中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

出前に命をかける男たち。危険の報酬はたったの8元

中国では、「外売」と呼ばれる出前が急速に売り上げを伸ばしている。自宅や会社だけでなく、スマホGPS情報を使って、どこにでも届けてくれるという便利なサービスだ。しかし、競争が熾烈になり、少しでも早く届けるために、配達員の交通事故が跡を絶たないと猟雲網が報じた。

 

どこにでも出前をしてくれる便利な外売サービス

中国では、出前サービスが急速に売り上げを伸ばしている。著名料理店やファストフードチェーンに対応し、スマートフォンアプリから料理を注文すると、自宅やオフィスに配達をしてくれる。さらに、スマートフォンの位置情報を見て、公園でも道端でも、今、自分がいる場所に届けてくれる。決済は、もちろんスマホ決済だ。

マクドナルドやケンタッキーといった慣れ親しんだファストフード、その地域で有名な老舗店の料理が自宅やオフィスで食べられることから、人気のサービスになっている。

最大手は美団外売(メイトワン)。これを追いかけるのが「餓了么」(ウーラマ。お腹空いているでしょ?の意味)。最近、百度外売を吸収合併して、美団を猛追している。競争は熾烈で、なによりも、注文してから届けるまでの時間が勝負だ。そのため、都市部では、美団や餓了么のバイクが、車の間を猛スピードですり抜けたり、歩道に上がって爆走するという光景が日常になっている。

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▲出前の配達員は、1件届けたら報酬がもらえる歩合制。そのため、数をこなすために、交通ルールなどは守っていられない。

 

毎月のように死亡事故が報じられる外売配達員

しかし、今年に入ってから、配達員の事故が続いている。1月初め、上海市同普路で、餓了么の配達員が自動車と衝突して死亡。3月22日、遼寧省鞍山市鉄西民生西路で、22歳の配達員が自動車と衝突して重体、病院で死亡が確認された。4月5日、江蘇省杭州市文一西路で、配達員が乗用車と衝突。配達員の足が切断されるという大けがで、救急搬送されたが結局死亡した。4月11日、上海市復興中路で、配達員がゴミ収集車と衝突して死亡。8月初め、浙江省余姚城東新区で、配達員が赤信号を無視したため、交差点でロールスロイスと衝突。配達員は軽いケガで済んだが、多額の修理費を請求された。

南京市では、今年の1月から6月までの半年間で、外売配達員の交通事故が3242件起こり、死亡者が3人、負傷者が2473人だったという。その他の都市でも状況は似たようなものだ。

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▲出前配達員の交通事故は、日常茶飯事になっている。時間までに届けないと低評価をつけられてしまうため、配達員は道路を爆走する。

 

配達できなければ、すべて配達員が悪いことになる

配達員は、なぜこんなに事故を起こすのか。なぜ、そんなに焦るのか。猟雲網は配達員に密着取材をした。

8月28日13時、配達員の何軍(仮名)は、北京市朝陽区のマンションのロビーで焦っていた。ロビーに配達する指示を受けていたが、お客が見あたらないのだ。15分後には、2km離れた場所に別の配達を完了しなければならない。

何軍は、客の携帯電話に何度も電話をしたが、誰も出ない。10分後、ようやく電話が通じた。客は若い女性でいきなり怒っていた。「アプリでは配達完了になっているのに、何をやっているの?」。何軍は、マンションのロビーで10分前から待っていることを説明したが、その女性は13階の自宅に配達するように指定したはずだと主張した。何軍は、エレベーターを使って、13階の部屋まで走り、食事を届けた。「大変お待たせして申し訳ありません」と何度も頭を下げた。そして、慌てて次の届け先にバイクを走らせた。何軍は言う。「いつも11時から1時の間は、配達が重なります。1分遅くても、お客さんはものすごく怒ります」。

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▲お昼時のオフィスビルでは、何人もの配達員がかち合う。それぞれが、自分の客を探して、猛ダッシュをする。まるで戦場のようなありさまだ。

 

大口配達を狙うために、トイレでも指令を受ける

配達員は、自分が食事をしたり、トイレに行ったりする場合は、アプリ上で自分の状態を「ビジー」にしておかなければならない。しかし、何軍はそうしない。ビジーにしておくと、仕事を逃してしまうからだ。

すると、マクドナルドのハンバーガーを1万元分(約16万円)という大口配達が飛び込んできた。これこそ何軍が狙っていたものだ。1回の配達で、大きく稼ぐことができ、多くの場合、客は企業なのでチップをはずんでくれることが多い。何軍は、ステーションに応援を要請し、急いでマクドナルドに商品を受け取りに走った。

