中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

出前に命をかける男たち。危険の報酬はたったの8元

中国では、「外売」と呼ばれる出前が急速に売り上げを伸ばしている。自宅や会社だけでなく、スマホGPS情報を使って、どこにでも届けてくれるという便利なサービスだ。しかし、競争が熾烈になり、少しでも早く届けるために、配達員の交通事故が跡を絶たないと猟雲網が報じた。

 

どこにでも出前をしてくれる便利な外売サービス

中国では、出前サービスが急速に売り上げを伸ばしている。著名料理店やファストフードチェーンに対応し、スマートフォンアプリから料理を注文すると、自宅やオフィスに配達をしてくれる。さらに、スマートフォンの位置情報を見て、公園でも道端でも、今、自分がいる場所に届けてくれる。決済は、もちろんスマホ決済だ。

マクドナルドやケンタッキーといった慣れ親しんだファストフード、その地域で有名な老舗店の料理が自宅やオフィスで食べられることから、人気のサービスになっている。

最大手は美団外売(メイトワン)。これを追いかけるのが「餓了么」(ウーラマ。お腹空いているでしょ?の意味)。最近、百度外売を吸収合併して、美団を猛追している。競争は熾烈で、なによりも、注文してから届けるまでの時間が勝負だ。そのため、都市部では、美団や餓了么のバイクが、車の間を猛スピードですり抜けたり、歩道に上がって爆走するという光景が日常になっている。

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▲出前の配達員は、1件届けたら報酬がもらえる歩合制。そのため、数をこなすために、交通ルールなどは守っていられない。

 

毎月のように死亡事故が報じられる外売配達員

しかし、今年に入ってから、配達員の事故が続いている。1月初め、上海市同普路で、餓了么の配達員が自動車と衝突して死亡。3月22日、遼寧省鞍山市鉄西民生西路で、22歳の配達員が自動車と衝突して重体、病院で死亡が確認された。4月5日、江蘇省杭州市文一西路で、配達員が乗用車と衝突。配達員の足が切断されるという大けがで、救急搬送されたが結局死亡した。4月11日、上海市復興中路で、配達員がゴミ収集車と衝突して死亡。8月初め、浙江省余姚城東新区で、配達員が赤信号を無視したため、交差点でロールスロイスと衝突。配達員は軽いケガで済んだが、多額の修理費を請求された。

南京市では、今年の1月から6月までの半年間で、外売配達員の交通事故が3242件起こり、死亡者が3人、負傷者が2473人だったという。その他の都市でも状況は似たようなものだ。

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▲出前配達員の交通事故は、日常茶飯事になっている。時間までに届けないと低評価をつけられてしまうため、配達員は道路を爆走する。

 

配達できなければ、すべて配達員が悪いことになる

配達員は、なぜこんなに事故を起こすのか。なぜ、そんなに焦るのか。猟雲網は配達員に密着取材をした。

8月28日13時、配達員の何軍(仮名)は、北京市朝陽区のマンションのロビーで焦っていた。ロビーに配達する指示を受けていたが、お客が見あたらないのだ。15分後には、2km離れた場所に別の配達を完了しなければならない。

何軍は、客の携帯電話に何度も電話をしたが、誰も出ない。10分後、ようやく電話が通じた。客は若い女性でいきなり怒っていた。「アプリでは配達完了になっているのに、何をやっているの?」。何軍は、マンションのロビーで10分前から待っていることを説明したが、その女性は13階の自宅に配達するように指定したはずだと主張した。何軍は、エレベーターを使って、13階の部屋まで走り、食事を届けた。「大変お待たせして申し訳ありません」と何度も頭を下げた。そして、慌てて次の届け先にバイクを走らせた。何軍は言う。「いつも11時から1時の間は、配達が重なります。1分遅くても、お客さんはものすごく怒ります」。

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▲お昼時のオフィスビルでは、何人もの配達員がかち合う。それぞれが、自分の客を探して、猛ダッシュをする。まるで戦場のようなありさまだ。

 

大口配達を狙うために、トイレでも指令を受ける

配達員は、自分が食事をしたり、トイレに行ったりする場合は、アプリ上で自分の状態を「ビジー」にしておかなければならない。しかし、何軍はそうしない。ビジーにしておくと、仕事を逃してしまうからだ。

