中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

女性ユーザーが半数以上。バトルゲーム「王者栄耀」の異変

中国で大人気のMOBAバトルゲーム「王者栄耀」に異変が起きた。調査会社、企鵝智酷の調査によると、ここ半年で女性ユーザーが急増、なんとユーザー比率で女性が男性を上回ったという。なぜ、中国の女性たちはバトルゲームに惹かれるのか。

 

ポケモンGOを抜いた王者栄耀

スマートフォンゲーム「王者栄耀」(おうじゃえいよう)の勢いが止まらない。アカウント数は2億件を超え、1日あたりのアクティブユーザーは8000万人を超える。月の売り上げも30億元(約500億円)を超え、世界の課金売り上げランキングでPokemon Goを抜いた。

王者栄耀は、テンセントが2015年末にリリースしたスマートフォンゲーム。ネット上で5人までのチームをつくり、敵陣地にある塔を破壊するバトルゲームだ。いわゆるMOBA(マルチプレイヤー・オンライン・バトル・アリーナ)と呼ばれるもののひとつだ。

登場するキャラクターは、三国志水滸伝項羽劉邦孫悟空李白武則天、チンギスハンといった中国伝統のキャラクターから、宮本武蔵や日本製ゲームのキャラクターなど、いわゆるオールスター。自分が好きなキャラクターを選んで、戦闘で得たり、実際のお金で購入したコスチュームを着せ、個性を出すことができる。

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王者栄耀では、自分のキャラを選んで、他のプレイヤーと協力して戦う。男性キャラはいずれもイケメンだ。女性に人気の高い三国志趙雲のキャラも、史実を無視したイケメンキャラになっている。

 

収益に限界が見えたPay to Play方式

この王者栄耀が大ヒットをした要因は、Pay to Funというコンセプトを採用したことにある。これは王者栄耀だけでなく、世界的なヒットをしているゲームのほとんどがPay to Funの考え方を採用している。

日本のスマホゲームの多くは、Pay to Winの考え方に基づいている。つまり、課金をすればするほど、キャラクターが強くなり、ゲームが進んでいく。ランキング表示やSNSを使ってプレイヤー同士で競争をさせ、課金を煽っていくというもの。全体ランキングの上位には重課金プレイヤーばかりが並ぶということになる。このPay to Win方式は、課金収益を上げるのに優れた方法で、日本でも高収益を上げるスマホゲームが続出した時期がある。

しかし、現在では、Pay to Fun方式の方が収益面でも有利だとする考え方が支配的になりつつある。Pay to Funとは、課金をしてもキャラクターが強くなったり、ゲームが進んだりすることはない。では、何に課金をするのかというと、自分の分身であるキャラクターのコスチュームや装飾品などを買うために課金をする。課金をしたからといって、ゲームの進行に影響はない。これがPay to Funの考え方だ。

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王者栄耀のゲーム画面。5人までのチームを作り、相手チームと戦う。各キャラの強さも重要だが、チームの戦術も重要になる。

 

ゲームのライフタイム収入ではPay to Funが勝る

なぜ、Pay to Funが優れているのか。それはPay to Funの方が、収益が高くなるからだ。Pay to Winのゲームの場合、確かに一人あたり、単位時間あたりの課金額は高くなり、収益に爆発力が生まれる。しかし、長く続かないのだ。プレイヤーは、一定期間遊ぶと、「お金を投入した分、ゲームが進む」という構造に気がついてしまい、続けても同じことを繰り返しているだけの感覚を味わうことになり、いわゆる「ゲーム疲れ」を起こして、離脱してしまう。

一方で、Pay to Funのゲームでは、自分の操作テクニックが向上すればゲームが進んでいく。操作テクニックは、長く遊んでいれば自然に向上をしていく。そのため、長く遊べば遊ぶほど、高レベルのプレイヤーと対戦できることになり、長続きをするのだ。長く遊べば、自分のキャラクターに愛着が湧き、いろいろなコスチュームを購入して着飾りたくなる。Pay to Winのような収益の爆発力は生まれないが、プレイ期間が長くなるため、ゲームの寿命が延び、ゲームのライフタイムの総収益は、Pay to Winよりも高くなると考えられている。

 

スポーツと同じ構造のPay to Funゲーム

これは、野球やサッカーのスポーツとまったく同じ構造だ。野球で、お金をかけたから上手くなるということはない。上手くなるには、時間と労力をかけて、経験を積んでスキルを上げていく以外に方法はない。しかも、少年野球から初めて、高校野球プロ野球と、ステージが上がるたびに、新たな高いレベルの対戦相手との出会いがあり、飽きるということはない。

強いプレイヤーになるには、野球やサッカーと同じにように、才能を持った人間が修練を積み重ねていく以外ない。だからこそ、eSportと名付けられて、世界大会が成立をするのだ。Pay to Winのゲームでは、世界大会をやる意味はない。

 

