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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

フーマが深圳市にモールを開店。衣類や体験コンテンツも新小売対応に

オンライン購入体験とオフライン購入体験を融合したフーマフレッシュの新小売(ニューリテール)。そのフーマは現在、さまざまな業態に横展開中だが、深圳市に大型ショッピングモール「フーマモール」を試験開業した。生鮮食料品だけでなく、衣類や家電、体験コンテンツなども新小売化をしていくことになると南方都市報が報じた。

 

さまざまな業態に展開をするフーマがモールへ進出

アリババ参加の新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)。現在は、スーパーだけでなく、6つの業態を展開している。

1)フーマフレッシュ:新小売スーパー。1万平米が基本。

2)フーマミニ:フーマフレッシュのミニ版スーパー。500平米が基本。

3)フーマF2:コンビニ業態。F2とはファスト&フレッシュの意味。オフィス街に進出

4)フーマミニステーション:配送のみを行う倉庫。店舗が進出できないエリアをカバーするためのもの。

5)フーマピックアンドゴー:朝食専門店。事前に注文をしておけば、すぐに受け取れる。地下鉄駅構内に進出。

6)フーマ菜市:フードコートのない新小売スーパー業態。主に郊外などをカバーするためのもの。

このような業態展開は、それぞれにエリアやマーケットをカバーする戦略性を持っている。

2019年11月下旬に、この6つの業態に新たに加わったのが、深圳市蓮塘に試験開業した「フーマモール・歳宝」だ。新小売スーパーを中心に、さまざまな店舗が集合したショッピングモールで、ユニクロやファーウェイなども出店している。深圳を拠点にする歳宝百貨店との共同事業。

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▲深圳市に開業したフーマモール。地元の歳宝百貨店と共同している。3階建てで、1階が店舗、2階がフーマフレッシュ、3階が教室になっている。

 

フーマの中心顧客はファミリー層

フーマフレッシュの中心顧客層は30代と40代。特に小さな子どもがいるファミリー層に強い。

休日などは、朝遅めに起きて、フーマフレッシュに行き、家族でフードコートで食事をとり、その時に、スーパーを見て、夕食の買い物のあたりをつけ、アプリのカートの中に入れておく。そのまま家族で遊びに出かけ、夕方帰る頃にカートの中のものを注文する。すると、家に帰って一息ついた頃に食材が配達されてくるので、夕食を作り家族で食べるというスタイルが定番化をしている。

フーマモールは、この中心顧客であるファミリー層の支持をより強固にするものだ。

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▲フーマモールにはキャラクターのカバがいる。「盒馬」(フーマ)とは、「マーさんの詰め合わせ」といった意味だが、河馬(カバ)と発音が同じであるために、カバがキャラクターになっている。

 

子供向けサービスを充実させたショッピングモール

そのため、4万平米という広い店舗内の1/3は、子ども向けサービスとなっている。

その中でも、人気となっているのが「虫虫絵本館」だ。幼児向けの絵本専門の書店だが、ただの書店でないのは、読み聞かせ体験のサービスがあるところ。絵本のお姉さんが身振り手振りで絵本を読んでくれる。これが幼い頃から読書習慣をつけるのに役に立つと人気になっている。

さらに、子どもを意識した写真館、幼児用水泳教室、ローラーブレード教室、プログラミング教室などがそろっている。

このような体験教室サービスは、すべてフーマ専用アプリから、チケット購入、予約ができるようになっている。虫虫絵本館では、すでに60%以上が、アプリからの予約客になっているという。

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▲人気の虫虫絵本館。絵本の専門書店だが、読み聞かせ教室があり、これが人気となっている。

 

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▲中国で人気の「虫虫絵本館」の読み聞かせ教室。小さい頃から読書習慣をつけられると人気になっている。この教室のチケット購入、予約などもフーマアプリから可能になっている。

 

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▲店舗の1/3は子供向けショップ。体験型の店舗が多い。フーマフレッシュの主要顧客であるファミリー層の集客を狙っている。

 

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▲子ども向け体験サービスも充実している。絵本の読み聞かせ教室、泥絵体験、子ども写真館など。いずれも予約やチケット購入がアプリの中からもできるようになっている。

 