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SNSで拡散して話題になった写真。一刻も早く配達をしたい配達員が、厨房に入って自ら調理を始めてしまった。それほど配達員は時間に追われている。

 

交通違反で減点、クレームで減点。仕事ができなくなる

こういう大口配達のない日は、1日数十件の配達をしなければ、生活費が稼げない。そのため、誰もが信号なんか守っていられないと考えているという。しかし、外売配達員の道交法違反が社会問題となり、最近では交通警官が、特に外売の配達員のバイクに目を光らせている。

美団外売では、配達員に最初に20点の持ち点が与えられる。もし、信号無視で切符を切られると2点が、ヘルメットを被らない安全義務違反で切符を切られると4点が減点される。この20点がなくなると、一週間、仕事をすることができなくなる。

さらに厳しいのは、客の評価だ。食事を受け取った客は、アプリから配達の評価ができる。ここで低評価を受けると、その配達員は10点減点となる。しかも、理由のいかんを問わない。客に非があっても、低評価なら10点減点なのだ。2人の客から低評価を受けたら、仕事ができなくなる。

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▲出前配達員の交通事故があまりに多く、社会問題となっている。最近では、交通警官が出前配達員のバイクと見れば止めて、注意を促すようになっている。

 

お客様は神様以上の存在。それがストレスの原因

猟雲網は、別の配達員、王磊(仮名)にも取材をした。王磊は毎日30回の配達をして、月に7000元(約11万7000円)を稼ぐ、配達員の稼ぎ頭だ。彼はまず、配達受け持ち地域の路上で配達指令を受けることに専念をする。10件ほどの配達指令を受けて、それから一気に配達をする。それが稼ぐコツなのだという。その代わり、動き始めたら、機敏に動かないと、後ろの配達は時間に遅れてしまうことになる。やはり、信号など守っていられないという。

最も困るのは、指定された配達先にお客がいないというパターンだ。電話をしても出ない。ようやく出たと思ったら、平気で配達先を変更し、時間までに届けなければ低評価をつける。それでも、低評価を受けたくない配達員は、お客に平身低頭で接するしかない。それが最大のストレスになっているという。

 

事故りやすい悪天候の日だからこそ稼げる

雨や雪が降った日は、配達員にとっては危険な日で、誰もが緊張して仕事に向かう。一瞬の気の緩みが転倒につながり、命を落とすことにつながりかねないからだ。しかし、王磊はこういう日こそ、喜び勇んで仕事に向かい、いつもより多くの配達を請け負う。なぜなら、1件の配達につき8元(約130円)の危険手当がつくからだ。また、多少遅れても、さすがにそういう日は、客も優しくなり、低評価をつけず、チップをはずんでくれることも多くなる。

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▲雨が降っても配達員は休まない。むしろ、悪天候の日は出前が殺到するので、こういう日こそ稼ごうと考える。

 

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▲雪の日は、命を落としかねない危険な日だが、危険手当がつき、客もチップを弾む「掻き入れ時」。配達員は、命がけで稼ぐために、バイクを走らせる。

 

ITサービスを支えるスタッフには、誰もが無関心

美団外売では、配達員に事故保険に入るように勧めている。掛け金は1日4.5元だが、加入するのは自由で、加入した場合は、配達員が自分で掛け金を支払わなければならない。そのため、ほとんどの配達員が、保険に入らず、毎日危険な仕事をしている。

多くの専門家が「1件配達したらいくら」という報酬の仕組みが根本の問題だと指摘をしている。日給方式などに改めていくべきだとしている。しかし、そのやり方だと、配達員が焦って配達しなくなり、時間内に配達が完了しない。外売企業にとっては、それはライバルとの競争に負けることを意味している。

都市部では、外売サービスの発達により、生活は大きく便利になった。企業に勤める人たちは、昼食を外に食べに行くよりも、出前を頼むことが多くなっている。その利便性の影で、配達員が命がけの仕事をしていることには、多くの人が無関心のままでいる。

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中国各地で流行し始めたシェアショベルカー。子どもたちに大人気

中国各地で、子ども用ショベルカーが思わぬヒットになっている。スマホ決済で40元(約670円)を支払うと5分間遊べるというもので、遊具としての価格は高いが、子どもたちが行列をするほどの人気になっていると匯租平台が報じた。

 

