中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

ファーウェイが突然、無人バスの運行を発表

深圳市で、無人運転バスの試運転が始まる。そのようなニュースは、中国ではもはや珍しくない。しかし、このニュースには中国中のネット民が驚いた。なぜなら、この無人運転バスを運行するのが、携帯電話メーカーのファーウェイだからだ。ファーウェイの新しい戦略を今日頭条が報じた。

 

携帯電話メーカーのファーウェイが無人運転バス?

ファーウェイの無人運転バスといっても、ファーウェイ単独で開発したものではない。ファーウェイと深圳バス集団が共同開発してきたものだ。これが年内にも深圳市の公道で、試験運行を始める。

この無人運転バスは、コンセプトカーなどではなく、実際の運行を見据えたものだ。深圳市のかなり交通量の多い市内道路、2路線で試験運行を行い、定期運行を視野に入れている。

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▲深圳市で試運転が始まった無人運転バス。これまでの長距離バス、観光バスの無人運転試運転とは異なり、停留所に止まり、乗客が乗り降りする路線バスとなる。

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高速5G回線を利用したクラウド無人運転バス

無人運転技術では、一般の乗用車に比べて、バスの方がはるかに難しい。バス停に停止をしなければならず、乗降客の状況も確認しなければならない。さらに、定時運行もしなければならない。極端なことを言えば、一般の乗用車の無人運転の場合、他の車や人とぶつかりさえしなければ一応の合格点だが、バスの場合、それに加えて「定時運行」「乗客の安全」も考えなければならないのだ。

ここまで自動化しようとすると、車体にコンピューターを積んで、センサーで周囲の状況を取得し、自分で行動を判断するという「自律型」では限界がある。そこで、この無人運転バスは「クラウド型」を採用した。センサー情報をクラウドに上げ、行動判断は、クラウドコンピューターで行う。

問題は、クラウドとバス間の通信速度だ。ここに遅延があるようでは、リアルタイムの行動判断はできない。ここでファーウェイが必要となった。このクラウド無人運転バスでは、5G回線での高速通信を行う。この通信システムをファーウェイが開発をした。

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クラウド無人運転コントロールパネルのイメージ図。5G回線という高速通信を利用して、バスのセンサーデータを遅延なくクラウドに送り、強力なクラウドコンピューターで行動判断をする。ファーウェイが参加する理由は、ここにある。

 

無人運転がいちばん必要とされているのは「路線バス」

このファーウェイのクラウド無人運転技術は、中国だけでなく各方面から注目をされている。バスのセンサー情報と、行動判断をするクラウドコンピューターが遅延なく結ばれれば、クラウドコンピューターの能力を上げることで、より複雑な行動判断ができるようになるからだ。

自律型の無人運転バスの場合、専用道路を運行するもの、公道であってもバスレーンが整備されている場合、あるいはバス停で乗降することのない長距離バスなどが多かった。しかし、クラウド無人運転バスの登場で、ごく普通のバスレーンの整備されていない公道上を路線運行するバスにも無人運転の可能性が生まれてくる。

中国では、以前からバスの無人運転技術の開発が、各企業で行われてきた。しかし、技術的な限界から、観光バス、長距離バス、シャトルバスの用途に限定され、交通量の多い道路を停留所に停車しながら進む路線バスの無人運転にはなかなか踏み込むことができなかった。

しかし、ファーウェイが無人運転技術領域に参加してきたことで、複雑な行動判断をクラウドで行うという新しい突破口が見えてきた。社会が必要としている無人運転技術は、実は乗用車が最優先ではなく、路線バスが最優先であり、次にタクシー、それから乗用車だ。関係者は、無人運転路線バスの実用化を進めることで、中国が都市交通技術の領域で世界をリードできるのではないかと期待をしている。

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▲試運転が予定されている深圳市の道路。バス専用レーンが設置されているが、守らずに走行してしまう一般車もいる。こういうアクシデントにどう対処するかが、無人運転バスの実用化の大きなハードルとなる。

 

中国のユニコーン企業(4):36氪

時価総額が5億ドルから10億ドル以上あると見積もられているのに、上場をしない企業ーーユニコーン企業。投資家から熱い視線を浴びるユニコーン企業は、米国だけではなく中国にも数多く存在する。科技企業価値は、そのようなユニコーン企業を紹介している。今回は、テック系メディアの36