ユニクロやカフェなども新小売に対応

その他、店舗も60ほどが入っていて、ユニクロ、ファーウェイなどの他、人気のカフェ「奈雪の茶」などがある。

最も大きな特徴は、このような店舗の商品のほとんどが、フーマ専用アプリから注文をすることができるようになっている点だ。アプリ注文をすると、フーマの配送物流を使って、無料で自宅まで1時間配送または翌日配送してくれる(フーマフレッシュの食材は30分配送)。

これが買い物のスタイルを変えようとしている。店舗に行って、実際に自分の目で見て欲しいものを選ぶというのは従来と変わらないが、購入はアプリで行ない、自宅に配送をしてもらうことで、帰りに大きな紙袋をいくつも持って帰らなくて済むようになる。

子ども服などは、店舗であれこれ試着をしてみること自体がエンターテイメント体験になっているので、それを店頭で体験してもらう一方で、かさばる荷物を自宅に持って帰るという悪い体験は解消する。そういう新しい買い物スタイルを実現している。

フーマモールの店舗ゾーンでは、当面、30%の商品をECで販売することを目標にし、最終的には50%以上がECで販売されるようにしていきたいという。

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▲1階はモールになっていて、ユニクロ、ファーウェイ、カフェなどが出店している。その多くが、フーマアプリの中から購入、配送が可能になっている。

 

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▲フーマアプリ内のフーマモール画面。「買い物」「外食」「子供向け」「生活サービス」の4つが柱になっている。いずれも、店舗だけでなく、アプリの中から注文し、配送してもらうことが可能になっている。

 

店舗は積極的にショールーム化。ユニクロの店舗面積は半減

また、店舗も在庫量を減らすことができるので、その分、展示する商品点数を増やすことができる。ECの登場により、路面店ショールーム化が大きな問題になっているが、フーマモールでは、むしろ積極的にショールーム化を推し進めている。

ユニクロの標準店舗は1800平米から2000平米だが、フーマモール内のユニクロ店舗は1000平米しかない。通常であれば、ユニクロは出店ができない条件だが、この新小売(オンライン販売とオフライン販売の融合)の仕組みを利用することで、ユニクロとしては中国で最小級の店舗となった。しかし、購入できる商品点数は標準店とまったく遜色がない。

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ユニクロも出店しているが、新小売に対応したため、倉庫スペースが節約でき、積極的にショールーム化を進め、最小級の小さな店舗になっている。しかし、購入できる商品点数は標準店舗と変わらない。

 

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▲フーマアプリ内のユニクロのコーナー。店舗で実際の商品を確かめ、自分の求めるサイズや色などをアプリから注文する人が増えている。

 

アプリを介して、顧客とのチャンネルをつくる

フーマモールの子ども販売部門の責任者、朱暁菁によると、開店初日の顧客の90%近くが、フーマ配達エリアのファミリー層だったという。また、一般的なモールでは、黒字化するのに必要な顧客数をつかむまでは2年ほどの時間がかかるのが通例だが、新小売モールでは初日にすでに70%程度の顧客をつかむことができたという。

多くの人が、フーマアプリをインストールし、登録をして買い物をするため、顧客とのダイレクトなチャンネルを構築できるからだ。軌道に乗るまでの2年という時間も大幅に短縮できるのではないかと期待をしているという。

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▲生活サービスを提供する「フーマ管家」も出店。クリーニング、ネール、家事などのサービスを頼むことができる。これもアプリの中から予約、決済が可能。

 

セミナースペースは平日にはビジネス利用も

フーマモールの2階には、フーマフレッシュが入っている。3階は、共用スペースになっていて、通称「教室クラウド」と呼ばれている。幼児教室の多くは、この共用スペースで行われる。

幼児向け店舗は、ファミリー層を引き寄せる強い「集客モーター」として機能するが、問題は、幼児教室の利用率は、平日の昼間は下がってしまうことだ。そこで、この共用スペースは、平日の昼間はアモイ科技大学やその他のテック企業の利用も可能にしており、セミナーや公開講座などが催される。

ファミリー層の集客に強い幼児向け店舗をそろえることで集客の原動力とするだけでなく、幼児向け店舗が抱えている平日の低効率問題も解消されている。

 