中国の子どもたちが大好きなショベルカー

子どもが夢中になる遊具というのは、多くは、大人が使う道具を子ども用にアレンジしたものだ。子ども用の電気自動車であれば、大人が自動車を運転する姿を見て、「自分も運転したい」と思う気持ちを満たしてくれる。

都市開発が年中行われている中国の子どもは、建設機械が大好きだ。その中でも、中国各地で圧倒的な人気があるのが、子ども用のショベルカーだ。電動で動作し、2本のレバーを使って、アームとショベルを操作するので、子どもにはやや操作が難しいが、親子で訪れてお父さんが使い方を教えたり、監視員が操作を教えたりしながら、子どもたちは砂場に入れられた砂を掘って遊んでいる。

この子ども用ショベルカーは、スマホ決済で40元を支払うと、5分間遊べる。子ども用遊具としてはかなり高額だが、それでも行列ができるほど人気で、遊園地だけでなく、公園の中にも設置されたり、私有地で商売を始める人なども登場し、さらには市や町のイベントでは、必ずといっていいほどショベルカーコーナーが設けられるなど、中国全土でちょっとしたショベルカーブームになっている。

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▲ちょっとしたスペースがあれば、砂場とショベルカーを設置して、ショベルカーコーナーができてしまう。どこでも行列になるほどの人気だ。

 

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▲本格的に砂を掘るショベルカーも大人気だ。都市が急速に発展する中国では、ショベルカーは子どもたちにも馴染みがある。

 

入学者減に悩む職業訓練校の逆転のヒット

そもそもは、山東省済南市にある技術系の職業訓練学校、山東藍翔高級技工学校の入学者数が減少したことから始まった。経済成長する中国では、建設機器のオペレーターは何人いても足りないほどだが、経済成長するとともに、建設関係者の報酬は相対的に下がっていった。きつい仕事をするよりも、デスクワークを志向する若者が増えていったのだ。

さらに、山東藍翔では、学校運営にまつわるスキャンダルが指摘されたこともあり、入学者数が減少していった。

これをなんとかしなければならないと教師陣たちが考えたのが、子ども用ショベルカーを開発して、小さな子どもたちに建設機械を操縦する面白さを体験してもらうこと。今では、子ども用ショベルカーの人気を見て、さまざまなメーカーが製造し、中国各地で、子ども用ショベルカーのイベントが開かれるようになっている。

確かに写真を見るだけでも楽しそうで、日本でも流行るかもしれない。中国では、各方面から「遊びと学びが融合した素晴らしい例」として絶賛されている。

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▲操作はレバーで行う本格派。子どもたちにショベルカーの操作を体験してほしいというところから始まった。

 

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▲電動で動作する遊具のショベルカー。ビニールボールを洗面器に移して遊ぶ。

小さなふた付きポータブル砂場 4リットル

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スマホ決済はもう古い。顔パス決済で食事ができるケンタッキーレストラン

浙江省杭州市でケンタッキーフライドチキンがKProという名称のレストランの営業を始めた。KProでは顔認識による決済が可能になり、財布もスマホも不要だ。杭州市は顔認識などの生体認証を推進している市で、この顔認証決済は、他の店舗にも広がって行くことになると第一経済が報じた。

 

笑顔で決済ができるスマイルペイ

浙江省杭州市は、文人墨客が愛した西湖を抱える中国随一の文化都市だ。人口も700万人と、中国の都市としては中規模。落ち着きのある静かで美しい都市として知られる。

しかし、他の都市と違うのが、杭州市にはアリババの本社があるということだ。そのため、杭州市はアリババのアリペイが推進する「無現金化都市」政策を積極的に取り入れ、さらには市政府は顔認証技術を推進している。

このふたつが結びついて、「顔認証決済」がケンタッキーフライドチキンが運営するレストランKProに導入された。アリババでは、この顔認証決済のことをスマイルペイと呼んでいる。

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杭州市にあるアリババ本社。アリババの本拠地であるため、関連のIT企業も多く、杭州市は、深圳、北京に次ぐIT企業の都市になろうとしている。

 

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ケンタッキーフライドチキンが、杭州市に開いたカフェレストランKPro。顔認証で食事ができる。メニューも、健康やエコに気を使ったものになっている。

 

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▲メニューは、健康に配慮した野菜中心のものになっている。

 

登録してしまえば、財布もスマホも不要

Kproは、ケンタッキーが運営するレストランだが、店内はより高級感を出し、「健康、エコ、有機」を前面に出したレストランだ。新鮮なサラダ、その場で絞ってくれるフレッシュジュースなどが売りで、杭州市のホワイトカラーの間で人気が出ている。

