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仮想通貨プーアル茶コインで、53億円が蒸発

ブロックチェーン技術を利用した仮想通貨。その仮想通貨だと主張する「プーアル茶コイン」が、被害総額3.07億元(約53億円)、被害人数3000人の大型詐欺事件であることが発覚し、運営していた6人が逮捕されたと財経網が報じた。

 

安易に使われすぎる「AI」「ブロックチェーン

最近「AI」という言葉が安易に使われていることに、もやっとしたものを感じられている方も多いのではないだろうか。AIの定義は「人間の知的活動をコンピューターに代替させたもの」だから、かなり無理はあるが、電卓だってAIだと言い張れないことはない。そのため、何にでもAIをくっつけることができる。「AI投資」「AI SEO」「AI婚活」「AI家電」。単純な判定アルゴリズムを使っているだけで「AI」とうたっても、嘘だとは言い切れないところが苦しい。要は、売れるから、目立つから「AI」という言葉を安易に使っているだけなのだ。

中国では、お金に強い興味があるためか、ブロックチェーンという言葉が大人気だ。

 

仮想通貨「プーアル茶コイン」による大型詐欺

深圳南山区公安は、深圳普銀ブロックチェーン集団が、国家行政部の金融営業許可を受けずに、ネット仮想通貨取引サイトやSNS「WeChat」を利用して、仮想通貨「プーアル茶コイン」を販売し、3000名の投資家に3.07億元(約51億元)の損害を与えたとして、同社の6人を逮捕した。最も大きな被害を受けた投資家の被害額は300万元(約5200万円)だった。

この普銀集団は、ネットなどでプロモーションをするだけでなく、高級ホテルなどでも説明会を開き、投資家たちを集めていた。

彼らの説明はこうだった。まず、普銀集団は10億元(約170億円)相当のプーアル茶の茶葉を保有しているという。検査機関にサンプルを提出し、品質の高いプーアル茶であることのお墨付きももらっていた。

プーアル茶は、日本でも愛好者がいる雲南地方原産の発酵茶。丸いお餅の形で、10年、15年保存した陳年茶に人気があり、希少価値もあることから、価格が高騰している。そもそもプーアル茶そのものが投資、投機の対象になっている。

プーアル茶コインというのは、ブロックチェーンも関係なく、仮想通貨でもなく、この保有しているプーアル茶に紐づいたデジタル通貨。つまり、単なるプーアル茶証券化だ。

このプーアル茶コインは自由に売買できるので、価格が変動する。1コインの価格は、0.5元(約8円)から10元(約170円)まで実際に変動した。

2016年9月からは韓国でもプーアル茶コインの取引を始め、普銀集団はシンガポールと日本でも近々取引が開始するとアナウンスしていた。このような国際化も、投資家を信用させ、値上がりを期待させる大きな要因になったと思われる。

普銀集団は、短期であれば大きな値上がり差益が期待でき、1年定期保有であれば年利12%以上が見込めると宣伝していた。

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▲普銀集団のサイト(現在は閉鎖済み)。ここには「仮想通貨」「ブロックチェーン」とは書いてなく、「本位制デジタル通貨」と書かれている。実体物に基づいたデジタル通貨という意味で、ここでは嘘はついていない。

 

大量の質の低いプーアル茶保有

ところが、すでにお察しの通り、普銀集団は「10億元相当のプーアル茶保有」と主張していたが、実際に保有していたのは、第三者機関に品質評価をしてもらうための高級プーアル茶少量と、大量の質の高くないプーアル茶だった。逮捕時に10万枚のプーアル茶の茶餅が押収されている。1枚100元(中国のECサイトで探すと、7枚98元というのが最安値だった)とすると、1000万元(1億7000万円)相当になる。まったくなにも持っていない詐欺というわけではなく、それなりの量のプーアル茶保有をしていた。そのため、保存庫の写真を公開したり、投資家に保存庫を見学させたため、多くの人が信じ込んでしまった。

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プーアル茶は、このような餅の形で長期保存される。このまま熟成が進むので、古いものほど高値で取引される傾向がある。

 

中国に次々と登場する仮想通貨

中国では、このブロックチェーン詐欺、仮想通貨詐欺が増加していて、各メディアが裁判所の判決から集計した統計によると、2016年以降、180件以上の詐欺事件が起き、被害金額は1000億元(1兆7000億円)以上になっている。有罪判決を受けた被告も100名を越している。

2016年4月には、「ネットゴールドコイン」仮想通貨詐欺があり、被害者は50万人、被害金額は109億元(約1900億円)、逮捕者数は49名。2017年7月には、「アジアユーロコイン」仮想通貨詐欺があり、被害者数は4.7万人、被害金額は40.6億元(約700億円)、有罪判決を受けた被告は37人。2017年8月には、「五行コイン」仮想通貨詐欺があり、40万人が被害受け、被害金額は21億元(約360億円)。この五行コインの主催者は、自称「9歳で大学に入学した神童で、現在は中国政府が秘密裏に人材育成をしている中の1人」というもので、主催者の人物そのものにも三面記事的な話題が集まった。

このほか、「アジアコイン」「中華コイン」「米米コイン」「中富通宝コイン」「恒星コイン」「ドラゴンコイン」「Uコイン」「良心コイン」などの仮想通貨詐欺が報道されている。

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▲仮想通貨取引サイト「DragonB.com」では、なぜかプーアル茶コインの取引が現在でも続いている。以前から、このプーアル茶コインは怪しい、公安が内偵調査をしているという情報がSNSなどで交わされるようになり、価格は低迷をして0.04元まで落ち込んでいた。逮捕が報道されると、さらにそこから下落した。

なお、この取引サイトにアクセスをして、ページ内のリンクをクリックすると、ブラウザが頻繁に「なりすましサイトである可能性」のアラートを発する。ご自分でアクセスするときは、じゅうぶんに注意していただきたい。

 

ニセモノ仮想通貨であっても、初期に投資をすれば儲けられる

なぜ、次々と、このような怪しい仮想通貨詐欺にひっかるのか。それは、初期に投資をすれば儲けられるからだ。プーアル茶コインも1枚1元の元値から、一時期は10元前後と10倍近くまで上っている。運営者も騙す気満々だが、初期に投資する方もそれはわかっていて、儲ける気満々なのだ。運営者と初期投資家の利害が一致しているために、このような怪しい仮想通貨市場が成立してしまう。

なお、仮想通貨取引サイトDragonB.comでは、プーアル茶コインの取引がなぜ続いている。ただし、その価格は0.02元まで落ちているが。中国の仮想通貨詐欺は、まだまだ続きそうだ。