 

メディアとして王道の拡大成長をした36

36は、テック系のウェブメディア。ITスタートアップ企業関連のニュースから、海外のテックニュースまでを扱っている。36は、メディアとしてもっとも成功した成長ぶりを見せた。現在、メディア事業とともに、金融業とインキュベーター事業の3つが主要な事業になっている。つまり、メディアのための取材で知ったスタートアップに、出資をし、インキューベーターとして支援することで、利益を得て、企業価値を高め、ユニコーン企業となったのだ。

メディアの取材で、スタートアップ企業の内部を深く知り、有望な企業には資金と支援を提供する。その投資益で会社を成長させる。メディアとしてお手本のような成長をしてきた。

創設者の劉成城は、大学4年生の時に36のサイトを始め、メディアを出発点として次々と事業を拡大してきた。2013年には米フォーブス誌から「中国30歳以下の創業者30人」の1人に選ばれている。

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▲36を創設した劉成城CEO。業界のルールを打破するスタートアップ企業を、メディア、資金、インキュベーターの3方面から支援してきた。スタートアップのためのプラットフォームを構築するのが目標だという。

 

企業姿勢が込められた「クリプトン」のネーミング

36というのは「36クリプトン」の意味。36はクリプトンの原子番号だ。なぜ、このネーミングを採用したのか、劉成城CEOは明確に説明していないが、多くの人がネーミングの由来を理解している。

クリプトンは不活性ガスで、他の物質と反応をしない。電球にクリプトンを封入するのは、フィラメントと反応しないので、フィラメントの昇華が最小限に抑えられるからだ。これはメディアとしての気概を示している。他のいかなる資本に左右されない、独立性を表したいのだろう。

もうひとつクリプトンは、そのスペクトルの波長が1mの長さの基準として用いられていた。36で報道することで、中国のIT界の基準でありたいという気持ちを表しているのだと思われる。

しかも、クリプトンの語源は、暗号などと同じくkryptosで、「隠れる」という意味だ。メディアが前面に出るのではなく、スタートアップ企業の陰に回り、彼らの動向を報道し、金銭的な支援をし、起業の支援をする。そういった意味も含まれているかもしれない。

36とは一見風変わりな名前だが、その意味を知ると、なかなかいいネーミングに思えてくる。

 

党中央との繋がりもある劉成城CEO

劉成城CEOは、おそらくビル・ゲイツタイプの人間で、テック方面にも明るいが、政治力もあるようだ。共産党中央の李克強総理とも面識があり、その交友範囲には、国務院副総理、科技部長(日本の文科大臣に相当)、中央政治局委員など錚々たるメンバーが並ぶ。中国政府は、若いスタートアップを積極的に支援をして、中国経済をさらに成長させたいが、政府内にスタートアップ起業に明るい人間がいない。そのため、劉成城CEOが重用されるということもあるだろうが、劉成城CEO自身もその要望をうまく使い、政治力をじわじわとつけているようだ。

 

スローガンは、「業界ルールを打破し続ける」

座右の銘は「業界ルールを打破し続ける」で、数多くのスタートアップ企業を支援してきた。一方で、政治家ともうまく付き合い、ルールを打ち破ろうとする若者たちが、既得権益の壁に当たって自滅しないように、支援をしている。

「僕の目標は、中国に起業のためのプラットフォームを構築することです。起業しようとする人に、必要なものを、水や電気のように当たり前に提供できるプラットフォームを作りたいのです」。

現在、拠点は北京市中関村に置いているが、インキュベーター拠点は上海、広州、深圳、武漢成都など10都市、30拠点に置いている。インキュベーター拠点は、今後も次々と拡大していく予定だ。

 

 

段ボール箱が足りない!独身の日通販大セールに赤信号

いよいよ、中国ネット通販最大のお祭り「11月11日、独身の日」が近づいてきた。しかし、今年は赤信号が灯っている。なぜなら、ECサイトで購入した商品を梱包する段ボールが不足していて、出荷できない事態が生じるかもしれないと今日頭条が報じた。

 

1日で1.5兆円を売り上げる「独身の日」

11月11日は、中国全土が狂乱の中に包まれる日だ。ネット通販のプロモーションイベントであった「独身の日」は、「一人寂しい独身の男女は、この日ぐらい、頑張っている自分にご褒美を」というコンセプトで、アリババが2009年に始めたところ、大当たりをし、他のECサイトも追随し、中国ECサイト最大のお祭りとなった。昨年2016年、アリババ1社だけで、912億元(約1兆5600億円)を超えた。たった1日の売り上げだ。

 

1日10億件の宅配便用の段ボールが足りない!

