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提携するWeChatペイと銀聯。アリペイとの仁義なき三国志演義

中国のスマホ決済の覇権を争っている「アリペイ」「WeChatペイ」「銀聯ユニオンペイ」の争いは、アリペイが頭一つ抜き出る雰囲気が出てきたが、ここへきて、WeChatペイとユニオンペイが乗り入れ提携をすることを発表した。様相はますます三国志演義の魏呉蜀のようになってきたと毎日科技網が報じた。

 

WeChatペイ、ユニオンペイ提携で競争が激化するスマホ決済

中国のQRコードスマホ決済の2強は、アリババが運営するアリペイ、テンセントが運営するWeChatペイだが、銀聯カードで名前が知られる銀聯も、QRコードスマホ決済「ユニオンペイ」で参入をしている。ところが、状況はユニオンペイはあまり普及せず、一方でアリペイがさらにシェアを伸ばし、アリペイ一強時代になるという見方が強まっている。

しかし、ここへきて、WeChatペイとユニオンペイが提携をする動きが出てきた。提携をすることで、アリペイに対抗しようというのだ。

中国では以前から「スマホ決済三国時代」という言葉が使われてきたが、この提携により、ますます三国志演義そっくりの状況になってきた。

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▲中国のスマホ決済額は、現在でも急成長だ。一級都市での普及は頭打ちになったが、二級都市、三級都市での普及が目覚ましい。易観「中国第三方決済移動決済市場四半期観測報告2017年第四四半期」より作成。

 

WeChatペイとユニオンペイ提携は諸葛孔明の天下三分の計?

三国志演義は、西暦200年代の後漢末、魏呉蜀の三国時代の史実をベースにした物語だ。圧倒的な財力と人材を擁する曹操の魏、地味豊かな江東の地を背景にした孫権の呉、難攻不落の四川に拠する劉備の蜀と、3つの国、英雄が天下の覇権を争う。これがスマホ決済3方式に見事に符合する。圧倒的な利益を要するアリババのアリペイが魏、銀行団の豊富な資金力を背景にした銀聯ユニオンペイが呉、独自路線をいくテンセントのWeChatペイが蜀に符号をする。

三国志演義では、魏が呉に侵攻したときに、呉は蜀と連合することで対抗しようとする。これが有名な赤壁の戦いで、諸葛孔明の連環の計という奇策により、呉蜀連合軍は、巨大な魏を撃退する。

WeChatペイ、ユニオンペイも連合をすることで、アリペイに対抗しようとする動きが出てきた。

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▲最新のスマホ決済シェア。アリペイがやはり強い。ユニオンペイは、従来のデビットカード決済、スマホNFC決済、QRコード決済のいずれにも対応できる方式なので、この統計には含まれてない。しかし、ユニオンペイQRコード決済は1%以下だと見られている(スマホを使うなら、NFCの方が早く、楽)。易観「中国第三方決済移動決済市場四半期観測報告2017年第四四半期」より作成。

 

国内で弱いユニオンペイ、海外で弱いWeChatペイ

後発のユニオンペイは、国内の普及は進んでいない。なぜなら、アリペイ、WeChatペイは、決済手数料がゼロ円なので、小規模店舗でも気軽に加盟することができ、「どこでもスマホ決済が使える」環境が生まれた。ところが、ユニオンペイは従来方式の3%から5%の決済手数料を徴収するモデルで、小規模店舗からは嫌われ、空港や駅の店舗、単価が高めのレストラン、チェーン店などに限られていた。

しかし、海外ではユニオンペイが圧倒的で、約160の国と地域に対応店舗があり、中国内の銀聯カードを持って海外に行けば、対応店舗で人民元による決済ができる。このため、中国人の「爆買い」の決済手段となっていた。

WeChatペイは、国内では一定のシェアを掴んだものの、海外進出がほとんど進んでいなかった。国内で苦戦するユニオンペイ、海外で苦戦するWeChatペイが、提携をしようと考えるのも当然かもしれない。

今回の提携では、WeChatペイとユニオンペイの相互乗り入れを可能にするというもの。国内でWeChatペイを使っている利用者は、海外旅行に行ったときに、ユニオンペイ対応の店舗で、WeChatペイのQRコードを使って決済ができるようになる。

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海外では圧倒的に強い銀聯ユニオンペイ

アリペイも海外で利用できる店舗数を増やしているが、まだ銀聯ユニオンペイのレベルに追いつくには時間がかかる。日本で、ユニオンペイに対応している店舗は67万店舗と言われているが、アリペイの方はまだ5万店舗でしかない。中国人にとって、海外旅行で安心できる決済手段は、まだまだ銀聯ユニオンペイなのだ。

こうなると、海外に行く機会の多い中国人は、国内ではWeChatペイを使い、海外ではユニオンペイを使い、海外に行く機会の少ない中国人は国内でアリペイを使うという傾向が出てくるかもしれない。

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国内でも進む「アリペイ外し」

さらに、WeChatペイは、加盟店に何らかの優待を与え、アリペイへの対応をやめさせるという排他的優待契約を進めようとしている。国内でも、WeChatペイとアリペイの競争が激化しそうだ。

当然ながら、銀聯は自社のユニオンペイだけでなく、WeChatペイを支援することになる。一強のアリペイも、うっかりすると局地的にひっくり返される事態は出てきそうだ。

次第にシェアを増やすアリペイが、どうやらスマホ決済市場を制しそうだという見通しが出てくると、すぐにこのような三国志演義的な状況が生まれてくる。中国に安定という考え方はない。常に競争状態にある。しかし、それが経済を進化させる動力源になっている。スマホ決済は、この数年で、もう一段上のレベルに進化していくことになるのかも知れない。

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ユニオンペイは、QRコード以外にもデビットカードスマホNFC決済にも対応しているため、加盟店はリーダーを用意しなければならない。いろいろな決済方式に対応したマルチリーダーであるため、QRコードをかざすのも面倒で、こういうところもユニオンペイが伸びない理由になっている。