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新小売戦争は、アリババ「フーマフレッシュ」の独走状態か

中国で進む新小売革命。ECサイトと実体店を融合した新たな小売形態で、アリババは「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)、永輝は「超級物種」、京東は「7フレッシュ」、美団は「小象生鮮」、歩歩高は「好爸爸」を展開し、激しく競っていた。しかし、次第にフーマフレッシュの一人勝ち状況になりつつあると首席発言者が報じた。

 

株価が下がり続ける永輝スーパー

アリババのフーマフレッシュは絶好調で快進撃を続けているのに対し、その他の新小売は厳しい状況が続いている。超級物種の北京の1号店は、開店してから1ヶ月に満たないうちに実質的に営業を停止してしまった。

永輝の2018年上半期の業績速報によると、上半期の営業利益は9.31億元(約151億円)で、前年同時期より22.65%のマイナスとなった。

新小売に参入することを発表して以来、永輝の株価は上がり続けて、今年の1月には過去最高値の12.32元となったが、超級物種の不人気ぶりがわかってくると株価は下がり続け、現在は7.3元ほどにまで下がっている。

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▲地域密着戦略で、ブランドを構築した永輝も、新小売に進出すると株価は上昇したが、その成績が振るわないことが明らかになると、株価が下落し続けている。

 

生鮮食料品をECで扱う難題を解決した新小売

新小売(ニューリテール)とは、2016年ごろにアリババが提唱し始めた概念で、簡単に言えばオンライン(EC)とオフライン(実体店)の融合のことだ。

その背景にあるのは、EC市場の飽和だ。アリババのタオバオ、Tmallを代表とするECは、すでに利用者が8億人を突破し、売上も頭打ち感が出てきている。

ECがさらに成長するためには、売上率3%程度である生鮮食料品をなんとかするしかない。ところが、魚介類、肉、野菜といった生鮮食料品をECで扱うのは極めて難しい。提供側としては、冷蔵物流チャネルの確保の問題がある。家電や日用品といった一般のEC製品では「製造拠点ー集積倉庫ー配送拠点ー消費者宅」という経路をたどる。ECでは翌日配送が当たり前になっているが、スピード感を必要とするのは集積倉庫から消費者宅までの間で、製造拠点と集積倉庫の配送は、在庫がきれない限り急ぐ必要はない。

しかし、生鮮食料品を扱うためには、製造拠点(生産拠点)から消費者宅までのすべてのプロセスをスピードアップして、生産拠点から消費者宅までを1日ないしは2日で配送しなければならない。

この配送経路すべてに冷蔵施設を導入するのは莫大なコストがかかる。また、生鮮食料品の生産拠点は、農村、漁村に分散しており、配送効率は決していいとは言えない。

また、消費者側の問題としては、品質の個体差が大きい生鮮食料品であるのに、現物を見ずに買わなければならないという不安がある。スーパーのように、キャベツならキャベツが大量に積んであって、その中から新鮮なもの、身の詰まっているものを選んだ買いたいと考える。

ECの脱出口は生鮮食料品にあることは誰もがわかっているが、そのドアはあまりにも重く、開けることができなかったのだ。

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▲永輝が運営する新小売スーパー「超級物種」北京店は、1カ月足らずで営業を停止してしまった。アリババの「フーマフレッシュ」の好調さとは対照的だ。


店舗を配送拠点として利用するフーマフレッシュ

ここに登場したのがアリババのフーマフレッシュだった。フーマフレッシュの考え方は、実体店を配送拠点としても利用するというもの。実体店からは半径3km以内の家庭に最短30分配送で届ける。

流通経路は「生産拠点ー店舗ー消費者宅」と簡素化され、冷蔵施設は冷蔵車と店舗の冷蔵施設だけで済む。これは一般のスーパーと同じだ。店舗から消費者宅までは30分配送なので、断熱梱包で対応できる。

消費者側の不安も解消されている。フーマフレッシュの配送地域は3km圏内なので、対象の顧客は徒歩や自転車、自動車などで店舗にいくことができる。そこで、いくらでも商品の品質を確かめることができるのだ。もちろん「この蟹を配送してほしい」という指定まではできないが、配送料は無料で、理由のいかんを問わず返品可能としているで、多くの消費者が宅配ECを使うようになった。

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▲フーマフレッシュでは、宅配の注文が入ると、スタッフが商品をピックアップ。店内にあるリフトでバッグを天井にあげる。天井のレールを伝って、バックヤードに送られ配送されるというシステムが構築され、30分配送を実現している。