しかし、今年はこの独身の日に赤信号が灯っている。なぜなら、中国の宅配便件数は年間313億件を超え、毎年5割ペースで増え、独身の日には10億件の宅配便が配送される。ところが、商品を梱包する段ボールの原材料紙が不足をし、この1年で価格が7割も上がっているのだ。

昨年、中国の段ボール原材料紙の消費量は4600万トンで、全世界の段ボール紙の1/3を中国が消費をしている。原材料紙が不足をして、昨年は1トン3000元(約5万1000円)だったものが、今年には5000元(約8万5000円)になっている。

価格が急騰している理由の最大のものは、消費量が多すぎるために不足しているということだが、もうひとつは政府の製紙業に対する規制が強まっていることがある。大気汚染などを抑制するため、製紙業に対しても廃棄、廃水の厳しい基準を定め、それに対応できない中小製紙業が廃業していることが大きい。大手であっても、製造コストがあがり、生産量も減ったため、段ボール不足が起きている。

また、中国は、日本などからダンボール原材料紙を毎年1700万トン輸入しているが、さまざまな理由により、税関が一部の輸入を制限しているため、輸入原材料紙も不足している。

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▲中国の宅配業者は、日本のように商品を丁寧に扱ったりしない。それでも商品の破損が少ないのは、過剰とも言える梱包をしているからだ。紙袋などでは、商品の破損率が一気に上がってしまう。

 

商品出荷が大幅に遅延するという最悪の事態も

ECサイトは、すでに独身の日セールに対して準備を整えているが、出荷部門は頭を抱えているという。商品が売れることは嬉しいが、あまりに売れすぎると、それを出荷するための梱包材が手に入らないのだ。すでに一部では、段ボール箱ではなく、紙袋での出荷が始まっているが、オペレーションが複雑になる、商品によっては破損するといった問題が起き、あまりうまくいっていない。出荷部門は、一度使用した段ボール箱の回収を進めているが、これも検査の手間が必要になったり、機械による自動梱包では対応できず、手作業になるなど、別のところでコストを押し上げてしまう。

今年の独身の日も、大量の商品が売れることは間違いないが、梱包材がないためにお届けが遅れるといった事態も起こりそうだ。

フェローズ バンカーズボックス 703ボックス A4ファイル用 黒 3枚パック 対荷重30kg

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北朝鮮でも始まったシェアリング自転車。なぜ今、自転車なのか。

中国ではシェアリング自転車が完全に生活の中に定着をして、市民の足として活用されている。その影響だろうか、なぜか北朝鮮平壌市でもシェアリング自転車のサービスが始まっているとBusiness Insiderが報じた。

 

かつて自転車が禁止されていた平壌

面白いことに、平壌市では、自転車に乗ることは原則禁止だったという。自転車に乗るには、特別な許可を得る必要があった。なぜ、自転車が禁止されているか、その理由は不明だが、政府が「自転車は時代遅れの交通機関」と見なし、首都である平壌市に自転車はふさわしくないと考えていたからではないかと推測されている。

しかし、近年になって、自転車の利用が許されるようになり、2015年には自転車専用道路も設けられるようになった。

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平壌市内では、最近まで自転車に乗ることは禁じられていた。しかし、現在では自転車専用道路までできている。経済制裁の効果が現れて、石油を消費しない自転車にシフトしているのだとする観測もある。

 

地下鉄の8倍以上の料金のシェア自転車

今年の3月ごろから、地下鉄の駅やバス停付近に、駐輪場の建設が始まり、市民の間で、一体何の施設なのかと話題になっていた。そして、今年6月から、平壌市全体で50台のシェアリング自転車が投入され、サービスが開始した。

利用料は、1分40朝鮮ウォン(約5円)と意外に高い。平壌の地下鉄が5朝鮮ウォン均一なので、気軽に利用できる市民の足というわけではなく、かなり贅沢な乗り物になる。

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▲バス停付近に突如出現したシェアリング自転車駐輪場。市民の間では、一体なんの施設ができるのかと話題になっていた。