このKproで、顔認証決済が導入されている。

Kproレストランに入り口には、数台の大きなタッチパネルが用意されている。最初は、このタッチパネルを使って、顔を登録し、スマホ決済「アリペイ」のIDとの紐付けを行う。それから、カメラが起動し、顔認証を行い、認証が行われると、料理のメニューが出てくるので、タッチをして選ぶ。

次に、空いている座席表が現れるので、座りたい席を選ぶ。あとは、その席で待っていれば、注文した料理が運ばれてきて、食べるだけ。代金は、アリペイで自動的に引き落とされるので、食べ終わったら帰ればいいだけだ。

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▲入り口付近にある大型タッチパネル。ここで、顔認証、メニュー選択、座席選択を行う。

 

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▲最初に顔認証を行う。これだけで、紐づけておいたアリペイから、代金が引き落とされる。将来は、この顔認証プロセスをステルス化して、来店客がメニューや座席を選ぶのと並行して行うことも可能だ。

 

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▲顔認証が終わったら、メニューと座席を決め、その座席で待っていると料理が運ばれてくる。

 

レジに並ばない、席を探さない。食べて帰るだけの快適体験

これは、回転率が比較的高いファストフード系レストランやカフェなどにはうってつけのシステムだ。例えば、日本の多くのカフェのユーザー体験と比べてみれば、このKproの快適さが理解できる。日本の多くのカフェでは、混雑時には、注文レジに並び、次に飲料が出てくるカウンター前に並び、さらに次は、飲料を自分でトレイで運びながら、空いている席を探さなければならない。ひどい時には、「先にお席の確保をお願いします」などと、本来客にやらせるべきではない作業まで押し付けられる。

一方で、Kproは「レジに並ぶ」「商品カウンターに並ぶ」「自分で商品を運ぶ」「席を探す」という悪いユーザー体験がすべて解消されている。なおかつ、レストランのようにフロアの状況を把握し、来店客を誘導するホールスタッフは不要で、ホール係はできあがった商品を決まった席に運ぶだけでいい。店舗側のスタッフの負担も大きく軽減できる。

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▲メニューは、野菜などの健康的な食材が中心。店内も高級感にあふれている。

 

顔認証ステップもステルス化させることが可能

現在、大型タッチパネルでは、まず顔認証のステップが行われるが、これはまだ客側も慣れていないため、「顔認証が行われている」ということを伝えるために必要なだけで、将来的にはこのステップを見えなくしてしまうことも可能だ。わざわざ「顔認証中です」というようなステップを作らなくても、客がメニューと座席を選んでいる間に、カメラをオンにして顔認証を行ってしまえばいいのだ。

こうなると、客は「料理を選んで」「座席を選んで」「食べて」「帰る」という4ステップで食事を済ませることができるようになる。

 

顔検索ではなく、一致を確認しているだけなので、認識率も高い

顔認証といっても、顔画像からユーザーを検索するのではなく、アリペイアプリに事前登録した顔画像と、店頭の大型タッチパネルのカメラで捉えた顔画像が一致するかどうかを確認しているだけなので、認識率は99.6%以上になるという。

今後、多くのファストフード店、カフェなどが、ユーザー体験向上のため、顔認証決済システムを導入して行くと期待されている。

 

パスワードの要らない優しい世界。始まる

中国でほとんどの人が使っているメッセージアプリ「WeChat」。このWeChatのログインに声紋パスワードが採用された。パスワードを覚えておく必要がなくなるという画期的なものだ。使い方がさまざまなヘルプサイトで紹介されている。

 

まったく進化をしていない“パスワード”

インターネットが登場して以来、最も進化が見られないのが、パスワードだろう。本人確認をするのに、本人しか知らない文字列を入力するという点はこの30年、ほとんど進化していない。スマートフォンが登場して、パスワードに加えて、ショートメッセージ(SMS)で一回限りの確認コードを送り、これをウェブのログイン画面に入力させるという2段階認証も広く使われるようになったが、ユーザーからすれば面倒なステップが増えただけにすぎない。

とにかく面倒なのは、パスワードの管理だ。普通に生活をしていれば、10や20のウェブサービスを利用することになるので、そのパスワードをすべてどこかにメモして管理しておかなければならない。同じパスワードを使い回すのは危険なので、すべてではなくても、金融関係のサービスぐらいはパスワードを個別に変えておく必要がある。これを管理しておくというのは結構なストレスになる。おそらくウェブサービス側も「パスワード忘れ」のサポートに相当なリソースを取られているはずだ。

 

