険が伴うので、専門スタッフが操作、監視することが必要になる。

一方で、この斜め方式は、設置コストが安く、駐車、出庫にかかる時間は1分以内。リフトの移動中には、自動的にゲートが閉じて、通路内に立ち入らせないようにすれば、監視員も不要で、利用者自身が操作盤やスマートフォンを使って、自分の車を出庫させることができる。

f:id:tamakino:20190512131756j:plain

▲寸法図。二階式駐車場に比べて収納効率は劣るが、設置コストが安い、監視員が不要、駐車、出庫に時間がかからないなどさまざまな利点がある。

 

f:id:tamakino:20190512131750j:plain

▲斜め上のリフト式駐車場。上がった状態のリフトに駐車するのではなく、畳んで平面上になったリフトが通路に出てくる。

 

利用者からは、空きスペースを探さなくていいので便利という声

この駐車システムは、現在、重慶市の科創センターの駐車場で試験導入され、決済システムなどとの連携が検証されている。すでに、利用者からSUVなどの大型車両が駐車できないという不満が上がっており、盛捷高科技では、より大型化する改造も進めている。

利用者からは、斜めに止めるということよりも、「自分で空きスペースを探さなくていい」という点が好評だという。ショッピングセンターの駐車場などで、広がっていくかもしれない。

f:id:tamakino:20190512131753j:plain

▲最終的にはリフトが上がって、この状態での駐車となる。現在は、横の決済端末にカードやスマホをかざして決済をする。

 

売れ始めたスマートスピーカー。取り残される電気専門街「中関村」

米国と中国で2018年末からスマートスピーカーが売れ始めている。しかし、一方で、電気専門街として有名な北京市の中関村では、スマートスピーカーがほとんど売れていない。ここに中関村の課題が見えると媒体が報じた。

 

再び売れ始めたスマートスピーカー

スマートスピーカーが米国と中国で売れ始めている。調査会社カナリスの調査によると、アマゾンエコー、グーグルホームとも、2018年のクリスマスシーズンによく売れ、2018年中の販売台数はいずれも前年を上回った。特にグーグルホームは倍増以上になった。

いずれも通話機能が認知されてきたことが大きい。グーグルホームの場合は、固定電話、携帯電話に無料で電話がかけられる(米国)。アマゾンエコーの場合は、エコー同士またはエコーアプリを入れた携帯電話と通話ができる。当然、ハンズフリー通話で、片付けものや料理をしながら通話ができる。一度体験してしまうと、耳に電話を当てて話をするというのがいかに古臭いスタイルであるかがわかる。

通話機能を使うには相手がいるために、既存ユーザーが持っていない人にスマートスピーカーを薦めるという現象が起きている。

よく聞くのは、若い世代が、実家に帰るときにスマートスピーカーをお土産として購入し、両親の家にセットアップしていくというパターンだ。高齢者にとって、セットアップは手に余るものの、音声命令で電話をすることは簡単にできる。そこから始まって、天気予報を聞いたり、タイマーを使ったり、音楽を聴くようになる。

また、自宅に複数台設置をして、部屋間のインターホンとして利用するケースも増えているという。

f:id:tamakino:20190510134519j:plain

▲カナリスの調査によるスマートスピーカーのワールドワイドでの販売量。意外なことに、2017年末よりも2018年末の方が販売量が伸びている。

 

中国でもスマートスピーカー市場が立ち上がる

中国でもスマートスピーカー市場が成長している。2018年の販売量は、アリババが890万台、シャオミーが710万台、百度バイドゥ)が360万台と、トップのアマゾンの2420万台に比べれば見劣りをするものの、前年比で、アリババは8倍以上、シャオミーはなんと80倍以上の売れ行きになっている。ようやく、スマートスピーカー市場が本格的に立ち上がり始めた。

ところが、面白いことに従来のデジタルガジェットの聖地である北京の中関村、深圳の華強北などの商店では、スマートスピーカーはお荷物商品になっているという。

f:id:tamakino:20190510134522j:plain

▲カナリスの調査によるブランドごとの販売量。アマゾン、グーグルが2強であることは変わらないが、アリババ、シャオミー、百度などの中国メーカーもランキングしてきている。このような中国メーカーの販売先はほとんどが中国国内なので、中国でもスマートスピーカー市場が形成されてきたことがわかる。