 

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▲利用をするには、写真にあるテンキーを使って、自分の暗証番号を入力する。スマートフォンは不要。ただし、乗り捨てはできず、駐輪場に返却しなければならない。

 

経済制裁による効果だという観測も

なぜ、北朝鮮は、シェアリング自転車を始めたのか。一部では、北朝鮮に対する制裁の効果が表れているのではないかと考える人もいる。北朝鮮内の石油が経済制裁により不足をし、価格が急騰しているという。そのため、エネルギー消費の大きい自動車は一部の支配層しか利用することができず、公共バスや地下鉄も本数が間引かれ市民は不便をしているという。そこで、エネルギー消費の不要な自転車にシフトをしているのではないかと考えられている。

多くの国は、自転車がエコな移動手段であり、人間にとって自然な乗り物という意識で、自転車の価値を再発見している。しかし、「自転車は時代遅れの乗り物」として排除してきた北朝鮮は、エネルギー不足により、再び時代遅れの自転車に回帰しようとしているのかもしれない。

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平壌市を離れると、地方ではいまだに自転車が市民の主要な交通機関になっているという。

そうだったのか! 朝鮮半島

そうだったのか! 朝鮮半島

 

 

悪ノリするシェアリングミスキャンパスが炎上状態に

9月20日、北京交通大学のキャンパス内に突然「シェアリングミスキャンパス」と称する15人の女性が登場し、イベントを行った。日本のグループアイドルそっくりのイベントだったが、北京交通大学は遺憾の意を表し、ネットでは「気持ちが悪い」と炎上状態になったと北京青年網が報じた。

 

北京交通大学に突如登場した15人のアイドル

中国では何から何まで”シェアリング”が登場している。シェアカー、シェア自転車、シェア雨傘、シェアモバイルバッテリーなどは、すでに使っている人も多い。さらには、悪ノリをして、シェア恋人、シェア妻なども登場していると報道されている。しかし、少々悪ノリがすぎるようになってきたようだ。

9月20日午前、北京交通大学の学生寮の前に、突如15人の女性が登場して、イベントを勝手に行った。白いブラウスにチェックのミニスカートを履いて、「シェアリングミスキャンパス」と称している。イベントの内容は、指定されたQRコードを読み込んでアプリをダウンロードすると、好きなメンバーと5分間、愛を語れるというものだった。

5分間愛を語れるといっても、実態は男性とツーショットの写真を撮ったり、握手をしたりするもので、日本のグループアイドルの握手会のフォーマットをそのまま利用している。

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▲突如、学生寮前に登場した15名の「シェアリングミスキャンパス」。しかし、北京交通大学とはまったく無関係の、アプリの宣伝活動だった。

 

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▲「5分間恋愛ができる」という触れ込みだったが、多くの男性は握手やツーショット写真といったシンプルなお願いをしたようだ。

 

「強烈に憤慨」した大学当局

しかし、世間の反応は、意外にも過剰に厳しいものだった。

まず、北京交通大学の管理部が不快感を示し、当日の夕方には、北京交通大学のウェイボーで声明を発表した。

「声明:調査の結果、本日、北京芸偉徳文化メディアは学校のいかなる部門の許諾も得ず、管理者の許可もなくキャンパス内の学生寮に立ち入り、いわゆる「ミスキャンパス活動」を行った。これが世間の高い注目を浴び、本校の教員学生は強烈に憤慨をしている。学校当局は、事実を知った後、すぐに活動を停止させ、排除した。本校は、このような活動に堅く反対し、さらに事実を精査した上で、関係者に厳格な対応をし、合わせて運営組織に対し、法律的な責任を追及する」。

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▲北京交通大学のウェイボーのコメント。「強烈に憤慨」という強い言葉で、学内で勝手に行われた宣伝活動を非難した。

 

やりすぎて炎上した宣伝活動

この手の中国語の分は、強い口調になりがちだが、それを割り引いても、かなり怒っている様子が伝わってくる。

ネット民の評判も最悪だった。ウェイボーの投稿により、ミスキャンパスの活動ではなく、北京芸偉徳文化メディアが開発したスマホアプリの宣伝活動であることが暴露されてしまったからだ。15人の女性たちは、北京交通大学の学生ではなく、それどころか大学生でもなく、金銭で雇われたモデルであることも暴露された。