北京にも出店予定。買い物体験を変える新小売

中国のショッピングモールは、業界としては成長しているものの、過当競争になり、1/3は閉鎖の危機にあるという。一方で、深圳を中心に伝統的なスーパーと百貨店を運営する歳宝百貨店も徐々に数字を落としている。

その歳宝百貨店は、11あるスーパーのうち、8店舗をすでにフーマフレッシュに改装している。残りの3店舗も改装計画が進んでいる。また、百貨店にもフーマフレッシュを出店させるなどして、アリババとの提携を深め、過当競争になっているショッピングモール業態でも、新小売というスタイルを導入することで勝算があると判断をした。

アリババでも、地元百貨店との連携にメリットが多いと感じ、フーマモールはすでに2020年に北京での出店準備が進んでいる。

アリババのフーマは、それまでの買い物体験「行って、目で確かめて、商品を持って帰る」「家で、品質を確かめずに、配送してもらう」の二択状態を「行って、目で確かめて、配送してもらう」「家で、品質を信頼しているので、配送してもらう」の二択に変えようとしている。

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メルマガvol.003を明日発行いたします

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 003が発行になります。

 

vol. 003の特集は、「シェアリング自転車は投資バブルだったのか」です。

2016年頃から、ofoとMobikeに代表されるシェアリング自転車が急速に普及し、放置自転車問題などが社会問題になり、現在、ofoは開店休業状態、Mobikeは美団に売却という結末になっています。

ここから、「シェアリング自転車は投資バブルだった」と見る人が多いのですが、少し違うように思います。なぜなら、現在、シェアリング自転車は適正なサービスレベルになり、多くの人に便利に使われ、生活の足として定着しているからです。

では、なぜofoやMobikeは破綻をすることになったのでしょうか。この点を解説します。

 

毎週月曜日発行で、月額は税込み550円となりますが、最初の月は無料です。月の途中で購読登録をしても、その月のメルマガすべてが届きます。無料期間だけでもお試しください。

 

今月発行したのは、以下のメルマガです。

vol.001:生鮮ECの背後にある前置倉と店倉合一の発想

vol.002:アリペイとWeChatペイはなぜ普及をしたのか

 

登録はこちらから。

https://www.mag2.com/m/0001690218.html

 

農民が作った人間タケコプター。民間航空局は「違法だが、処罰はしない」

湖北省の農民が自力で開発したタケコプターのような人間ドローンが話題になっている。一部で試験飛行は違法行為だという声が上がっているが、民間航空局は「違法だが処罰の対象にはしない」と応えたと北京青年報が報じた。

 

53歳の農民が手作り開発した人間ドローン

このタケコプターのような人間ドローンを開発したのは、湖北省江夏区大舒村の舒満勝さん。舒満勝さんは53歳で、牛の酪農が本業だ。

このタケコプター的なドローンは、背中に背負う形で、お尻を乗せる椅子もついている。4つの翼を8つのモーターで動かし、総重量は35kg。人を乗せて10数分飛行することができる。

舒満勝さんによると、開発は3日で終わったが、その後、数十回にわたる試験飛行を経て、改良を加えていったという。最後には、自分の息子や娘も飛行したという。

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▲飛行試験を行う舒満勝さん。無許可であるため、厳密には違法行為にあたるが、民間航空局は寛大な対応をしている。

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▲飛行中の舒満勝さん。まさにタケコプター。舒満勝さんがドラえもんを知っているかどうかは定かではない。

 

前作はUFOドローン、最新作は人間タケコプター

舒満勝さんは、子どもの頃から機械いじりが好きで、高校を卒業後、酪農をしながら、機械工学などを独学した。

2008年ごろから、さまざまな飛行機やドローンの開発を始め、費やした金額は100万元(約1500万円)に近いという。2018年には、人が乗れる大型ドローンを開発し、試験飛行に成功している。このUFOドローンの製作には2ヶ月かかり、15万元(約230万円)を費やしている。12月に武漢東湖新技術開発区で、公開夜間飛行を飛行を行い、80秒間の飛行に成功させた。しかし、この開発でも数度墜落をして、肋骨を何本か骨折しているという。

そして、今年はタケコプター型ドローンを開発した。材料費はわずか1万元程度で済んだという。

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▲舒満勝さんが2018年に開発をしたUFOドローン。UFOで町おこしをしようとしている。