観戦をするという楽しみ方もあるeSport

このeSportの特徴は、プレイするだけでなく、観戦をするという楽しみも生まれるということだ。Pay to Winのゲームでは、人のプレイを見ても、面白くもなんともないが、MOBAでは、プレイヤーは考え抜いた戦術と積み重ねてきたテクニックを駆使して戦うので、一流プレイヤーのプレイは鑑賞に値する。女性がMOBAである王者栄耀で遊ぶ理由はこれがあるからだ。サッカーや野球、テニスを楽しむように、観戦して楽しみ、そして自分でもやってみようという考える女性プレイヤーが増えているのだ。

 

ここ半年で急増した女性ユーザー

企鵝智酷の調査によると、女性プレイヤーの51.7%が始めて半年以内で、女性が急増したのはここ半年であることがわかる。しかも80.6%が王者栄耀が初めて遊ぶMOBAだと回答している。

王者栄耀を遊び始めた理由として挙げているのは、「友人が遊んでいるを見て」(61.7%)、「友人から勧められて」(36.6%)という、「周りが遊んでいるから」という理由が多い。

また、キャラクターを選ぶ基準でも、女性が突出して多いのが「見た目が好きだから」というもの。課金をする理由も「キャラクターの外観をよくするため」が圧倒的に多い。

気になるのは「王者栄耀を始めて、減少した他の娯楽時間は?」という質問で、男性は「他のゲーム」と答えているが、女性は「映画、テレビを見る時間」と答えていることだ。

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女性ユーザーの多くは、始めてから半年未満。ここ半年で、女性ユーザーが急増した。

 

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女性が王者栄耀を始めた理由の多くは「友人」。人のプレイを観戦するだけでも楽しめるMOBAは、ユーザーの拡大がしやすい。

 

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課金をするケースを尋ねると、女性は「キャラの外観をよくするため」が多い。一方で、男性は「他のキャラを使うため」が多く、見た目を楽しむ女性と、プレイを楽しむ男性にきれいに分かれているようだ。

 

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王者栄耀を始めて、減ったと思われる時間を尋ねた。女性は映画やテレビドラマを見る時間が減ったと答えた。MOBAを楽しむ女性が増えると、テレビや映画に影響しそうだ。

MOBAはゲームではない、アリーナだ

つまり、女性たちは、周りの友人たちがスマホで王者栄耀を遊んでいるのを見て、観戦することから始め、自分でもキャラクターを選んで遊び始めている。その代わりに、テレビドラマや映画を見なくなっているということのようだ。

ゲームというのは、日本の常識では、運営側が用意したシナリオや謎解きを楽しむもので、映画や小説に近い感覚になっているが、世界で起きている新たなゲームの潮流は、運営側は場所だけ用意して、あとはプレイヤーが自分の戦術やテクニックで楽しむスポーツに近い感覚になっている。MOBAの最後のAはアリーナ(競技場)の略であり、MOBG(ゲーム)とはなっていないことに注意をしていただきたい。

ゲームではなくスポーツにすれば、男性だけでなく、女性、そして老若男女という幅広い市場が拓けてくる。スマホゲームの世界は、今、大きく変わろうとしている。

 

積極的にECサイトに対応し、さらに成長する老舗企業

阿里研究院は、老舗企業の動態をまとめた「2016年老字号電商百強、老字号・新方向」を公表した。老舗企業上位100社は、ネット販売の売り上げが毎年50%以上の伸びを見せ、約3割の老舗企業がネット販売に対応しているという。

 

ECサイトと連携する中国の老舗店舗

日本では創業30年以上の老舗企業の倒産が相次いでいる。全国の倒産企業の数の30%が老舗企業で、地方によっては40%以上や50%近くが老舗企業という地域もある。

原因はどの老舗企業も同じで、経営者の高齢化と後継者の不在、そして伝統を守る余りに時代の変化についていけないというものだ。

中国にも100年以上続く企業には、国家商務部が「老字号」の称号を与えている。その多くは食品やレストラン、日用品を扱っている。例えば、北京で有名な茶葉店の張一元は、昔ながらの店舗で、昔と同じように茶葉をその場で量り売りをし、昔と同じように紙包みに包装するという商売をしている。しかし、昔と同じ商品を昔と同じような手法で販売していながら、近年業績を伸ばしている老舗企業が多いのだ。

その秘密は、ECサイトとの連携にある。

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北京市の下町繁華街、前門にある張一元の店舗。観光客も多く訪れるが、地元の北京っ子もお茶を買いにくる。昔ながらの量り売りをしている数少ない茶葉店だ。

 

ECサイトとコラボする老舗ブランド

国家商務部が認定した老字号は、全国に約1200社あるが、その半数にあたる600社が自社製品をECサイトで販売をしている。

世界的に有名な故宮は、ECサイトTモールとコラボして、清朝の食事を再現した「紫禁城素」をECサイトで販売、人気を博している。また、1853年に創業し、著名人に愛された布靴を作り続けてきた内聯升は、Tモールに出店をし、購入者の足のサイズを記録し、次回からは同じでいいか、少しサイズを変えてみるかを選ぶだけで、適切なサイズの布鞋が購入できるようにした。

