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テック企業で続く不正行為。サービスは好調でも、不正行為で自滅したラッキンコーヒー

2020年は、テック企業で不正行為が頻発をした。テック企業が新しいサービスに参入するときは、大規模な投資資金を注ぎ込み、クーポン配布などで「資金を焼きつくす」戦略を取る。それが誘惑となり、不正行為の原因になっていると豹変が報じた。

 

テック企業経営層で不正行為が頻発

2月24日、上場したばかりのショートムービーサービス「快手」(クワイショウ)の前副総裁の趙丹陽が逮捕された。趙丹陽は、2015年に動画共有サービス「優酷」(ヨウクー)から快手に移籍をした。移籍後から部下の2人とともに、長期に渡り、会社の財産を私物化し、関係業者から賄賂を受け取っていた。その額は885万元(約1.48億円)を超えると見られている。

快手では、2019年に上場準備の一環として廉正合規部を設立した。この廉正合規部への内部通報で発覚をした。

テック企業での贈収賄などの不正行為が続いている。テンセント、アリババ、百度バイドゥ)、美団(メイトワン)、滴滴(ディディ)など、明らかになっている事件だけでも200件を超え、2020年は、この数年のうち、最も不正行為の多い年となった。

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▲ モバイルオーダーという新しい手法、店舗、スタッフにかかるコストをコーヒーの品質に回したことで、スターバックスの強力なライバルとなり、ナスダック市場に情報をしたラッキンコーヒー。しかし、経営層に不正行為が頻発をした。

大量の資金が動いているテック企業

テック企業に不正行為が多い理由の最大の原因が、「資金を焼きつくす」拡大戦略だ。新しいビジネス領域には、テックジャイアントが大量の資金を投入し、クーポンや補助金をばら撒き、シェアを獲得しようとする。このようなところには、必ず、私利私欲しか考えない人たちが吸い寄せられてくる。

現在、各テック企業は、社区団購に大量の資金を投入し、シェアを獲得しようとしており、不正行為も社区団購周辺で頻発をしている。

もうひとつの理由が、テック企業は合理的な考え方をもっていて、このような不正行為が起きた場合に、内部で処理をするようなことはしない。むしろ、積極的に情報を公開することが、企業のイメージを最も毀損しない方法だと考えている。そのため、不正行為が発覚をすると、すぐに公安に通報をして、内部調査も行い、不正行為を働いた従業員の氏名、職名、不正行為の内容などを積極的に公表する。

また、テック企業は反不正行為の連盟を設立しており、400社以上が加入をしている。この加盟企業では、不正行為で辞職した従業員はブラックリストに入れて、どこも雇用しないようにしている。

つまり、大量の資金が扱われていて誘惑は多い一方で、不正行為が起きた時には内部で処理をすることなく、事件化をする。これがテック企業で発覚する不正行為の多さにつながっている。

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▲モバイルオーダーという新しい手法で、「行列をしなくていい」カフェとして、多くのファンを獲得したラッキンコーヒーは、経営陣による不正行為で自滅をした。営業は続けられているが、大幅な事業縮小は免れない。

 

テンセントの花形部門は、不正行為の頻発地帯

テンセントのPCG(プラットフォーム・コンテンツ・グループ)は、多くの人があこがれる部門だ。約1万名の従業員全員に、ファーウェイの折り畳みスマホ「Mate Xs」が配布されたこともある。仕事に必要だとは言え、2万元(約33.5万円)もするスマートフォンだ。

業績も好調で、待遇もいいが、不正行為も頻発している。テンセントでは2020年中に22件の不正行為が発覚したが、PCG事業部の関係者が26人も関わっていて、全体の63%にもなる。

PCGは、2012年から続いた組織構造を2018年に大改革をして生まれたものだ。MIG(モバイルインターネット)、OMG(オンラインメディア)、SNG(ソーシャルネットワーク)の3つの事業グループを解体し、IEG(インタラクティブエンターテイメント)のアニメ、映画部門を合併して誕生したのがPCGだ。PCGは、テンセントビデオ、テンセントニュース、QQ、テンセントピクチャーズ、微視、テンセントアニメなどを担当している。

業務のほとんどは、協力企業との対応になるため、利益をあげたい協力企業からの誘惑も多い職種だ。特にゲームは、テンセントの営業収入の45%を占めており、1つの案件が巨額の利益を生むことから、不正行為が起こりやすい部門になっている。

 

バイトダンスでは社員食堂で1000万元の賄賂

Tik Tokを運営するバイトダンスでも不正行為が起きている。社員食堂の前責任者が1000万元(約1.68億円)の賄賂を受け取っていたことが、内部通報により発覚をした。

バイトダンスはまだ創業9年の若い企業で、不正行為に対する管理体制が整っていないこともあり、不正行為がたびたび起きている。2018年には、調達部門のエンジニアが架空の契約書を偽造し、178万元(約3000万円)を横領した。2019年には、研究エンジニアがデータサーバーに侵入し、取得したデータを売って137万元(約2300万円)の利益を上げた。2020年には、商務経理の地位にいた者が、提携企業から430万元(約7200万円)の賄賂を受け取っていた。

