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中高年版アプリ開発の3つの原則。文字を大きくしただけではない、ケンタッキーフライドチキンの中高年版アプリ

中国のケンタッキーフライドチキン(KFC)が、「極簡版」アプリをリリースした。大きな文字を採用するなど、中高年の利用を想定したもので、KFCが中高年消費者に注目をし始めていると小食代が報じた。

 

高齢者向けのアプリが続々登場

中国工信部が2021年4月に「モバイルインターネットアプリ高齢者対応ユニバーサルデザイン規範」を公表して以来、大きな文字を使用し、ポップアップ広告を表示しないアプリが次々と発表されている。KFCのアプリもこの流れにそったものだ。

KFCの担当者は小食代の取材に応えた。「ファストフードのデジタル化は、一部の方々にとってはむしろ障壁となってしまっています。高齢者がその典型で、自分でアプリの使い方を理解するのは簡単ではありません。極簡版ではモバイルオーダーとデリバリーの機能を中心に使いやすくしました」。

▲他のアプリでも中高年版(右)が公開されている。文字を大きくするだけでなく、無駄な情報を省くことが基本になっている。これにより、若い世代でも、あえて中高年版を使う人が増えている。

 

文字を大きくしただけではなく、ユーザー体験も中高年向けに

KFCでは、極簡版アプリは単に文字を大きくしただけではなく、中高年の消費者特性にあった構造に変更されているという。

KFCによると中高年の消費には3つの特徴があるという。ひとつは、ある商品が気に入ると連続して同じものを注文する傾向が強いということだ。「いったんパニーノと豆漿が気に入ると、毎朝、あるいは数日おきに注文してくださいます。従来のアプリでは、前回注文したものと同じ注文をする機能がありませんでした」。

2つ目は、中高年はKFCがリコメンドする商品を購入する率が高いという。店頭でも自分が何を食べたいのかを決めかねたり、他人が食べているものを見て注文したくても商品名がわからなくて戸惑っている姿がスタッフにより観察されている。また、中高年の多くが、ポスターや店員がリコメンドするものを注文する傾向があることも店舗スタッフは感じている。しかし、従来のアプリではトップページにおすすめのメニューが出なかった。

3つ目が、中高年はコストパフォーマンスに若者よりも敏感だということだ。割引キャンペーンなどはよく観察をし、それを利用しようとする。従来のアプリでは、割引クーポンなどがどのメニューに適用されるのかがわかりづらかった。

▲KFCの中高年版アプリ。文字を大きくしただけなく、さまざまな工夫がなされている。「店舗受け取り」「デリバリー」は大きなボタンになり、少ないステップ数で注文できるようになった。

 

中高のUXを考慮した構造のアプリ

極簡版では、「モバイルオーダー」と「デリバリー」のボタンが大きく配置され、その下におすすめセットメニューが表示される。「料理のカスタマイズ」「人気の新製品」「ギフトカード」などのボタンはトップページから排除された。また、ドック部分も「トップ」と「私」の2つのタブに整理され、「EC」「会員メニュー」のタブは排除された。

 

中高年版アプリ開発の3つの原則

このような中高年版アプリを設計するときは、文字を大きくするなどの外観だけではなく、内容の整理がきわめて重要だとKFCは言う。内容の整理には3つの原則があった。

ひとつは、対象となる消費者の注文習慣に合わせることだ。中高年は、一度注文したメニューを継続して注文する率が高いため、おすすめメニューの欄には、過去に注文したメニューを優先して表示をする。朝食、午後、夕方でリコメンド内容を変える。

また、割引クーポンなどのキャンペーンを独立させるのではなく、割引が適用されるメニューをおすすめメニューに入れ、注文するだけで割引が適用されるようにする。

さらに効果があるのが「連続◯日間注文で、無料クーポン進呈」のキャンペーンで、中高年には非常に効果が高いという。

2つ目の原則が注文のステップ数を少なくすることだ。若者はアプリ上でさまざま操作を行う。注文だけでなく、新しいメニューを探したり、割引クーポンが適用されるメニューを探したりする。そのために、アプリは多機能である必要がある。しかし、中高年にはそれが障害となり、ステップ数が多いと途中で嫌になってやめてしまう。そのため、注文は1タップでできることが理想で、クーポンなども自分でタップして注文時に使用するのではなく、クーポンが適用されるメニューを注文するだけで自動適用されるようにした。

3つ目の原則が、重要度の高くない情報を排除することだ。特にポップアップ広告などは鬼門で、広告が表示された状態で元のページに戻れなくなり、注文をやめてしまう中高年が少なからずいる。

▲中高年は以前注文したメニューと同じものを注文する傾向がある。そのため、株のおすすめメニューには、過去に注文したもの、KFC側がおすすめするセットメニューが表示される。

 

アプリは人気店舗と同じ

この極簡版アプリは、昨2021年12月から開発が始まり、今年2022年4月12日にリリースをされた。現在、リリースしてから3ヶ月の段階だが、店舗スタッフからは中高年の多くがこの極簡版アプリを使い、同じメニューを注文するリピート率が上がっていることを実感しているという報告があがっているという。

内部で議論をし、試用版アプリが完成した段階で、実際のモニター消費者に使ってもらい、その聞き取り調査に基づいて修正をし、正式版をリリースした。この試用という段階を入れることで、改善が大きく進み、開発期間もかえって短縮できたという。

KFCでは、アプリは人気店の店舗と同じと考え、毎年1回は大きなアップデートをおこなっている。

▲効果が高いの「連続購入キャンペーン」。毎日購入すると、クーポンがもらえるタイプのキャンペーンは中高年がよく利用する。中高年は毎日の習慣をつけることが好きで、購入の習慣化を養成しやすい。