また、飲料メーカーの北氷洋は、やはりTモールと提携して、市内であれば一時間以内に冷たい飲料を配達するというサービスを始めた。

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内聯升は中国伝統の布鞋で有名なブランド。歴代の中国指導者たちのほとんどが愛用をしている。軽く、履きやすいことから、最近ではルームシューズとして、国内外での愛用者が増えている。

 

老字号が少ない中規模都市にECサイトで進出

多くの老字号は、新商品の開発に対しては慎重だ。あまりに時代に合わせすぎて、やりすぎてしまうと、競合他社との違いがわからなくなってしまう。老字号のブランド力を使って、売り上げを伸ばすためには、伝統的な商品はそのままに市場を拡大する戦略が適している。

中国の老字号は、規模が大きくないことも幸いした。北京の老字号は北京の中にいくつも店舗を持っているが、他の都市にはさほど進出していない。他の都市にはそのご当地の老字号があり、出店をしてもなかなか選んでもらえないからだ。

しかし、ECサイトは中都市や小都市、農村にも販路が広がる。このような地域にはご当地老字号が少ない。そこで、全国的にも有名で、商務部のお墨付きがあり信頼ができる老字号の商品が売れるのだ。実体店舗を出すほどの売り上げにはならなくても、配送だけですむECサイトであれば、全体では大きな売り上げとなっている。

老字号は、ECサイトの力を利用することで、伝統的な商品をそのままに、売り上げを伸ばすことに成功している。

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張一元のT-mallに開設された旗艦店。張一元の茶葉が、ネット通販で購入できる。張一元の店舗がない地方都市からの注文が多いという。

 

伝統と革新は衝突しない

このようなECサイトを積極的に利用している老字号の熱い視線が注がれているのが香港だ。香港には、中国人だけでなく、外国人の居住者、旅行者も多い。ECサイトを使って、香港市民に馴染んでもらって、それから実体店舗を香港に出店することで、世界的な知名度を上げていく。

漢方薬の老舗、同仁堂は、この手法で、現在は米国、マレーシア、インドネシア、イラン、タイなどに出店をするようになった。

伝統を守ることと、新しいものを受け入れることは、決して衝突しない。むしろ、新しいものを受け入れることで伝統は守れていくのだ。老字号は何百年もそうして、新しいものを摂取しながら伝統を守ってきたので、生き延びてこれたのだ。

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漢方薬の老字号、同仁堂は、香港に出店したのを足がかりに、欧米各地に支店を開いた。漢方薬は、自然で優しい薬として西洋社会にも浸透し始めている。

板藍根顆粒(北京同仁堂)

板藍根顆粒(北京同仁堂)

 

 

宅配便の梱包ゴミ洪水に飲み込まれていく中国の大都市

2016年の中国の宅配便件数は313.5億件、日本の8倍以上にもなる。宅配物流もパンク寸前だが、それ以上に問題化しているのが、宅配便の梱包材のゴミ問題だ。年平均1人が20kg以上の包装ゴミを出していると大洋網が報じた。

 

使用されたガムテープは地球425周分

中国でも、アリババが運営するタオバオ、Tモール、さらにはECサイト大手の京東商城などが人気で、ネット通販を利用する人が急増し、宅配便物流がパンク状態になっている。国家郵政局が2015年に公表した統計によると、宅配便件数が207億件で、その包装に布袋が31億枚、ビニール袋が82.68億枚、封筒が31.05億枚、段ボール箱が99.22億箱使用された。使われたガムテープの長さは169.85億メートルで、これは地球の赤道を425周する長さだという。

中国循環経済協会によると、宅配便件数は2016年に300億件を突破し、2017年には400億件を超えるとみられている。2020年には700億件に達する見込みだ。

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年間300億件以上の宅配便が利用されるが、そのすべてが梱包され、その梱包材がゴミとなっている。このままでは、宅配便ゴミに飲み込まれてしまう都市が現れてくる。

 

宅配ゴミは年一人20kg以上

宅配便の物流がパンク状態となり、すでに郊外ではドローン配送なども始まっているが、物流とともに大きな社会問題になっているのが、包装ゴミのリサイクル問題だ。

深圳市では、毎年一人が平均で172回の宅配便を利用し、毎年一人あたり20.29kgの宅配包装ゴミを生み出しているという。これは深圳市で処理するゴミの、実に40%以上になる。

中国の大都市では、どこでも似たような状況で、物流拠点は荷物に埋もれ、街は包装ゴミに埋もれそうになっている。

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過剰包装が大量ゴミの原因

深圳市の都市環境問題研究機関の報告によると、大量の包装ゴミが生み出される最大の原因は過剰包装だという。ネット通販を利用するのは女性が多く、美容関係の商品がよく売れる。ガラス瓶の場合、小さいものでも、段ボール箱の中に緩衝材を大量に入れる梱包が多い。段ボール箱の大きさを揃えた方が、梱包作業、運搬などが効率化できるため、大きな段ボール箱の中に大量の緩衝材を入れて、小さな商品を発送する。

 

もうひとつの理由がリサイクル率の低さ

すでに再利用できる梱包材、容易に分解する梱包材なども開発されているが、価格が高いために多くのECサイトが、従来型の段ボール箱とビニール袋などを利用する。このような低価格の梱包材のリサイクルは、価格が安いので利益がほとんど出ないため、進んでいない。