「5分間の恋愛」というフレーズも過剰に反応された。見ず知らずの異性と、いきなり恋愛関係になるのが気持ち悪いと酷評されたのだ。また、簡易ステージにはさまざまなコピーが書かれていたが、「私の目にはあなただけ」「おしゃべりはやめてキスをして」というコピーの他、「あなたにラーメンを食べさせてあげる」というフレーズが問題になった。「麺を作る」と「下半身」の掛詞になっていて、「私の下半身をあなたに食べさせてあげる」というかなり直接的で下品な表現にも読めるのだ。

北京芸偉徳文化メディアは、北京交通大学や世間からの指摘を受けて、アプリの公開を中止した。

中国では、シェアリング経済が急成長をしているが、何でもかんでも「シェアリング」をつければ注目されるという段階は終わっている。シェアリングブームに便乗する者たちに対して、ネット民の反応は厳しい。

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▲イベントに出演した15名は、大学生ではなく、金銭で雇われたモデルだった。男性の行列は、特定の数名の女性に集中し、イベントは終始微妙な空気感の中で進んだという。

 

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▲それでも「5分間の恋愛」を求めて、男性が行列を作った。なぜか、犬まで並んでいるのが、ネットで話題になっている。 

 

ビッグデータで明らかになった「イマドキの中国人は紅茶を飲む」

中国では多くの人がさまざまな種類のお茶を飲む。その中でも青茶として珍重される茶葉を産出するのが、福建省武夷山だ。その武夷山で、2017年福建茶業ネット発展フォーラムが開催され、中国IT企業の百度ビッグデータに基づいた中国人の茶の嗜好を公表した。それによると、中国人の茶の嗜好も年とともに変わりつつあることがわかった。

 

昔、緑茶。今、紅茶。変わる中国人の嗜好

「中国人はみんな烏龍茶を飲んでいる」と言うと、「それはまったくの間違い。いちばん多く飲まれているのは緑茶です」と言う人がいる。10年前であれば、それは正しかった。しかし、今では最も人気があるのは紅茶で、次がプーアール茶、その次が烏龍茶になっている。中国人も生活が変われば、飲むお茶も変わっていくのだ。このような意外な事実を、百度ビッグデータが明らかにした。

 

紅茶、黒茶、烏龍茶が躍進。緑茶は減少

百度がデータの基礎としたのは、検索回数。茶に関連する検索回数は、毎日15万回で、2014年と比べるとほぼ2倍になっている。

検索回数が多いというのは関心が高いということで、必ずしも関心の高いお茶を飲んでいるとは限らないが、検索回数だけで見ると、紅茶が圧倒的に多い。また、紅茶、黒茶(プーアール茶)、烏龍茶は、年々検索回数が増えているが、緑茶は検索回数が減っている。

紅茶で関心が高い品種は正山小種。香りの強い中国紅茶だ。また、黒茶ではプーアール茶も検索回数を伸ばしているが、安化黒茶の伸びが大きい。烏龍茶では大紅袍。一方で、緑茶で有名な龍井茶、碧螺春などは検索回数が減少している。

検索回数が伸びている正山小種、安化黒茶、大紅袍は、生産量が少なく、オークションなどでも高値で取引されることから、ひょっとしたら“関心”の中身は、飲みたいからではなく、投機をしたいからかもしれない。龍井茶なども最高級のものは、庶民が手を出せないほど高価だが、安価な茶葉でもじゅうぶん美味しいものが豊富にあるため、あまり投機の対象にはなっていない。

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▲「中国人は緑茶を好む」というのが、日本でも中国でも常識だったが、その常識は変わりつつある。緑茶の人気は下降し、今では紅茶がトップに躍り出ている。

品種ごとのペルソナも描き出すビッグデータ

百度ビッグデータは、お茶をネットで検索する人のペルソナまで描き出している。それによると、茶を検索する人は、職場の中で中堅として力を発揮し、スポーツが好きで健康的な生活をしている。不動産と自動車に興味があり、余暇には友人と王者栄耀(スマートフォンのバトルゲーム)や酒、お茶を楽しむ。

