2020年後半からEVが好調に売れ始めた。コロナ禍により、パーソナル空間を維持しながら移動できる自動車に注目が集まり、このタイミングで車を買うのであればEVと考える人が増えているからだ。人気の要因になっているのはデジタルな機能の搭載で、クルマのスマホ化が鍵になっていると経済日報が報じた。
生産が追いつかない五菱のMINI EVのヒット
中国のEVが突如として売れ始めた。2020年はコロナ禍の影響により、世界の自動販売は20%も下がった。しかし、新エネルギー車(電気自動車EV+ハイブリッド+再生可能エネルギー車)は、世界で43%も一昨年から伸び、中国でも10.9%の成長となった。
特に目立っているのが、代歩車と呼ばれる小型EVで、五菱(ウーリン)の宏光MINI EVは、価格が3万元(約49万円)以下ということから、かつてないヒット商品となっている。若い世代の間では、MINI EVを改造することが流行し始め、昔、日本で流行した玩具「チョロQ」の改造の実車版のような様相になってきている。
▲五菱の宏光MINI EV。価格は3万元を切るという安さで、通勤用に買う人が多い。また、サイズが小さく可愛らしいことから、若い女性の間でも人気になっている。
▲宏光MINI EVは、小さくデザインも可愛らしいため、改造をする人たちが増えている。チョロQの改造の感覚をそのまま実車で行っている。
中級車以上でもテスラ、BYD、ニーオに人気が集中
しかし、EVの人気はそれだけではない。中級車から高級車も売れている。上海蔚来汽車(ニーオ)の2021年1月のナンバー交付台数は7225台となり、2020年1月から352.1%も伸び、4倍以上となった。ニーオでは、これで6ヶ月連続して交付台数の記録を更新し続けている。
そして、テスラも数回にわたって価格を下げる改定を行なったため、人気の的となっている。
テスラ、BYD、ニーオの3強に、五菱という代歩車が加わることで、EV市場を牽引している。
しかし、なぜ、一時は低迷していた新エネルギー車市場に活気が戻ってきたのだろうか。経済日報は、3強のメーカーの北京の販売店を取材して、その原因を探った。
▲中国の新エネルギー車販売台数。2019年にいったん頭打ちになり、EVシフトが危ぶまれたが、コロナ禍により2020年に再び上昇に転じた。乗用車市場信息聯席会(CPCA)のデータより作成。
▲2020年1月のEV販売メーカー別ランキング。五菱が圧倒的に売れている。乗用車市場信息聯席会(CPCA)のデータを元に作成。
セダン、SUVと車種が増えた
ひとつの大きな理由は、車種が増えてきて、消費者が選択できるようになったことだ。テスラの北京華貿店には、モデル3を中心に、SUVタイプのモデルY、モデルXが販売されている。
ニーオの北京藍色港湾にあるニーオ未来空間では、3タイプのSUV、3タイプの高級車が並べられている。
BYDの北京国瑞店では、セダンタイプの漢EVとSUVタイプの唐が並べてある。
どのEVメーカーでも、セダン、SUVが選べるようになっており、さらにグレードが細かく設定されている。
数年前のEVと言えば、選択の幅が狭く、買うか買わないかを決めるしかなかったが、現在ではさまざまな車種の中から選べるようになっている。
▲北京藍色港湾にあるニーオ未来空間。体験試乗にきた人が多くいた。自動車販売店には珍しい賑わいとなっている。
価格がこなれてきた
もうひとつの理由が価格がこなれてきたことがある。テスラのモデル3は25万元(約410万円)、ニーオのES6は35万元(約580万円)から。BYDは22.98万元(約380万円)と、価格はまだまだ高いものの、ガソリン車の高級車と比べると高いとも言えなくなっている。
車が必要だけど購入するのは経済的に厳しいという人たちが代歩車を購入するようになり、ガソリン車の高級モデルを購入していた人たちがEVに流入をしてきているということのようだ。
オートパイロット機能が人気の最大の要因
高級車を購入するような人たちをEVは満足させることはできているのだろうか。購入者に話を聞くと、自動車に対する魅力が確実に変化をしていることがわかる。従来のガソリン車は、走りという自動車としての基本性能、インテリア、外観デザインなどが魅力のポイントだった。
その3つのポイントは今でも変わらないが、内容が変化をしている。走りの性能は、ガソリン車はスポーツドライビングが基準になっていた。そのためにレースイベントを行い、そこで好成績を残すことが販売にも結びついていた。しかし、実際の街中の走行では、スポーツドライビングをすることは滅多にない。高速道路でも、速度を出すのではなく、安定して走りたいというニーズが強くなっている。