 

中関村ではお荷物商品になっているスマートスピーカー

媒体の記者は、中関村を訪れて、スマートスピーカーがどのように販売されているかを確かめに行った。しかし、スマートスピーカーを置いている商店そのものが少なく、置いてある店でスマートスピーカーに関心があるそぶりを見せても、店主は接客しようとすらしない。

話を聞いてみると、春節旧正月)のお祝いに社員全員にスマートスピーカーを配布した企業があって、その社員がまとめて数百台を注文したり、子どものプレゼントに買っていく人はいるものの、個人商店にとっては儲からない商品になっているのだと言う。

その理由は、メーカーの価格戦略にある。2017年に販売された天猫精魂X1は当初499元だったが、度重なる値下げで99元にまでなっている。百度も2018年11月に大幅な値下げを行った。699元だった小度在家は299元に、399元だった小度Proは169元に、249元だった小度は69元に価格を改定している。

中関村の個人商店は、価格改定前の高い卸値で仕入れた商品であっても、売れ残れば価格改定後を基準にした価格で売らざるを得ない。最低でもECサイトと同じか、それよりは多少安くしない限り売れないのだ。

このため、どの店主もスマートスピーカーに対しては冷淡であり、中関村を見る限りは、スマートスピーカーはまったく売れていない商品のように見える。

f:id:tamakino:20190510134525j:plain

▲中関村の個人店舗に置かれているスマートスピーカー。しかし、売れ行きは芳しくなく、商店にとっては頭の痛いお荷物商品になっている。


一般消費者への拡散が始まっている

前瞻産業研究院の調査によると、スマートスピーカー対応アプリの利用者は1級都市、2級都市に集中をしていた。しかし、2018年上半期あたりから、3級都市以下での利用者数が上昇している。つまり、地方都市での普及が昨年後半から始まっている。

中関村のある店主は、春節の前に地方労働者が多数スマートスピーカーを買いにきたと言う。一人でいくつも買って、里帰りのお土産に買っていく。実家に置いてきた子どもたちが広告を見て欲しがり、買ってきて欲しいと言ってくるのだと言う。

アリババは1月13日から始めた新年セールで、スマートスピーカー「天猫精魂」の農村での売り上げが400倍以上になったと発表した。販売台数が1000台を超えた町村も9つあったという。

 

否定的なデジタル通、肯定的な一般消費者

スマートスピーカーの消費者の受け止め方で興味深い点は、デジタル製品でありながら、従来のデジタルデバイスとまったく異なっているということだ。スマートスピーカーに否定的なのは、意外にも昔からデジタルデバイスを使いこなしている人が多い。「PCやスマートフォンでできることを、わざわざスピーカーでやる意味がわからない」と言う。「音声で命令するよりも、キーボードの方が速い」と言う。

一方で、スマートフォンからデジタルデバイスを使い始めた若い層、リテラシーのあまり高くなかった人たちがスマートスピーカーに興味を示している。できることは多くなくても、音声命令は楽だからだ。何かをしている最中に「ながら使い」ができる。

スマートスピーカーは価格も安いため、このような人たちはひとつの機能でも満足する。音楽を聴く、天気予報や交通情報を聞く、ハンズフリー通話をするなど、自分を満足させてくれる機能がひとつあれば十分なのだ。また、子ども向けに童話を読んだり、童謡を再生する機能も受けている。

 

中関村は生き残っていけるのか

このような新しい消費者たちは、中関村や華強北といった電気専門街に行こうとは考えない。せいぜい市内の量販店に行くか、多くの人はスマホからECサイトにアクセスして注文してしまう。

中国のスマートスピーカー市場が米国並みになるところまで伸びていくかどうかはまだまだわからないが、リテラシーが高いと言えない一般層が大量に流入してくることになり、販売経路まで大きく変えてしまうことになる。デバイスがパソコンからスマートフォンに移った時は、中関村は中古スマホを扱うことで生き延びてきた。しかし、その中古スマホですら、今ではECサイトで購入するのが一般的になっている。