さらに、このペルソナは、品種ごとにも分析されている。烏龍茶の元となった岩茶の代表的品種である大紅袍を好む人は、スポーツが好きで、書画骨董の収集が好きで、酒を愛する。プーアール茶などの黒茶を好む人は、教育、自動車、ファッション、芸術に関心がある。またグルメでもあるという。

また、大紅袍が好きな人は、プーアール茶が好きな人よりもピンポンを好み、黒茶が好きな人は、その他のお茶が好きな人よりもスマホゲーム「王者栄耀」が好きという面白いデータも紹介された。

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百度が公開した資料より。現在では紅茶への関心がいちばん高い。紅茶、黒茶、烏龍茶への関心は年々伸びている。一方で、龍井茶などに代表される緑茶への関心は年々下降している。

 

生活スタイルとともに変わっていくお茶のスタイル

中国人のお茶の嗜好は、生活スタイルが急激に変化するにつれて、激変しようとしている。水筒のような器にお湯と茶葉を入れて龍井茶を飲むというのが、北方の中国人の定番だったが、マンションで暮らす人が増え、ダイニングテーブルでお茶を飲む習慣が広まるにつれ、西洋式の紅茶を好む人が増えていっている。

茶業界は、ただやってくるお客さんに茶葉を売るだけでなく、こういったビッグデータを利用して、そのペルソナから積極的に広告やプロモーション活動を行っていくことが重要だと、参加した茶業界関係者は認識したという。業界人にとって、中国人にとってなによりも好まれているはずの緑茶の人気が下降しているということは大きなショックだったようだ。

台湾茶飲み比べ11種セット

台湾茶飲み比べ11種セット

 

 

中国のユニコーン企業(3):創新工場

時価総額が5億ドルから10億ドル以上あると見積もられているのに、上場をしない企業ーーユニコーン企業。投資家から熱い視線を浴びるユニコーン企業は、米国だけではなく中国にも数多く存在する。科技企業価値は、そのようなユニコーン企業を紹介している。今回は、スタートアップインキュベーターの創新工場。

 

スタートアップ企業を孵化させるインキュベーター

現在、経済の活力の源泉となっているのはスタートアップ企業だ。さまざまなスタートアップが起業し、ビジネスの仕組みを変えていく。老舗企業は、その波に流されないように自らを改革していく。その競争こそが、経済を成長させている。

スタートアップ企業を大量育成するのに必須なのが、インキュベーターアクセラレーターと呼ばれる養成機関だ。起業家たちは、ビジネスそのものに興味があるが、会社設立のための登記手続きや資金調達にはさほど興味がなく、苦手な人が多い。そこで、そのような起業周りのことを支援するのがインキュベーターアクセラレーターと呼ばれる機関だ。起業家は、自分たちのビジネスを構築することだけに集中ができるようになる。

この機関は、それだけでなく、シードファンドとしての機能も持っている。企業をするのに必要な資金を投資する。投資の方法は、登記したばかりのスタートアップ企業の企業価値を概算して、そのうちの一定割合の株式を購入する形、あるいは転換社債(後に株式に転換できる社債)などの形で行われる。つまり、投資したスタートアップ企業が成功をすれば、投資資金は100倍にも1000倍にもなる可能性がある。これがインキュベーターの運営資金となる。

 

中国のインキュベーター「創新工場」

インキュベーターの場合、起業家たちのオフィスまでも用意される。と言っても、多くの場合、体育館のような場所にデスクを並べ、パーティションで区切ったような空間だ。狭いところに起業家の卵が押し込められ、周囲と競い合いながら起業を目指す。いわゆるブートキャンプ方式だ。アクセラレーターの場合は、オフィスは用意されず、各自自分のオフィスを近所に確保して企業を目指す。

世界で最も有名なアクセラレーターは、ポール・グレアムが主催するYコンビネーターだろう。この養成機関からは、ドロップボックスやAirBnBなどの企業が誕生している。

中国でも、このインキュベーター事業が盛んになってきた。その中でも、成功をしたのが、北京市に拠点を構える創新工場だ。創立者の李開復は、マイクロソフトアジア研究所を設立後、グーグル副社長、アジア地域社長などを努めてきた中国IT界の重鎮だ。2009年9月に創新工場を創立し、2011年には、2500チームの応募を受け、39のスタートアップを世に送り出した。創新工場への投資金額も2.5億元を超えたが、創新工場が生み出したスタートアップの企業価値の合計は50億元を越えていると推測される。

