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中国で急速に浸透する飲食店の「スマホ注文」

第一財経商業データセンター(CBNDate)は、急速に普及する飲食店のスマホ注文の現状を調査した「2018スマホ注文情勢報告」を公開した。これによると、全国ですでに18%の飲食店がスマホ注文に対応しており、特に上海市に集中をしている。今後1年で急速に普及をしていくと見られている。

 

テーブルから自分のスマホで注文する「スマホ注文」

スマホ注文とは、この1年ほどで飲食店に普及をし始めた新しい利用スタイル。一般の食堂、レストランの場合、中に入り、スタッフの指示に従い、席に座る。ここまでは同じだ。テーブルにQRコードが貼り付けてあったり、テーブルに置かれたスタンド型ディスプレイにQRコードが印刷されているので、これをスマホで読み取る。すると、その店のメニューが表示されるので、タップして注文をするというもの。注文をすると、そのままスマホ決済「アリペイ」または「WeChatペイ」で決済もされる。

多くの場合、QRコードにはテーブルの番号情報も含まれているので、店舗側はどのテーブルの客が何を注文したか把握できている。料理ができたら、適切なテーブルに配膳すればいい。客はすでに決済は済んでいるので、食べ終わったらそのまま帰ればいい。

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▲テーブルにあるQRコードを読み込んで、自分のスマホから料理を注文する。会計もスマホ決済で同時に行われる。まだ上海周辺で普及が始まったばかりだが、急速に普及していくと見られている。

 

カフェやファストフードでは専用アプリから注文

カフェやファストフードでは、専用アプリを使ってスマホ注文を実現しているケースが多い。店内に入ったら、注文カウンターに行くのではなく、先に席に座ってしまう。そこで、専用アプリを開いて注文。その後はチェーンによって異なるが、一般的には、注文と同時にスマホ決済をすると、待ち番号が表示される。店内のディスプレイに商品が用意できた番号一覧が表示されるので、そこに自分の番号が表示されたら、カウンターに取りにいくというものだ。

専用アプリでは、何も店内で注文する必要はなく、向かっている最中に注文をしてもいい。店についた頃には商品ができあがっているので、直接カウンターで受け取り、席を探して座って食べる。


麦当劳手机点餐《吴亦凡篇》 来自TVCX com

マクドナルドが中国で放映しているテレビCM。恋人が競争してマクドナルドにいき、スマホ注文を利用した男性が逆転勝ちするというストーリー。「スマホ注文なら列に並ぶ必要がない」という点をアピールしている。

 

注文にかかる手間が大きく軽減

消費者にとってのメリットは何よりも時間の節約になることだ。レストランに入って、席に案内され、それからメニューを見て、注文を決める。ところが、スタッフを呼ぶのに苦労をすることになる。中国の全体で人手不足と人件費節約によりスタッフの数が少ない。日本のファミレスのように、スタッフを呼ぶボタンを置いている店はあるにはあるが多くはない。結局、大声で呼ぶしかないのだ。

食事が終わった後も、中国ではテーブル会計が一般的で、これにもスタッフを大声で呼ばなければならない。スタッフがすぐに来てくれない、大声で呼ばないといけないという不満を多くの人が持っている。

これがスマホ注文になると、席から自分で注文をし、決済までしてしまう。ファストフードの場合は、途中で注文をしておけば、注文カウンターに並ばずに商品を受け取れる。消費者にとってスマホ注文のメリットは大きい。

 

スタッフの負担軽減が最大のメリット

店舗側にとってのメリットも大きい。第1は何と言ってもフロアスタッフの負担軽減だ。報告書によると、スタッフは1組の客に対して、平均して合計15分2秒の時間を使う。しかし、スマホ注文を導入すると、8分10に短縮される。約7分の時短になる。中規模の食堂では平均して11人のフロアスタッフを交代制で雇用しているが、スマホ注文を導入後、平均して7人で運営できるようになった。スタッフの負担を軽減して、人件費を節約することも、空いた時間を質の高い接客に回すこともできる。

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▲接客の各段階にかかる平均時間。上段がスタッフによるもの、下段がスマホ注文によるもの。注文するだけで、システムへの入力、会計が処理されるスマホ注文は、約7分程度の時短になる。

 

売上データが可視化できることが大きい

第2は、売上データが可視化できるということだ。人間の勘というのは得手不得手がある。例えば、その店が力を入れている一押し料理の売れ行きというのは、どのスタッフも気にするので、データを見なくても、多くのスタッフがかなり正確に把握している。しかし、2番手、3番手で地味に売れ続ける隠れた定番商品の売れ行きは、よほど注意力のあるスタッフでなければ正確に把握をしていないものだ。

中規模レストランの経営を成功させるには、2番手、3番手の隠れた定番商品の売上を安定させた上で、1番手の目玉メニューの開発に挑戦をすることだ。2番手、3番手の売上が安定をすると、仕入れ量が安定するので、調達コストを下げられるようになる。その分を目玉メニューの開発に回して、魅力あるメニューを生み出し、新しい顧客を呼び込む。

失敗パターンの多くは、隠れた定番商品の売上が落ちていることに対処せず、目玉メニューを作ることで挽回しようとして悪循環に陥るというもの。調達コストが上がり、開発コストもかかり、経営がじわじわと苦しくなっていく。

スマホ注文で得られるデータの分析は、さほど高度なものではないが、メニュー別の売上を可視化してみるということだけで大きな効果がある。

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▲飲食店の接客方式の4段階。現在はスタッフ2.0の紙メニューとスタッフ用注文端末の組み合わせが多い。しかし、システムが大掛かりになり経費がかかる割にメリットは少ない。

 

設備導入不要。クラウドサービス導入だけ利用できる

第3は、余計な設備が不要だということだ。データを取るためには、スタッフに注文用端末を持たせる、テーブルに専用タブレットなどを設置するなどという方法もあるが、店側はその設備投資をしなければならない。しかし、スマホ注文では顧客のスマホを利用するので設備投資は不要。紙のメニューも必要なくなる。スマホ注文のプラットフォームはすでに無数にあるので、それを利用すれば、店側にPC、タブレットスマホがあるだけで対応ができる。

 

現在は上海周辺から普及が始まっている

このようなスマホ注文が普及をしているのは、上海を中心にした都市群(杭州、蘇州などを含む)で、利用者数はすでに25%に達している。北京を中心にした地域では10%弱、深圳、香港を中心にした地域では5%程度と普及はこれからと、地域により普及度には濃淡がある。

しかし、簡単に導入することができ、来店客にも店舗にも大きなメリットがある方法なので、今後急速に普及していくことは間違いがないと見られている。