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米国に先んじて火星に国旗を掲げた中国の宇宙計画。国旗を開くのに開発された新素材・形状記憶ポリマー

2021年5月、中国の火星探査機「天問1号」が火星に着陸をして、中国国旗を掲げた。国旗を開くのに、形状記憶ポリマーの詩素材が開発された。この形状記憶ポリマーは太陽電池の展開など、今後の宇宙計画にも大きく貢献すると金投網が報じた。

 

月の裏側を先に制した中国の宇宙計画

アポロ11号の有人月面着陸から50年後の2019年6月、米ドナルド・トランプ大統領(当時)は、「我々はすぐに月面へ戻る準備をし、その後間もなく星条旗を火星に掲げることになる」と発言をした。

この強気の発言の背景になっているのは、2019年1月に中国の無人月面探査機「嫦娥4号」が史上初めて、月面の裏側に着陸したことだ。月面の裏側でのミッションは難易度が非常に高い。問題は月自身がじゃまになって、地球との通信が途絶えることだ。そこで、中国は2018年5月、地球と月のラグランジュ点に中継通信衛星「鵲橋」を投入。この通信衛星に中継させることで、地球と嫦娥4号の常時通信を可能にした。

この用意周到なプロジェクトは10年前から試験を繰り返してきた遠大なもので、米国が同じことをしようとしようとしても時間は必要になる。それまで、月面の裏側という月の半分は、中国に独占されることになる。

 

火星での国旗掲揚も中国に先んじられる

トランプ大統領(当時)は、対抗策として有人月面探査プロジェクトの再開と、火星探査を掲げ、その象徴として「火星に星条旗を掲げる」という宣言をした。しかし、火星に国旗を掲げたのはまたしても中国だった。

2021年5月、300日、5億kmにわたって飛行した「天問1号」が火星面に着陸し、中国国旗を掲げることに成功した。これは人類初の火星で掲げられた国旗だ。

▲実際の火星の映像でも、国旗が展開していることが確認できる。

▲国旗が開く様子のデモ映像。

 

国旗掲揚には記憶形状ポリマーの開発が必要だった

しかし、国旗は国家の面子をかけた重要な要素だが、科学的探査という観点からはただの無駄でしかない。国旗とその掲揚するためのポール、さらには無人であれば折りたたまれた国旗を開く機構が必要になる。このような装置の合計重量を考えると、積載量が厳しく限られている火星探査機に積載するにはそうとうの工夫が必要になる。

この国旗掲揚が可能になったのには、ハルビン工業大学複合材料・構造研究所の冷勁松氏を中心としたチームが開発した新材料にある。この新材料はSMPs(Shape Memory Polymers)=記憶形状ポリマーと呼ばれるもので、加熱、電荷、磁力などの刺激により、記憶した形状に戻るという物質だ。

国旗はロール式のスクリーンのように丸められており、形状記憶ポリマーで止められている。この形状記憶ポリマーは、着陸地点の火星表面での紫外線、気温の刺激を受け、元の形状=伸展に戻り、国旗は重力により、広がるというものだ。

ハルビン工業大学の冷勁松チームは、形状記憶ポリマーを開発した。一定の環境にさらされると、元の形状に戻るというポリマー素材だ。

▲火星に掲げられた中国の国旗は、ロールのように丸められていた。端にある形状記憶ポリマーが留め具となっているが、火星の環境にさらされると伸展する。あとは火星の重力で国旗が展開される。

 

太陽電池の展開に応用できる新素材

この新材料開発がなければ国旗掲揚はできなかった。火星探査機は打ち上げから着陸まで1年程度かかり、この間、形状記憶ポリマーは折り畳まれた形状を維持し、火星の環境になって初めて記憶した形状に戻るものでなければならない。記憶形状ポリマーの開発は簡単ではなかった。

しかし、この形状記憶ポリマーが開発できたことで、中国の宇宙開発は大きく前進をする。今回は国旗を展開するために使われたが、この新素材は、フィルム状の太陽電池シートの展開にも利用できるからだ。従来は宇宙空間で布状のものを広げる方法がなく、傘のように骨をつけて展開するしかなかった。そのため、骨組みと展開装置の重量がかさんでしまう。しかし、この形状記憶ポリマーを利用すると、薄いフィルム状の太陽電池を、丸めたポスターを広げるように展開できることになる。従来よりも広い太陽電池シートを宇宙空間で展開できることになり、大電力を供給することが可能になる。

この新素材は、宇宙空間での探査活動の選択肢を大きく広げるものとして期待されている。