生体認証がパスワードを不要にしていく

パスワードを不要にする技術で、すでに実用レベルに達しているのが、指紋認証、声紋認証、顔認証だ。ただし、指紋認証は指紋読み取りのデバイスが必要になるため、指紋認証を本人確認のメインにすることはできない。あくまでもパスワードのショートカット的な扱いだ。

しかし、声紋認証はマイク、顔認証はカメラという、スマホであれば必ず搭載されているデバイスを使うので、メインの本人認証として使うことができる。中国で多くの人が使っているメッセージアプリ「WeChat」では、早速声紋認証を採用し、高齢者を中心に使う人が増え始めている。声紋パスワードを利用すると、パスワードを覚えておく必要がなくなるからだ。

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表示された数字を読み上げてログイン。パスワードを覚える必要なし

声紋パスワードを登録するには、表示される8桁の数字を声で読み上げる。これだけで声紋が登録される。ログイン時などパスワードが必要な時は、8桁の数字が表示されるので、これを読み上げるだけでログインができるようになる。

この8桁の数字に意味はないので、数字を人に見られてもまったく問題がない。重要なのは、登録をした声と読み上げている声の声紋が一致しているかどうかだ。

そのため、パスワードを覚えることは不要となり、もちろん管理をしておく必要もない。必要な時は、表示された数字を読み上げるだけでいい。

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▲WeChatの国際版にも「声紋でログイン」機能が搭載された。パスワードを管理する必要がなくなる。

 

中高年に使いやすいと歓迎されている声紋パスワード

セキュリティ強度についての検証はまだこれからになる。例えば、声紋を登録した音声データが流出をしてしまえば、ログイン時にその音声データを再生すれば、他人でもログインできてしまうようになる。また、声紋の識別率は100%ではないので、偶然他人がログインできてしまうということも起こるだろう。

しかし、現実問題として、スマートフォンの指紋によるロック解除を突破し、さらに声紋照合も突破するというのはかなり難しい作業になる。それが、国家機密や企業秘密であるならともかく、一般人のスマホをハックするのであれば、作業のコストが見合わない。一般的なウェブサービスとしては、声紋パスワードで十分必要なセキュリティが得られる。

特に歓迎をされているのが、リテラシーがない中高年やお年寄りだ。中国では、WeChatはメッセージとスマホ決済WeChatペイのプラットフォームになっているので、リテラシーの低い人も使い始めている。そういう人にとっては、覚えておかなくていい声紋パスワードが使われ始めている。

運営側も、「パスワードを覚えるのが面倒だから」という理由で、「012345」のような簡単にハックされてしまうパスワードを使われ、それがハッキングされて運営側の責任を問われるよりは、声紋パスワードを使ってくれた方がありがたい。

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▲表示された数字を読み上げるだけ。登録した声紋と照合される。この数字には意味がないので、数字が流出をしてもまったく問題がない。

 

「パスワードを覚える」は必要のない時代が始まった

声紋パスワードとともに、顔認証パスワードも使われ始めている。特に、スマホでは何かの操作をしている時は、インサイドカメラが本人の顔の方向を向いているため、顔認証のステップをなくしてしまうことができる。わざわざログインステップを設けなくても、利用者が操作をしている間にカメラを起動し、顔認証を並行して行ってしまえば、利用者はログイン操作をいちいちしなくても、サービスがすぐに利用できるようになる。

この声紋と顔認証による本人認証は、ユーザー体験を大きく向上させることができるので、一部の金融サービスや高度な個人情報を扱うサービスを除けば、思ったより早く広まっていくだろう。数年で、「パスワードを入力する」という操作をしなくなっているかもしれない。

 

夢の超特急は時速4000km。北京・上海1400kmがわずか20分

中国航天科工集団は、最高時速1000kmの高速飛行列車の研究開発プロジェクトをスタートさせた。中国の技術の粋を集めて、さらに高速化を図り、時速4000kmを目指すと央視新聞が報じた。

 

北京と上海を20分で結ぶ夢の超特急プロジェクト

現在、中国版新幹線「高鉄」の営業最高速度は時速350km。上海のリニアモーターカー「トランスラピッド」は時速430km。次は、一気に時速1000kmを目指し、さらに最終的には時速4000kmを達成する計画だという。

理屈としては、すでにさまざまな国で考案されているものと同じで、真空チューブの中に、車体を浮かすリニアモーター方式になる。いわば、チューブの中を飛ぶ飛行機だが、飛行機に比べてエネルギー消費は大きく節約できるという。