ある研究機関の推計によると、宅配梱包材のリサイクル率は10%程度で、段ボール箱ですら20%に達していないという。緩衝材やガムテープなどのリサイクル率はほぼ0であるという。

 

リサイクルの循環回路を確立することが重要

また、多くの人の誤ったリサイクル知識もこの問題を複雑にしている。宅配企業の順豊の包装実験室上級エンジニアの肖志明氏は、大洋網の取材に応えた。「多くの人がビニール素材よりも、段ボール箱の方が環境に優しいと考えています。しかし、紙をつくるには大量の樹木を伐採し、生産過程で大量の廃棄物を出し、環境に与えるインパクトは大きいのです。やるべきことは、リサイクルの循環を確立して、同じ梱包材を何度も再利用することなのです」。

順豊の包装実験室では、すでに複数回再利用が可能な梱包材を開発済みだが、価格が高い(リサイクル循環が確立すれば、1回あたりのコストは安くなる)ため、なかなか使用が広がらないという。

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宅配便の件数が多すぎて、どこの集荷場もパンク状態。遅配、不達なども日常的になっているという。

 

このままでは街が宅配便ゴミに飲み込まれる

中国循環経済協会の廃棄物資源化専門委員会の李海濤服秘書長は、大洋網の取材に応えた。「重要なのは、逆向きの物流体系を構築することです」。政府が主導をして、通常の物流とは逆に流れ、梱包材を回収するリサイクル物流経路を構築する必要があるという。集合住宅やオフィスビルに、回収ポイントを設置し、宅配便業者が、そこに出された梱包材を配達と同時に回収をしていく。必要な費用は、リサイクル基金を設立し、ECサイトの商品に上乗せをして徴収する。

こういった構想は、各都市でも提出されている。しかし、リサイクル基金の設立が進まず、リサイクル率はほとんど上がっていない。

このままでは、1、2年で限界を超え、街に段ボール箱と緩衝材があふれ出すことになるが、有効な対策はほとんど取られていない。

ECサイトと宅配便はより便利になり、農村でもECサイトを利用する人が増え始めている。その前に、宅配便ゴミをリサイクルする仕組みを作らない限り、中国の都市は宅配便ゴミの洪水に飲み込まれてしまう危険性がある。

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中国の都市部では、翌日配送が普通になっている。さらに、当日配送も始まるなど、サービスは急速に向上しているが、その裏でスタッフの重圧は限界を超えている。

 

リニア、無人運転、路面。未来地下鉄の実験場となる北京市

年々延伸される北京地下鉄は、すでに19路線、総延長574kmと、東京の2倍の規模に達しているが、延伸工事はさらに続き、2020年には1177kmになる予定だ。従来は、速く大量にという輸送効率を考えた路線、車両が開発されてきたが、今年からは次世代の地下鉄路線の開通が相次ぐことになると北京日報が伝えた。

 

東京の倍の規模の北京地下鉄

北京市の地下鉄の総延長はすでに東京を上回っている。現在19路線、総延長574km、駅数は345箇所。さらに延伸工事が進んでいて、2020年には30路線、1177kmになる予定だ。1日あたりの乗客数は1000万人を超えると見込まれる。

東京の地下鉄が19路線、総延長301.3kmであることを考えると、北京の地下鉄はおおよそ倍の規模だ(ただし、東京には郊外私鉄があるので、鉄道規模としてはほぼ同じ)。

さらに今年の暮れから来年にかけて、延伸3路線の開通を控え、すでに試験運行が始まっている。

しかも、この3路線がバラエティーに富んでいる。燕房線はなんと人工知能による無人運転地下鉄。S1線は低速リニアモーターカー。西郊線は観光を意識した路面電車とそれぞれに異なった路線となる。北京は、都市鉄道の実験場になろうとしているかのようだ。

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北京地下鉄の路線図。延伸工事は現在でも行われていて、2020年には30路線、1177kmになる。

 

人工知能が運転する地下鉄

燕房線は全長16.6km、駅数9という短い路線だが、人工知能による無人運転列車となる。当初は安全監視員が乗車するが、時機を見て完全無人となり、運転手も車掌も乗車しなくなる。すべての運行管理は運行センターから行われることになる。

この燕房線は、未来の北京地下鉄の実験線の意味合いも持っていて、この燕房線での結果を見て、既存の地下鉄路線も無人運転に置き換えていく。すでに3号線、12号線、17号線、19号線、新空港線無人運転化が計画されている。

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完全無人運転となる燕房線。完全無人運転技術は、北京市地下鉄が最も力を入れて開発していて、他路線も次々と無人化していく計画だ。

 

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現在は、安全のために安全監視員が乗車するが、時機を見て、運転手、車掌のいない完全無人列車になる。

 

地下鉄に向いている低速リニア

S1路線は低速リニアモーターカーだ。8mmから10mm浮いて走行するため、振動はほとんどなく、コインが倒れないほどスムースだという。最高速度は時速120kmで、上海のトランスラピッドのような高速リニアではない。速度ではなく、登坂能力が高い、磨耗部分がないのでメンテナンスコストが安いという都市交通向きのメリットを活かした低速リニアになる。