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▲舒満勝さんが2018年に開発したUFOドローン。人間が乗ることができる。

 

高度が高くなると、リモコンが届かなくなる

飛行をするときは、自動、半自動、手動の3つのモードがある。上昇速度は毎秒10mで、100mの高度まで上昇できるが、安全を考慮して、現在は高度10mに制限をしているという。舒満勝さんは北京青年報の取材に応えた。「コストを抑えるために、安価なリモコン機器を採用しています。高度が高くなると、リモコンが制御を失ってしまう恐れがあるのです」。

この人間ドローンは、周囲の人に人気だ。舒満勝さんが試験飛行するのを見て、娘が乗りたいと言い出し、娘も試験飛行をした。その様子を見て、娘の友人も乗りたいと言い出したが、舒満勝さんは万が一のことを考えて断ったという。

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▲人間ドローン。意外にプロペラは大きい。人のお尻を乗せる椅子のようなものも備えられている。

 

無許可飛行は違法?民間航空局は「違法だけど処罰はしない」

舒満勝さんの試験飛行に対しては、疑問を呈する声もある。それは民間航空局に無許可で人が乗れる飛行物体を飛行させるのは、違法なのではないかという声だ。

北京青年報は、民間航空局湖北省管理局に取材をした。すると、「中華人民共和国民用航空法」と「民用航空器適航管理条例」によると、違法になるという。具体的にいうと、4つの条件を満たしていなければならない。

1)航空機が民間航空局の審査を受けて、合格していなければならない。

2)航空機の国籍などを登録して、関係部門の管理を受けなければならない。

3)操縦者が要求される資格を持っている必要がある。

4)飛行する空域を、人民解放軍と空域管理部門に申請して許可を得なければならない。

民間航空局では、舒満勝さんの試験飛行は、この4つの条件をまるで満たしていないので、違法行為にあたるという。

「しかし」と取材に対応した民間航空局の担当者は言う。「地上の建築物や人に損害を与えないようにじゅうぶんに注意をして飛行を行い、かつ、損害を与える結果にならなければ、民間航空局は処罰の対象にはしない」と言う。ただし、あくまでも法に触れる行為であるということは自覚してほしいと強調した。

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▲試験飛行を終えた舒満勝さん。高度100mまで上昇する能力があるが、安全を確保するために、高度10mまでの飛行に制限をしている。

 

夢は航空工学の学校設立

舒満勝さんは、この人間ドローンを事業化するつもりはないという。しかし、航空工学の学校を作り、人材養成をしたいのだという。舒満勝さんもそうだが、学びたい人がすべて大学に進学できるわけではない。そういう学ぶ機会を得られなかった人たちに、自分が持っている知識と技術を分け与えたいという。

舒満勝さんは言う。「この夢は簡単には実現できません。でも、自分の理想を放棄せずに、努力を続ければ、いつか実現できるはずです」。

 

 

アリペイの犯罪利用率が減少。人工知能「AlphaRisk」投入が一定の効果

最高人民法廷の中国司ビッグデータ研究院は、「ネット犯罪の特徴と傾向」を公開した。これによると、アリペイがネット詐欺に利用された事件数が、2017年をピークに下がっている。その背後には、アリペイが投入しているAlphaRiskなどの人工知能技術があると中国新聞網が報じた。

 

ネット犯罪は増加、組織化、大型化

報告書によると、2016年から2018までの3年間に、全国の法廷で結審したネット犯罪案件は、4.8万件を超え、しかも、2017年は32.58%増、2018年は50.91%増と年々増加をしている。

被告人の数は13万人を超え、ひとつの事件で裁かれた被告人数は、平均で2.73人だった。これも2016年は2.43人であり、2017年は2.70人、2018年は2.90人と増える傾向にあり、ネット犯罪が組織化、大型化していることが窺われる。

 

犯罪に利用される割合は、WeChatでは増加、アリペイでは減少

この報告書の中では、どのようなツールがネット詐欺に使われたのかという統計も紹介されている。それによると、WeChat、QQ、アリペイの3つは、それぞれ多い順に42.21%、35.23%、15.28%となっている。

