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アリペイが生み出した新職業。従事者は700万人。ギグワークによる兼業が可能に

アリペイは、「アリペイ新職業報告」を公開した。アリペイが誕生して15年、40種類以上の新しい職業を生み出し、700万人近い人が従事している。その多くが、テレワーク、ギグワークに対応しており、別の本業を持っている人が、兼業として従事する例が増えていると北京日報が報じた。

 

兼業可能、地方可能の新職業

新しいテクノロジーが登場すれば、それに伴う新しい職業が生まれるのは当然のこと。しかし、その新しい職業に数々の特徴がある。

アリペイから生まれた新職業の特徴の第1は、2/3が兼業可能であり、しかも1/3はオンラインで完結をする。自分の好きな時に好きなだけ働いて、成果に応じてコミッションが得られるギグワークが可能になった。しかも、自宅でもカフェでも仕事ができる。

特徴の第2は、全体の約半数が地方都市、農村の若者が働いているということだ。一般に、新しいテクノロジーに伴う新職業は、都市部にいるスキルのある若者が就くことが多いが、スキルの高くない地方の若者、あるいは中高年に仕事の機会を与えている。

特徴の第3は、高給を稼ぐ人を生み出していることだ。収入は働く時間、本人の工夫により大きく変わるが、兼業で1万元(約16万円)以上を稼ぐ人も少なくない。物価の安い地方都市での収入としては充分すぎるほどだし、都市部でも兼業でそれだけ稼げるのであれば充分な収入となる。

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▲「アリペイ新職業報告」に掲載されたインフォグラフィック。文字の大きさが従事者の多さを表している。アリペイの登場により、40種類以上の新職業が生まれた。

 

アリペイの法人営業「数字微客」

では、どんな仕事があるのか。最も多いのは「数字微客」と呼ばれる職業で、全国に170万人が従事している。しかし、その多くは兼業だ。

数字微客とは、アリペイの法人契約の営業だ。個人商店などでも、アリペイ決済ができるところは多いが、法人契約ではなく、個人のQRコード掲示しているところも多い。自分で、QRコードを印刷し、店頭に掲示しておけば、それで決済ができるし、手数料なども取られることがないからだ。

しかし、アリペイとしては法人契約を結びたい。商店用の決済システムを導入してくれれば、セキュリティも高くなり、さらに顔認証レジ、金融機能、ビッグデータコンサル機能などの売込みの起点とできるからだ。

そのため、商店の個人契約を法人契約に変えさせる営業職を、プラットフォームで募っている。登録をして、成果が上がれば、報告。1件ごとに成果報酬がもらえるという仕組みだ。

フルタイムでこの仕事をするのは、なかなか大変だが、本業が個人商店を巡回するような営業職、コンサル、納入業者などが登録をして、本業のついでにこの仕事をしている。

この仕事をしている90%は中西部の地方の若者だ。沿岸部大都市には、すでに本職の営業職が営業活動をしている。しかし、広く人口密度の小さい中西部では、営業活動が手薄になりがちだ。このような地域では、工夫次第で、数字微客でもかなりの成果を上げることができる。

 

サポートセンターのクラウド化も進む

また、「クラウドサポート要員」では、ギグワークが可能になっている。多くの企業が用意しているコールセンターは、クラウド化しており、自宅からでも、都合のいい時間に仕事に入ることができるようになっている。消費者から見たら、巨大なコールセンターに電話をしているように見えても、実はスタッフ個人の自宅などに転送をされているのだ。

事前に商品やサービスに関する知識を身につけておく必要があるが、その教育もオンラインで可能にしているところが増えている。シフトに関しては、企業により異なるが、シフトを定めてテレワークを認めているところもあれば、完全に自分の都合のいい時間に入れるギグワークを認めているところもある。隙間時間をうまく活用して、副業ができる環境が整っている。

また、テレワークが基本となるので、場所を選ばない。そのため、クラウドサポート要員の89%が地方在住者だという。約2.4万人が従事している。

 

