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市場を拡大し続ける網紅経済。ライブ放送からTik Tokへ

ネットのインフルエンサー網紅が活躍の場所を広げている。従来はECサイトのライブ放送をホームグランドとしていたが、Tik Tokを始めとするショートムービー利用者が増えるにつれ、ショートムービーにも進出を始めていると前瞻経済学人が報じた。

 

1日でモール1年分の商品を売ってしまう網紅

網紅経済の成長が続いている。網紅(ワンホン)とは、ネットでの人気者=インフルエンサーの意味で、日本のユーチューバーに近い。しかし、日本のユーチューバーの多くが、面白いコンテンツを公開して、その広告費で売上を上げるのに対し、中国の網紅は、あたかもテレビショッピングのような商品紹介のライブ放送、動画を公開して、販売額の一定割合をもらうことで収入を得ている。ここが大きな違いだ。

しかし、トップインフルエンサーになると、その額が尋常ではない。アリババのECサイト「淘宝」(タオバオ)のタオバオライブを中心に活躍する網紅、薇婭(ウェイヤー)と李佳琦(リー・ジャーチ)の2人は、2019年の11月11日独身の日セールに、タオバオライブを中心に、さまざまなライブ放送を行い、それぞれ27億元(約410億円)、10億元(約153億円)の商品を販売した。

2018年の上海のショッピングモール万象城の1年の売上が約20億元。つまり、トップクラスの網紅は、わずか1日で、ショッピングモール1年分の商品を売ってしまう。

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▲薇婭のライブ放送では、商品が異常な売れ方をする。それだけ信用をされている。独身の日セールでは、わずか1日で、ショッピングモール1年分の商品を売ってしまう。

 

網紅の活躍の場所がTik Tokへ拡大中

しかも、市場が拡大をしている。2016年頃までは、ライブ放送が中心だった。タオバオなどのECサイトがライブ放送機能を備えて、そこで網紅たちは商品の紹介ライブを行う。内容は日本のテレビショッピングとよく似ている。それが、最近では主戦場がTik Tokなどのショートムービーに移ってきている。商品を紹介するショートムービーを公開し、視聴者がそれをタップすると、タオバオなどの購入ページに遷移するというものだ。

このようなショートムービーの連携も進み、Tik Tokは「タオバオ」「京東」「WeChat」と連携し、同じショートムービーの「快手」は、これら3つに加え「拼多多」と連携をしている。

次第に、買い物は「ECで検索をして見つける」のではなく、ライブ放送やショートムービーを見て、購入をするようになり始めている。「人が商品を探す」時代から「商品が人を探す」時代になり始めている。

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▲薇婭は元々北京市で恋人と小さな洋服店を開店していた。商品を自分で着て、街を歩くことで宣伝するという手法が成功し、タオバオに出店したときに、ライブ放送をして自分で商品を紹介することを始め、人気となった。

 

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▲李佳琦は、元ロレアルの販売員。口紅の正確な色を見てもらうために、自分の唇に塗って顧客に見てもらうという方法をとった。その販売方法が面白いと評判になり、口紅専門の網紅となった。

 

習慣となっているリファラル購入

日本ではインフルエンサーがうっかり特定の商品を紹介すると、「ステマ」「結局、金かよ」などの批判を受けることが多い。しかし、中国では、商品を紹介することで人気のインフルエンサーとなり、堂々と商品の紹介をし、販売をする。この違いは、土壌に違いがある。

日本は、近代化をするとともに、多くの商品が大量生産されるようになり、品質の標準化が進んできた。同じ型番の洗濯機は、どこの店で買っても同じ品質であり、またメーカーや型番が違うものでも性能の差はあるが、品質の差はさほど大きくはない。

ところが中国では、この品質の標準化が進まず、同じ型番の洗濯機であっても、不用品が普通に出回っていたり、店舗での扱いが悪いために、品質に大きな差がある。また、低価格の商品では使用に耐えない品質のものも当たり前に流通している時代が長く続いていた。