既存のビジネスは縮小し、新しいデバイスの波にはうまく乗ることができなくなっている。デジタル製品の消費者の中心は、従来のデジタルオタクから一般の人にシフトしている。中関村は生き残っていくことができるだろうか。

Echo Dot  第3世代 - スマートスピーカー with Alexa、チャコール

Echo Dot 第3世代 - スマートスピーカー with Alexa、チャコール

 

 

迷惑電話には人工知能が応対。狙いは悪徳業者の業務不効率化

アリババ人工知能実験室は、迷惑電話に応答する音声チャットボットを開発した。迷惑電話にあたかも人間のように応対するもので、悪徳業者の業務効率を低下させることで、迷惑電話を減少させようとする狙いがあると雷峰網が報じた。

 

世界中で問題になっている迷惑電話

中国で社会問題になっている騒擾電話。いわゆる迷惑電話で、多くは借入金の貸付や理財商品の販売の営業電話だ。携帯電話にかかってきてしまうため、迷惑に感じている人が多い。中には詐欺まがい、あるいは詐欺そのものの電話もあり、社会問題となっている。

迷惑電話は、中国だけでなく、世界中で問題になっている。スウェーデンの電話番号案内サービスを提供するtruecallerの統計によると、2018年、最も迷惑電話の多かった国はブラジルで、1人あたり平均して月に37.5本の迷惑電話を受けている。

中国では、セキュリティ企業「360」が、迷惑電話に対応したスマホ用のセキュリティアプリを提供している。クラウド上に迷惑電話発信元の電話番号データベースを作成し、これに登録した番号からの電話を受信拒否するというものだ。360の統計によると、2018年に449.3億本の迷惑電話が検出された。アンケートによる調査でも、「2日から4日に1本の迷惑電話を受け取る」という人が37.2%と最も多く、「毎日5本以上の迷惑電話を受け取る」という人も8.5%いる。

f:id:tamakino:20190509123414p:plain

スウェーデンの番号案内サービスtruecallerが公開した迷惑電話の統計。ブラジルが最も多く、月に37.5本の迷惑電話がかかってくる。中国はこの統計に含まれていないが、上位5位に入ることは間違いない。

 

流出した電話番号に基づいてかかってくる迷惑電話

このような迷惑電話は、ランダムにかけているわけではない。違法に個人情報を収集した名簿を使ってかけている。そのため、一度個人情報が流出をして名簿に載ってしまうと、複数の業者から迷惑電話がかかってくることになる。特定の個人に集中してかかってきてしまうのだ。かといって、電話番号を簡単に変えることもできない。顧客からかかってくる電話を受けなければならない自営業者などでは、知らない電話番号からの着信を無視するわけにもいかない。

迷惑電話を着信拒否に登録しても、IP電話を使っているため、次々と電話番号を変えてくるため、ほとんど効果がない。360の迷惑電話データベースには、毎日33.2万本の電話番号が登録され続けている。

 

業者側も音声合成、音声チャットボットなどを利用

このような電話をかける悪徳業者は、すでに電話の自動化をしている。録音した音声を流し、相手が反応して通話時間が一定以上になると、人間が出て営業をかけるパターンもあり、中には音声合成によるチャットボットを利用し、人工知能が営業をしているケースもある。相手の会話を分析し、それにあった会話をし、見込みのある客だと判断すると、監視している人間に通知を送り、人間が代わって営業をする。

某企業が販売している人工知能チャットボットシステムでは、4台分の電話が同時にできるシステムが1年間でわずか3000元(約4万8000円)で利用できる。100台まで同時に使えるシステムでも3万元(約48万円)だという。

このような自動化をすると、1回線で1日1000件の電話をかけることができ、活動の盛んな業者では1社で年間40億本の迷惑電話をかけているという。

f:id:tamakino:20190509123419j:plain

▲迷惑電話は、理財商品などの購入見込みがある電話番号名簿が流出し、それに基づいてかかってくるため、人によっては1日に5本以上もの迷惑電話がかかってくることがある。

 

アリババが開発した迷惑電話対応チャットボット「アハ」

このような迷惑電話に対抗するため、アリババ人工知能実験室の再清研究員は、迷惑電話に自動応答する人工知能チャットボット「アハ」を開発した。迷惑電話のスタッフやチャットボットが興味を持つような応答を自動的にする人工知能で、迷惑電話を受けたら「アハ」に対応させれば、いつまでも適当に応答してくれる。

アリババ人工知能実験室は、アハの応答の様子をウェイボーなどで公開している。

 

自然な会話で業者を騙して長電話させる

以下、アハと迷惑電話をかけている業者の会話。

アハ:こんにちは。

業者:こんにちは、年利4.35%の銀行貸付はお入り用ではないですか?