環境保護事業が地方に仕事を回している

アリペイでは「アント森林」という公益活動を行っている。これはアリペイで、光熱費を支払う、タクシーに乗る、鉄道や航空機のチケットを買うなどの決済をすると、その行為が排出する二酸化炭素量を計算して、それに応じた植林をする事業だ。2019年8月時点で、5億人のユーザーがこのアント森林プログラムに参加をし、1.22億本の植林をし、二酸化炭素排出量を792万トン減らしたことになる。

このアント森林は、中国各地にあるが、その植林作業、管理作業が必要になる。これはほとんどが、その地域の農民の兼業だ。アント森林の従事者は40万人にのぼる。

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▲新職業には地方在住者が多く従事している。「データクレンジング」「子育て教室教師(アリペイの社会貢献事業)」「クラウドコールセンター」「アント森林従事者」「アリペイ加盟店開拓」などの職業で、地方在住者の比率が高い。

 

ミニプログラム開発エンジニアは、人手不足

エンジニアにも新しい職業が生まれている。ミニプログラムエンジニアだ。ミニプログラムとは、アリペイ、WeChatペイ、百度アプリなどのアプリ内アプリ。アプリの中から検索やブックマーク経由で起動できるSaaSアプリだ。利用者から見ると、ネイティブアプリをインストールしておく必要がない、ミニアプリごとにアカウントを作る必要がない(アリペイのアカウントで利用できる)など利便性が高い。チケット購入、飲食店のモバイルオーダーなどさまざまなものがある。

すでに中国では、商店は独自のネイティブアプリを開発するよりも、積極的にミニプログラムを使うようになっている。最も進んでいるのは、最初にミニプログラムの仕組みを始めたWeChatで、企業向けのミニプログラム開発プラットフォームを提供している即速応用の調査によると、2019年8月時点で236万種類を超えている。同様にアリペイのミニプログラムは20万+、百度のミニプログラムは15万+となっている。

ミニプログラムは、開発環境が整っていて、ネイティブアプリ開発よりも難易度が低い。感覚的にはモバイルウェブページを作る感覚だ。ミニプログラム開発を請け負っている開発企業も多いが、フリーランスエンジニアとして個人で仕事を請け負うことも可能になっている。

ミニプログラム開発者は、現在深刻な人手不足になっていて、アリペイのミニプログラム開発者は100万人程度しかいない。そのため、報酬もかなり高めであるという。

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▲ミニプログラムの開発画面。ミニプログラムは、ネイティブアプリの開発よりも敷居が低いが、各企業がミニプログラム対応を進めているため、深刻な人手不足になっている。そのため、報酬も上昇しているという。

 

中高年も働けるギグワーク

ギグワークのもうひとつの特徴が、中高年も働けるということだ。業務が標準化されており、成果報酬なので、稼げるかどうかは別として、中高年も参加をすることができる。

アント森林従事者は、半数が40歳以上になっている。また、アリババが提携をしているシェアリング自転車Hello Bikeの巡回監視員の仕事は、半数が30歳代、40歳代で、50歳以上も10%いる。

 

ギグワークは搾取か、収入を上げるワークシェアリング

世界的にギグワークは評判が悪い。都合のいい時間に都合のいい場所で好きな量だけ働けるとはいうものの、報酬はあまりにも低い。結局、労働者を搾取することになっているという批判がある。

しかし、ギグワークの本来の姿は兼業だ。本業があって、その隙間時間に働く。あるいは、商店回りをする営業マンが、ついでに数字微客を兼業するなど、本業と副業を融合させてしまう。

ギグワークを本業にしてしまった場合は、確かに生活をするのもままならないほどの報酬しか得られないかもしれないが、兼業として、うまく自分の本業と組み合わせることで、収入を上げることが可能だ。

また、数字微客やクラウドサポート要員のように、オンライン化が進むと、地方や中高年にも仕事が回っていくという点も大きな特徴だ。

ギグワークを悪質な労働者搾取と考えるか、それとも新しい形のワークシェアリングと考えるか、社会の知恵が試されている。