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「アリババ」は誰のもの?商標問題を抱えて上場したジャック・マーの「アリババ」と商標権侵害で訴えた「アリババ」

アリババは、2007年に香港に上場をしているが、このとき、「アリババ」という社名に商標権問題を抱えていた。訴えたのが、商標権買取を目的とした悪質企業ではなく、真っ当にコンピューターゲームを販売していた正普科技であっただけに問題は複雑だったと律界小蝦米が報じた。

 

上場時に商標問題に直面したアリババ

アリババは、2007年11月に香港証券取引所に上場をしている。しかし、この時は、BtoBビジネスのAlibaba.comが中心で、ECの「淘宝網」(タオバオ)やスマホ決済の「支付宝」(アリペイ)は含んでいなかった。いずれにしても、この時に多くの人が「阿里巴巴」(アリババ)という不思議な社名を知ることになった。

しかし、このとき、アリババは「アリババ」という社名の商標問題を抱えていた。北京市の正普科技という企業が「アリババ」の商標を所有しており、アリババという名称の使用停止を求めて北京市海淀区人民法廷に訴えたのだ。

▲2007年に香港に上場した時のアリババ。この時、アリババは商標権問題を抱えていた。

 

ゲーム販売では知名度のあった正普科技

正普科技は、1993年8月に姚増起が起業したゲーム販売会社。「芝麻開門」(開けゴマ)と銘打ったゲームシリーズを販売して、コンピューターユーザーの間では有名だった。このシリーズは1000万セットも売れている。

1999年には「2688」というECサービスを始めている。タオバオとほぼ同じ時期だ。そして、2000年から芝麻開門シリーズの発売を始め、2002年には「アラジンのランプ」シリーズの発売を始めている。

つまり、この正普科技はまっとうな黎明期のテック企業であるだけに話は複雑だった。もし、これがアリババのじゃまをして、商標を買い取ってもらうことが目的であれば、どこかで和解をすることも可能だ。しかし、正普科技としては自分たちの権利を侵害されたことになるため、この紛争は7年にわたって続くことになる。

▲正普科技が発売していた「開けゴマ」シリーズのコンピューターゲーム。かなりの人気があり、累計1000万部以上を売り上げている。

 

法人でなければ商標申請ができなかった当時のルール

1999年5月14日、正普科技は商標局で「アリババ」の商標申請をおこなっている。「開けゴマ」「アラジンのランプ」に続くシリーズ名として使う予定だった。そして、1ヶ月ほど経った1999年6月28日に、アリババという企業が登記をされる。

当時の中国の商標法では、個人が商標を申請することはできなかった。創業者の馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)としては、会社を登記するする前に「アリババ」の商標を申請することはできず、先にアリババという法人を登記してから、アリババという法人格で商標を申請する必要があった。これにより、アリババの商標申請は遅れてしまい、わずかな差で偶然にも正普科技が先に取得をしてしまったことになる。

商標局では、申請があった商標を審査をした後、3ヶ月間の公告を行う。この公告期間の間に意義が申し立てられなければ商標が確定をする。「アリババ」の商標も3ヶ月間の公告が行われ、その最終日に企業「アリババ」が異議申し立てをおこなった。ここから、アリババと正普科技の紛争が始まる。

 

対立する両者の主張

正普科技の主張は、先願主義の原則に基づいたものだ。正普科技の方が早く申請をしている。この申請時に、アリババという企業はまだ登記されてなく、法的には存在をしなかったのだから、商標を申請することはできない。アリババの商標の所有権は正普科技にあるというものだ。

アリババの主張は、正普科技が商標申請をした時に、アリババはすでに一定の知名度を得ていたというものだ。1999年10月には、米国のゴールドマンサックスを筆頭とする投資団から500万ドルの投資を受けており、国際的知名度もあったというものだ。

 

裁定はアリババの勝ち

2005年11月に、商標審査委員会は裁定を下した。それは、正普科技の商標申請はガーデニング関連商品の領域では認めるが、それ以外の領域では無効としたものだ。正普科技はソフトウェアやオンラインサービスを中心に商標申請をしており、ガーデニング関連商品はついでに申請したにすぎない。事実上、アリババの主張を認めたことになる。

商標審査委員会は、商標の申請には先行する他人の権利を侵害しないことが条件になっており、申請時にはアリババは一定の知名度を持っていて、アリババの権利を侵害する申請だったとした。

当然ながら、正普科技は納得がいかず、北京市高級人民法廷に告訴をした。高級法廷の判断も、正普科技の商標を無効とするものだった。申請時にすでに「Alibaba.com」が存在をし、一定の知名度があった。正普科技の商標申請を認めると、消費者に不要な混乱をもたらすことになるというものだった。

 

商標局が通知省を誤って郵送、問題は複雑に

ところが、この話はここで終わらない。2006年9月、商標局は正普科技に対して、商標取得通知証を郵送してしまうのだ。内容は、正普科技が申請した通り、ソフトウェアプログラム、ソフトウェア設計、ガーデニングなどに対して認められた。有効期限は2000年11月14日から2010年11月13日までとなっている。

商標局の手違いだとしか思えないが、正普科技にしてみれば正式に商標を取得したことになる。正普科技は、これを盾に再びアリババを相手取って、商標権侵害で訴訟を起こしている。

最終的に、商標局が手続きのミスを認め、正普科技とアリババも和解をし、正普科技の商標の有効期限が切れた2010年に、今度はアリババが商標を申請することで、この紛争は決着をした。

▲現在の2688網。トップページの「この世に開店できない店はない」は、アリババの「この世に実行できないビジネスはない」をもじったもの。

 

今でも残るアリババへの対抗意識

現在、正普科技という企業は存在をしなくなっているが、そのうちの2688網(http://www.2688.com)が生き残っていて、オンラインショップの開店や運営をサポートする事業をおこなっている。ビジネススクールの名前は「開けゴマ学院」というもので、正普科技時代の名称が今でも使われている。

また、2688網がミッションとして掲げているのは「この世に開けない店舗をなくす」というものだが、これは明らかにアリババの「この世にできないビジネスをなくす」をもじったものだ。2688網は、いまだにアリババに対する対抗意識を失っていないようだ。