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アップルCEOが8歳の少年に誕生日メッセージ。注目されるプログラミング幼児教育

アップルのティム・クックCEOが、ウェイボーで8歳の少年に誕生日メッセージを送ったことが話題になっている。この少年は、5歳からプログラミングを始めていて、「小学生が教えるプログラミング」の動画を公開したことから、国内外で有名になっている。これがきっかけで、プログラミング幼児教育に注目が集まっていると量子位が報じた。

 

ティム・クックCEOが8歳のVita君に誕生日メッセージ

アップルのティム・クックCEOは、2019年12月16日に、次のようなメッセージをウェイボー公式アカウントで公開した。

コンピュータサイエンス教育週間を楽しく過ごしていただけることを希望します。すべての人にプログラムを学ぶ機会があるべきです。私たちは、すべての年齢の学生の方にプログラムを学べる機会を提供しています。世界中のアップルストアにて、スタッフが提供をいたします。

ジェイビルの無錫チームは、紙の使用量を減らすことができる素晴らしいコミュニケーションアプリを生み出しました。上海商学院の講師の方々、WWDC奨学金を獲得した方々、その他協力をしていただいた方々に、この現実を変えたことに感謝をいたします」。

ここまでは、ごく普通のメッセージだったが、その後に続くメッセージに多くの人が注目をした。

「上海の環貿iampショッピングセンターで開催されたアップルのToday At Appleのコースに、ある親子がいます。周花巻さんは、息子のVita君をプログラミングの世界に導き、現在、お二人は次の世代のエンジニアに向けて、お二人の知識をシェアしています。Vita君、8歳の誕生日おめでとう!」

Vita君は、上海に住む8歳の小学生。ティム・クックの親戚でもなく、有名テック企業の経営者の家族でもなく、ただ、アップルの製品を使ってプログラムを学ぶ小学生だ。

その小学生に、ティム・クックが誕生日のメッセージを送ったということが話題になった。

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▲アップルのティム・クックCEOがウェイボーで発信したメッセージ。Vita君に誕生日のメッセージを送ったことから、Vita君が国内外で注目されることになった。

 

8歳でプログラミングを教えるVita君

しかし、Vita君はただの小学生ではない。動画共有サイトbilibili(ビリビリ)で、「8歳の小学生が教えるプログラミング」という動画を公開して、大人気の先生なのだ。

2019年の8月に最初の動画「【小学生が教えるプログラミング】#01コマンド」を公開すると、再生回数は25万回を超え、7.9万人のファンがつき、動画すべての再生回数は130万回を超えている。

内容は、Appleの「Swift Playground」を使って、Swiftのプログラミングが学べるというものだ。ビリビリで最も若いプログラミング講師として人気になっている。同年代の小学生、中学生はもちろん、大人の閲覧者も多く、放送中は「おじさんが見にきたよ」と弾幕を打つのがお約束になっている。

▲ビリビリのVita君のページ。「小学生が教えるプログラミング」講座が人気になっている。Vita君の話し方は小学生というより、しっかりとエンジニア特有の早口な話し方になっている。

 

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▲ビリビリのVita君の動画。Swift Playgroundを使ってSwiftのプログラミングを教えている。コメントには「おじさんがまた見にきたよ」「子どもに教えてもらうのは面白い」「Vita君可愛い」などがある。

 

アップルも注目したVita君

Vita君にはすでに国内外のメディアが取材に訪れている。「みなさんに教えることで、僕も新しいことを学べるのです。プログラミングは難しくありません。少なくとも、想像しているよりは難しくありません」とVita君は答えている。

8つの動画を公開したところで、アップルもVita君の活動に注目をし、上海のアップルストアに設置されたアップルアクセラレーター(開発者、クリエイターのために無償でさまざまな機器が使える場所)を提供し、それ以降の動画の撮影は上海のアップルストアで行われている。

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▲Vita君が愛用しているのはiPad。上海のアップルストアもVita君に協力をして、動画の撮影環境などを提供している。


Vita君への批判は、父親が対応する名コンビ

しかし、世の中には優しい人ばかりではない。Vita君が有名になればなるほど、Vita君に対して否定的な意見を表明する人も増えてきた。「子どもを使って金儲けを考えているのではないか」「8歳でプログラミングは早すぎる。歪んだ教育だ」などという意見もある。

父親の周花巻と息子のVita君は、素晴らしいコンビだ。Vita君は動画を作ることを集中し、このような周囲からの雑音は、すべて父親の周花巻が丁寧に答えている。周花巻、Vitaのいずれもニックネームで、本名や上海のどこの小学校に通っているか、どこに住んでいるかは公表していない。周花巻は、Vita君の活動をサポートし、息子を守る役割をしている。