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▲創新工場の創設者、李開復氏。グーグル、マイクロソフト、アップルと主だった企業の経営陣に加わり、中国、アジア方面の指揮をとってきた中国IT界の大物。

 

エンジェル投資は、将来への投資

企業への投資はさまざまな段階で分類されている。主にエンジェルラウンドとAラウンド以降に分類される。エンジェルラウンド投資というのは、その対象企業がまだビジネスをスタートさせていない段階での投資だ。まだビジネスが動いていない段階での投資なので、リスクはものすごく大きい。しかし、当たれば大きい。

一方で、Aラウンド以降の投資は、すでにビジネスが動き始めてからの投資なので、リスクはさほど大きくはない。しかし、投資効率はあまり高くはなくなる。

重要なのは、エンジェル投資は新しいビジネスを生み出すためのもので、Aラウンド以降の投資は、どちらかというと投資家が利益を得るための投資だということだ。つまり、エンジェル投資とAラウンド以降の投資の比率を見ていけば、新しい企業が生まれてくる活力があるかどうかがある程度わかることになる。

このような投資が盛んになった2008年、米国ニューハンプシャー大学の研究によると、米国には26万人のエンジェル個人投資家が活動していて、5万5480の企業に合計192億ドルのエンジェル投資を行ったという。また、コンサルティング企業、プライスウォーターハウスクーパーの調査によると、一般的な企業投資は3700件で総額280億ドルだった。約40%がエンジェル投資ということになる。

同年、清科集団の調査によると、中国の企業投資総額は493.02億ドルで、米国を上回っているが、エンジェル投資額は5億元から10億元の間と推定され、これは1.5億ドル程度で、米国の192億ドルとは比べようもなく、中国は将来への投資がほとんどできていなかった。

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▲創新工場のフリーデスク。誰でも無料で使えるデスクで、ここで仕事をしていて、スタッフの目に止まると、投資を受けられるチャンスがやってくる。現在、北京、上海、深圳の3拠点がある。

 

中国の未熟な投資家たちを育てる

李開復は、この問題を解決しようと、2009年に創新工場を創設した。ただし、創新工場は米国型のインキュベーターとはやや趣きが異なっている。一般的なインキュベーターは、養成機関の趣きが強く、投資資金は大物個人投資家あるいは投資機関に頼ってしまうことが多い。しかし、李開復は、創新工場を個人投資家と起業家の出会いの場としようとした。当時の中国には、起業家はもちろん、個人投資家も少なかったため、同時に両者を要請しようとしたのだ。

当時の中国の個人投資家といえば、ビジネスで成功したなどの理由で有り余る資金を得て、「なにか儲かる投資先はないのか」と探し回り、よく確かめもせずに投資をし、失敗をすれば誰かに当たり散らすという未熟な投資家が多かった。そのため、投資家の養成も必要だった。

 

中国人が海外企業へ投資をする窓口としても機能

創新工場は、IoT、ロボティクスなどの分野に集中して投資をし、最近では中国内にこだわらず、海外のスタートアップ企業にも投資をしている。専門家によると、創新工場の功績は、中国内の若者に起業のチャンスを与えたことだけでなく、中国に成熟した個人投資家を育てたことが大きいという。

中国は市場が大きいので、ビジネスで成功をすると、本人も想像していなかった大金が手に入るチャイナドリームがある。成功して、大金をつかんだ後、贅沢の限りを尽くして、挙げ句の果てに身を持ち崩してしまう人も多い。創新工場は、そういう人々に、「戦略的な投資をして、有望な若者に世に出るチャンスを与える」という社会貢献をする機会を与えた。

この創新工場の企業理念が理解されるようになると、次々と投資家が集まってきて、創新工場への投資も相次ぎ、2016年には45億元(約760億円)の投資資金を集め、ユニコーン企業の仲間入りを果たした。

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▲創新工場が投資をした主なスタートアップ。最近では中国企業に限らず、世界のスタートアップに出資をしている。投資家たちは中国人が多く、中国人が海外のスタートアップに投資をする窓口としても機能している。

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スタートアップ・バブル 愚かな投資家と幼稚な起業家

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