また、2016年から2018年の推移を見てみると、QQとアリペイは2017年を境に減少に転じたのに対し、WeChatは急速に増加をし続けている。

QQは、テンセントが運営するPC時代に流行したSNSで、スマホ時代にはWeChatが使われるようになり、アクティブユーザー数を落とし続けている。そのため、ネット詐欺に利用される割合も減っているのは当然だ。

しかし、いまだに利用者数が増え続けているスマートフォン決済「アリペイ」と「WeChatペイ」で、アリペイはネット詐欺が減少、WeChatペイは増加と対照的な結果になっている。

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▲WeChat(赤)、QQ(青)、アリペイ(緑)それぞれが犯罪に利用された割合。WeChatだけが利用率が上昇している。SNSと連動しているために、犯罪に利用しやすいことが要因になっている。

 

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▲それぞれのツールの月間アクティブユーザー数(MAU)の変化。QQはPCベースのSNSであるため、MAUが減少している。アリペイはMAUが増加しながらも、犯罪利用率を下げることに成功している。

 

最も多いのは「なりすまし」による詐欺被害

最も多い詐欺は、誰かになりすまして、被害者を騙そうとするもの。典型的なのは、公的機関の職員や企業のカスタマーセンター担当者になりすましたもの。また、知人のふりをするというケースも多い。

しかも、個人情報が先に盗まれ、それに基づいて詐欺犯罪を仕掛けられる例も19.16%含まれている。

 

詐欺撲滅のきっかけとなった徐玉玉事件

この事案として有名なのが、2016年8月に起きた徐玉玉事件だ。

高校3年生の徐玉玉は、南京郵電大学に合格をして進学が決まっていた。徐玉玉の家は、決して裕福ではなく、大学の学費は両親が節約をして積み立てていたものだ。合格通知を受け取った直後、徐玉玉は教育部から2600元分(約4万円)の学費を免除する対象に選ばれたという通知を受けていた。

その通知の翌日、犯人は公的機関の人間を装い、学費の全額9900元(約15.3万円)を指定の口座に振り込むと、助成金分が返金されると告げ、家族は言われるままに振り込んでしまった。帰宅をして、その事情を知った徐玉玉は、教育部から聞いた話とくい違うために、すぐに詐欺だと判断。なんとか学費を取り戻そうと、近くの派出所に相談をしにいった。

しかし、徐玉玉が警官に「お金は取り戻せるでしょうか?」と尋ねると、警官は「全力をつくすが、戻ってくる可能性は大きくはない」と正直に答えた。

悲観した徐玉玉は、家に帰る途中で、気を失って倒れてしまい、病院に搬送されたが、そのまま帰らぬ人となった。

犯人はすぐに逮捕されたが、取り調べをしてみると、山東省の受験生5万名の名簿を手に入れ、片っ端から奨学金詐欺の電話をかけていたという。話が符合するので、家族も騙されてしまった。

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▲大学の学費を詐欺により騙し取られて、死去した徐玉玉さん。大学の受験者名簿が流出をし、それに基づいた詐欺であったために、家族は騙されてしまった。このつらい事件がきっかけとなり、反ネット詐欺への気運が高まっていった。

 

機械学習で決済行動のリスクを算出するAlphaRisk

この徐玉玉事件は、多くの中国人の涙を誘った。アリペイ天算ラボの責任者、趙聞飆によると、この事件がきっかけになって、社内にネット詐欺を撲滅する気運が高まったという。

アリペイセキュリティラボでは、152の反ネット詐欺機能を開発、アリペイに実装している。

その中でも、最も有効で、アリペイ全体のセキュリティ機能の基礎になっているのが、人工知能を利用したAlphaRiskだ。

AlphaRiskの詳細については、防犯の観点から公開されていないが、機械学習を用いいて、決済のリスク度を算出し、一定リスク以上になると、決済を遮断するというものだ。

判定の基準となるのは、その人が普段とは異なる決済をしたという異常性や、決済に至るまでの行動、決済当事者の信用度などさまざまなものが利用される。

 

テレビ番組でアリペイの公開ハッキング

このAlphaRiskの機能の一端を知ることができるテレビ番組がある。2019年2月に浙江衛星テレビが放映した「智造将来」という番組だ。最新テクノロジーを紹介するバラエティ番組で、アリペイの金融サービスを運営するアントフィナンシャルの副総裁がゲスト出演し、3人のハッカーと対決するという内容だ。