また、地下鉄リニアということにも意味がある。リニアの分岐部分は、温度変化や日照などによるガイドレールの伸び縮みに神経質にならざるを得ない。厳格な点検、管理をしておかないと重大事故につながりかねないのだ。しかし、地下鉄であれば温度がほぼ一定し、日照もないので、点検、管理が簡素化できる。

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低速リニアのS1路線。接触部分がないので騒音が小さいので、住宅地の高架路線を走る。また、登坂能力も高いので、すでに密に走っている路線を上下に避けながら、路線を新設することが可能になる。

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観光路線に適している次世代路面電車

西郊線は全長9km、最高速度時速70kmの路面電車となる。この路線は、頤和園、植物園、香山という北京市の観光スポットを結ぶ路線で、観光客に車窓の風景も楽しんでもらうというものだ。

北京市も以前は、バス、トロリーバス路面電車で、都市交通をまかなってきた。しかし、人口の増加するとともに輸送効率の面でバスに勝つことができず、地下鉄が建設し始められた1966年に、路面電車はすべて廃止になっている。しかし、エコ、低床、高速といった路面電車の技術改良が進み、郊外路線ではコストなどの面から路面電車が適している地域も出てきている。北京市では、現在、西郊線を含めて、3路線の路面電車を計画、建設中だ。

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西郊線の車両のロゴが面白い。車という字をデザインしている。漢字はもともと象形文字なので、ロゴデザインがしやすい。

 

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頤和園、植物園、香山という北京の観光スポットを結ぶ路面電車、西郊線。道路の渋滞を招くと次々に廃止になった路面電車が、観光電車として復活をしていく。

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次世代の都市交通の実験場となる北京地下鉄

北京市の地下鉄には時刻表というものがない。あるのだとは思うが、どの路線も3分間隔から5分間隔で列車がやってくるので、誰も気にしていない。流入する膨大な人口の移動を支えるため、地下鉄はこれまで効率一辺倒で建設されてきた。しかし、ここへきて、ようやく2100万人の人口の移動を支える体勢が整い、効率とは別のものを追求し始めた。人工知能による無人運転、低速リニア、路面電車とさまざまな新しい形の都市交通技術が試されていくことになる。

世界の美しい地下鉄マップ 166都市の路線図 を愉しむ

世界の美しい地下鉄マップ 166都市の路線図 を愉しむ

 

 

中国のユニコーン企業(2):ofo

自転車ライドシェアのofoは、創業わずか2年でユニコーン企業となった。戴威CEO以下、社員はみな若く、まだまだ伸び代のある企業だ。スタートアップ企業のお手本になる企業だと科技企業価値が報じた。

 

若者たちの手作りスタートアップofo

ofoは、いろいろな意味で若いスタートアップだ。戴威(たい・い)CEOは、まだ26歳、ofoを創業したのは24歳の時だった。そもそもofoという名前がしゃれている。何かの略というわけではなく、単にofoという文字を図として見た時に、自転車に乗っている人の絵に見えるからという理由だ。

若い企業だけに、失敗も多かった。しかし、その失敗でめげずに、ひとつひとつ乗り越え、現在の企業価値は7億ドル(約120億円)と見積もられている企業に成長した。

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▲まだ26歳の戴威CEO。学生のような雰囲気だ。失敗も多かったが、その失敗をひとつひとつ解決することで、現在中国の自転車ライドシェアのトップ企業になった。若い企業だけに、いい意味での“やんちゃ”な施策を次々と打ち出している。

 

世界を理解するのに最も適した自転車

戴威CEOは、北京大学金融工学を学んでいた。当時から自転車が大好きで、北京大学自転車協会に入り、自転車ツーリングを楽しんでいた。

2013年、北京大学を卒業し、大学院に進学する予定だったが、それを1年遅らせて、1年間、青海省大通県東峡鎮で数学の教師をした。

東峡鎮は山の中の山村で、町との間は徒歩で何時間もかかった。戴威CEOはマウンテンバイクを持ち込み、これで町との往復をした。自転車で山道を走りながら、戴威CEOは雄大な景色を眺めていた。「自転車に乗ることが、世界を理解するのにいちばんいい方法だとわかったのです」。

 

シンプルにするため、GPSも電子鍵もつけない

大学院に進学するため北京に戻ると、すぐに自転車ライドシェアビジネスをやろうと考えた。協力する友人も集まった。

戴威CEOは、低コストを徹底することにした。自分たちはで自転車は生産しない。購入だけをして、利用者とマッチングさせる部分に集中する。また、GPSも電子鍵も搭載しない。自転車がどこにあるかは、自転車にGPSを搭載しなくても、利用者のスマホの位置情報から推測できるはずだ。

自転車をIT化するといっても、できるだけ余計な装置をつけたくなかった。自転車はタイヤとチェーンとペダルだけで、人間がこげば、人の力で前に進む。そういうシンプルな道具であってほしかった。