アハ:ちょっと待ってください。銀行だということは…どちらの銀行?

業者:はい、私どもは銀行と提携していまして、4大銀行とはいずれも提携しています。そういうことです。

アハ:貸出金利はどのくらいですか?

業者:私どもの貸出金利は、年利4.35%からになっています。

アハ:それで?あれ?あなた以前電話くれましたよね?声に聞き覚えがあります。

業者:以前、お電話を差し上げたかもしれません。でも、それからまたお入り用が…

アハ:(さえぎって)北京でも借りることができますか?まだ、います?

業者:北京でも借りることができます。

アハ:だったら、あなたのところで最高いくらまで借りられますか?

業者:最高の場合でしたら、上限は3000万元です。

アハ:おたくは信用できるの?

業者:どういう意味でしょう?

アハ:もしもし、います?

業者:はい。

アハ:わかりました。すみません、けっこう忙しくて。

業者:あなたのWeChatのアカウントを教えてもらってもいいですか?

アハ:その他の条件は何かありますか?

業者:その他には手数料が…(電話が切れる)



狙いは業者の業務不効率化。年内にもリリース予定

音声はやや機械的で、業者の女性はやや訝しがっている様子もうかがえる。しかし、会話は自然で、単に応答するだけでなく、「声に聞き覚えがある」など会話を引き延ばす話題も自ら振っている。

悪徳業者もチャットボットを利用し、消費者もアハで応対すると、人工知能同士の会話が延々と続くことになる。それでいいのだ。このアハの目的は、迷惑電話を撃退するというよりも、悪徳業者の業務効率を著しく悪化させることが目的だからだ。悪徳業者は儲かるから、世間から非難をされても迷惑電話をかけ続ける。しかし、多くの応答が人工知能チャットボットになると、まったく利益が得られなくなる。儲からなくなれば、自然に消えていく。それが狙いだ。

現在は、研究試用段階だが、年内にはアリペイのミニプログラムとしてサービスの提供を開始したいという。

 

ブロックチェーン電子領収書。深圳地下鉄も対応へ

深圳市で、ブロックチェーン技術を使った電子レシート、電子領収書が広がっている。その電子領収書が深圳地下鉄にまで対応して、ビジネスパーソンから歓迎されていると移動支付網が報じた。

 

経費申請に必要な電子領収書をスマホに送信

深圳市の街中消費では、ほとんどがスマホ決済で行われるようになっている。しかし、問題は紙の領収書だ。ある程度の規模の商店では、スマホ決済をしても紙のレシートを発行してくれるが、アリペイやWeChatペイアプリの中に利用履歴が出るので、多くの人は必要としていない。

一方で、会社の経費で食事をした場合、公共交通を利用した場合には、経費申請をするためにレシートや領収書が必要になる。

地下鉄の場合、領収書をもらうにはいったん有人の窓口に行かなければならない。それが面倒で、多くの人が自分のスマホ決済などで乗ってしまい、領収書をもらわず、経費申請をしていなかったが、わずか2元か3元のこととは言え、釈然としないものを感じていた人は多かった。

それが、深圳地鉄MTR港鉄といった鉄道機関、乗車決済システムのテンセント乗車コード、ブロックチェーン技術を開発するテンセントブロックチェーン、電子レシートシステムを開発したテンセント金融科技などが共同して、地下鉄の領収書をスマホから取得できるようにした。

f:id:tamakino:20190508134159j:plain

▲地下鉄の電子領収書。自動的にブロックチェーン記録との照合が行われ、会社の経理などに転送をすると、この領収書は消える。コピーは保存できるが、ブロックチェーンで所有者の管理もされているため、原本ではなくなる。