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▲時速4000kmの夢の超特急。真空のチューブの中を高速で疾走する。Space X社のハイパーループとそっくりだ。

 

中国と欧州を結ぶ新シルクロード超特急

中国航天科工集団三院高速飛行列車プロジェクト技術責任者の毛凱(もう・がい)氏は、中央電視台の取材に応えた。「私たちは3段階に分けて開発を行います。第1段階は時速1000kmを達成し、都市を結ぶ飛行列車網を築きます。第2段階は時速2000kmで、5つの経済圏、北京、上海、成都、広州、武漢を結ぶ国家級の飛行列車網を築きます。第3段階は時速4000kmを実現し、一帯一路(中国西部と中央アジア、ヨーロッパにまたがる経済圏)を結ぶ飛行列車網を築きます」。

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▲中央電視台の取材に答える中国航天科工集団三院高速飛行列車プロジェクト技術責任者、毛凱氏。時速1000km、2000km、4000kmの3段階で開発を行い、最終的には中国と欧州を結ぶ国際路線になるという。

 

変わりゆく市民の反応

この高速飛行列車は、研究開発がスタートしたばかりで、営業時期など具体的なスケジュールや見込みについては明らかにされていない。

面白いのは、市民の反応だ。このようなプロジェクトに対して「偉大な中国を世界に示そう」「強国としての中国を建設しよう」といった社会主義時代以来の威勢のいいコメントが並ぶ中で、否定的なコメントも散見される。「効率化ばかりが、国の目指すべき方向なのだろうか」「上海は日帰り出張の時代になるのか。ますます仕事のプレッシャーが強くなる」といったコメントも数は少ないが存在する。

また「安全性は大丈夫なのか?」といった不安や、「制動距離が長くなるので、密に運行することができない。1日の輸送量は飛行機よりも劣るのではないか」といった冷静な疑問も見られる。

 

中国人の意識を変えた温州高鉄衝突脱線事故

おそらく、誰も口にはしていないが、頭の中に浮かんでいるのは、2011年の温州市の高鉄の衝突脱線事故だろう。あの事故で、それまで経済成長一辺倒だった中国市民の中に、「経済ばかりではなく、幸福度も」という感覚が生まれた。10年前であれば、この夢の超特急のニュースはお祭り騒ぎの大ニュースになったはずだが、現在では翌日にはほとんど話題に登らない程度のニュース価値しかなくなっているようだ。当然ながら、「イーロン・マスクのSpace X社のハイパーループのパクリではないか」という冷めたコメントもつけられている。中国社会は確実に変わりつつある。

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▲2011年に起きた温州市高鉄衝突脱線事故。遺体も回収できていない車両を埋めてしまうという処置を取ろうとし、海外からは驚かれ、国内の市民は怒りを爆発させた。ここから中国市民は、経済発展よりも幸福や人権を尊重する意識に変わった。

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農村のユーチューバー、半年で8万元を稼ぐ

四川省の農民が、農村の生活を動画中継して、半年間で8万元(約134万円)を稼いだとして話題になっている。特別なことをしているわけではなく、誠実に農村の生活を紹介している動画に、多くの人が心を打たれ、すでに10万人のファンを獲得している。動画を制作している劉金銀(りゅう・きんぎん)氏を、成都商報が取材した。

 

人口160人の村から、動画中継をする農民

四川省瀘州市合江県の三塊石村六組は、四方を山で囲まれ、重慶から150km、成都から300kmの都会からは隔絶された場所にある山村で、人口は160人しかいない。ここに、動画中継で10万人のファンを獲得し、半年で8万元を稼いだ26歳の農民がいる。

劉金銀氏は、ネット名「四川金牛」という名前で、動画中継チャンネルを主催、毎日1000元(約1万6000円)の収入を得ている。

その内容は、特に変わったものではなく、農村の生活をそのまま紹介したものだ。掃除をする、食事を作る、豚の世話をする、田植えをする、魚をとる、ウナギをとる、そういった農村の日常生活を動画に撮影し、自分のチャンネルで放送している。

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▲自宅の中で、農民の生活の動画を撮影し、それを共有サイトにアップする。四川金牛はこの仕事で、農村ではありえない高収入を得るようになった。

 

投げ銭方式が質の高い動画制作を促す

ユーチューブの場合、利益は動画に添えられる広告料になる。再生回数が多ければそれだけ利益が上がる。そのため、再生回数を上げようと、内容は扇情的な方向に走りがちだ。

一方で、中国の動画中継は、投げ銭方式だ。動画を見た人が面白いと思えば、任意の額のお金をスマホ決済で送る。そのため、再生回数が少なくても、内容が視聴者の心に響けば利益が上がる。質の高い動画が登場しやすい。