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▲ofoの中国名は「小黄車」。中国の都市ではどこでも見かけるようになった。Mobikeと激しいシェア争いをして、ここ半年はわずかながらofoが上回っている。

 

いきなり盗難、私物化、放置の問題が生じる

しかし、これが裏目に出てしまった。ofoの自転車は、心ない利用者によって私物化される事態が続出することになってしまったのだ。電子鍵ではなく、固定の番号鍵であるということが問題だった。アプリに自転車のナンバーを入力すると、固定鍵の番号が表示される。利用者は、その番号を自転車の鍵に入力して解錠する方式だった。

ofoの自転車を使った人が、ある場所で使用を終了する。すると、自動的に鍵が施錠される。しかし、鍵の番号は変わらないのだから、同じ番号を使って再び解錠し、どこかに乗っていけば、料金を支払わずに使い続けることができてしまう。後は、自分の家の庭や近所に置いておけば、無料で使える自転車になる。

また、小学生が勝手に自転車に乗ってしまうという問題も生じた。中国の道路状況は危険なので、12歳以下は、公道を自転車で走行することができない。ところが、鍵の番号を知っている小学生たちは、勝手に鍵を開けて乗ってしまう。そのような小学生が右折するバスに巻き込まれ、死亡するという事故まで起きてしまった。

 

誰だって、初めてのことは経験をしたことがない

戴威CEOたちは、このような問題をひとつひとつ解決していった。毎回、番号が変わる電子鍵を搭載するようにし、GPSも搭載していった。子供たちが勝手に自転車に乗らないように、下校時の時間に合わせて、小学校近くを巡回するようにした。放置された自転車を回収するチームを結成し、市民ボランティアにも協力してもらうようにした。保険会社も立ち上げて、利用者が自動的に傷害保険に入れるようにした。

その努力が実り、国内が170都市で800万台の自転車を提供する企業に育った。今年7月には、アリババなどから7億ドルの投資を受け、ユニコーン企業となった。創業当初は、ビジネス経験のない若い社員たちであったため、継続を危ぶむ専門家も多かった。しかし、問題を丁寧にひとつひとつ解決していくことで経験不足を補い成長し、いつ株式公開をしてもおかしくないところまで育ってきた。戴威CEOは言う。「誰だって、初めてやることは、未経験。ひとつずつ解決していけばいいだけ」。

今年には、サドルの下に1元硬貨を隠し、宝探しゲームのようなユニークなキャンペーンを行った。若い企業だけに、まだまだ楽しいことをやってくれそうだ。

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復活するシャオミー。中国のアップルではなく、中国の無印良品になりたい

しばらく低迷していたシャオミーが、ここのところ元気だ。iPhone 8よりも先にベゼルレススマートフォンMi MIXを発売し、中国国内で好調に売れている。その雷軍CEOがイエール大学北京校で公演を行い、「中国のアップルではなく、中国の無印良品になりたい」と述べた。その意図はどこにあるのか、36が報じた。

 

奇跡のシャオミーもここ数年は迷走

アップルが世界でスマートフォン革命を起こしたとしたら、シャオミーは中国でスマートフォン革命を起こした。2007年に登場したiPhoneは、翌年のiPhone 3GS発売前後から、世界のITビジネスと生活を変え始めた。しかし、当時の中国人にとっては、iPhoneは高価なスマホであり、一部の富裕層でなければなかなか購入することができなかった。

そのような状況の2010年、スタートアップのシャオミーは、iPhoneと遜色のない性能、遜色のないデザインのAndroidスマホを、iPhoneの半額程度の価格で発売し、中国にスマホ革命を起こし始めた。2015年には、世界での売り上げランキングがアップル、サムスンに続く第3位となり、「シャオミーの奇跡」とまで呼ばれた。

しかし、OPPOvivoなどのライバルが登場してくると、次第に存在感が薄れていき、ランキング圏外に消えてしまった。すると、シャオミーは家電の製造に乗り出し、炊飯器などを開発するようになる。いずれも価格も手頃でデザインも優れていたことから好評ではあったが、自動開閉雨傘なども発売し、一体何屋なのかわからない状況となり、売り上げも低迷し、企業の方向性も迷走するようになってしまった。

 

iPhoneよりも先にベゼルレススマホを発売

しかし、2016年秋に発売したスマホ「Mi MIX」がヒットした。世界で最初にベゼルレスデザインを取り入れた機種だった。スピーカーの位置などを工夫し、前面はすべて画面という縁なしスマホだ。

雷軍CEOは、このベゼルレスデザインは、2014年の初めから研究をしていたという。それがMi MIXに結実して、シャオミーは再びスマホメーカーとして注目されることになった。改良版のMIX2は、折しもベゼルレスデザインのiPhone Xと発売時期が重なった。それでも雷軍CEOは、圧倒的な自信を持っている。「ベゼルレスデザインはシャオミーがリードをしてきました。関連特許も4806件を保有しています」。

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iPhone Xと同時期に発売されるMi MIX2。ベゼルレスデザインは、iPhone Xよりも先にシャオミーが手がけていた。中国のスマホユーザーは、iPhone Xに斬新さを感じていない。