そのため、リファラル購入とでも呼ぶべき習慣が定着をしていった。友人に信頼できる店を紹介してもらい、そこで店主と人間関係をつけて購入する。店主もお得意さんの紹介してくれたお客さんなので、いい加減なことはできない。中国の都市では、いまだに街中に個人商店がたくさんあり、どこも客がきている様子はないが、こういうリファラルの紹介客でそれなりに商売が成り立っている。品質差の大きい加工食品や、茶葉、食器などの伝統工芸品の店舗が多い。

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▲ECのライブ放送とTik Tokなどのショートムービーの利用者数。ライブ放送の視聴者数も増えているが、それ以上にショートムービーが伸びている。網紅も続々とショートムービーに進出をして、市場を拡大している。

 

信頼できる人の紹介で買う中国人

このリファラル購入が、インターネット時代、モバイル時代になって、SNSを利用した微商(ウェイシャン)=マイクロビジネスとなった。友人に信頼できる店を紹介してもらい、SNS「WeChat」で連絡を取り、WeChatペイで支払いをし、商品は宅配便で送ってもらうというものだ。

また、これを組織化した「拼多多」(ピンドードー)に代表されるソーシャルECも生まれてきた。共同購入の商品情報をSNSでリアルな知人に拡散し、共同購入者が集まると、格安で商品が購入できる。これも、信頼できる知人から商品情報が拡散されてきたかどうかが購入決定の決め手になる。

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▲Tik Tokの広告は、一般コンテンツと見た目はほぼ同じ(広告であることの表示はされる)。タップをすると、出稿元のページが表示され、商品を購入することができる。

 

視聴者からの信用が網紅の地位を守る

網紅も、このような「信頼できる人」になっている。そのため、網紅はお金では動かない。トップ網紅の元にはさまざまな企業から「商品を取り上げてほしい」という依頼がきて、そのための巨額の契約金が提示されたりもする。

しかし、トップの網紅は、お金では動かない。お金で動く網紅と見られるようになった途端に、自分の信用力が失われて、影響力が消滅することをよく知っているからだ。

どの網紅も、お金ではなく、「自分が紹介するに値する商品であるかどうか」を基準に判断している。それが視聴者に対する信用力を増し、結果、商品が大量に売れるようになり、収益を最大化できることを知っているからだ。

網紅周辺ビジネスを調査したレポート「網紅ECの再議論」(東呉証券)によると、2016年から2018年で、ファン数100万人以上のトップ網紅は23%増加し、ファン数10万人以上のミドル網紅は51%も増加した。ファンになる消費者も25%増加した。

薇婭や李佳琦のような誰もが知るトップ網紅だけでなく、化粧品やスニーカーといった特定の商品に特化したミドル網紅も大幅に増加している。

 

進む「網紅・EC・ショートムービー」の連携

網紅の収入は、原則販売額の20%が基準になっている。この20%を網紅、プラットフォーム、ECサイトで分配をする。例えば、ある網紅がTik Tokで紹介ムービーを公開し、それをタップするとタオバオで購入できるという場合、網紅、Tik Tok、タオバオ間で、収益の分配率を決めておく。この場合は、網紅12.6%、Tik Tok 0%、タオバオ7.4%という取り決めになっている。

また、このほか、プラットフォームからの専属契約料、企業からの契約料などもあり、トップ網紅になるとハリウッドスター並みの収入を得ている。

トップ網紅の薇婭の年収は、3000万元(約4.7億円)を超えていると言われる。この数字は、タオバオライブからの推定値なので、他のプラットフォームでも活躍し、メディアへの露出も増えているため、実際の年収はその数倍あると言われている。

李佳琦も、タオバオライブから始まって、Tik Tokやネットの動画広告などに起用され活動の幅を広げている。網紅は強烈な販売力を持ったタレントであり、培った影響力を活かして小売やマーケティングなどの領域で起業をする人も増えている。また、後輩の網紅を育成する事務所ビジネスを始める人もいる。芸能界とは一定の距離を置いた場所に「網紅界」を形成しつつある。

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▲すでにTik Tok、快手などのショートムービー、タオバオ、京東、拼多多などのEC、網紅の間で連携、手数料の配分率などが定められている。網紅経済は無視できない規模に成長している。