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▲四川金牛が主催をする四川金牛TV。近所の子どもたちが、家事を手伝う様子の動画をアップしている。

 

初めての動画は再生回数たったの5回

四川金牛は、この村で唯一の若者だ。中学を卒業後、村の中でアルミサッシ窓を作る仕事を始めた。しかし、まったく楽しくなかった。1日300元(約5000円)ほど稼ぐことができ、農村の中で見つけられる仕事としては高収入だったが、そのほとんどを家に入れなければならない。唯一の慰めが、スマートフォンで動画を見ることだった。

中には、同じような農村の若者が中継をしている動画もあった。しかし、そのほとんどが自虐的なものだった。農村はこんなに文化程度が低い、農村はこんな不便。都会の若者にへつらうような内容のものばかりだった。

四川金牛は、農村の生活を素直に紹介した動画を配信してみたいと思うようになった。今年の2月、自分のスマホで、田んぼでエビを捕まえる光景を撮影して、放送してみた。しかし、再生回数はたったの5回だった。誰も投げ銭をしてくれなかった。それどころか、動画をアップするのに、通信費が50元(約840円)もかかってしまった。

納得がいかず、再度別の動画をアップした。数十回再生されたが、投げ銭は誰もしてくれなかった。しかし、視聴者の一人が応援するメッセージを残してくれた。

それに励まされて、動画の配信を続けると、2ヶ月目にはファンが1万人に達した。始めてから半年、現在ではファンが10万人、1日に1000元(約1万6000円)の投げ銭が入るようになった。

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▲四川金牛が撮影するのは、農村ではごく当たり前の生活ばかりだ。それが都市の若者にとっては新鮮で、10万人のファンを獲得している。

 

親から理解されなかった動画配信の仕事

1日1000元の収入というのは、農民にとっては驚くほどの高収入だ。地域によっても異なるが、農村の現金収入は年で数千元というのが一般的だ。四川金牛は、農民の1年分の収入を、わずか1週間で稼いでしまう。

それでも、四川金牛の両親は、この仕事を認めていない。高収入の仕事だったアルミサッシ窓作りをやめてしまったことを心配している。両親の願いは、今12歳の娘を高校に行かせることだ。その学費に、四川金牛の稼ぎをあてにしている。しかし、スマホばかりいじくっていて、仕事にいかない。両親は、息子がおかしくなってしまったのではないかと思い心配し、その心配を打ち消すために動画で稼いだお金を現金にして渡したところ、息子は気が狂って、悪事を働くようになったと、病院に入院させる相談を始めてしまったほどだ。

四川金牛の元には重慶成都から、メディアが取材にくるようになった。そういうメディアの人と会ううちに、両親もようやく息子が悪事ではない、今風の仕事をしているのだと理解するようになった。

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▲近くの町で動画共有サイトのイベントが開催された。三脚とスマホを持って取材をする四川金牛。

 

夢は点心を出す料理店を持つこと

しかし、今の動画配信で、いつまで儲けられるかどうかはわからない。四川金牛は、今の内に人脈を作り、お金を貯め、数年後には街に出て、料理学校に通いたいという。そして、四川の点心を作る技術を身につけ、どこかで店を持ちたいのだという。

ただ、今のところは、動画を撮ることに熱中をしている。ネット回線は、農村まで届いている。ネットがあれば、チャンスは自分で作り出すことができる。もし、四川金牛が20年前の三塊石村に生まれていたら、毎日、アルミサッシ窓を作りながら生きていくしかなかっただろう。ネットは、多くの人の人生を変えていっている。

 

キーボードはもういらない?音声入力の時代がやってきた

中国大手調査会社「易観」が、「中国携帯入力市場分析2017百度編」を公開した。目を引くのは、音声入力を主に使う人が18.85%に増加したことだ。キーボード入力、手書き入力の時代は終わり、中国では音声入力が主流になっていく可能性が出てきた。

 

日本ではなぜかあまり使われない音声入力

日本では、スマートフォンの音声入力はあまり使われていないように見える。iPhoneのSiriやAndoroidのOK GoogleなどはテレビCMなども放映され、認知度はそれなりにあるはずなのだが、街中で実際に使っている人を見かけるのは稀だ。