金額の規模は他のテック企業に比べて小さいものの、不正行為が頻発していることがバイトダンスの大きな課題になっている。

 

歴代の副総裁が不正を働く百度

百度は、副総裁という高い地位が不正行為が頻発する役職になっている。百度の中では、第4位の地位だ。2020年4月、副総裁の偉方は、内部通報によって不正行為に関わったとして、離職をし、公安による捜査が行われている。偉方の前任者である3人も、不正行為の疑惑がかけられ辞職をしている。

特に偉方と前任の曽良が問題の震源地になっている。2人は、2015年に旅行サービス「去哪児網」に入社したが、2年後に曽良百度の大手顧客営業部の責任者となった。曽良は代理店の人間と共謀して、融資の形をとった横領事件を起こしている。

同時期に副総裁であり、CEO候補とも言われた李明遠が、企業買収に関連して横領疑惑を起こしている。結局、李明遠は不正行為を認めなかったが、百度を辞職した。さらに、無料サービスを基本としていた百度のサービスを有料にする変革を実行し、百度を利益が生まれる企業に変えた功績者、王湛も「業務倫理に反し、会社の利益を損なった」という理由で、解雇されている。

百度の場合は、上層部で不正行為が頻発している。

 

滴滴ではCTOが不正事件

滴滴では、技術総監が不正事件を起こしている。2016年からサーバーなどの調達に関連して、合計1000万元(約1.68億円)の現金を受け取り、さらに家族旅行の費用などを支払ってもらっていた。この人物は、新浪、百度、アリババなどでエンジニアとして働いた経験があるベテランエンジニアだった。

滴滴では2020年に大掛かりな内部調査を行い、64件(海外15件)の不正事件が発覚をした。うち、70名(海外12名)は重大な違反だとして解雇され、11名は法に触れているとして公安の捜査を受けている。

 

拼多多は現場が不正行為の温床に

ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)では、従業員の過重労働問題に揺れているが、内部の不正事件でも揺れている。

拼多多の場合は、現場スタッフの間で不正事件が起きている。2020年の4月に、拼多多は、広告部門のスタッフが200万元(約3400万円)の賄賂を受け取ったとして解雇をした。この時、解雇されたのは合計6名で、いずれも現場スタッフだった。

報道によると、その多くが、拼多多が始めた社区団購「多多買菜」の関連スタッフだった。拼多多は、多多買菜のシェアを確保するため、大量の資金を投入している。それが不正事件を生むことになっている。

結局、2020年には、18の不正事件が発生し、公安に逮捕されたものが28名となった。この他、拼多多が永遠に再雇用しない解雇が6名となった。

 

アリババでは、商品の月餅を顧客よりも先に購入

アリババは、従業員の忠誠心が高く、不正事件とは最も距離が遠い企業だ。2012年にアリババに初めて廉政部が設置され、初めて扱った事件が、中秋節での事件だった。5名のスタッフが、販売するための商品である月餅を133個、顧客に販売する前に自分たちで購入したという事件だった。関わったスタッフは、全員、降格になっている。

それほど、アリババは大型不正事件と無縁に見える企業だが、それでも大型不正事件が起きている。2020年11月に、アリババの元副総裁、天猫(Tモール)の消耗品、服飾品事業部の責任者、胡偉雄が不正事件の疑惑で内部調査を受けた。さらに、同じ月に、動画共有サービス「優酷」の元総裁、楊偉東の不正事件の裁判が結審をした。裁判によると、楊偉東は在職期間に855万元(約1.4億円)の賄賂を受け取り、一審の判決は懲役7年というものになった。

 

サービスは支持されても、経営層の不正行為で自滅したラッキンコーヒー

中国で流行している音楽の「嗑児」のサビの歌詞は「世の中は単純、複雑なのは人だ」というもので、この一節が中国人の心を捉えている。テック企業は、目的も明確で、運営も合理的に行われているが、人が不正事件を起こしている。

2018年に創業したカフェチェーン「瑞幸珈琲」(ラッキンコーヒー)は、モバイルオーダーをメインにすることで、店舗スタッフと家賃の負担を減らし、その分をコーヒーの品質に回すという手法で、瞬く間に4500店舗を超え、スターバックスの強力なライバルとなっていた。

しかし、ナスダック上場後、株価を釣り上げるための不正経理問題が発覚し、2020年5月に上場廃止となったが、その後も不正経理問題、不当競争問題が続き、2021年2月には米国で破産申請を行なっている。店舗ではファンも多く、営業も続いているが、大幅な事業縮小は免れない状況となっている。

ラッキンコーヒーは、中国のカフェに「モバイルオーダー」という新しい手法を持ち込んだパイオニアで、消費者からの支持も高かった。それが経営層の不正により、事業そのものの存続が危ぶまれている。

不正問題が、中国テック企業のアキレス腱になりかねない状況になりつつある。