多くの購入者がオートパイロット機能に魅力を感じている。テスラのモデル3では、6万元(約100万円)で、自動運オプションをつけることができ、車線を認識するオートステアリングなどが利用できるようになる。また、将来提供される完全自動運転にも対応していることが人気の理由にもなっている。
ニーオはNIO Pilot、BYDはDiPilotという自動運転システムを搭載し、部分的自動運転が可能となっている。
▲テスラの北京華貿店。オートパイロット機能がついたモデル3に人気が集まっている。
鍵になっているのはEVの「スマホ化」
インテリアに関しては、伝統的なガソリン車のデザインを引き継いでいるが、購入者が注目をしているのは「機能」だ。大型タッチパネルが搭載され、ナビゲーションだけでなく、Wi-Fi接続や音楽ストリーミングサービス、SNSを利用できるなどさまざまな機能が備わり、多くが運転中にも操作できるように音声操作、音声応答をするように工夫されている。
また、テスラモデル3では、10人まで運転手を記憶してくれる。ボタンを押すだけで、その運転手の体格に合わせて、シートの位置、ハンドルの位置、ミラーの位置を自動調整してくれる。さらに、乗り降りする時は自動でシートを下げ、ハンドルを上げてくれる。家族で共用する場合に便利な機能で、こういうユニークな機能に人気が集まっている。
つまり、自動車はスマホ化をしているのだ。従来の車のインテリアはデザインだったが、EVでは機能の方が注目をされるようになっている。若い世代では、車を避ける人も多かった。その理由は運転中にはスマホがいじれないというものだった。スマホがいじれないということは、無味乾燥な時間をすごさなければならない。1日は24時間しかないのに、車を運転するために、なぜ1日何時間も無駄な時間を費やさなければならないのかという考え方だった。現在のEVは、こういう考え方の人にも受け入れらる機能を備えるようになっている。
販売方法も体験とオンラインをうまく組み合わせている
また、販売方法もデジタル化が進んでいる。この点ではテスラが最も進んでいる。テスラの店舗にいくと、ウェブへの登録かアプリのダウンロードをするように勧められる。オプション品の購入やデザインの選択はすべてアプリからできるようになっている。
アプリでオプション品を品定めして、店舗で現物を見て、わからない部分を店舗スタッフに尋ねるという買い方になっている。以前の販売店では、入るなりにスタッフがつき、興味のないオプション品についてもスタッフの長々とした説明を聞かなければならなかった。販売をデジタル化したことにより、スタッフの言葉に惑わされずに、自分が主体となって購入することができ、納得度が大きく向上した。
デジタル化でテスラに遅れをとっているニーオとBYDだが、それぞれに工夫をしている。ニーオでは、WeChatのグループを作り、購入希望者が自由に質問をできるようになっている。また、車種の特徴はショートムービーにしてあり、店舗以外の場所でじっくりと見ることができるようになっている。
BYDではアフターサービスをクラウド化し、専用アプリから申し込みをすると、BYDのどの店舗でもアフターサービスを受けられるようにしている。
EVのメンテナンスフリーさを評価する人も
さらに、購入者の中には、EVはメンテナンスが不要という点を評価している人も増えている。そもそも、3ヶ月に一度のオイル交換という煩わしいものが不要だ。ガソリン車に比べて部品点数も圧倒的に少なく、構造も単純であるため、故障率も小さい。メンテと言えば、夏前にエアコンのフィルターを交換するぐらいだ。この手軽さを気に入っている人が増えているという。
また、近年バッテリー技術の進化が目覚ましく、満充電航続距離は伸び続けている。中級車以上では、よほどの長距離移動でない限り、充電ステーションの場所をさほど気にしなくてもいいレベルになっている。自動車にまつわるさまざまな煩わしさから解放されたい。そう考えている消費者がEVを選び始めている。
まだEV化率は5.4%。目標の20%に届くか
といっても、新エネルギー車の2020年の販売台数は136.7万台。ガソリン車も含めた自動車販売台数は2531.1万台。新エネルギー車割合は5.4%にすぎない。しかも、自動車販売全体は3年連続減少の中での割合だ。まだまだ特別な人がEVを購入しているのであって、消費者の主力軍がEVに目を向けているという段階には達していない。
2020年11月、国務院は「新エネルギー車産業発展規則の配布について(2021ー2035)」の中で、2025年の新エネルギー車販売割合目標を20%前後としている。あと4年で20%を達成することができるか。まだまだ、EVは普通の人も受け入れられる工夫を重ねていく必要がある。