「人前で使うのは恥ずかしい」と言う人もいるが、人前で電話をするのは平気なのだからあまり理由にならない。おそらくは何回か試しで使ってみたときに、誤認識に遭遇し、悪い印象を持ってしまったのかもしれない。ただ、この1、2年の音声入力の認識率の進歩は目覚ましく、現在では、誤認識に遭遇することの方が稀になっている。

 

1年で3倍以上になった音声入力

易観の分析報告書は、百度Googleのような検索サイト)の検索入力にどのような入力法が使われているかを調べたもの。ピンイン入力が67.53%、手書き文字入力が28.61%、音声入力が18.85%となっている。音声入力はまだ少ないように見えるが、昨年の報告書では5%だったので、めざましく増えていることになる。

ピンイン入力は日本のローマ字変換入力のようなもので、最も一般的に使われるもの。ところが、ピンイン入力をするには、その漢字の読み方がわからなければならない。そのため、読み方がわからない漢字については手書き入力するというのが一般的だ。

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▲現在でもいちばん多いのはピンイン入力。しかし、音声入力が1年で3倍に増えるなど、入力方法の主役が変わりつつある。

 

女性が好む音声入力。若年層と中高年層が好む音声入力

面白いのは、各入力法の男女比、年齢だ。男性はピンイン入力を好む傾向があるが、女性は音声入力を好む傾向がある。

また、年齢別の統計も興味深い。ピンイン入力を最も多く使うのは25歳から34歳、手書き入力を使うのは35歳から44歳。これはおそらく英文字キーボードへの慣れの問題だ。ピンイン入力はローマ字入力なので、英文字キーボードを使って入力する。中年は大人になってコンピューターやスマホを使い始めた人が多く、キーボードに不慣れな人が多い。そのため、手書き入力を好む。一方で、若者はキーボードに慣れているので、最も効率的な入力方法であるピンイン入力を使う。

ところが、音声入力になると、35歳から44歳が最も高いが、もうひとつ18歳から24歳にもピークがあるのだ。

中年にピークがあるのは理解しやすい。キーボードが苦手な人が、手書き入力か音声入力を使っているのだ。しかし、若い世代も音声入力を使い始めているのはどういうことだろうか。

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▲各入力方法の男女比。女性が音声入力好んでいることがわかる。ある人によると、女性は爪を伸ばしているため、スマホのタッチがしづらいからだという。それも理由のひとつではあるだろう。

 

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▲音声入力を主に使う人の年齢分布には、2つのピークがある。中年はキーボードに不慣れだからという理由、若年層は音声入力に慣れ親しんでいるからという理由ではないかと推測される。「中国携帯入力市場分析2017百度編」より。

 

若い世代は音声メッセージに慣れている

理由は、若い世代は音声メッセージに慣れているからなのだ。中国人のほとんどが使っているSNSメッセージアプリWeChatには、音声メッセージを送ることができる機能があり、これがよく使われている。

SNSには、ツイッターのように外に開いているものと、LINEのように内に閉じているものがある。ツイッターで交流する人は、多くは現実での面識はなく、SNSだけで繋がっている人が多い。一方で、LINEの場合は、家族や友人など現実の面識がある人が中心になる。このような内に閉じたSNSの場合、テキストだけでなく、より身体的な音声メッセージも使われるようになる。

中国のWeChatは、まさに日本のLINEに近い使い方がされていて、音声メッセージのやり取りも盛んだ。短めの留守番電話メッセージ的な使い方をされている。

また、ゲームアプリなども音声で交流できるものが多く、中国の若い世代は音声メッセージに慣れているということがある。

 

音声入力の誤認識よりもタイプミスの方がはるかに多い

世界的に見ても、入力方法は、テキストから音声に移行しつつある。今、注目されているのは、Amazon Echo、Home Pod、Google Homeなどのスマートスピーカーだ。商品のジャンル名として「スマートスピーカー」という名称が使われているが、実態はスマートマイクで、音声でさまざまなことができるのが特徴だ。現状でできるのは、アマゾンで買い物をしたり、音楽を再生したり、ピザを注文したりといった「音声命令」のレベルだが、いずれ人工知能が会話を判断する執事のような存在になっていくだろう。

この報告書は、あくまでも百度の入力にどの方法が使われているかというもので、スマートフォン全般になると、音声入力を使う人の割合は10%以下になる。百度は、このような入力方法の進化がどこに向かっているのかを把握して、この数年、音声入力の改良に力を入れている。そのため、実際に使っている中国人に言わせると「キーボードで打ち間違いをする割合よりも、音声入力の誤認識の方が少ない」そうだ。食わず嫌いにならず、ぜひスマホの音声入力を試してみていただきたい。