すると、マクドナルドのハンバーガーを1万元分(約16万円)という大口配達が飛び込んできた。これこそ何軍が狙っていたものだ。1回の配達で、大きく稼ぐことができ、多くの場合、客は企業なのでチップをはずんでくれることが多い。何軍は、ステーションに応援を要請し、急いでマクドナルドに商品を受け取りに走った。

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SNSで拡散して話題になった写真。一刻も早く配達をしたい配達員が、厨房に入って自ら調理を始めてしまった。それほど配達員は時間に追われている。

 

交通違反で減点、クレームで減点。仕事ができなくなる

こういう大口配達のない日は、1日数十件の配達をしなければ、生活費が稼げない。そのため、誰もが信号なんか守っていられないと考えているという。しかし、外売配達員の道交法違反が社会問題となり、最近では交通警官が、特に外売の配達員のバイクに目を光らせている。

美団外売では、配達員に最初に20点の持ち点が与えられる。もし、信号無視で切符を切られると2点が、ヘルメットを被らない安全義務違反で切符を切られると4点が減点される。この20点がなくなると、一週間、仕事をすることができなくなる。

さらに厳しいのは、客の評価だ。食事を受け取った客は、アプリから配達の評価ができる。ここで低評価を受けると、その配達員は10点減点となる。しかも、理由のいかんを問わない。客に非があっても、低評価なら10点減点なのだ。2人の客から低評価を受けたら、仕事ができなくなる。

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▲出前配達員の交通事故があまりに多く、社会問題となっている。最近では、交通警官が出前配達員のバイクと見れば止めて、注意を促すようになっている。

 

お客様は神様以上の存在。それがストレスの原因

猟雲網は、別の配達員、王磊(仮名)にも取材をした。王磊は毎日30回の配達をして、月に7000元(約11万7000円)を稼ぐ、配達員の稼ぎ頭だ。彼はまず、配達受け持ち地域の路上で配達指令を受けることに専念をする。10件ほどの配達指令を受けて、それから一気に配達をする。それが稼ぐコツなのだという。その代わり、動き始めたら、機敏に動かないと、後ろの配達は時間に遅れてしまうことになる。やはり、信号など守っていられないという。

最も困るのは、指定された配達先にお客がいないというパターンだ。電話をしても出ない。ようやく出たと思ったら、平気で配達先を変更し、時間までに届けなければ低評価をつける。それでも、低評価を受けたくない配達員は、お客に平身低頭で接するしかない。それが最大のストレスになっているという。

 

事故りやすい悪天候の日だからこそ稼げる

雨や雪が降った日は、配達員にとっては危険な日で、誰もが緊張して仕事に向かう。一瞬の気の緩みが転倒につながり、命を落とすことにつながりかねないからだ。しかし、王磊はこういう日こそ、喜び勇んで仕事に向かい、いつもより多くの配達を請け負う。なぜなら、1件の配達につき8元(約130円)の危険手当がつくからだ。また、多少遅れても、さすがにそういう日は、客も優しくなり、低評価をつけず、チップをはずんでくれることも多くなる。

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▲雨が降っても配達員は休まない。むしろ、悪天候の日は出前が殺到するので、こういう日こそ稼ごうと考える。

 

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▲雪の日は、命を落としかねない危険な日だが、危険手当がつき、客もチップを弾む「掻き入れ時」。配達員は、命がけで稼ぐために、バイクを走らせる。

 

ITサービスを支えるスタッフには、誰もが無関心

美団外売では、配達員に事故保険に入るように勧めている。掛け金は1日4.5元だが、加入するのは自由で、加入した場合は、配達員が自分で掛け金を支払わなければならない。そのため、ほとんどの配達員が、保険に入らず、毎日危険な仕事をしている。

多くの専門家が「1件配達したらいくら」という報酬の仕組みが根本の問題だと指摘をしている。日給方式などに改めていくべきだとしている。しかし、そのやり方だと、配達員が焦って配達しなくなり、時間内に配達が完了しない。外売企業にとっては、それはライバルとの競争に負けることを意味している。

都市部では、外売サービスの発達により、生活は大きく便利になった。企業に勤める人たちは、昼食を外に食べに行くよりも、出前を頼むことが多くなっている。その利便性の影で、配達員が命がけの仕事をしていることには、多くの人が無関心のままでいる。

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