ハッカーも、公安のセキュリティ演習を担当している研究員で、この3人が、観客の前で、司会者が保有するリアルなアリペイアカウントに侵入を試みた。

いわばテレビ公開セキュリティ演習で、テレビ的にわかりやすくはしているものの、アリペイ決済の裏側で何が起きているのかがわかる。


支付宝智能风控引擎 《智造将来》第5期 花絮 20190203 [浙江卫视官方HD]


网络安全员模拟获取蒋昌建银行卡信息 《智造将来》第5期 花絮 20190203 [浙江卫视官方HD]

▲浙江衛星テレビの「智造将来」。アリペイを運営するアントフィナンシャルの副総裁がゲスト出演し、公安のセキュリティ担当官がハッカーとなって、アリペイのハッキングをめぐって対決するという内容。公開セキュリティ演習だ。

あくまでもバラエティ番組なので、テレビ的な演出はしているが、AlphaRiskの機能の一端を知ることができる。

 

不審な行動からリスク度を算出し、決済を遮断

ハッカー役は、まず司会者の個人情報に基づいて、アリペイのパスワードを推測しようとする。誕生日の日付に基づいたパスワードを入れてみるが当然弾かれる。ところが、誤ったパスワードを入力する裏で、AlphaRiskのリスク指数が上昇していく。

ハッカー役は、パスワードの推測をあきらめて、パスワードのリセットを試みる。この行動により、AlphaRiskのリスク指数がさらに上がる。

パスワードのリセットには、銀行カードの情報と身分証の番号が必要だ。銀行カードの情報は、司会者から財布を借りて、その財布にスマホをかざすことで、情報を読み取る。現在の銀行カードはNFCチップが埋め込まれ、非接触決済に対応しているため、スマホで情報を読み取ることも可能なのだ。

中国の身分証番号は、18桁の数字だが、最初の14桁は簡単に推測できる。最初の6桁は居住地を表し、次の8桁は生年月日を表している。最後の4桁だけが推測ができない。しかし、使われる傾向のある番号のリストをハッカーは持っているため、数回のトライで当てることも可能だという。

ハッカー役は、最後の4桁を試行錯誤で入力していくが、その裏ではAlphaRiskがリスク指数をさらに上昇させている。最終的に、リスク指数が閾値を超え、アリペイのアカウントが一時的にロックされてしまい、アリペイの勝ちに終わる。

 

犯罪者に好まれやすいWeChatペイ

もちろん、エンターテイメント要素の強いバラエティ番組であり、狙いは防犯知識とアリペイの安全性の啓蒙なので、わかりやすいシナリオにしているため、実際のハッキングはこのように単純ではない。

しかし、ネット犯罪が急増する中で、アリペイを利用したネット犯罪が減少に転じた背後には、このようなテクノロジーの投入が大きく寄与している。

犯罪率が増加し続けているWeChatも似たようなテクノロジーを導入している。それでもなかなか犯罪率が減少に転じないのは、SNSと連動していることから、なりすまし詐欺などがやりやすいため、犯罪者に好まれるからだ。アリペイは、SNSと連動しない決済専用サービスであるために、そもそも詐欺事件に巻き込まれる可能性が小さいという面もある。

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公共空間を清掃する自動運転ロボット「未来衛士」。杭州市で稼働中

杭州市に人工知能を搭載した清掃ロボット「未来衛士」が登場した。清掃員6人分の働きをし、自動で周辺地図を作成するSLAM機能、違法駐車車両を警察に自動通報する機能もある。すでに杭州市内に投入されていると浙江新聞が報じた。

 

人間6人分の働きをする自動運転お掃除ロボット

この清掃ロボットは、1時間で約7000平米を清掃することができ、1回の充電で6時間から8時間稼働することができる。人間の清掃員6人分程度の働きをすることができるという。

従来の清掃ロボットと異なるのは、上部にレーダーと360度カメラを搭載し、人工知能で物体を判別し、人を感知すると、止まる、避けるなどの行動をする。さらに、人工知能がゴミを判別し、ペットボトルなどの大型のゴミを発見した場合は、前面のパネルが自動的に開き、ゴミをロボット内に回収する。