 

iPhoneと対決する時に輝くシャオミー

面白いことに、以前のシャオミーは、iPhoneに対抗するスマホを発売する企業としてシェアを伸ばしてきた。雷軍CEOは、ジーンズにスカイブルーのシャツというカジュアルなスタイルで発表会に登場し、一挙手一投足までスティーブ・ジョブズを研究し、「中国のジョブズ」と呼ばれ、シャオミーは「中国のアップル」と呼ばれた。

その後、家電製品を開発するようになると、低迷が始まり、再びiPhone Xに対抗するMi MIXで注目を浴びるようになっている。不思議と、iPhoneと対抗する製品を発売すると、シャオミーは輝くのだ。

しかし、雷軍CEOは「中国のアップルになろうとは考えていない」と断言する。「創業した時の想いは、中国の製造業を変えたいということでした。中国人の国産品に対するイメージを変えたいということでした。中国の高いものづくり能力をどう活かせば、世界でトップクラスの製品が作れるか。それを考えていました」。

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▲一時は迷走をして、消えてしまうのではないかとも言われたシャオミーは、ベゼルレスデザインで復活を遂げた。中国のスティーブ・ジョブズと呼ばれた雷軍CEOの表情も明るい。

 

テクノロジー界の無印良品になりたい

シャオミーは、テクノロジー界の無印良品になることを目指しているのだという。「設計を重視し、品質を重視する。たくさんの商品を組み合わせることができる。インターネットを使って、オンラインでも店舗でも同じような購入体験ができる」。そういう企業を目指している。

無印良品ではほとんどすべての生活雑貨が販売されている。決して、過度な高級さないが、品質が高く、デザインも優れている。さらに、その背後にはエコやミニマムという思想があることがわかる。

生活雑貨はすべて無印良品を買うという人も多いだろう。しかし、それはアップルのように熱狂的な“信者”ではなく、無印良品の企業活動を支持する“静かなる支援者”だ。シャオミーは、家電製品、電子製品の世界で、無印良品のような“静かなる支援者”を増やそうとしている。

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イエール大学北京校での雷軍CEOの講演。雷軍CEOは、静かに率直に心のうちを語った。

 

創業してすぐにアップルやサムスンと対決

雷軍CEOは、中国のビジネスの最大の問題は効率の悪さだと言う。メーカーから消費者の手に渡るまで、さまざまな問屋、仲買人の手を経ることになり、その度に利益が乗せられ、消費者小売価格は、品質に見合わない高額になっている。シャオミーが最初にやったことは、この販路をショートカットし、無駄なコストを削減することだった。それが、「広告はしない、定価販売のみ」のネット直販方式につながった。

雷軍CEOは、聴衆の前で創業以来の7年間を振り返った。「創業した時は、10数人のメンバーで3000万元(約5億円)の投資資金で始めました。そんな小さなメーカーが、いきなりアップルやサムスンという世界的な企業と競争をすることになったのです」。

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▲講演後に、イエール大学北京校センター、李恩祐主任からイエール大学のフリースが贈られた。

 

進化すればするほど退屈になるスマホはいったいなんなのだ?

「ベゼルレスデザインの研究を始めた2014年、私はエンジニアたちとあることについて議論をしていました。それはスマホ開発は、やればやるほど退屈になっていくのはなぜなんだ?というテーマです。答えは明らかでした。iPhoneがその後10年のスマホのデザインを決めてしまい、私たちはみなiPhoneという枠の中でスマホを作っていたからです。ですから、未来のスマホを作るには、iPhoneの枠を超えたものを作るしかない」。

そこで出てきたのが、透明の板に必要な時だけ画面が表示される透明スマホと、前面すべてが画面になるベゼルレスデザインだった。その内のひとつ、ベゼルレススマホがMIXとして結実し、シャオミーは復活を遂げた。

後継機種MIX2は、46カ国の市場で販売される。再び、シャオミーの奇跡が起ころうとしている。

 

 

中国の投資動向を決めているBATJ。人工知能とシェアリング経済に集中投資

テンセント科技とIT橘子は、共同して「中国投資領域資金傾向報告」を公開した。それによると、シェアエコノミーに対する投資は依然と強く、さらに人工知能関連への投資も高くなってきたという。

 

雨後の筍創業のステージは終わり、収穫のステージへ

2017年上半期のスタートアップ状況は、創業企業数が大幅に減少をした。一方で、投資利益率は上がっているので、「なんでもかんでも創業」という時期は終わり、有望なスタートアップだけが創業をし、手堅く利益を生み出している状況だと言うことができる。

投資資金では、自動車交通関連が905億元(約1兆5300億円)と目立つ。自転車ライドシェアだけでなく、無人バスや路面電車などの開発も進んでいるため、大型投資案件が増え続けている。ライドシェアサービスの滴滴出行が、55億ドル(約6100億円)の投資資金の調達に成功したことなども話題にもなった。

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▲2016年下半期から起業数は大きく減少した。しかし、投資利益率は上がっており、雨後の筍のように起業する時期が終わり、収穫期に入ろうとしていることがわかる。

 

