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スマートフォンで変わる農村の閉鎖性。ミニプログラムやオンライン診療を活用

中国の農村は、都市と比べると感覚が大きく違っている。新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの農村が「閉じる」政策を実施した。その政策に、WeChatミニプログラムが活用された。スマートフォンが活用されるようになり、農村の感覚も変わりつつあると科技圏萌妹子が報じた。

 

都市とは大きく異なる農村の感覚

中国の農村は、交通が不便であるだけでなく、情報も入ってきづらい。食料は豊富にあるものの、現金収入は少ない。また、外の世界との交流も決して多くない。そのため、都市とは感覚が大きく異なっている。

新型コロナウイルスの感染拡大時期、ある村では、朝9時から軽トラックでアナウンスをしていた。その内容が「外出する時にはマスクをしましょう。親戚を訪ねたり、村の中を歩くことは死を探しにいくようなものです」というもの。

「死を探しにいく」という表現が残酷すぎると都市住人の間では話題になったが、村人にそのようなつもりはない。大事なことだから守ってもらうためには強い表現が必要程度の意識なのだ。それほど都市と農村の感覚には違いがある。

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▲農村では、村の入り口に村官が立ち、入村する者の健康状態を確認し、問題のある人は、帰村人であっても入村を拒否するという閉鎖策を取ったところが多かった。

 

農村の感覚をスマートフォンが変えていく

しかし、この中国の農村の独特の感覚も変わりつつある。スマートフォンを活用にするようになったからだ。

江西省南通市の育新村では、新型コロナウイルス感染拡大の時期に、村委員会のメンバーが手分けをして、村と外界を結ぶ道路の関所を作った。村に入ろうとする人の身分を確認し、健康状態を確かめてからでないと入れないようにした。都市で感染が拡大する中、出稼ぎに行っていた村人が避難のために戻ろうとしていたが、体温が高い場合は入村を拒否した。

しかし、村官と呼ばれる委員が手分けをするのも限界がある。しかも、関所では外界の人間と濃厚接触をすることになる。複数の関所を作り、入村名簿を突き合わせる作業も手間がかかる。

そこで、委員の一人がWeChatの「数村」(デジタル村)ミニプログラムを利用することを提案した。これはWeChatの中から利用できる個人情報と健康状況を尋ねるアンケートシステムで、村に入ろうとするものと距離を取り、そのアンケートに入力してもらうことを求めた。アンケート結果は、村の委員会がウェブから一覧することができる。

また、避難のために村に帰りたい人は、この「数村」ミニプログラムから、事前に帰村する申請をしておくこともできる。扱いは村ごとに異なるが、帰村がスムーズになる。

これにより、関所の業務負担が大きく減り、担当者の感染リスクも大きく下がった。このWeChatミニプログラムは200村以上で使われているという。

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▲WeChatミニプログラム「数村」。入村の申請ができる他、地域の情報を知る、掲示板などで質問をするなどが可能。多くの農村で活用された。

 

オンライン村祭りで感染拡大防止

数村には「村民広場」と呼ばれる機能がある。ここは村ごとの掲示板のようなコーナーだ。ここに村官たちが、地域の感染状況などを告知していく。

また、春節の15日後に行われる元宵では、猜灯という風習がある。これは、中国でよく見かける赤い提灯に、漢字を使ったなぞなぞを書いた短冊を下げるというものだ。人々は散歩をしながら、なぞなぞを読んで、答えを考える。公園やショッピングモール、寺院などでは正解がわかると記念品や粗品がもらえることもある。

内容は単純なもので、例えば、問題が「男が多い一文字は?」、答えは「妙」(女が少ない)などだ。なぞなぞを楽しむというより、家族や友人で散歩をしながら、一緒に答えを考えることが楽しみになっている。

今年の元宵は、新型コロナウイルスの感染拡大時期にあたるため、多くの地域で猜灯が中止をされた。しかし、数村を使う農村では、村民広場になぞなぞを出し、村人が回答を投稿するというオンライン猜灯が開催されたところが多かった。

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▲元宵節で行われる猜灯のイベント。提灯に書かれた謎なぞを解いていくというもの。今年はオンラインで猜灯を開催した農村もあった。

 

農村にも普及したオンライン診療

新型コロナウイルスの感染が拡大すると、三甲病院(中国の病院は3つの級、6つの等で格付けされている。三級甲等の三甲病院は最高クラスの病院)の多くがオンライン診療に踏み切った。医療従事者の感染リスクを減らし、院内感染をおこなさないための試みだ。

それでも武漢市の中南病院では、医師が感染をしてしまい、自宅隔離となった。その医師は軽症で、症状もでていなかったため、自宅からオンライン診療を行った。毎日10時間オンライン診療をし、合計743人の患者の診察を行った。

農村でもこのようなオンライン診療が活用された。従来は病気になっても町までいかなければ医者にかかることができなかった。そのため、民間療法や時として迷信に近い治療法でごまかすことも多かった。

オンライン診療は、直接的な治療を受けることはできないが、専門家と直接話をして、科学的に安静にする方法、栄養をとる方法を教えてもらえる。重病には対応できないものの、腹痛や頭痛、風邪といった軽症の病気であれば、正しい療養ができるようになった。

 

新型コロナをきっかけに「開く」農村

農村にとって、今回の新型コロナウイルスの感染拡大により、最も大きく変わったことが、積極的にスマホを活用するようになったことだ。農村にとってそれまでのスマホは、電話とWeChatのメッセージとあとは映画や音楽が楽しめる小さなテレビ、小さなラジオでしかなかった。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、「村を閉じる」策を取らざるを得なくなり、それに「数村」のようなWeChatミニプログラムが役に立つことが知られるようになり、スマホを情報機器、村のシステム管理ツールとして役立てることが広まっていった。

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけとして、農村でもスマホが情報ツールとして活用され始めている。