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銀聯のQRコードスマホ決済が急追。スマホ決済は三国時代に

中国のスマホ決済と言えば、アリババとテンセントが強く、以前電子決済の主役だった銀聯の影がほとんど見えなくなってしまった。しかし、銀聯QRコード方式のスマホ決済に参入したことで、スマホ決済は三国鼎立の時代を迎えるかもしれないと今日頭条が報じた。

 

スマホ決済で独走をする中国

中国で、アリペイ(アリババ)、WeChatペイ(テンセント)などのQRコードを利用したスマートフォン決済が、消費者の決済手段の主役に躍り出て数年が経った。昨年2016年のスマホ決済回数は257.1億回、決済金額は157.55兆元(約2600兆円)となった。

国際的なスマホ決済の普及率は、中国が77%で世界一、米国は48%、日本は27%となっている(加入者数。実際に決済をしているかどうかは別)。

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銀行業界をバックにした銀聯がいよいよスマホ決済に参入

このスマホ決済は、ECサイトタオバオ」「T-mall」を起点にしたアリババのアリペイ、SNSサービス「WeChat」を起点にしたWeChatペイが2強となり、5年前まで、中国人が海外で買い物をするときの決済手段として有名だった銀聯は大きく後退をした。

しかし、今年5月、銀聯も正式にQRコード方式のスマホ決済に参入することを表明、アリペイ、WeChatペイ、銀聯が三つ巴となる三国時代が到来した。

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▲出揃った銀聯(UnionPay)、WeChatペイ(微信支付)、アリペイ(支付宝)の3プレイヤー。今後は日本でもこの3つのロゴが並んでいる姿を見かけることが多くなりそうだ。

 

ECサイトのポイントだったアリペイ

この3つのサービスは、いずれもQRコードを利用するスマホ決済だが、そのサービスの出自から、それぞれに性格がある。

アリペイは、元々はECサイトタオバオ」のサイト内通貨=ポイントであり、これがサイト外のサービス、リアル店舗でも使えるようになっていったもの。日本で言えば、楽天ポイントやアマゾンポイントで、リアル店舗での決済ができるようになった感覚だ。

アリペイのメリットは、簡単に加入することができ、手数料などが実際ゼロであることだ。クレジットカードのような立替払いではなく、リアルタイム決済なので、信用審査は不要。アリペイサイトにアドレスと携帯番号を登録すればすぐに使えるようになる。加盟店になるのも、POSレジなどを購入する必要はなく、スマホ1台あればいい。

また、手数料は0円で、受取金額が月2万元(約33万円)を超えると、0.1%の手数料がかかる。また、銀行口座への振込(つまり現金化)をすると、手数料が数%かかる。

つまり、チャージをして消費をすることが多い個人、商売の規模がさほど大きくない露天商などは、手数料が一切かからないことになる。一方で、大規模チェーン店、大企業は受取金額が大きく手数料を支払うことになり、また仕入れなどの企業間取引を決済するため、従業員に給与を支払うために現金化をする必要があり、ここでも手数料を支払う必要がある。

アリペイは、小規模小売には手数料をゼロにし、ほぼ100%普及させることで、利用者の利便性を高め、一方で、売上規模の大きなチェーンから手数料を取ることで運営をしている。

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SNSでのお金の清算ツールだったWeChatペイ

テンセントのWeChatペイは、中国人の多くが利用しているSNS「WeChat」上でやり取りをするポイントから始まったもの。日本で言えば、LINE Payに性格が似ている。このため、個人間でお金をやり取りする機能が充実していて、数人で食事をして、1人が料金を支払い、残りがその支払い者にお金を送るという割り勘などが簡単にできる。

ただし、受取額が1000元(約1万7000円)を超えると手数料がかかるなど、個人でも手数料がかかることがあり、多くは少額のやり取りに使われている。そのため、全体の決済金額では、アリペイに大きく水を開けられ、2位に甘んじている。

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誰もが予測してなかったQRコード方式の普及

銀聯は、プラスティックカードのデビットカードを中心に展開していたため、スマホ決済への参入が大きく遅れた。しかし、中国人の海外旅行熱とともに海外に進出し、すでに世界160カ国以上で利用できるのが大きな強みになっている。

その銀聯が今年の5月に、スマホ決済に参入することを表明した。しかし、多くのメディアは否定的で「遅すぎた。もう銀聯の席は用意されていない」という論調が支配的だった。

しかし、銀聯は死んでいなかった。そもそもQRコードによるスマホ決済技術の開発を行ったのは銀聯だった。しかし、世界の決済方式の潮流が、NFC(近距離無線通信)方式に進むのを見て、NFCを採用し、Apple Payと提携する道を選んだ。

国際的な戦略としては決して間違っていないのだが、国内ではNFCがあまり普及をせず、QRコード方式が急速に普及をするという“異常事態”が起きてしまった。

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国際標準化することで、海外から取りにいく

そこで、銀聯は、遅れてQRコードスマホ決済に参入するだけでなく、元々自分たちが開発したという技術的優位性を活かして、決済関連の国際標準化団体であるEMV CoにQRコード決済方式の標準化を認めさせた。つまり、銀聯方式のQRコードスマホ決済が国際標準となり、アリペイ、WeChatペイは独自規格ということになったのだ。

もちろん、独自規格であっても、標準規格と大きな違いはなく、少しの修正で準拠することは十分可能だし、準拠しなくても国内で使う分にはなにも問題はない。しかし、アリペイ、WeChatペイも、すでに国内市場に飽和の兆候が出ており、海外進出に力点を置き始めている。当面は、海外旅行をする中国人が、旅先で決済する使い方になる。

この時、海外の企業は、アリペイ、WeChatペイ、銀聯のいずれを選択するだろうか。すでに世界160カ国で馴染みがあり、国際標準にもなっている銀聯方式を選択する可能性がきわめて高い。

つまり、銀聯は、数年で「海外旅行なら銀聯QRコードスマホ決済」というイメージを定着させ、さらに数年で「海外でも国内でもどこでも使える」という態勢を作っていきたいのではないかと推測できる。

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銀聯(UnionPay)は、デビットカード時代、中国人が海外で使う決済手段として、爆買いの象徴にもなった。しかし、スマホ決済に乗り遅れ、シェアを大きく落としている。国際標準化を武器に、銀聯の巻き返しが始まろうとしている。

 

スマホ決済の三国志が始まるか?

もし、この銀聯の戦略が図に当たれば、再び決済の主役プレイヤーの座に返り咲くこともあり得る。スマホ決済が普及をしてから、多くのメディアが「銀聯は遅すぎた。銀聯の座る席はもうない」と論評してきた。しかし、現在は明らかに論調が変わって、「三国時代が到来。最後に笑うのは誰か」になっている。

中国の決済プレイヤーの地図は、まだまだ大きく書き換えられることがあるかもしれない。

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