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▲プログラミングに必要なことから、Vita君は中学生レベルの数学もマスターしている。5歳の頃から、自分でアプリを開発している。

 

5歳の頃には自分でアプリ開発

Via君は、小さい頃から、数学的なもの、ロジック的なものに強い興味があった。3歳半の頃には、「モニュメントバレー」「シャドーマティック」「ROP」というロジカルパズルゲームがお気に入りだった。

4歳になると、「HOOK」「数独」「The Mesh」「メコラマ」などの複雑なロジカルパズルゲームを好むようになった。

周花巻は、このようなロジカルパズルは、ロジック思考をする習慣を培うのに最適であり、後にプログラミングを学ぶ場合に役に立つし、学ばなない場合ですら、社会に出て役に立つという。

4歳半になると、Vita君はプログラミングの初歩を学び始め、5歳半からプログラムを自分で書くようになった。周花巻は、このタイミングで、アップルのSwift PlaygroundsをVita君に勧めた。

そして、5歳の頃には、自分で簡単なアプリを開発するようになっていた。最初の作品は、iPad上で幼稚園の終わる時間をカウントダウンしてくれるアプリだ。あと何秒で幼稚園が終わるかが表示され、0になると家に帰ることができる。

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▲Vita君お気に入りのゲーム「Mekorama」。ブロックを移動して、ロボットをボタンに導くパズルゲーム。

 

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▲やはりお気に入りの「Hook」。黒丸をタップして、回路をうまく接続し、釘を取り除いていく。上に重なっている釘は取り除くことができない。

 

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▲やはりお気に入りの「モニュメントバレー」。エッシャーばりの錯視を利用して、ルートを接続する。美しいグラフィックと美しい音楽で、人気になっているロジックパズル。

 

「関数の戻り値がないから」Scratchはダメ

周花巻さんは、Vita君にさまざまな開発環境を紹介したが、Vita君が気に入ったのがSwift Playgroundsだった。幼児用プログラミング学習によく使われるScratchも紹介したが、Vita君は、しばらく使ってみた後、「これはだめだ」と拒絶したという。

特に気に入らないのが、関数の戻り値の概念がScratchにはないことだ。関数に何かを計算させて、その結果を知りたいということはプログラミングでは頻繁に起きる。しかし、関数の戻り値という考え方がないので、グローバル変数を作っておき、そこに戻り値にあたるデータを格納し、これを参照するというトリッキーなことをしなければならない。往々にして、プログラムの美しさが損なわれ、プログラムのロジックが不必要に複雑になる。

 

学びには、本人の好奇心が最大の駆動力

父親の周花巻さんは、80年代生まれの天津の人で、上海外語大学を卒業後、現在はサイエンスライター、翻訳家として生計を立てている。

周花巻さんも、7歳か8歳の頃、ホームコンピューター「中華学習機」を買ってもらい、BASICプログラミングを始めた。中学生の頃には、プログラミングコンテストで優勝した経験もある。

そのため、周花巻さんは、「Vita君が小さい頃からプログラミングを学ぶのは早すぎるのではないか」という声には、「ごく普通のことだ」と反論する。「プログラミング学習とは、コードを書くことだけではありません。特に小さい頃は、玩具やパズルを使って、ロジック思考をする習慣を培うことが大切なのです」。

周花巻さんがVita君に提供しているプログラミング環境なども、押し付けたことはないという。Vita君の方から相談をされて、適切なものを選んで与え、どれを使うかはすべてVita君に任せている。

親子で、年齢を超えて、どの環境が使いやすいか、あるいはプログラミングの技巧について議論をしている。それがロジック思考を養う上でも、親子の絆を強める上でも重要なのだという。

また、プログラミングに限らず、何を学ぶ場合でも、本人の好奇心が最大の駆動力となる。周花巻さんは、Vita君の好奇心を満たすように、環境と道具を揃えているだけだという。

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▲父親の周花巻さんも7歳の頃に「中華学習機」を買ってもらい、BASICのプログラミングを始めている。

 

注目されるプログラミング幼児教育

Vita君は、眼鏡をかけている。これも心ない批判の対象となった。「小さい頃からタブレットばかり見ているから、近視になったのではないか」という批判だ。これも、周花巻さんはサイエンスライターらしく反論をしている。Vita君は幼稚園の頃から眼鏡を使っている。就学年齢以前の近視は、環境要因よりも遺伝的要因が大きく影響することが明らかになっている。タブレットを見ていることと、Vita君の眼鏡は関係のないことだという。

Vita君がプログラミングを教え、それを父親の周花巻さんがサポートし、Vita君を心ない批判から守る。この2人の活動は、多くの親子に影響を与え、中国でにわかにプログラミング教育が注目されることになっている。