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▲公共空間のお掃除ロボット「未来衛士」。杭州市では、2台を購入し、2カ所にすでに投入ずみ。

 

自動でマップ作成、違法駐車車両は自動で通報

自分で清掃範囲の詳細マップを生成するSLAM機能があり、清掃範囲内にある柵や工作物を認識し、それを避けて清掃を行う。

また、清掃範囲に違法駐車車両を発見すると、自動的に交通警察に通報する機能まである。

360度カメラ映像は、センター側でリアルタイムで監視が可能で、将来には、治安関係の監視に応用することも可能だという。

杭州市では、この「未来衛士」を2台購入し、杭州市内の新天地と武林広場に投入している。

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▲上部に配置されたレーダーと360度カメラで、自分の位置推定を行いながら、周辺の地図を作成していくSLAM機能を備えている。

 

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▲清掃したゴミは、後部のバケット部分に溜められる。

 

交通信号が消えた街。テクノロジーの実験場となる人工都市「雄安新区」

中国の国家プロジェクトとして推進されている雄安新区。何もない荒野に人工的に大都市を建設するというものだ。この中心部では、交通信号がない。すべて自動運転のスマート道路になっていると悟空奇点網が報じた。

 

交通信号が消えた街「雄安新区」

雄安新区(ションアン)とは、北京市の南130km、天津市の西130kmの場所にまったく新しく建設された人工都市だ。最終的には2000平方キロの広大な都市になる予定だ。

この雄安新区の中心部である市民サービスセンターを中心とした10万平米の区画(東京ドーム2個分)には交通信号がない。道路には至るところに、センサー、レーダー類が設置され、スマート道路になっている。一般車両の乗り入れは禁止され、自動運転車のみが走行する自動運転の実用実験場となっている。

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▲中心部は交通信号がない。横断歩道もなくす計画で、道路の自由に横断できるようになる。交通信号と横断歩道をなくすことで、交差点での渋滞圧を減らすことを考えている。

 

横断歩道もなくなり、自由に道路を横断できるようになる

道路には、金龍社製のアポロ自動運転ミニバスが巡回をしている。どこでも手をあげるだけで止まってくれ、乗り込むことができる。また、商品配送の無人カートも走っている。

現在、交差点などに横断歩道が設けられているが、この横断歩道も最終的にはなくなる計画だ。道路と歩道の間には、50フィートから100フィートごとに「横断ポイント」が設けられていて、道路を横断したい歩行者はそこから道路を横切ることができる。走行しているのはすべて自動運転車なので、横断する歩行者を認識して止まってくれる。

このような方式にすることで、交差点の渋滞圧を減らすことができ、街全体の自動車と歩行者の交通の効率は上がるという。

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▲中心部には自動運転バスが巡回をしている。道路を横断しても、人を感知して止まってくれる。

 

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▲移動は巡回バスを使う。自動運転バスが、バス停以外でも手をあげるだけで止まってくれ、乗車することができる。

 

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▲新石器が開発した「走る自動販売機」も走っている。手を上げると止まってくれ、飲料などをスマホ決済で購入することができる。

 

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▲自動化されているのは道路だけではない。警備、清掃、配達もすべて無人ロボットが行なっている。

 

あらゆる分野の実験場となっている雄安新区

雄安新区には中国版新幹線「高鉄」の駅が2020年3月にオープンする予定。高鉄が開通すると、北京、天津から45分、オープンしたばかりの北京新国際空港まで20分になる。交通網が整備されると、雄安新区の活動も本格的なものになっていくと期待されている。

日本人の感覚からすると、何もない荒野に天津市と同じレベルの新一級都市を建設してしまうというのは、常識の枠を超えているようにも感じる。実際、中国メディアでも、壮大な浪費になるのではないかと不安視する論評もある。

しかし、一方で、深圳や上海も元は何もない場所から生まれた都市であり、雄安新区がパンク状態にある北京の首都機能を分散させる役割をしてくれることに期待をする論評もある。

いずれにしても、雄安新区が生活テクノジーの実験場になっていることだけは間違いがないようだ。

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▲雄安新区の位置関係。北京市天津市の中心部から130kmほど離れている。

 

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▲並んでいる自動運転車。百度のアポロバス、新石器の移動販売車、京東の配送用無人カートなどが並んでいる。

 

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