 

ブロックチェーン技術で、領収書を管理する

この電子領収書が発行できるのは、WeChatのミニプログラム「テンセント乗車コード」で地下鉄に乗車をした場合。発行の方法は何通りかあるが、乗車後に自分のスマホで乗車履歴を選び、発行するだけだ。テンセント乗車コードは、決済は自動的にWeChatペイから行われる。

この電子レシートを会社の経理に転送して経費精算をする。会社の経理は税務申告時に税務署にこの電子レシートを転送する。

この電子レシートは、発行から転送までのすべてがブロックチェーンで管理されていて、現在の所有者がすぐに分かる仕組みになっている。そのため、真正な電子レシートはこの世に1通しか存在しないため、複製をして多重申請する、偽造するなどという不正行為ができない。

f:id:tamakino:20190508134155j:plain

▲電子領収書の発行方法は3種類あるが、いずれも、要は決済履歴から項目を選んで、発行をするだけだ。「2秒でブロックチェーン電子領収書が発行」だという。

 

国が推進するブロックチェーン電子領収書

ブロックチェーン電子レシート、電子領収書は、国家税務総局が推進しているもので、深圳市税務局はすぐに対応をし、地元企業であるテンセントのもつブロックチェーン技術を採用することにした。2018年5月24日に、深圳市税務局とテンセントは「スマートタックスイノベーションラボ」を設立、ここでブロックチェーン電子領収書システムが開発された。

2018年8月10日には、早くも深圳市の国貿旋転レストランで電子領収書システムが採用された。それ以来、深圳市では電子領収書が急速に広がっている。金融、小売、飲食、ホテル、駐車場などで、具体的には招商銀行ウォルマート、百果園、深圳北駅、その他WeChatペイに対応している商店で導入されている。

現在、導入している商店は1000軒を超え、発行枚数は100万枚を超え、発行額面金額は13.3億元(約216億円)に達している。

f:id:tamakino:20190508134149j:plain

▲飲食店などで発行される電子領収書。見た目は紙の領収書と同じ形式で、紙領収書との整合を図っている。しかし、左上のQRコード、右上のハッシュコードを使うと、ブロックチェーンの記録と照合することができるようになっている。

 

領収書発行の手間も大幅に削減できる

今回、深圳地下鉄が対応したことで、電子領収書の普及にさらに弾みがつくと期待されている。深圳地下鉄では、テンセント乗車コードを利用する乗客が、1日に160万人あり、紙の領収書の発行枚数も1日16万枚に達していた。ブロックチェーン電子領収書システムが使えるようになり、1日17万枚の発行がされると見込まれている。

紙の領収書を発行するには、3分ほどの時間がかかる。合計で1日8500時間の人件費が節約でき、なおかつ紙のレシート発行コストも不要になるので、深圳地下鉄は毎年40万元(約650万円)の節約になると見込まれている。

f:id:tamakino:20190508134152j:plain

▲現在、地下鉄の電子領収書に対応しているのは、テンセント乗車コードを使って乗車した場合のみ。NFC方式のテンセント乗車カードも今後、電子領収書に対応すると見られている。

 

スマホ決済は入り口にすぎない。その先で何をするかが問われる

乗客にとっては、面倒な手間をかけずに領収書が取得でき、会社に経費申請をすることができたり、税務申告に利用することができる。商店側では、紙のレシート、領収書を発行するコストが節約できる。税務署では、税務申告書類の整理の手間が減り、なおかつ虚偽の申告による脱税が大きく減少すると期待されている。

移動支付網は、スマホ決済は「入口」にすぎないと言う。現金を電子に置き換えるキャッシュレス化だけでは大きな意味はない。決済履歴をデータ化することで、そこからどんなサービスを構築し、生活や業務をどのように効率化していくが重要なのだと言う。キャッシュレス決済はゴールではなく、ICT社会への入り口にすぎないのだ。

2列式 新レシート貼るだけ家計簿 (主婦の友生活シリーズ)

2列式 新レシート貼るだけ家計簿 (主婦の友生活シリーズ)