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▲分野別投資資金額。最大は自動車交通関連で、ライドシェア企業への投資。ただし、滴滴出行に大型投資が行われたことを考慮に入れておく必要がある。単位は億元。

 

人工知能分野では基礎技術に投資が集中

現在、投資が集中しているのが、人工知能とシェアリング経済の2分野だ。人工知能分野への投資を見てみると、件数が圧倒的に多いのが人工知能ロボットの分野。しかし、面白いことに投資金額は自然言語処理クラウド計算に集中をしている。人間と会話ができる人工知能ロボットは、話題になりやすく、スタートアップも数多く登場しているが、それよりも重要なのは基礎技術となる自然言語処理や画像処理、クラウド計算などで、このような基礎技術分野に投資が集中しているのは健全なことで、5年後、10年後に大きな見返りとなって返ってくる可能性がある。

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人工知能分野への投資件数と投資金額。件数が多いのはロボットだが、額が多いのは自然言語処理クラウド計算という基礎技術開発。投資企業が長期展望に基づいて投資判断をしていることが伺われる。

シェアリング経済への投資は一段落

シェアリング経済への投資は、一段落をした。サービス地域をまだ拡大しているシェア自転車に対してはまだ多くの投資資金が流れこんでいるが、その他のシェアリング経済に対しての投資額は少なくなっている。バッテリーや雨傘といった安価なもののシェアリングサービスが増えてきて、大きな投資資金も必要としていないこともある。

シェア自動車への投資金額が突出しているのは、滴滴出行が55億ドルの資金調達をしたことが大きい。

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▲シェアリング経済分野への投資件数と投資金額。シェア自転車とシェア自転車への投資が多い。シェア物流という地味な分野への投資金額が大きいことにも注目しておく必要がある。

 

スタートアップは3年で成功か倒産かが決まる

投資をしたスタートアップ企業が必ず成功するなどという保証はどこにもない。むしろ、倒産してしまうスタートアップの方が圧倒的に多い。その倒産数もだいぶ減ってきた。創業するスタートアップ数も減っているので当然と言えば当然だが、スタートアップの平均寿命も33ヶ月と短期間である状態が続いている。

驚くのは、中国のスタートアップ企業の勝負の速さだ。平均寿命も3年足らずだが、企業価値が5億ドルから10億ドルを超えるユニコーン企業化の平均年数も同じく3年弱だ。つまり、中国のスタートアップは2年から3年で、成功するか失敗するか結果が出てしまうことになる(シリコンバレーではユニコーン化まで平均7年かかる)。このスピード感が、中国の変化の激しさの源泉になっていると思われる。

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▲スタートアップの倒産件数と平均寿命。2015年下半期に大量倒産が生じ、劣悪なスタートアップの淘汰が起きたと考えられる。平均寿命は3年弱と極端に短いが、ユニコーン化への平均年数も3年弱であり、中国のスタートアップは勝負が早いことがわかる。

 

中国の投資動向を決めているBATJの4社

中国の大手IT企業は、百度、アリババ、テンセントの3社。頭文字をとって、BATと呼ばれることがある。このBATの投資動向は、中国のIT業界において、最も重要なニュースだ。投資機関もBATの動向を探りながら、投資先を考えている。

そのBATの投資件数も落ち着きを見せ始めているが、それぞれの企業により、傾向は異なっている。百度は、自社事業と技術的なシナジー効果の得られる分野に投資をする傾向がある。アリババも自社事業とのシナジー効果を狙った投資をするが、技術的シナジー効果というよりは、ビジネス的なシナジー効果を狙う傾向がある。例えば、スマホ決済のアリペイを補完する金融サービスなどに投資を行う。テンセントは、ゲームなど投資分野を定めると、積極投資をして、その分野での支配的な地位を確立しようとする傾向がある。

この違いは、スタートアップの段階別投資を見ると、より明らかになる。百度は圧倒的に発展期のスタートアップに投資をしているが、アリババはバランスが取れている。一方で、テンセントは圧倒的に成熟期の企業への投資が多い。

また、中国内か国外かのデータを見ても、百度は国内外にこだわりを持たず、アリババ、テンセントは国内の企業への投資が多い。

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▲BATと呼ばれる百度、アリババ、テンセントの投資金額推移。百度は額がばらつき、アリババは安定している。テンセントは全体の投資金額の推移とほぼ連動している。3社それぞれに異なる投資戦略を持っていることがわかる。

 

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▲BATがどのステージの企業に投資をしているか。百度は発展期の企業に集中し、アリババはバランスよく、テンセントは成熟企業に投資をしている。

 

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▲BATの国内投資、国外投資もそれぞれに特色が現れている。百度は国内外問わず、アリババとテンセントは国内中心だ。同じ投資でも、3社は考え方がそれぞれに異なっている。

 

中国の投資はBATJを中心に回っていく

この報告のデータを見ると、中国のITビジネス革命はかなり落ち着いたステージに入ったことがうかがわれる。発芽期が終わり、今後は次第に収穫期に入っていくと思われる。中国のIT業界は、百度、アリババ、テンセント(それに加えて京東をあげる人もいる)のBATJの4社を中心に、しばらくは回っていくことになるだろう。

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