 

来店客も宅配ECに誘導するフーマフレッシュ

フーマフレッシュは、新小売のコンセプトに忠実で、顧客に宅配ECを利用するよう促す施策を取っている。実体店の売上は頭打ち、ECの売上も頭打ちだが、実体店に宅配ECを組み合わせることで、成長空間を創り出すことに成功した。すでにフーマフレッシュの売上の50%以上は宅配ECによるもので、単位面積あたりの売上は既存スーパーの3.7倍に達している。

フーマフレッシュは、消費者を宅配ECに誘導する施策が徹底している。フーマフレッシュは「会員専用店」という位置付けで、決済は専用アプリからしかできない。実態は、同じくアリババが運営するスマホ決済「アリペイ」を使っているのだが、フーマ専用アプリを通さないと決済ができない。フーマアプリからは宅配ECの注文ができるようになっていて、これを使わせるのが目的だ。

中国でも現在は現金決済を拒否できないルールになっている。そのため、フーマフレッシュでも現金で支払いたいという消費者の要望を拒否することはできない。その場合は、インフォメーションカウンターに行くことになるが、ここでもフーマ専用アプリをインストールすることを強く勧められる。そして、現金をフーマ専用アプリにチャージし、セルフレジに行き、専用アプリで決済することを勧められるのだ。徹底して、専用アプリをインストールさせ、そこから宅配ECの注文をさせようとしている。

フーマフレッシュは消費者の大きな話題となり、現在5都市で展開中だが、数年内に成都武漢、南京などに進出し、合計で2000店舗を開店する準備を進めている。

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▲フーマフレッシュでは、セルフレジを使って専用アプリで決済をする。補助スタッフが使い方を教えてくれるが、彼女たちは専用アプリをインストールさせるように誘導し、重いものはそのまま決済せず、宅配ECを使った方が便利だと説明する。フーマフレッシュでは宅配売上をあげることが最優先になっている。

 

宅配ECの壁が乗り越えられない新小売のフォロワー

フーマフレッシュに追従して、超級物種、7フレッシュも全国展開を始めているが、売上は今ひとつぱっとしない。その最大の原因は、宅配EC率の低さで、ただの実体店スーパーと同じことになってしまっている。

フーマフレッシュは宅配ECを主軸としているので、細かい立地にあまりこだわる必要はない。しかし、宅配EC率が低く、実態店スーパーと同じ業態になってしまっている超級物種、7フレッシュでは、人の流れがない立地の悪いところでは如実に売上が上がらない。

さらに、冷蔵に対応した物流経路の構築に苦労をしている様子もうかがえる。今年初め、あるネットワーカーが7フレッシュと運営元である京東のECサイト「京東」の商品価格を比較したツイートが話題になった。

それによると、北京の菓子店「稲香村」の1550gのギフト商品が、7フレッシュでは155元で、特価として138元で販売されていた。ところが同じ運営元であるECサイト「京東」では118元で、プラス会員であると109元で買える。

この他、多くの商品が、7フレッシュよりもECサイトの方が安いことが報告されている。

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▲京東が運営する「7フレッシュ」の販売価格は、ECサイト「京東」よりも高い設定になっていることがネットで拡散した。

 

ライバルを蹴落としていくアリババ。残る巨人はテンセント

一方で、フーマフレッシュは、生鮮食料品とプライベートブランド商品が主体で、ECサイトなどと簡単に価格を比較できない。しかし、PB商品の価格は相当に安く抑えられており、生鮮食料品も品質がかなり高いので市場と比べると高いものの、同品質のものを買い求めようとするとかなり安いと感じる。多くの中国人が「半値ぐらいの感覚。安い」と口を揃える。

もちろん、このようなことができるのは、巨大企業であるアリババの豊富な資金力と、勝負所では投資を惜しまないという決断力があるにしても、他の新小売はアリババに太刀打ちできないことが鮮明になりつつある。

アリババは新小売の道を一人先にどんどん歩んでいき、後ろに穴ぼこを掘っている。後ろから追いかける永輝と京東は、まんまとこの穴ぼこに落ちてしまった印象だ。

このままアリババのフーマフレッシュが独走をするのか。それともカルフールを買収したもうひとつの巨人、テンセントが新小売に参入し、アリババのライバルとなるのか。中国で進行する新小売革命は、重要な局面を迎えようとしている。